書籍詳細
ラッキースケベ体質の御曹司にガチ惚れされた結果
| 定価 | 1,320円(税込) |
|---|---|
| 発売日 | 2026/01/23 |
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内容紹介
立ち読み
序章
「秋野(あきの)さん……やらないか? 俺と」
彼の言葉は明瞭だった。けれど何を言っているのか、わたしにはさっぱり理解ができない。
「や……やらな……、え?」
(やらないか? って、……セックス?)
何を隠そうこの男、わたしと出会ってまだ数時間しか経(た)っていないのだ。
にもかかわらず、この提案である。
「……できれば噛(か)み砕いて説明をしていただいてもいいですか? その、『やらないか?』とは具体的には何を指すのか――」
「セックス」
「え?」
「セックス」
そしてわたしは後悔した。
人は見かけによらないものだ。それは氷山と同じで、目に見えている部分よりも見えない部分の方がはるかに大きいものである。
(あなた氷山だったんですね。結局はヤリ目(もく)。わたしを『穴』だと思ってる)
「俺の一族は運がいいって言っただろう? 商売運、金運もいいけど特に子孫繁栄、女性運が強い。だからこそ、君に『開運セックス』をしてあげられるんだ!」
「ああそうなんですね。ごめんなさい」
あれこれ気を遣うのが億劫(おっくう)になって、わたしはもう思ったままに断った。
(ないない。セックスしたら厄払いになるとか、どこの怪しい教祖様よ)
……なんて思っていた時がわたしにもありました。
「開運セックスをしてほしいんです!」
誤解のしようもないほどにハッキリキッパリ断った直後に、わたしから彼に頼み込むことになろうとは、この時は想像すらしていなかった。
1章 開運目当ての恋があっていいわけがないのに
1
「また凶……厄払いのご祈祷(きとう)をしてもらったそばから、凶ッッ」
細長い紙にでかでかと書かれている文字を睨みつけながら、わたしは吐き捨てるように呟(つぶや)いた。
「違うでしょ、ここは『大吉』では? せめて『中吉』……ううん、もう『吉』の字がつけばなんでもいい~っ」
とある神社の片隅で、『吉』を叫ぶわたし。
思えばわたしの『運』はきっと、実家ガチャで使い果たしたのだろう。
父は老舗中堅製薬会社の社長、美しい母と才色兼備な姉二人……の下に生まれた、見た目も頭もパッとしない、将来の夢もやりたいことも特にないポンコツみ溢(あふ)れる末っ子――それがわたしだった。
そんなわたしでも、家族はたくさん愛してくれた。かわいいかわいい、そのままでいいのだと言って、いつだって大きな愛で包んでくれた。
だから、たとえ消しゴムを使い切る前に紛失しても、シャーペンの芯が書こうとするたびに引っ込んでも、鳥のフンを頭に喰らっても、傘(かさ)を忘れた日に限って土砂降りに遭っても、スマホの画面がヒビだらけでも、付き合い始めて五日で彼氏に浮気されても、これらは全て仕方のないことだと思うことにした(ちなみにその男とはすぐ別れた)。
人の有する運の総量は決まっている。だから家族運に恵まれすぎたわたしは、それ以外の部分において不運な出来事がちょっとだけ多く発生するのだ――と。
ところがここ数年、そんなことを言っていられる状況でもなくなってきた。
二年前、大学卒業間近だった頃ひったくりに遭ったことを発端に、わたしの『不運』に磨(みが)きがかかり始めたのである。
新卒で入った会社はブラック、一目(ひとめ)惚(ぼ)れして買ったぬいぐるみの中から針が出て怪我(けが)をする、自転車ごと川に落ちる……。
極め付けは、ストーカーの出現。
職場では、モラハラとセクハラが横行していた。それだけでもしんどかったにもかかわらず、プライベートではストーカーの存在に苦しめられた。
後をつける足音に、郵便受けに届けられた消印のない手紙。深夜にインターホンが鳴らされること複数回、自転車のサドルがなくなっていること複数回……。
警察に相談しても「見回りを増やします」の一言で済まされた。これでは結局何もしてもらえないのと同じ。
