書籍詳細
私の完璧な彼氏さん
| 定価 | 1,320円(税込) |
|---|---|
| 発売日 | 2025/11/28 |
内容紹介
立ち読み
第一章 二人の距離感
「氷室(ひむろ)課長、どうぞ」
ワイングラスをテーブルに差し出すすんなりとした手がほんのりと赤く色づいていることに気がついて、氷室鷹(たか)瑛(あき)は思わず手を伸ばした。触れようとした指先はすんでのところでするりと逃げてしまい、鷹瑛はその主に視線を向ける。
オーダーした赤ワインをウェイターから受け取り、目の前まで届けてくれた英(はなぶさ)雪(ゆき)乃(の)は、これで用は済んだとばかりにもうよそへ意識を移している。
その瞳が不自然に泳ぐのを目ざとく見つけた鷹瑛は、またかと密かに嘆息する。彼女との間に置かれるあからさまな距離に勘づいたのはいつ頃だっただろうか。
優雅にワイングラスを傾けながら、鷹瑛の思考は別のところを漂う。
社内の忘年会の二次会にと流れてきたダイニングバーは、上質なワインを手頃な値段で提供しており、知る人ぞ知る名店だ。しかし、今はそれを純粋に楽しめるような気分ではなかった。
常になくもの憂げな空気を醸す鷹瑛の様子に、周囲に座す女性の同僚たちからは、ちらちらと熱のこもった視線が投げかけられる。
三十ともなれば、己が異性からどのように見られているかくらい当然のごとく自覚している。どうやら自分の造作は、女性の目にとても魅力的に映るらしい。涼しげだとか形容される容貌は、不細工だとまでは思わない。しかし正直なところ、どのあたりに胸を高鳴らせる要素があるのかよく分からなかった。
外面を飾り立てることに、鷹瑛はさほど関心がない。それはもしかすると、これまで容姿で困るような経験をしたことがないせいかもしれない。
無論、それなりの知名度を誇る大企業の課長職に就く者として必要な身だしなみは怠りなく整えている。だが、それだけだ。
何事も合理的であることをよしとし、おしゃれが趣味というわけでもないのだから、それ以上の部分に労力を割くつもりは毛の先ほどもない。それでいて自分の容姿が人に好感をいだかせるものであるならば、そこは最大限に利用させてもらう――それが鷹瑛のスタンスである。
とはいうものの、その容姿が招いたこの現状は、あまり歓迎できるものではなかった。現在の鷹瑛にはステディな相手がきちんといる。しかもその当人たる雪乃がこの場に同席しているわけだから、女性からのそういった視線は煩わしいものでしかない。
ただでさえ、雪乃との間には今、気まずい空気が流れているのだ。余計な不安要素は極力増やさずにいたい。
ちらほらと送られる秋波を意識の外に締め出すと、グラスに残った液体をひと息に飲み干した。ワインの芳しい香りと、ほのかな酒気が心地よく喉から立ちのぼる。
たまには酒の力を借りて苦い思いを押し流すのもいいかもしれない。
「同じものを」
ちょうどそばを通りかかったウェイターにワインの追加を頼む。
「かしこまりました」
空になったグラスを下げてカウンターの向こうに戻るウェイター。それと入れ替わるようにして、鷹瑛の前に別の影が差した。
「麗しの課長様はご機嫌ナナメかな……もうやめておいたら? ワインは苦手じゃなかったっけ?」
「十(と)波(なみ)」
鷹瑛が発する無言の圧力のせいか隣の席はぽっかりと空いている。そこに十波勇(ゆう)哉(や)は、断りもなくずいっと身を滑り込ませてきた。
