書籍詳細
デのない上司が「惚れ薬の材料」にアレを要求してきます。 ~女嫌いの天才魔術師(神)はへっぽこ田舎娘を溺愛する~
| 定価 | 1,430円(税込) |
|---|---|
| 発売日 | 2026/11/27 |
内容紹介
立ち読み
プロローグ 正気ですか?
魔術塔には神がいる。
女嫌いの美しい神様だ。
サーラは神様の役に立ちたい、と思っている。
チェゼーナ王国の城壁の一角に立つ塔は、『魔術塔』と呼ばれ、たくさんの魔術師たちが働いている。
魔術塔は上の階から順に、第一位、第二位と上位の魔術師の執務室が割り当てられており、第三位から末端の第五位までの魔術師たちは彼らの仕事を補佐している。
第一位と第五位では、魔力量やその存在意義に神と蟻(あり)ほどの差がある。
その第一位の中でも異彩を放つ、レオナルド・オルドイーニ。
二十歳とまだ若い彼だが、王国の中で一番の魔力量を誇り、魔術具研究で右に出る者はいない。塔の中で育った彼は、幼少期からその魔力と優秀な頭脳を認められ、十にも満たない頃から魔獣討(とう)伐(ばつ)にも参加し、その功績によって筆頭伯爵家の名も持っていた。
つまり、魔術塔の天才魔術師だ。
しかもただの天才ではない。
美しい銀髪を背中に一つ結びで流し、透き通る藍玉(アクアマリン)の瞳を持つ彼の容姿は端麗で、しかも長身で知的で、もの静かだが、一度口を開けばよく通るテノールの声で人を魅了する。
加えて、とても仕事熱心だ。王国を魔獣から守る城壁の結界から隣国に対する国防関連まで、彼の功績は多岐に亘(わた)り、優秀な頭脳からは数々の魔術具が生み出される。助けられた人々は星の数ほどいるだろう。
天才魔術師、もとい、魔術塔の神である。
一方、その彼の秘書である第五位の魔術師サーラ・テルニは、テルニ村の娘サーラという名のとおり、へいへいぼんぼんの田舎娘だ。
茶色の髪をおさげにし、中年男性がかけていそうな分厚い黒ぶち眼鏡の、化粧気のない十八歳。
単なる蟻んこか、それ以下です。はい。
その神のごとき上司が、午後の紅茶の時間にサーラを同席させ、静かに切り出した。
「これは君にしか頼めない事案なんだ。聞いてくれるか?」
「え!? もちろんです! レオナルド様」
来客用のテーブルに対面で座っていたサーラは、食い気味に答えた。
この一年、幸運にも彼の秘書を務めてきたが、サーラが役立つ場面などなかった。
何せ彼は執務の能力も神レベルで、文字どおり瞬く間に文書作業を終わらせてしまうし、サーラは魔獣討伐には付いていけない(彼が呼ばれるレベルの討伐に付いていけば確実に死ぬ)。
せいぜい室内の整理整頓と来客の応対、お茶汲(く)みができる程度で、『あの子いらないんじゃね?』と陰口を言われてきたが、本人が一番そう思っているくらいだったのだ。
それなのに君にしか頼めないと言われたら。ぐわっとサーラの心が奮(ふる)い立った。
「何でもします!」
「そうか。ありがたい」
レオナルドが安(あん)堵(ど)の表情を見せた。珍しい。
彼はほとんど感情を表に出さない人だ。小さい頃から魔術塔で過ごし、気難しい老齢の魔術師たちを相手に育ったせいだろう。冷静沈着な態度が板についている。
田舎で感情を素直に出して成長してきたサーラにとって、それは少し寂しいことのように思えたが、全く凡人の余計なお世話だろう。蟻が塔の神様に言えることなど何もない。サーラは知らぬ間にぷちっと潰されるような、ちっぽけな存在なのである。
奇跡的に見せた表情は一瞬で平静なものに戻り、レオナルドはテーブルの上にかつん、と茶色の硝子(ガラス)の小瓶を置いた。
小瓶の大きさは直径五センチ、高さ八センチくらいだろうか。小さすぎるほどではない程度。
上司は普段どおり淡々とした口調で説明を続けた。
「この小瓶に、君の膣分泌液(ちつぶんぴつえき)を入れてほしい。瓶の入り口まで満たすのが望ましいのだが」
「は? ちつ? え? ちつ?」
ちつちつ言った後、言葉を失う。
十秒。長いような短いような沈黙の中、いちおう単語の意味は理解した。
でも、相手が神でも聞くよね?