わたしにとっておよそ耐えられるものではなく、悩んだ末に仕事を辞めて実家に戻ることにした。
ちょうどその頃、父の会社がS県に新たな工場を建てた。S県といえば、神話で有名な地。
様々な伝承どころか、パワースポットも多数ある。
父から工場の竣工(しゅんこう)記念パーティーに家族枠での参加を打診されたこともあり、ついでに運気アップのための観光もしちゃおう、とわたしは飛行機に飛び乗った。
……とはいえ、まさか厄払いで有名な神社で、厄払いのご祈祷をしてもらった直後に『凶』を引くとは思わなかったけれど。
再度、おみくじに目を落とす。
――闇深く道は見えず。思い通りにはならず、焦りはさらなる災いを呼ぶ。今は静かに時の流れに身を任せるべし。
「……はあ」
ちょっと良いことの一つでも書いてあればと縋(すが)ったけれど、『見えず』だの『災い』だの、どう考えても穏やかでない単語がこれでもかとばかりに並んでいた。
やる気のないため息が、歯と歯の間から抜けてゆく。
東京から飛行機で一時間半、その後電車とバスとタクシーを乗り継いでやってきた。それなのに何の成果も得られないなんて、報われなさすぎて自分が可哀想だ。
「……た、たまたまよ。偶然。大丈夫、ここは神々のおわす地。捨てる神あれば拾う神あり、だもんね」
幸いなことに、わたしは無職。旅程は長めに組んである。しかも旅費は父持ち。
気を取り直し、そのうち『吉』と出会えることを信じて数を打つ作戦に出ることにした。
……その結果。
――末末末吉。暖流絶たれ、冷水の試練あり。心静かに受け入れよ。
――凶。華やぎの裏に脆(もろ)さあり。急ぎ足は破滅を招く。
――凶。心が空を漂う時、黄色に足をすくわれる。段下る際は雑念を払え。
――大凶。足元定まらず。飛び出せばその道、命を奪う。
――大凶。箱の蓋(ふた)は慎重に。見ずして進めば、底なしの闇に誘われる。
全敗である。
「いやいやいや、これはないでしょ。何よ『末末末吉』って。『吉』の字がつけばなんでもいいとは言ったけど、これならいっそ潔く『凶』って書いておいてほしかった!」
良くて末末末吉、悪くて大凶。そもそも『末末末吉』なんて『良い』に入れていいのかすらわからない。
途方に暮れ、空を見上げる。カラスがカァカァと飛んでいる。
「はぁ、もう夕方か……帰ろ」
立て続けに悪い結果が出たことですっかり戦意喪失してしまったわたしは、ここで一旦ホテルへ戻り、メンタルを立て直すことにした。
ホテルでは部屋備え付けのシャワーが故障していてお湯が出なかった。しかもその日は満室で、他の部屋と替えてもらうことも不可。
けれど、わたしにとってこの程度は日常茶飯事だ。
死ぬわけじゃないので我慢して、その日は早めに床に就いた。
さて翌日、やってきたのは八洲(やしま)神社。
縁結びの神や福の神が祀(まつ)られているという、全国的にも有名な神社だ。
拝殿で念入りに祈ってから、わたしはおみくじ売り場の前に立った。
さすがにここで悪い結果は出ないだろう。簡単に『凶』が出たりしたら、客足も遠のきかねない。
だからきっと、おみくじにも優しい言葉が書かれているはずだ。
そう思い、おみくじを引くと――
「……え、え? だい……大吉??」
今までの二十四年の人生で、一度も見たことのなかった二文字。
期待以上であまりにも馴染みがなさすぎて、呑(の)み込むのに時間がかかった。
……大吉。つまり、とても運気が良いということ。
(えっ、本当に? 優しすぎない? サービス良すぎでは!?)
動揺したまま『大吉』の下に書かれた文章に目を通す。
――見知らぬ異性こそ、厄を祓う光。偶然の縁に身を委(ゆだ)ね、心と身を交わすべし。
おみくじの細い紙を両手で持ちながら、何度も何度も読み直した。けれどどれだけ読み直しても、書かれている内容は同じ。
「……見知らぬ異性が、厄を祓う? 身を委ね……心と身を交わす? かっ交わす??」
(八洲神社の神様がわたしに、行きずりの男とのワンナイトを推奨しておられる? これで大吉? 大吉とは??)