入社以来の同期である彼はその飄々とした人柄もあって、鷹瑛のプライベートにずけずけと踏み込んでくる稀有な存在だ。こちらもそれなりの信頼を彼に置いているのは認めるところなので、二人の間柄は友人と言えば言えなくもない。
そこを素直に友人と断言しないのはなにも、人との間に距離を置きがちな鷹瑛の性格のみが原因ではなかった。十波もまた、気まぐれな猫よろしく、人に寄り添ったかと思えば離れる自由な性質の持ち主なので、友人という言葉で一括りにするのはなかなかに難しい。
そういう意味では、つかず離れずの距離をよしとする二人の相性は悪くはないのだろうと分析している。
「氷室くん、ワイン今ので何杯目? 結構飲んでなかった?」
首をかしげて上目遣いに「大丈夫?」と十波は茶目っ気たっぷりに顔を覗き込んでくる。人懐っこい仕草は気分がよい証拠だ。彼もまたほどよく酒が回っているらしい。
鷹瑛は心を読まれるのを拒むように顔を背けた。
「大丈夫だ。外で飲んでるときに、酔いつぶれたりなんかしない」
「そうだろうけどね……」
曖昧に言葉尻を濁した十波は、手近な皿に盛られたナッツの中からアーモンドを一つ拾い上げた。なにか思うところでもあるのか、それを口に運ぶでもなく指の間で転がす。
「なにか言いたいことでもあるのか」
痺れを切らして問いかければ、十波の視線がほんの一瞬別のところに投げかけられた。すぐさま戻ってきたその視線が瞬間的に向けられていたほうを確認して、鷹瑛はうめいた。
十波が見ていたのは雪乃だ。
彼女との交際は、社内の誰にも知らせてはいなかった。特に示し合わせたわけではない。ただ鷹瑛が業務に影響したら面倒だと思って黙っていたのを、雪乃も勝手にそれにならったのだ。
彼女のそういう無言で空気を読むところを鷹瑛は気に入っている。その一方で、もどかしくもあった。空気を読んでもらえるのは、楽には違いない。だが黙って従われるばかりでは、その胸の内でなにを考えているのかさっぱり分からない。
控えめで、他者のサポートに徹し、仕事を円滑にする点は雪乃の美点ではあるが、恋人としては欠点でもあった。
彼女の秘めたる心を暴きたい――そういった思いが、強引に迫った鷹瑛には少なからずあるのだが、今のところ成果は全くなかった。それどころか、雪乃には距離を置かれる始末である。原因が分からなくては打つ手がなかった。
そういうわけで二人の関係はきわめて微妙な膠着状態にあるのだが、どうやら十波にはバレてしまったらしい。態度には出さないように気を使っていたつもりだが、先ほど雪乃に手を伸ばしてしまったのがまずかったのか。それともそのあと彼女を見つめすぎたせいか。
思い返してみれば、普段ではありえない油断と言えた。その根本をたどってみるに、なるほど自分は酔っているらしい。
「めずらしいよね。氷室くんがそんな無防備に内心を漏らすの。いつもは鉄壁のアルカイックスマイルで一ミリの隙も見せないのに。なにかあった?」
「…………」
なにもない、と答えかけた口を無駄だと思い直して閉ざした。
常ならば、酒の席であっても隙なく自己を律している鷹瑛が、ほんの少しであっても油断を覗かせる程度には酒量を誤ったのだ。酒に逃れざるを得ないようななにかがあったことは隠しようもない。
そうはいっても、そのなにかを包み隠さず申告する気はさらさらなかった。十波に聞かせたところで問題が解決するわけでもない。彼の好奇心を満たすためだけのネタを提供するのはごめんこうむる。
そうして鷹瑛が黙秘を決め込んでいると、十波はつまらなそうに唇を尖らせた。
