書籍詳細 一覧へ戻る

呪い師リアンは、この恋を諦める ~嫌われ者の俺が、呪いで王弟殿下に惚れられた~

入野沙織 / 著
ミギノヤギ / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2026/01/16

電子配信書店

  • Amazon kindle
  • コミックシーモア
  • Renta
  • piccoma
  • booklive
  • ブックパス
  • ドコモ dブック
  • ebookjapan
  • honto

その他の書店様でも配信中!

内容紹介

ひねくれ者故市民から嫌われている呪い師リアンの元に、「恋情の呪いを解除してほしい」と小綺麗な格好の男が訪れる。「上質なカモだ」と狙いを定めるリアンだが、その人物は麗しい王弟殿下・アイゼルだった。高額の料金を提示すればよかったとぼやきながらも、恋の呪いの移動を試みると、トラブルで恋情がリアン自身へ向いてしまい!?「可愛く、愛おしい」甘ったるい眼差しで見つめられてしまう。呪いの解除の準備をしても、アイゼルに抵抗されて!? 覆いかぶさってくるアイゼルにリアンもなぜか触ってほしいと望んでしまい……。執着激しめの王弟殿下×ひねくれ者の呪い師の愛執!

人物紹介

リアン

実力はあるが、客と口喧嘩ばかりのせいで市民から嫌われている「まじない道具屋」店主。

アイゼル

王弟殿下。眩しいほどの美貌の持ち主で、リアンの元に呪いの解除依頼に訪れる。

立ち読み

プロローグ


 王弟アイゼル・レグリア。
 レグリア国で、彼の名を知らぬ者はいないだろう。
 現王の年の離れた弟として生まれた彼は、幼い頃から才覚を発揮していた。恵まれた容姿、優れた知能。優しく、人当たりのよい性格。
 誰もが彼に夢中になった。
 成長するにつれ、その人気は留まるところを知らず、パーティに参加すれば周囲の視線を釘付けにする。貴族令嬢たちはこぞって、彼との婚姻を望んだ。
 そんな史上最大のモテ男――アイゼルの下に、いつの頃からか、手紙が届くようになった。
 それは手紙と呼ぶのも憚(はばか)られるような、雑なメモだ。
『目が合った時のほほ笑み』
『名前を呼ぶ時の声』
『時折、子供のような顔をするところ』
 宛先も、送り主も、記載されていない。
 初め、それが何を表現しているのか、アイゼルにも理解できなかった。だが、それが何か大事なもののように思えて、その手紙をそっと隠し持っていた。
 届けられた手紙が三通目になる頃には――アイゼルは手紙をこのように認識するようになっていた。
 これはまるで、愛の告白を受けているようではないかと。
 ぶっきらぼうなメモに、この一文を付け加えてみたらどうなるだろうか。
『――そんなところが好き』
 それが果たして、自(うぬ)惚(ぼ)れに過ぎないのか――アイゼルにはわからない。だが、いつの頃からか、その手紙をほほ笑ましく思うようになった。
 名前も書かずに、こんな短文だけ送りつけてくるとは。送り主はどれだけ恥ずかしがり屋なのだろうか。
 彼は手紙を大事に持ち歩き、その言葉に励まされるようになっていた。
 そして、その手紙に実は不思議な力があると気付いたのは、三通目が届いてからのことであった。
 アイゼルの乗った馬車が、事故に遭(あ)った。
 山間部を通っていた時に、落石が当たったのだ。馬車は大破した。しかし、アイゼルの護衛も御者も、馬も、怪我一つ負わなかった。その時、アイゼルたちを守ったのは、彼が服の中に忍ばせていたあの手紙だった。手紙が光を発して、その場にいた皆を守ったのだ。
 手紙は、持ち主を守るための護符となっていた。
 この話は、すぐさま国中に広がった。
 王弟殿下の命を救った、聖なる護符――!
 人々の注目は、「手紙を送っていたのは誰なのか」ということに集まる。
 数多くの人が『それは自分だ』と嘘の名乗りを上げ、国は一時期、混乱に陥った。
 だが、その混乱は数日後にあっさりと終息する。
「王弟殿下に手紙を書いていたの、実は私なんです」
 一人の女性が手を上げた。
 聖女ユーリア。
 彼女は神聖な力によって、病気や怪我を治療することができる。その力は唯一無二のものであったため、レグリアでも要人として扱われていた。上位貴族に匹敵する発言力と、存在感を持っている人物だ。
 皆は納得した。
 確かに、聖なる加護を紙にこめられる人物と言えば、聖女以外にはありえない――!
 自分の力を誇示せずに、名乗ることもせずに、ずっと王弟殿下を支え続けた健(けな)気(げ)さに誰もが胸を打たれた。