わたしの感覚では、このおみくじは良くて末吉あたりの気がする。神様は神様なので、人間とは違う感覚をお持ち、ということなのだろうか。
「……ま、そんなものよ、所詮。大切なのは気の持ちよう。神様がどうにかしてくれるだなんて、本気で信じているわけでもなかったし」
少し熱が入りすぎていたようだ……と自分で自分を落ち着かせて、おみくじを折りたたんで手頃な枝に結びつけた。
(特別なんて望みません。人並みか、それに近い『ちょっと不運』程度でもいいので、せめてワンナイトをしなくても命の危険がない人生を送れますように)
おみくじに願いを込めていると、スマホから軽快な音楽が鳴った。
画面に表示されている名前は、『可部(かべ)さん』。父の秘書だ。
本日夕方に竣工記念パーティーが開催されるので、おそらくそのことで電話をしてきてくれたのだろう。
腕時計に目を落としながら通話アイコンをタップする。
「はい、秋野です」
『こんにちは、可部です。飛行機には無事乗れましたか? 今、どちらに?』
「無事にS県を観光してますよ。ちょうど八洲神社を参拝してきたところです。でも、そろそろパーティーの準備をしにホテルに戻ろうかなって」
可部さんはとても優秀な人で将来の社長と目されているらしく、ここ数年は社長の仕事を学ぶため、父についているのだと聞いている。
『八洲神社ですね。それではこれからお迎えに上がりますよ。ああ、そう言えば先日美味(おい)しいチョコレート専門店を見つけたんですよ。まだ時間もあることですし、ついでに寄っていきませんか? 秋野さん、チョコレートはお好きでしょう?』
けれど、わたしにとっては少々過保護なお兄ちゃんみたいな存在だ。可部さんにしてみたらわたしは上司の娘でしかないのに、こうして気にかけてくださって、ありがたいことこの上ない。
「わたしだって可部さんがお忙しいの、知ってますからね? だからお迎えは結構ですよ。チョコはまた今度、お店を教えてください。今日は特にお忙しいでしょうから、お仕事を優先させてください」
『何をおっしゃいますか。秋野さんのことでしたら、仕事の方が二の次ですよ!』
「気にかけていただいて光栄です。でも本当に大丈夫。また会場で」
可部さんの押しが強いのはいつものことだ。だからわたしもある程度免疫がついており、さらりと断ることができた。通話を切り、空を見上げる。
「よし、ホテルに戻ろう」
大鳥居を抜け、信号が変わるのを待ちながら、わたしは明日からの動きについて考える。
(運気アップ旅行……神社仏閣巡りは……もういいかな)
内容はどうであれ『吉』どころかその最上級の『大吉』が出たわけだし、それ以外には大した手応えもなかったし。
あとは適当に美味しいものでも食べて、温泉にでも浸(つ)かってゆっくりしたい。さっき可部さんが口にしていた、チョコレートのお店に行ってもいいな。
「っ、わ、あっ!?」
誰かに背中を押され、踏ん張りきれずにわたしは一人道路に飛び出してしまった。
突然のことだった。
わたしと同様信号待ちをしている観光客はいたけれど、そんなに密集していたわけでもなかったのに、誰が。
手をつき膝をつき、受け身は取れた。
ところが、クラクションの大きな音がわたしの体を揺さぶった。
すぐ目の前には、一台の車が迫っていた。立とうにも転げて逃げようにも、まだ姿勢が整っていない。
(何これ、わたし、轢(ひ)かれるのでは!? 死ぬやつでは!?)