「ふーん、そういう態度なんだ。でもいいのかなあ? 今日は雪乃ちゃんもここにいるんだけど」
「お前」
まさかここで雪乃を持ち出されると思わなかった鷹瑛は目を剥く。だが、十波は止める間もなく、大テーブルの反対側にいる雪乃に向かって声を上げた。
「雪乃ちゃーん、ちょっとこっち来てー」
突然声をかけられた雪乃は、こちらを振り向いて目を瞬かせている。それでも、十波がおいでおいでと身振りで呼ぶと、素直に二人のもとへやってきた。
「十波さん、なにか私にご用ですか?」
鷹瑛はともかく、ほとんど接点のない十波からお呼びがかかったというのが不思議でならないのだろう、きょとんと首をかしげている。
十波は含みのある流し目を鷹瑛に投げかけてから、椅子の背もたれに手をかけ、背後に立つ雪乃にぐっと顔を寄せた。
「うん。それがさあ――」
「十波」
端的に名前を呼んで、余計なことは言うなと目で圧する。
場の空気を読むのに長けた彼なら、まさか他人の耳目があるこのような場で、あからさまにプライベートを踏みあらすような真似はしないだろう。その程度には人柄を信頼している。
だが、彼にとっては、きわめて婉曲な形で雪乃に探りを入れたり、もしくはあらぬことを吹き込んだりすることなど朝飯前だ。営業職は天職とも言えるほどに口先巧みなのである。素直で含むところのない気性の女性を手玉にとるなどたやすいに違いない。
雪乃のために――そしてもちろん鷹瑛自身のためにも、彼らの接触は断っておくに越したことはない。
「なんだい、氷室くん。ぼくの恋路を邪魔しないでほしいなあ」
「適当なことを」
「いやいや、雪乃ちゃんっていいなあと思ってたのは本当なんだけど」
「それもどこまで本気なんだか」
ぞんざいに十波をあしらいつつ、鷹瑛は雪乃の表情へ視線を鋭く走らせた。
案の定、分かりやすく瞳を大きくし、含羞を覗かせる彼女を見て、すっと目を細める。性格的に仕方がない反応だと知りつつも、ちりっと胸に焦げ付くものがあるのはいたしかたない。
普段ならば表情一つ変えずに見なかったことにできるそれが、今夜は酔いも手伝ったせいか、鷹瑛の中で静かに青く燃え広がった。
ウェイターがさり気なく置いていったワイングラスを掴んでひと息に飲み干すと、そのまま立ち上がる。
「酔ったみたいなので、このあたりで失礼します」
大きめの声で告げると、同じテーブルについていた同僚たちが振り返った。
「えー、もう帰っちゃうんですかあ」
「もっと氷室課長とお話したいですー」
自分に色目を向けていた女性陣は残念そうに引き留めようとするが、鷹瑛は笑顔でいなした。
「次の機会に」
それがいつになるかは知らないが。とは心中で思うにとどめる。仕事をスムーズに進めたいなら、いらぬことは口にしないのが鉄則だ。
それに今は、彼女たちの相手をするよりも優先すべきことがある。
「お気をつけてお帰りください」
ほかの人の目につきにくいよう背後から囁くような声をかけられて、鷹瑛は口端をわずかに上げる。恋人でありながらどこまでも奥ゆかしい言動は、かえってこちらの関心を引きつけるのだと、彼女は気がついているのだろうか。
あえて身体ごと、周りの人間にもよく見えるように、雪乃に向き直った。
「英さん、大丈夫か? 顔が真っ赤だ。君ももう帰ったほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「ちょうど僕も帰るし、駅まで送る」
「え? あの……」
突然の鷹瑛のもの言いについていけない雪乃は、小さく口を開けてぽかんとしている。