 ――レグリア国で語られる美談『聖女の健気な献身』より――



「リアン、私の質問に答えて」
 聖女ユーリアの言葉に、リアンは固まった。
「アイゼル様に手紙を送っていたのは、あんたなのね」
「……そうだ」
「そう……。でもね、それは嘘。あんたの思いこみ。つまるところ、間違いだったのよね」
 自信に満ちた声音が、リアンの頭をがつんと殴った。
 言葉そのものに効力はなく、重要なのは誰がそれを言ったかだ。その時ほど、リアンが実感したことはない。胡(う)散(さん)臭(くさ)い自分のような男が同じことを言っても、誰も納得はしてくれないだろう。しかし、目の前にいる女性が同じ言葉を口にすれば、周りは一斉に同調する。
 世の中はそんなものだ。彼は二十年の人生で、それを嫌というほどに学んでいた。
 現に自分だって今、彼女の言葉に納得させられているじゃないか。
 ――ああ、なるほど。あれは、間違いだったのかと。
「間違い……」
 リアンがぽつりと繰り返すと、彼女は大きく頷いた。
「ええ、そうよ。わかるでしょ? 彼は私のことを愛していたのに……それをあなたが、呪(のろ)いで横取りしたの」
 彼女の言葉を、リアンは呆然と聞く。
 訂正はすでに諦めていた。
 彼女が言うと、それが正しいのではないかという気にさせられてしまう。
 これが『聖女の啓示とやらかね』とリアンは考えていた。
 リアンが話している女性は、この国でもっとも重要視され、大事にされている人物。聖女ユーリアだ。その能力の高さも、献身的で健気な性格も、国中から一目置かれている。
 本来であれば、リアンのような男が話すことも適(かな)わないような、雲の上のお方なのだが……。
 リアンとの接見を望んだのは、ユーリアの方だった。
 聖女と初めて会った時、彼女の格好にリアンは驚いた。大きな胸を強調するような服を着ている。ぱっと見は清楚だが、自信に満ちた表情は高慢そうだ。
「彼を愛しているのも、彼が愛しているのも、私。彼に健気な手紙を出し続けていたのも、私。そうでしょう?」
 ユーリアはリアンの瞳をじっと見つめてくる。
 西日を受けた黒の瞳――。まるで吸いこまれそうな色と、輝きだった。
 その瞳に見つめられると、頭がぼんやりしてくる。彼女の言うことはすべて本当なのだと思えてきた。
 ――そうか。彼が愛しているのは、聖女の方だったのだ。あの手紙を出していたのも、聖女の方……。
「……ああ、そうだ」
 ぼやけた思考の下で、リアンは強く確信した。
「その通りだよ」
 ユーリアは満足そうにほほ笑む。
 その笑顔を見ながら、リアンは諦観のため息を吐く。
 ――間違いで始まった恋だったとしても。俺はあいつのことが、確かに好きだった。
 だが、彼女の言う通りだ。
 リアンは真実を知ってしまった。アイゼルが好きなのは初めから、聖女ユーリアの方だったのだ。
 単純な筋書きだ。そのストーリーの方が国民だって喜ぶ。健気な聖女と、彼女に支えられる王弟殿下。胡散臭い呪(まじな)い師は、出る幕がない。
 そうと決まったら、後始末のつけ方は一つしかない。
 リアンは自嘲めいた笑みとともに、その思いを胸中で呟(つぶや)いた。