ずくん、と心臓が嫌な音を立てて軋(きし)む。頭から血の気が引き、真っ白になる。
いよいよもう逃げられないと悟り、わたしは目を瞑(つむ)った。
その途端、自分の意思とは無関係に体に強い力がかかった。圧迫されて、引き倒されて、ぶつかって――……でも、意識はある。
恐る恐る目を開けると、自分の膝が見えた。足もある、手もある。
そして、お腹(なか)に何かが巻き付いている。
巻き付いているというか……腕だ。誰かの腕が回されていたのだ。
「危なかったぁー!」
耳のすぐ後ろから吐き出された男性の声に、わたしの背筋がビクリと反応する。
振り返ると、見ず知らずの青年がわたしにピタリとくっついていた。
痴漢(ちかん)? ……と疑いかけて、すぐに違うと悟る。
「あ、あの?」
「ギリギリだった、本当にギリギリ。でも、助かって良かった! ね!」
ね! と同意を求められても、距離が近すぎて直視できない。仕事の途中なのか、彼がスーツ姿であることだけはわかったけれど。
「ありがとうございました。誰かに背中を押されて、それで……。命拾いしました」
ひとまずお礼だけは伝えたが、轢かれかけた恐怖から声が震えた。
心臓が早鐘を打っていた。
(……怖かった)
「押されて? 不審な奴(やつ)はいなかったけど……まあでも何事もなくて良かった。これも八洲神社のパワーかな! なんてね」
彼の明るい口調が、わたしを襲う恐怖を和らげてくれている気がする。彼がどこの誰かもわからないのに、助けてくれたという事実とこの明るさだけで、誰よりも心強い味方のように思えた。
腕の拘束が緩んだので、彼から離れ、距離をとる。
(わ……、これは)
わたしよりも少し年上、二十代後半から三十代前半だろうか。
黒々とした髪はさっぱりと整えられ、分かれた前髪の隙間(すきま)から額と凛々(りり)しい眉が覗(のぞ)いていた。目鼻立ちがくっきりしていて、ちょっと面長で、眼光強めの瞳で。
彼は俗に言う、『顔整い』の部類だ。
でも今はそんなの関係ない。
「……あの、助けてくださって本当にあり――」
「だから、危ないって!!」
立ち上がろうとした瞬間、彼が叫びわたしの手を強く引いた。
急な動きに対応できず、わたしはバランスを崩し彼の方に倒れ込む。
彼の胸に飛び込めるなら、まだ良かった。
彼はいまだ地面に座った状態だったので、胸に飛び込むには位置が悪すぎた。わたしの方が高すぎたのだ。
(だ、ダメ! このままじゃ彼の顔に突っ込んで、ついでに押し倒しちゃう!!)
わかってはいる。けれど、自力でこの体勢を立て直せるほどの筋力がない。
彼の顔面がわたしの胸へとめり込んでいくさまを、わたしはただ、スローモーションのような感覚で眺めているしかなかった。
彼の高い鼻がわたしの胸に埋もれ、見えなくなった。しかしわたしに押し倒される前に、ゴン、と大きな音がした。
彼の背後には車止めの石柱があったのだ。
(こ、この体勢は、『ぱふぱふ』では!? 痴漢……不同意猥褻(わいせつ)!? でも、わたしが倒れこんだせいでこの人は頭を打ったのだから……わたしが加害者!?)
「ごごごごごめんなさい! すぐ退きます!!」
混乱しながら慌てて離れようとしたが、彼はわたしの腰に手を回したまま離してくれない。
(……まさかわたしの胸の感触を堪能しているの? やっぱりわたしが被害者――)
と思ったら違った。
「ちょっと待って、ここ車道だから! 暴れたらだめ、今度こそ轢かれるから!! ……いい? 手を離すけど、落ち着いて周囲を確認しながら、歩道に戻ってね?」
服越しに吐息を感じる。わたしの胸に顔を密着させて喋(しゃべ)っているのだから、仕方ない。
しかも、こうなっているのもわたしのせい。
「……はい」
彼はただ、わたしが驚いて車道に飛び出すのを阻止しようとしているだけだった。
確かに先ほども彼から距離を取ろうとした時、「危ない」と言ってわたしを守ってくれたのだ。その代償が『ぱふぱふ』だったとしても、命に比べたら安いものだ。
「重ね重ね、すみま……鼻血っ!」
石柱を頼りにゆっくりと体を起こした。それにあわせてわたしの胸から離れた顔を見ると――彼は鼻血を出していた。
歩道の隅に移動し、彼をベンチに座らせる。このままにしておくわけにもいかないから、とハンカチを差し出すと、少し悩んだものの受け取ってくれた。
「ごめんなさい! わたしのせいであなたが後頭部を打ったから……」
ハンカチで鼻を圧迫する彼を前に、わたしは平謝りをした。
しかし彼は気にするな、とハンドジェスチャーで示す。
「俺の方が悪い。ごめん。お嬢さんのニットに血を付けちゃって……ハンカチとあわせて弁償させて」
「いえ、このくらい大丈夫です。暗色だからそんなに目立たないし、どうせもうホテルに戻るつもりだったし」