それもそのはず、彼女は人の後ろにひっそりと従うような性質からくるイメージに反して、酒には強い。もとの肌が白いために、酒によって血行がよくなると、赤みがことのほか目立つというだけで、本人はほろ酔いにもなっていないのだ。
そして、それはもちろん、鷹瑛も知るところだ。
だから、顔が赤いから帰ったほうがいいというのは、的外れもはなはだしい発言なのだが――。
「ああ、ほんとだ。雪乃ちゃん、真っ赤だ。もう今夜はやめておいたほうがいいね。氷室くんに送ってもらいなよ」
十波が援護するように、もう飲めないことを強調するものだから、雪乃は眉を下げた。
ここで、「大丈夫です」と二人を振り切ってこの場に残ったりすれば、酒豪の上司に目をつけられて、「英くん、実はなかなかいけるクチだねえ」などと絡まれかねない。
直属の上司と先輩の間でうんともすんとも言えずに黙ってしまった雪乃に、鷹瑛がダメ押しをする。
「英さん。待ってるから、荷物をとってきてくれ」
「…………はい」
どこか腑に落ちないものを抱えつつも、彼女は反論することなくバッグと上着をとりにいく。
「職場で信頼があると、送り狼を勘ぐられなくていいねえ」
隣だけに聞こえる小声でぼやいた十波を、鷹瑛は鼻で笑った。
「実際、無事に送り届けるからな。――部屋までは」
部屋に着いたあとはどうするのか。わざとらしくぼかしたまま、バッグを手にした雪乃が戻ってきたため会話は立ち消える。
「お待たせしました、氷室課長」
「行こうか」
そうして二人そろって暇を告げる。
近づきすぎず、同僚として適度な距離を保った二人の関係を邪推する者は、十波を除いて誰もいない。周囲の目を欺いている自分の振る舞いがいかに完璧であるかを確認して、鷹瑛は鉄壁の微笑みをわずかに深めた。
二人の帰宅する方向は真逆であるが、鷹瑛は当然のごとく雪乃と同じ電車に乗り、同じ駅で降りた。そんな恋人に対して雪乃は始終無言だ。彼女が借りている単身者用アパートのドアの前に立ってみても、二人の間に会話はない。
合い鍵を渡されていない鷹瑛が視線を向けると、雪乃はこちらをちらりとも見ようとせずに、バッグの中から鍵を取り出してドアを開けた。
「……どうぞ」
目を伏せたままではあるが玄関に迎え入れられて、どうやら無視するつもりはなかったらしいと小さなことに安堵する。
歓迎はしないが拒絶するほどではないといったところか。
自己主張をしない彼女の振る舞いの一つ一つから、その間に置かれる距離を慎重に推し図ろうとした。
「邪魔するぞ」
表面上は余裕の態度で部屋に踏み込んだ鷹瑛は、照明に照らし出された室内を見てため息をついた。
相変わらず、あら探しをするほうが難しいほどに整っている。生活の痕跡が全くないわけではないのだが、その生活感すら作りものめいて見えるくらいに整然としているのだ。家主の徹底した潔癖ぶりが透けて見えるようだ。
リビングをあらためて眺めながら、この部屋のどこでくつろぎ、疲れを癒すのか――癒せるのか――首をかしげてしまう。雪乃の内側に、ある種の窮屈さを見てしまうのは、鷹瑛の気のせいなのだろうか。
神経質なまでになにもかもをきちんとこなそうとする姿は、彼女の心を守る堅牢な鎧のようにすら思える。今までと同じやり方では、おそらくその鎧を脱がすことはできないのだろう。
「コーヒーでも淹れますね」
バッグとコートを置くのもそこそこにキッチンに引っ込もうとする雪乃の手を鷹瑛は素早く握った。
「いいから。こっち」
