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王子さまと極甘ロマンティック

姫野百合 / 著
北沢きょう / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-43-3
サイズ 文庫
定価 713円(税込)
発売日 2017/01/16
レーベル ロイヤルキス

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内容紹介

まるで穢れを知らぬ雪のようだ
フランチェスカは伯爵家の借金返済のため王女さまの教育係に応募した。その面接で、バルトという傲慢な青年に面接に受かると予言を受ける。発言通り教育係に抜擢、更に王子ヴィンチェンツォからも一目置かれる存在に!? 順調な日々を過ごしながらも、素性不明のバルトが気になって仕方ない。惹かれてやまないバルトと、なぜか王子ヴィンチェンツォの二人からの熱い視線を感じて!? ある夜、秘密を共有したバルトに純潔を奪われそうに? 煌びやかな王宮でロマンティックな恋がはじまる?
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

フランチェスカ

名家の生まれながら家計を助けるために、
王女の教育係となるも…!?

バルトロメオ

教育係になると予言してきた強引で、
ミステリアスな男性。
一生懸命なフランチェスカが気になって!?

立ち読み

「ほんとに?」
 黒い瞳がフランチェスカをじっと見つめている。
 背けようとするより先に、まなざしを奪われた。
 その夜の泉のように深く澄んだ黒に囚われて、もう、目を逸らせない。
「キス、してもいいか?」
 ささやきは耳が溶けてしまいそうなほど甘かった。こんな声も出せるなんて詐欺だ。
 いつもは、野蛮で粗野で失礼なことばかり言うくせに。
 ようよう喉から押し出した言葉は、かすれ、震えていた。
「……だ、だめよ……。そんな、ふしだらなこと……」
 この前のキスは盗まれたキスだ。いわば、不可抗力のキス。
 でも、「いいか?」と問われてうなずいたら、それはフランチェスカが与えたキスということになってしまう。
 バルトの指が顎にかかった。大きくて力強い手が、フランチェスカの顎を包み、上を向かせる。
 振り払いたくても、できなかった。全身がすくみ上がって、指先一本動かせない。
「キスがふしだらだなんて誰が言ったんだ?」
「それは……」
「いいから。目を閉じろ」
「……だって……」
「俺が教えてやるよ。キスは少しもふしだらことなんかじゃない」
 バルトの黒い瞳がフランチェスカの緑の瞳を捕らえたまま、そっと、そっと、近づいてきた。
 唇を寄せられる。吐息が肌にかかる。
 それ以上、バルトの瞳を見ていることもできなくなって、フランチェスカは、反射的に、ぎゅっと目をつぶった。
 心臓が壊れそうなくらいドキドキしている。
 頭の中では、何がなんだかよくわからないものだけがものすごい勢いでぐるぐるぐるぐる回り続けていて、まともな考えなんて少しも浮かんでこない。
 どうしよう?
(このままだと、キス、されちゃう)
 バルトに、キス、される……。
 ふわりとぬくもりが落ちてきた。
 それは、唇に、そっと、触れ、やわらかく吸いついたあと、すぐに、離れていく。
 震えながら、うっすらと瞼を開くと、すぐそばで自分を見つめている黒い瞳が目に入った。
「どうだ? ふしだらじゃなかっただろ?」
「何するのよ」と言わなければ。「こんなことするなんて、頭おかしいんじゃないの」とバルトを罵倒しなければ。
 そう思っているのに、実際に口にしていたのはそれとは別の言葉だった。
「……わからない……。そんなの、わからないわ……」
 フランチェスカは今まで恋というものを一度もしたことがない。家のことやら両親の尻ぬぐいやらで、そんな暇がなかったせいだ。
 キスだって、家族との挨拶のキス以外はきれいさっぱり未経験。
 そんなフランチェスカに「わかれ」と言うほうが無茶だと思う。
「じゃあ、しょうがないな」
 バルトが、くすり、と笑った。
「わかるまで、何度でもキスしてやるよ」
 再び、唇に唇が重ねられた。
 今度は、前よりも少し長く、もう少し押しつけるように。
 逃れようともがいた手は、いつしか、広い胸にすがりつくようにしてバルトの上着をつかんでいた。
 頭の中が、ほわん、としている。足もともふわふわとして頼りない。
 まるで、雲でも踏んでいるよう。
「あ……。わたし……」
 膝から力が抜けた。
 力強い腕に引き寄せられ、バルトの広い胸に包み込まれるようにして抱き締められる。
 耳朶にささやきが触れた。
「かわいいな」
「……え……?」
「ここ、真っ赤だ」
 今宵は雲一つない。冴え冴えとした月の光が、フランチェスカの赤く染まった頬を余すところなく照らし出している。
「やっ……。いや……。見ちゃ、だめ……」
「どうして?」
「だって、絶対変な顔してる」
「そんなことない」
 バルトは、とろけそうに甘いまなざしでフランチェスカを見つめると、火照る頬にそっと唇で触れた。
「かわいい顔だ。すごく、かわいい……」
 きゅん、と甘い痺れが胸に広がる。
 頬がいっそう熱くなった。
 かわいい?
(わたしが?)
 ほんとうに?
 フランチェスカは、ただ、呆然として、バルトを見上げていた。
 バルトの黒い瞳は月影を宿してやさしく微笑んでいる。
「……ぁ……」
 何か目に見えない鍵爪に胸の奥をぎゅうっと鷲づかみにされたような痛みが貫いていった。
 思わず薄く開いた唇に、今宵三度目のキスが落ちてくる。

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