「正気ですか?」
死んだ魚の目で聞くサーラに対し、レオナルドは至って平然と頷(うなず)いた。
「ああ。依頼があって、古い薬を作ることになった。その主要な材料が処女(おとめ)の膣分泌液なのだが、もうずっと誰も作っていないから魔術塔にストックがなくてな。君は処女だろう?」
正気だったらしい。
だが突っ込みどころは満載だ。素(しら)面(ふ)で膣とか処女とか年頃の女に言うことだろうか。あと、ストックってなんだ。長期保存できるものなのか。できたとして何か嫌だ。
「……詳しく聞いていいですか?」
「構わない」
「薬って何ですか? その、体液が必要な薬って……」
「惚れ薬だ」
「ほれぐすり」
「そうだ。媚(び)薬(やく)ともいう。蝙(こう)蝠(もり)の血、蛇、ヒキガエルの粘液、そして処女の膣分泌液が主な原材料だ。完成品は軟(なん)膏(こう)として使うものだ」
そんな混ざりもの使いたくない。というか、どこに塗るの。そんな危険物。
「そもそも、私のことを処女と言いましたが……違うって言ったらどうするんですか? 私だって年頃の女ですよ?」
もちろん、虚勢です。そのとおり、私はおぼこです。
でも素直に処女ですって言うのも恥ずかしい年頃だ。大体皆上手く初体験を済ませているものだ。田舎の幼(おさな)馴(な)染(じみ)たちは、知らぬところで先に大人になってしまって、皆のいちゃつきを尻目に見つつ、寂しく思ったものだ。悲しいことに誰もサーラを誘ってくれなかった。別にいいけどさ。ぐすん。
おさげに化粧気のないサーラだ。上司も見てくれや雰囲気で判断したのだろうと思う。
だが、人のことをそんな風に色眼鏡で見ないでいただきたいと、ちょっとだけ強がってみたのだが――。
「いや、君は処女だろう? 間違いない」
「え?」
ある意味究極のプライバシーを他人に断定されて、サーラの方が「何で?」と戸惑った。
レオナルドは無言で胸ポケットから片眼鏡(モノクル)を取り出し、机の上に置いた。
薄い茶色の硝子が、窓から差し込む陽光にキラリと光る。
「これは?」
尋ねつつ、つい先日彼が室内で片眼鏡をかけていたことを思い出す。
珍しかったので覚えている。
「これは私が作った魔術具だ。かけた状態で相手を見れば、相手の情報が硝子に表示されて見える仕組みになっている。例えば、魔力量や年齢といった情報だ。今回のこともあって、処女か非処女かの情報が見えるように仕様を変更した。君は処女だった」
なんて眼鏡で人のことを見るんだ。
彼は天才魔術師だ。膨大な魔力を持つと共に、それを余すところなく発揮できる深い知識と知性を持つ。発明した魔術具は五百を優に超えるだろう。
しかし、知性とは何ぞや? いや、この場合問うべきは良識か?
そもそも膣分泌液とか処女とか面と向かって言われるおぼこの身になってほしい……ってもう、突っ込みが止まらなーい!!