リビングからドアを一つ隔てた薄暗い寝室に引き込んで、その肢体に腕を回す。
「っ……氷室課長……?」
小さな手が脇腹をさまよって、抱きしめた身体は戸惑いに緊張していた。
頬に手を添えて顔を合わせると、困惑した視線が鷹瑛を見返す。清楚に整った顔が弱気に眉を下げているのが可愛くて、思わず唇を触れ合わせた。目立った抵抗はない。それをいいことにもっとと求めてしまう。
何度も角度を変えて唇を重ね合わせているうちに、舌でもその柔らかさを堪能したくなり、唇の合わせ目を強めになぞる。すると、雪乃は戸惑いつつも小さな隙間を開いてくれて、鷹瑛の舌は温かな口内に迎え入れられた。
舌先を尖らせて滑らかな上顎の感触を楽しんでいると、彼女の身体が小さく震える。こらえたように漏らす息など、控えめな反応が愛おしい。
口の中をひとしきり愛撫してから、唇を解放した。
代わりに、性的なものを感じさせるように腰を撫で回す。
「氷室課長……」
彼女が逃れようと身をよじる。
鷹瑛は口元だけで微笑んで、その動きをやすやすと封じ、華奢な身体をベッドに横たえた。
熱のこもった眼差しで見つめながら、強張った頬を優しく撫でると、心もとなさげに揺れる瞳がこちらを見上げた。組み敷いた身体は緊張に硬くなっている。
「あの……」
どうして急にこんなことを? そんなふうに問うような視線は、決してこの先の行為を受け入れてはいない。
普段の鷹瑛ならここでやめるだろう。少しじゃれただけだと、何事もなかったように離れる。けれども、押しきれば受け入れてくれるだろうとも確信していた。
「雪乃……」
「え? ――っ、課ちょぅ…………ふ、ぁん……」
彼女の意向を無視してその首すじを吸い上げると、小さな驚きの声が漏れる。
次いで、愛らしい声。
これまでお行儀のよい恋人として振る舞ってきたが、今夜そのつもりはない。雪乃への不満や十波に対する嫉妬、それから酔い。あらゆるものが鷹瑛を性急な行為に駆り立てていた。
――雪乃を知りたい。より深くまで受け入れられたい。
その欲求が鷹瑛を突き動かす。
彼女の弱点である耳に向かって唇をゆっくりはわせると、色っぽいため息がこぼれた。
「……雪乃」
吐息交じりに名前を耳に吹き込みながら、手はブラウスのボタンをはずして下着の内側に入り、じかに乳房を包み込む。
「あ……」
刺激をこらえようと差し出すように反らされた首すじに噛み付き、喉に甘く歯を立てつつ乳首を指先で転がせば、彼女は首を振っていやいやともだえた。
「ふぅ、ん……あ、かちょぅ……」
シーツを掴む小さな手に、丸い爪が食い込んでいる。その手を包んで柔らかくほどき、指先を叱るように撫でた。
そのまま手を滑らせて脇腹にはわせる。インナーをずらしスカートのホックをはずして徐々に下半身に向かって下りていくと、恥じらいからか快感からか雪乃は細い腰をもどかしそうによじった。
「腰、揺れてる」
笑いながら指摘して、鎖骨の綺麗なくぼみに舌をうずめる。
片手は胸の先端をはじき、もう片方の手は平たいお腹を丸く撫でたあと、そろそろと下りて、下着の中に隠された恥丘にたどり着く。柔らかな膨らみの間にある溝に指を差し込んだ瞬間、ぬるりと湿ったものに触れて、鷹瑛は口角を上げた。
「濡れてる……」
「ん、やぁ……」
「実は期待してたのか?」
雪乃は首を横に振って否定するも、秘部はひくひくとうごめいて指先を誘い込もうとしている。まだそれほど触れていないというのに。
――もしや、強引に迫られるシチュエーションが好きなのか?