 ――だから、俺は……この恋を諦めることにした。



第一章 王弟殿下からの依頼


『埃(ほこり)っぽく、陰気な店』。
 先日、冷やかしで店を訪れた女性に、投げつけられた言葉だ。
 まったくもってその通りだと、リアンは内心で同意した。
 地方都市モルガンの商店区画――賑(にぎ)やかな表通りとは打って変わって、不気味な裏通り。そこにリアンの店は建っている。
 看板にはやる気のない文字で『まじない道具屋』と書かれていた。
 店に入ると、吊り下げられた大量の草花が目に付く。半分ほどは乾燥しきって枯草と化しているので、気味が悪い。そして、壁際の棚には謎の刻印が記されたお守りが並んでいる。
 カウンターに立つのは、いかにも怪しげな男――つまり、リアンのことなのだが――彼は自分のことをそう認識していた。
 目付きは悪く、常に不満そうに曲がった口元。黒髪黒目の大人しそうな色合いに反して、装飾品の数々がガラの悪さを演出している。しかし、身に着けたピアスやネックレスには独自のセンスがあり、洒(しゃ)落(れ)者であることが窺える。
 着ているのは地味な黒ローブだが、陰気そうというよりは、裏稼業の者特有の怪しさがぷんぷんとにじみ出ていた。
 善良な市民であれば彼の姿を一目見ただけで、「関わりたくない」と敬遠することだろう。
 そして、彼自身の性格も、店の評判を落とす一因であった。
 先日は「埃っぽく、陰気な店」とのたまった客に、リアンは言い返した。
『化粧臭く、下品な女』
 女性は憤慨して、叩きつける勢いでドアを閉めた。
 リアンが客に暴言を吐くのは、それが初めてのことではなかった。
「この道具の効果は?」と聞かれれば、「そこに書いてあんだろ」とそっけなく返す。「魔法コンロがほしくて……」と言われれば、「魔法屋じゃねえんだよ、看板読めなかった?」と嫌みで返す。
 客と口喧嘩になるのは、しょっちゅうだ。そのせいで、リアンは市民から嫌われていた。
 しかし、彼の作る護符やアミュレットは、確かな効果を持つと密かに評判であった。
 渋々とその商品を買い求める客によって、その店――呪(まじな)い屋の経営は成り立っていた。
 リアンには家族がいない。従業員なんて雇ったところで、リアンの性格に嫌気がさして、半日で辞めていくことだろう。
 そんなわけで、リアンは一人きりでこの店を切り盛りしている。大半の時間は暇を持て余していた。店には数少ない常連客しか訪れないので。
 多くの時間、リアンは店の奥で椅子に腰かけ、魔術書を読みふけっている。
 そんなある日の午後のこと。
 静寂を破ったのは、ドアに付けられたベルの音だった。
 誰かが店へと入ってきた。その気配を感じて、リアンは『おや』と思った。
 二人分の足音が響く。常連客ではなさそうだ。
 ――一(いち)見(げん)さんがこの店を訪れるのは、いつぶりだろうか。
 普段のリアンなら、客が来ても無視して、読書に没頭している。しかし、その時は好奇心にかられて、ちらりと目線を上げた。
(……どこのお偉いさんだ?)
 リアンの住む街は小規模ながらも、市壁に囲まれた地方都市だ。王都に向かう際に立ち寄る者が多く、賑わっている。
 通常、王都に近いほど商業は栄えるものだが、“呪(まじな)い師”においては逆転現象が起こる。
 呪い師は人の多いところで店を構えることを嫌うのだ。実際、この街にある呪い屋は、リアンの店だけだった。
 そのため、リアンのような性格に難のある店主でも、何とかやっていけるだけの利益を上げられている。
 リアンとしても呪(まじな)い屋のよくない風評は承知しているので、人目に付かない場所で営業している。店の外観からして無頼そのものだ。
 そんな怪しげな店に、不釣り合いな容貌の客が二人。着ているものも、その立ち振る舞いも、洗練されていることがわかる。彼らはなるべく目立たないように、地味な外(がい)套(とう)を選んだようなのだが――汚れもシワの一つもなく小綺麗な時点で、裏通りでは浮いているということが、当人たちにはわかっていないのだろう。
