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公爵さまと蜜愛レッスン  〜夢見るレディの花嫁修業〜

御堂志生 / 著
辰巳 仁 / イラスト
ISBNコード 978-4-86457-045-9
サイズ 文庫本
ページ数 298ページ
定価 660円(税込)
発売日 2013/11/18
レーベル ロイヤルキス
発売 ジュリアンパブリッシング

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内容紹介

伯爵令嬢のヴィクトリアは社交界へデビューすることに。その後見人になったのが、名高い公爵家の現当主・エドワード。伯爵家と公爵家は親しい間柄にあり、実直で優しい彼はヴィクトリアの初恋の人でもある。いつか彼のお嫁さんに、と願いながら、身分の違いで諦めなければならないヴィクトリア。ところが婿選びを前に、公爵家へ軟禁されてしまい!? 「私を夫と思うように」と触れてくるエドワードの甘やかな指先。将来立派な花嫁になるための過激なレッスンが始まって……!

人物紹介

ヴィクトリア・マリー・グレアム

伯爵家の次女。
17歳。
昔なじみのエドワードが大好き。
愛称は「ヴィッキー」。

エドワード・サイラス・ アッシュベリー

クレイ公爵家現当主。
27歳。良き領主として評判の青年で、ヴィクトリアの後見人。

立ち読み

しんと静まり返った夜の庭に、噴水の水音だけが響き渡る。
 ヴィクトリアは肩の力が抜けたようになり、エドワードの胸に飛び込もうとした。だがその前に、彼が口を開く。
「君はこの状況をきちんと理解しているのか? 君の軽率な行動が、とんでもない事態を引き起こすところだったんだぞ。答えなさい、ヴィクトリア」
 それは先ほどと同じく低い声だった。しかも、エドワードが「ヴィクトリア」と呼びかけるのは、決まって怒っているときだ。
 踏み出そうとした足が止まり、彼女はグッと唇を噛み締めた。
「私の聞き違いでなければ、ホークスビーはこの場で君を……妊娠させると言った。それが洗練された紳士の言動であると、いまだに思っているんじゃないだろうな? それとも、あの男がハンサムだからという理由で、こんな場所で恥ずべき行為に及ぶつもりだったのか!?」
 夜の静寂を切り裂くような怒声が辺りに広がる。
 まさか、エドワードがここまで怒るとは思わなかった。
 人けのない夜の庭をひとりでウロウロしていたのは、軽率だったかもしれない。だが、勝手にあとを追ってきて、キスしようとしたのはホークスビー子爵のほうだ。
(こ、怖かったのに……もう少し、いたわってくれてもいいじゃない)
 そんな感情が浮かび上がってきて、ヴィクトリアは素直に『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えなくなった。
 ソッとエドワードの顔を見上げると、目が血走っている。整髪料で整えていた髪もわずかに乱れ、呼吸に合わせて肩が上下していた。
 ヴィクトリアは萎えそうな気持ちを奮い立たせて言い返した。
「そ、そんなに、怒るほどのこと? 唇のキスなんて……男と女の挨拶みたいなもんじゃない。せっかく、大人のキスが経験できると思ったのに」
 ほんの数分前、子爵から聞いた言葉をなんとなく組み合わせて口にしてみる。
(こんな言葉だったわよね? でも、これ以上怒らせたら……後見人をやめる、とか言われたりして)
 それはそれで心細い。
 だが、近い将来のことを思えば、ここでスッパリと縁を切ってしまうほうが楽になれるかもしれない。
「とにかく! そんなに面倒なら、後見人なんてやめたらいいじゃない。わたしは……別に」
 どちらでもかまわない、と言うつもりだった。
 だが、それを声にする前に、ヴィクトリアの唇はエドワードの唇によって塞がれた。
 白い手袋をはめた大きな手に左右から頬を挟まれ、熱い唇を強く押し当てられる。突然の、息ができないほどの激しいキスに、ヴィクトリアは目を見開いていた。
 数秒後、唇を離したエドワードは怒りが冷めやらぬまなざしで、こちらを見下ろしている。
「——どうした? 大人のキスを経験したかったんだろう? ああ、まだ足りないか」
 言うなり、エドワードは手を彼女の腰に回し、グイと引き寄せた。もう片方の手はガッシリと後頭部を押さえ、ヴィクトリアは首を左右に動かすこともできない。
 そして、二度目のキス。
 今度は奪うような激しいキスではなかった。ヴィクトリアの唇を優しく啄むように触れてくる。甘く食むように唇に吸い付き、丁寧に全体を舐めていく。
「んん……あ……ふ」
 普通に呼吸をしようとするだけなのに、自分の声とは思えない吐息が漏れる。羞恥心と息苦しさに、ヴィクトリアは彼のテールコートの襟を握り締めていた。
 頭の中が上手く回らない。
 だが、自分はたしかにエドワードとキスしている。
「可愛いヴィッキー、大人のキスは口を開くんだ。さあ、やってみなさい」
 唇が離れ、はあはあ、と荒い息遣いがドームの下に広がった。
 それはヴィクトリアの口から零れる、ほんの少し乱れた息。そして、エドワードの声にも艶めいた吐息が混じっていた。
「口……開くの?」
「そうだ。知りたいんだろう? 私は子爵より年長だ。彼以上に大人のキスを知っている」
 琥珀色の瞳が獲物を捕らえたように光って見えた。
 同時に、ヴィクトリアの胸がツキンと痛む。
(そんなに、たくさんのレディとキスしてきたんだ……ひょっとして、女性の身体を奪ったこともあるの?)
 エドワードに妻はいないから、女性から身体を捧げられたことはないのだろう、と思っていた。でも、違うのかもしれない。
「あの……エド、ワ……ド」
 そのことを尋ねてみようと口に開きかけたとき、またキスされて、今度は口腔内に何かが押し込まれた。ヌルリとした感触で肉厚がある。ヴィクトリアはすぐに、それが舌だとわかった。
 口の中でエドワードの舌がゆっくりと動く。歯列をなぞったあと、口蓋を舐め上げられ、ヴィクトリアは背中がゾクゾクした。
 口腔内で互いの舌先が触れ合う。
 堪らなく恥ずかしくなり、ヴィクトリアが舌を動かすと、エドワードが追いかけてきてわざと絡めるのだ。ふたたび逃げようと舌を押し戻すが、すぐに押さえ込まれ、ヴィクトリアの舌先は余すところなく彼の舌に蹂躙された。
 唇が離れた瞬間、唾液が糸を引く。
 もう、何を聞こうとしていたのか、ヴィクトリアは思い出せなかった。


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