やけくそ気味にサーラは叫んだ。
「ええ、処女ですよ!? でも、この話は聞かなかったことに。お断りしまっ――」
「君は何でもすると言った」
「う」
「先ほどの言葉は嘘か? 私は君を深く信頼しているのだが」
いやいやいや、その言い方はちょっと狡(ずる)い……。それに、何でもすると言ったけど、時と場合と恥じらいってものはあるだろう。
サーラは無言で軽く睨(にら)んだが、レオナルドの表情は変わらなかった。
ただ、少し嘆息して言った。
「君に頼めないなら、他を当たるしかないが……正直、困るな」
その言葉にサーラはどきっとした。
サーラはこの美しすぎる上司が女嫌いで有名なことを知っているからだ。
上司は神のごとき存在であったが、生身の肉体を持つ現(あら)人(ひと)神(がみ)でもあらせられる。
容姿も魔力も地位も魅力的な彼に、一灯しかない光に集結する蛾(が)のごとく、女たちは次々と寄ってきた。
普通の奥ゆかしい女ならいい。恋愛事に興味のない彼が「断る」と言えば、目を潤(うる)ませて去っていくだけだ。
ただ、強い光には個性の強い蛾が寄ってくるもので。
サーラが直接知っているだけでも強烈な事件が二件あった。
一件は、執務室の扉に経血で「私を愛して」と殴り書きされていた事件。
塔にいる魔女の誰かの仕業だろうが、呪いの類(たぐい)で、その扉を意中の者が開ければ自分に興味関心を向けるようになるというものだった。サーラは扉の血を丹念に洗い落とす羽目になった。
ていうか、いくら術の一種でも経血使う? 普通に嫌だよ。
もう一件は、イカ墨パスタ事件。厨(ちゅう)房(ぼう)から執務室に運ばれた昼食のイカ墨パスタ……。
昼食に歯が黒くなるようなものを、珍しいなぁ、なんて思って、執務室に設けられた秘書机で同じくパスタを食べようとしたサーラに、「待て」と上司が制止の声をかけてきた。
怪(け)訝(げん)な顔をすると、彼は静かな声で断言した。
「パスタに髪の毛が混入されている」
サーラは目を見開いたまま、ゆっくり視線を皿に戻した。
上司の言葉は正しかった。細身の黒いパスタに紛れて、大量の毛髪が絡んでいた。
もうぞわぞわぁっの、おげぇっ、でしたよ。
もちろん、それも術の一つで、意中の人を内部から操れるようになるというものだった。
厨房に行って犯人捜しさせるのも悪かったので、上司の判断でサーラがパスタを裏庭に埋めた。土をかぶせて目の前から消えるまで、心底気持ち悪い見てくれでしたよ。おかげでサーラは一生イカ墨パスタを食べられないに違いない。
コレだけでお腹いっぱいなのに、長く塔に住まう上司が見てきたものはどれだけのものだったのだろう。
サーラが秘書に就任した時、彼はすでに女嫌いとして有名になっていた。
それでも彼にアタックする女性が後を絶たないのは、彼の魅力ゆえというか、神ゆえにというか。
そんな上司が『君の膣分泌液をこの小瓶に入れてくれ』などと言おうものなら、どんな事態になるのか。正直恐ろしい限りだ。トラブルの匂いしかしない。
……だからある意味、上司の人選は正しい。
サーラは彼の秘書だし、そもそも彼に対して恋情を持てない。
サーラは秘書として常に彼の役に立ちたいと思っている……。
「………はああああ~~」
サーラは深い深い溜息をついた。両手を顔に押しつけ、がっくりと俯(うつむ)く。
そうして再び十秒沈黙した後、身体を起こし、手の跡で少し赤くなった顔を彼に向けた。
「分かりました。私がやりましょう」
サーラはやけくそ気味に言った。
やり方なんか全く分かんないけども。
第一章 簡単にはいきません
『私がやりましょう』と言ったものの、サーラはすぐに後悔した。
サーラも末端とはいえ魔術塔の魔術師だ。魔術師は薬(くす)師(し)の役目も担うので、女性の身体にまつわる知識はそれなりにある。
あくまで辞書的な意味でだが、膣分泌液とは男女が致すときに、潤(じゅん)滑(かつ)油(ゆ)として膣から排出される体液であることくらいは知っている。
それをおぼこの身で排出しなければならないらしい。