 色みは地味でも、服の質がいいことがわかる。金を持っていそうだな、とリアンは脳内で計算器を叩いた。
 手前の男が従者で、後ろにいるのが主人だろうか。
 先に店内を覗き、警戒しながら入ってきた男は、長身でひょろひょろとしている。少し頼りなさそうな翡(ひ)翠(すい)色の目だ。線の細い印象を強める、柔らかそうな金髪をしている。
 マントを羽織り、腰に剣を佩(は)いている姿から見るに、護衛係なのだろう。
 もう一人の人間は背が高く、顔が見えないようにフードをかぶっている。
 ――顔を明かせないほど、身分が高い人間なのか……?
 リアンは束の間、思案した。彼らが運んでくるものが、利益なのか、厄介ごとなのか。
「あのー……えーっと。すみませーん……」
 金髪の青年が遠慮がちに声を上げる。店内が物珍しいのか、きょろきょろとしながら奥へと進んだ。
「えーと……すみません!」
「発声練習なら、余(よ)所(そ)でやれ」
 リアンが気だるげに声をかけると、男は大げさに飛びのいた。
「わっ」
 その拍子に、彼の肩が棚にぶつかる。展示してあったアミュレットが数個、床に落下した。
「わー、すみません! ごめんなさい!」
 男はあたふたと慌てながら、落ちた商品をかき集めている。
 ――こんなに頼りない護衛がいるものなのか?
 もしかしたら、小間使いなのかもしれない。とんだ間抜けが来たものだとリアンは思う。とはいえ、リアンはこういう間抜けが嫌いではない。
「あー、いいよ」
 リアンは彼にほほ笑みかける。青年はホッとしたように胸を撫で下ろした。
 続けて、リアンは彼に向かって手を差し出す。
「落とした商品、三点分。買取でよろしく」
 ――単純に、こういう馬鹿は金になるので。
 リアンが差し出した手を、青年は唖(あ)然(ぜん)として見返す。
 金額を告げると、彼はあわあわとしながら財布をとり出して、ぴったりの金額をリアンの掌に載せた。「すみません!」と焦ったように連呼しながら。
「……まいど」
 もらった金を握りしめ、リアンはにやりと笑う。
(こいつ、疑いもせず、即座に金を払ってきたな)
 機嫌が少しだけ上向いた。
 青年はこちらの顔を慎重に窺っている。
「それで、えーっと……こちらは、呪(まじな)い屋さんですよね? 相談したいことがあるのですが……」
 リアンは彼にほほ笑みかける。親指でくいくいと壁の張り紙を示した。
『当店では、商品についての説明・まじないに関する相談事はやってません。ただし、有料でなら話は別』
 金髪の男は訝(いぶか)しげにそちらを見つめる。わざわざ壁際まで移動して、内容を精査した。そして、カウンター前へと戻って来ると、
「お、おいくらになりますか……?」
 リアンは猫のように目を細めた。
 ――やはり、上質なカモだ!
 普段は接客なんて面倒くさいことはしないが、リアンは上機嫌になって、カウンターから出た。椅子を運んで、彼らのために並べてやる。
 そして、またカウンターの中へと戻ると、客の対面に腰かけた。
「代金は後払いな。……で? ごそーだんは?」
 金髪の男はそそくさと椅子に腰かける。
 しかし、フードの男は店の入り口で立ったまま、微動だにしなかった。
 リアンは彼のことを訝しく思ったものの、自分にとって大事なのは、財布のひもが緩い方である。そのため、彼のことは気にしないことにして、金髪の男に顔を向けた。
「ええっと……呪(のろ)いの解除をお願いしたくて……」
「お客さん? うちは呪(まじな)い屋な。……“まじない”と、“のろい”のちがいは、わかる?」
「いえ……。不勉強ですみません……」
「いいよ。教えてやる。どっちも呪力を使って、対象に様々な効果を与えるものだ。まじないは対象にとってプラスになる効果を与え、のろいは対象にとってマイナスな作用を及ぼす」
 丁寧にリアンが説明してやったのは、親切心からではない。『説明代金』として、後から金をふんだくるためである。