これは本当だ。
血がついたとは言っても数滴だったし、タクシーを使えば誰かに見られることもない。
「だったら尚更だ。俺も今タクシーを拾おうとしていたところだったから、ついでに着替えを買いに行こう。その後、ホテルまで送るから」
「とんでもないです、そんなにお世話になれません!」
わたしが断る姿勢を崩さずにいると、彼は困ったように笑った。
「そこをなんとか、お世話させてよ。まさかこんな非常事態でも触れたら即発動するとは思ってなくて……だから、弁償させて」
「……即発動?」
「ううん、こっちの話。だからね、ほら。鼻血も止まったし」
幸いにも、鼻血はすぐに止まったみたいだ。
最後に一拭きしたハンカチをポケットに押し込み、彼は手を差し伸べ、「さあ行こう」と笑顔でわたしの同意を求める。
わたしは悩んだ。彼を悪い人とは思わないけれど、甘えすぎたくなかった。
そもそもの発端が、わたしの不運によるものだ。そこに彼を巻き込んだようなものなのだから、当然だ。
加えて明らかに仕事中といった出立ちの彼を見れば、わたしのために時間を割かせるのも申し訳なくなるというものだ。
一歩二歩、あとずさりをする。失礼に思われないよう少しずつ、彼から離れる算段だ。
「いえ、だめです。初対面の方にそこまで甘えるわけにはいきません。だからここで失礼しますね。今日はありがとうございました! 本当に助かりまし、たぁっ!?」
が、歩道に敷き詰められたレンガとレンガの隙間にブーツのヒールを引っ掛けてしまい、わたしは盛大にすっ転んだ。この年になっての尻餅は、かなりの衝撃と痛みを伴う。
(本当にここ、パワースポットなの!? 次から次へと……不運すぎるっ)
「痛ぁ……――」
幸いにも誰かにぶつかることはなかった。ところが痛みに顔を引き攣(つ)らせつつ自分の姿を確認し、戦慄(せんりつ)した。
「え、えむじ……ッ」
尻を地面につけ、膝を立てたまま両脚を左右に大きく開き――つまりわたしはM字開脚をしていたのだ。
ロング丈のチュールスカートは捲(めく)れ上がり、下半身は丸出し、下着もモロ出し。まるで彼に向けてセックスアピールをしているかのごとく、下品極まりないポーズだった。
慌てて足を閉じてスカートを直し、顔を上げる。彼と目が合った。
わたしは確信した。これは確実に見られた、と。
「お、お、お、お見苦しいものを……すみません……」
「いや、こっちこそごめん……」
猛烈に恥ずかしかった。
もはや服の弁償をするしないで押し問答をしている場合ではなかった。一刻も早く、彼に認識されない存在になりたかった。そして忘れ去られたかった。
(ある意味、彼と初対面で良かった。ここでさよならしたら、きっともう会うことはないもんね!)
俯(うつむ)き、彼の表情の一切を見ないようにして立ち上がろうとした。
ところが……。
「うそ……ヒールが折れてる……」
わたしは新たなトラブルを発見する。
旅行にすら履いてくるほどお気に入りのショートブーツのヒールが、根本から折れていたのだ。
学生時代から愛用してきたブーツだった。脚が綺麗に見える高さで、なおかつ歩きやすいというわたしにとって完璧な代物だったのに、こんなに突然別れがやってくるなんて思いもしなかった。
(最悪……辛すぎる……全然いいことがない。開運なんてわたしには程遠すぎる。泣きそう……)
前向きな気持ちがごっそり削(そ)がれ、悲しみが襲ってきた。
目にはみるみる涙が溜まる。年甲斐(としがい)もなく往来で泣くことへのみっともなさと、「これだけ辛いんだから、少しはストレス発散してもいいじゃん」という自分を肯定したい気持ちが胸の中で拮抗(きっこう)している。
「……お嬢さん、こういう時こそ俺に甘えて? 新しい服と新しい靴……買いに行こうよ」
唇を噛み締め泣きそうなのを耐えていると、彼がまた手を差し伸べてくれた。
「でも、パンツ見られたし」
「正直、見ました。ごめんなさい。でもそのショックも吹き飛ぶくらい、気分がぶち上がるやつ買おう。俺のこと財布だと思っていいからさ!」
彼が優しそうに微笑(ほほえ)んでいる。顔整いの微笑みだ、さぞかし輝いていることだろう。けれど涙で視界が歪(ゆが)んでいるわたしには、その様子がよくわからない。
(いいの? 本当に? さすがに財布とまでは思わないけど……甘えても、いいの?)
この状況で「結構です」と突っぱねられるほど、わたしは豪気な性格ではなかった。
「……ありがとう、ございます。それじゃ……お願いします」
悩んだ末に彼の手を取り、わたしは頭をぺこりと下げた。
この続きは「ラッキースケベ体質の御曹司にガチ惚れされた結果」でお楽しみください♪