さらに、この茶色の小瓶に入れなくちゃいけなくて。しかも瓶一杯に出さなきゃいけないらしい。って、ハハハ。何回排出するの? 訳が分からない。
(しまった。神への奉仕の念が強すぎて、とんでもないことを承諾してしまった)
情けない顔でがっくり肩を落とすサーラに、レオナルドが再び安堵したような表情を向けた。
「ありがとう。サーラ。君の協力に感謝する」
協力というか、犠牲というか……。
サーラは再び死んだ魚の目をレオナルドに向けた。
その視線をどう受け取ったのか分からないが、レオナルドがサーラを安心させるように深く頷いた。
「もちろん、臨時手当を出すつもりだ」
その言葉に、サーラの耳がぴくりと反応する。
「臨時手当……ですか?」
「ああ、充分な手当を出すつもりだ」
別に手当が欲しくて承諾したわけじゃないのに、いくらだろうと意地汚く思ってしまう。
王城直下の魔術塔に勤めてはいるが、大した能力もない第五位の魔術師は薄給である。家賃高の城下町で生活するには不充分で、常にかっつかつの生活なのだ。
第一位の魔術師であるレオナルドの秘書なので、仕事の日には美味しい昼食のご相(しょう)伴(ばん)に与(あずか)れる。ふかふかの白パンとか、肉汁したたるローストビーフとか、たまに風変わりなイカ墨パスタとかね。思い出しちゃった、おえ。
けれども、普段の朝・晩・休日の食事は黒くてかちかちに硬いライ麦パンだ。それをスープに浸して食べるだけ。
田舎にいた時の食生活も似たようなものだけど、そこら辺に自生する山菜を食べられるから、まだ健康的だったと思う。たまに猪(いのしし)や野(の)兎(うさぎ)も食べられたし。
そんな風に食費を削っても、蝋(ろう)代や薪(まき)といった諸々の生活必需品に消えていくだけで、蓄えはほぼない。
ちなみに、私が身の丈以上の部屋を借りているから家賃が高い、というわけじゃない。城壁内の貸家の家賃はすべてお高いのだ。
なぜかといえば、城壁に魔獣に対する結界が張られているからだ。
結界の恩恵で魔獣は侵入できない。だが一歩、結界外へ足を踏み出せば、割と簡単に魔獣に出くわしてしまう。だから皆、家賃が高くとも城壁内に住みたがって、結果的に家賃が高(こう)騰(とう)するわけだ。
というわけで、臨時手当という言葉には強い魅力があった。
つい「ちなみにどれくらいですか?」と聞いてしまうほどに。
「五百ユーレだ」
「ご、五百ユーレ!?」
「それを、前払いと作業完了時にそれぞれ渡すつもりだ」
「全部でせせせんっ千ユーレ!?」
百ユーレは、家賃三か月分。つまり、三十か月分の賃料を賄(まかな)える。
三十か月、つまり約二年半!!
思った以上に高額で、来客椅子の上でサーラの身体がそわそわ、もじもじしだした。
それに気付いているのだろう。上司が小瓶の隣に、すっと契約の羊(よう)皮(ひ)紙(し)を一枚置いた。
「契約書だ。報酬について記載してある。読んで、問題なければサインをしてほしい」
視線を落とし、契約書を見てみる。
・材料を提供する対価として、前払い、作業完了時にそれぞれ五百ユーレを手渡すこと。
・仕事の一環として、作業は執務室内で行うが、プライバシーは守られること。
・提供者の身体の負担にならないよう、作業は体調に合わせて行うこと。
・必要あれば、本人の希望に沿った作業道具や文献を提供すること。
等々のことを、至極真面目な文章で書いてあった。
っていうか、作業道具や文献ってなに。
「こちらとしては、二(ふた)月(つき)を目途(めど)に完了してもらえればと思っている。上納する薬だから期限はあるが、そこまで急ぎの仕事ではない」
「上納って……そもそもの話ですが、この薬は誰の依頼なんですか?」
「国王陛下だ」
「へ、陛下が? 何で惚れ薬を?」
チェゼーナ王国の御年(おんとし)五十になられる国王陛下を思い浮かべた。
陛下はたった一人の王妃しか持たず、愛妻家として有名な方だ。
御子は三人いる。
成人した第一王子のロレンツォ王子は幼少期から秀でた方で、文武兼備の美丈夫だ。
第二王子のマッテオ王子も、兄を献身的に支える努力家で、明るいお人柄だと伝え聞く。