「それでは……えーっと。ここでは呪(のろ)いの解除はできないと……?」
「いいや。どっちも同じ原理の術ってわけさ。便宜上、二つに分類してるだけってことな」
 話しながら、リアンは二人のことを観察していた。
 呪(のろ)いをかけられているかどうかは、呪力を探知すれば判別できる。呪いをかけられてから数日間、対象は呪力の残(ざん)滓(し)をまとうのだ。手前の男からは何も感じない。
「お客さんからは、呪力の気配は感じないな。……ってことは、後ろの彼?」
 リアンが視線を向けると、フードの男は初めて声を発した。
「エルヴィン。もういいから、帰ろう」
 ――声だけでも、モテそうだな。
 そう思うほど、落ち着いていて、品の良い声だった。
 どうやら金髪の男は、エルヴィンというらしい。エルヴィンはフードの男を振り返って、言った。
「しかし……! いけません。呪いを解除していただかなくては」
 彼らの言葉遣いから、二人の関係が想像通りであったことを察する。
 手前のエルヴィンが従者、後ろにいるのが主人のようだ。
 しかし、どうやら主人の方から、進んでこの店を訪れたわけではなさそうだ。さしずめ、呪いにかけられた主人を心配して、エルヴィンが彼を連れてきたのだろう。だが、主人の方は解呪に積極的ではない。
 リアンは主人の姿をざっと眺めて、「これは厄介そうだな」と眉をひそめる。
「あー。そっちの兄さんか。呪力の残滓がぷんぷんしてるぜ」
「ぶ、無礼ですよ! このお方に、そのような口の利き方は……!」
 エルヴィンが顔を真っ青にして、立ち上がる。
 そんな彼にリアンは、にやにや笑いで言った。
「なに? お偉いさんだった?」
 白々しい口調で言う。
 ――フードの男の身分が高いということは、彼らがこの店に入ってきた時からわかっていた。
 だが、どうやら彼らは訳アリだ。ここに来たのもお忍びなのだろう。となれば、騒ぎを起こしたくないのは彼らも同じ。リアンの無礼を咎(とが)めることはできないとわかった上での態度である。
 フードの男が穏やかに言う。
「エルヴィン、構わない。それと、私は呪(のろ)われてなどいないよ」
「ぶはっ!」
 ――こんなに呪力の気配をさせているのに、当人には自覚がないのか。
 リアンは思わず吹き出してしまった。その態度を咎めるように、エルヴィンが睨(にら)みつけてくる。
「分をわきまえてください……!」
「あー……悪いな」
 リアンは笑いを噛み殺しながら、話を促した。
「で? 呪いって、どんな呪いなんだ?」
「先日から、その……彼は、ある人物と想い合っているのだと主張されているのですが……」
「あはははっ!」
 やはり、堪(た)えられなかった。リアンは腹を抱えて笑い飛ばす。
「こりゃ傑作だな! そうとうタチの悪い呪(まじな)いだ」
「まじない……? のろいではなくて?」
「お客さんは、恋をマイナスの感情呼ばわりするのか?」
「だって、あなたもタチが悪いと言ったじゃないですか!」
「ああ、最高に悪趣味だよ。人の心に無理やり恋情をねじこむ。やる側にとってはハッピーだが、やられた側にとっては、不幸なおまじないさ」
 カウンターに腕を乗せ、にやにやと話すリアンは気付いていなかった。
 自分に接近する人影に。
 突然、腕をグイッと引かれる。そこで初めて、フードの男がカウンターの前まで迫っていたことに気付いた。
(……いつの間に)
 リアンはびっくりして、顔を上げる。座っているリアンと立っている男、高低差からフードの中が見える。彼はじっとリアンのことを見下ろしていた。
「この想いは、偽りではない」
 真剣な声で言う。
 リアンは固まっていた。得意の毒舌も口をついて出ない。男の顔に見とれていたのだ。フード下の面差し――それは息を呑むほどに美しかった。


この続きは「呪い師リアンは、この恋を諦める ~嫌われ者の俺が、呪いで王弟殿下に惚れられた~」でお楽しみください♪