末の十六歳になるパトリツィア王女も賢くお淑(しと)やか、白い肌にちなんで『真珠の麗人』と誉(ほま)れ高い。
その次代も安心な国王御一家に、なぜ惚れ薬が必要なのだろうか。
(……もしや陛下、五十にもなってご乱心を?)とけしからぬことを考えていたら、それを察知したのか、上司が冷静な顔で言った。
「陛下が使用するわけじゃない」
「はっ、すみません」
がばっと低頭したサーラに、レオナルドが淡々と続けた。
「他言無用だが、パトリツィア王女の御(お)輿(こし)入れが決まった。お相手は隣国、エルバ王国のアンドレア第一王子だ。王女は次代のエルバ王妃になられる」
そろそろと顔を上げて、サーラは返した。
「おめでたい話ですね」
「ああ。大昔の話だが、周辺国も含め、貴婦人が知らぬ国に嫁ぐ際に惚れ薬を輿入れ道具に忍ばせる風習があったそうだ。実際に使用するかどうかは別として、結婚が上手くいくようにと祈願を込めていたのだろう。王女は奥手な方だからと、昔の風習を引き出されてきたらしい」
「なるほど、そんな事情が……」
漸(ようや)く腑(ふ)に落ちた。
高額な手当も、部下に膣分泌液を要求するのも、公的な事情あってのことだったのだ。
正気と良識を疑って悪かったなと思っ――………いや、片眼鏡で処女を確認されるとか、いまいち納得いかない部分は多い。詰め方もズルかった気がする。
けれども、承諾したのはサーラだ。
手当の話がなくとも、レオナルドの役に立ちたいと思っていたのは本当だ。
他にも何か大事なことを聞き忘れてしまった気もするが、話のスケールが大きすぎて、思い出せなくなってしまった。
ふう、と軽く溜息をつくと、サーラは胸ポケットからケースに入った針を取り出した。指先を刺して少し出血させると、契約書に『サーラ』と書いた。魔術師の契約書は自らの血でサインする習わしである。
「感謝する」
そう言うと、レオナルドは自分の指先を噛(か)み、サーラの名の隣に『レオナルド』と書いた。
両者の契約の血を得て契約書が光り、ひらりと浮かんで消えた。
契約の魔術が掛けられているから、守らなければ、サインをした者同士互いに罰則を受ける。
これで完全に逃げることはできなくなった。
「それでは、先に前払いの報酬を渡そう」
「え」
レオナルドは立ち上がると、机の引き出しから茶封筒を取り出して戻り、来客用の机にドサッと置いた。乱暴に置いたわけではない。そんな音がするほど分厚いのだ。
「正当な臨時手当だ。遠慮なく受け取ってくれたらいい」
身を硬くし、極厚の茶封筒を見つめるサーラに、レオナルドが受け取るよう促す。
「……はい」
言われるがまま手に取った。茶封筒は見た目のとおり、ずしりと重かった。
上司は正当な臨時手当と言ってくれたが、自分の体液の見返りであると考えると恥ずかしい、というか正直後ろ暗い。
じゃあ完全奉仕の精神で茶封筒の報酬をお返しすればいいのに、それも薄給の哀しさゆえできない。
神に比べて自分は蟻んこ、いやそれ以下の存在だと思っていたけど、何だかもっと下(げ)卑(び)た存在になった気がしてきた。これからは返事も『そうでゲス』、笑い方も『げすげすげす』に変えた方がいいかもしれない……。
埒(らち)もないことを考えていると、レオナルドがすっと立った。
「では、早速だが」
「へっ」
彼は執務室の隅に掌(てのひら)を向けた。
くるりと手を半回転させると、床に青白く光る魔術陣が現れ、筍(たけのこ)がにょっきり生えるように、縦に長い布張りの小部屋が出現した。小部屋は服屋の試着室に似ていた。
(なにこれ)と目を白黒させていると、レオナルドが「あと、これを」と言って、胸ポケットから何かを取り出し、サーラに差し出した。
茶封筒を一旦机に置き、両手を器にして差し出す。レオナルドの手から小さなものがコロンと転がり落ちた。
片手の指で摘(つ)まみ上げてまじまじと見る。
血のように真っ赤で小さな宝石が付いた、細身の指輪だった。
「これ、何ですか?」
この続きは「デのない上司が「惚れ薬の材料」にアレを要求してきます。 ~女嫌いの天才魔術師(神)はへっぽこ田舎娘を溺愛する~」でお楽しみください♪