禁欲的な雪乃のイメージからかけ離れたその発想は鷹瑛の興奮を高めた。
恥ずかしがって表情を隠そうとする腕を掴んでシーツに縫い止める。
「目を逸らすんじゃない。ちゃんと見てろ」
羞恥で目元を赤くした彼女がチクリと鷹瑛をにらむ。その心が無防備に露呈した一瞬を捉えて口を塞いだ。
「ふっ……やん、ん…………」
「目、開けてろ」
お上品に目を閉じて応えようとする彼女を至近距離で観察しながら釘を刺す。
大きな瞳が歪んで涙をにじませた。
視線と舌を絡ませ合いながら、その下では胸と秘部を愛撫する。雪乃の視線が逃げようとするたびに鷹瑛は敏感な突起をひっかいて戒めた。
――強引にされるのが好きなら、望みどおりにしてやる。
余裕のベールを一枚ずつ剥がして本心をさらけ出させればいい。
いつになく強引な気持ちで、恋人を追い詰める淫靡ないたずらに歯止めが利かない。
胸の頂点の周りをソフトタッチでくるくるとくすぐり、硬くなった中心をひっかいたりつねったり強弱をつけていじりまわす。蜜口の周りは丹念に指先でたどり、ときどき浅く差し入れては期待を裏切るようにすっと引く。
重なった唇の間からは雪乃の高まった吐息がたびたび漏れだした。
「ん、も、だめ……で、すっ」
しばし続いた攻防にとうとう音を上げた彼女が口付けを振り切り、ぎゅっと目をつぶって横を向く。鷹瑛の手の下で胸がせわしく上下していた。
「そのわりには感じてるみたいだが」
秘部から引き抜いた指を広げると、透明な糸が引く。それを見せつけるように舐め上げれば、彼女の表情は今にも涙をこぼしそうなほどの羞恥に染まった。その顔に鷹瑛はえも言われぬ高揚を覚える。
自分は嗜虐的な趣味を持ち合わせてはいないはずだった。
――だが、雪乃相手なら、そっちのほうも楽しめるかもしれないな……。
いやならやめてと言えばいいのに、雪乃は口をつぐんで耐えている。そのいじらしさたるや。
ベッドをともにするときはいつも優しく努めていたから気がつかなかったが、彼女は間違いなく男を調子に乗せてしまうタイプだ。
分析しつつ、調子に乗りつつある自分はもちろん棚上げだ。
半端に引っかかっているブラウスやら下着やらを引き抜きながら、その顔を覗き込む。
「雪乃、言え。次はどうしてほしい?」
スカート、タイツと最後の一枚まで丁寧に取り除いて、手はすでに丸い膝にかかっている。けれどそこから先には進まない。
雪乃は両手で顔を覆った。
「も……っ、どうしたんですか? 氷室課長、いつもとちがう……」
その手首を掴んでベッドに押し付ければ、想像どおりに眉を下げて一生懸命にこらえる表情が覗いた。
鷹瑛はわざとらしく眉を上げる。
「どうして、か。それはこっちのセリフじゃないか? 今日だけじゃなくて、最近ずっと。僕のことを微妙に避けているだろう」
「……っ」
「雪乃はなにを考えている?」
右手の中で細い手首が強張る。
「べつに……なにも……」
また、目を逸らす。
仕事のときはきちんと目を合わせるのに、こういう場面でだけ逃げられるのは、鷹瑛に原因があるのだろうか。そうだとしても言ってくれなければ改善のしようがない。
――そもそもこちらの改善なんか、雪乃は望んでいないのかもしれない。
二人の恋人関係は鷹瑛のわがままで成り立っている。雪乃はただ受動的に受け入れただけで、もしかしたらもう別れたいとすら思っているかもしれない。
――このまま、自然消滅を狙っている可能性だってあるんじゃないか――?
いつになく後ろ向きな思考が襲ってきて、酔った頭を振り払った。
そうだとしても黙って見逃してやるつもりはさらさらない。
ネクタイの結び目に指を入れて一気に引き抜くと、ワイシャツのボタンをはずしてくつろげる。
そうして雪乃の白い膝の下に手を差し入れ、ついと持ち上げた。
「――っ! 課長、なにを……!」
太ももをかき分けるようにして広げれば、熱い蜜を溢れさせたあわいが目の前に剥き出しになる。そこへ躊躇なく口付けた。
「あぁっ……ん――っ」
身体を震わせる彼女を歯牙にもかけず、一番感じる部分に容赦なく触れた。包皮を剥いて、尖らせた舌で舐め上げる。続けて唇で挟み、舌で小刻みに揺らした。
「ふっ、んっ、あっ……やぁっ、これだめっ、んっ」
熱心に声をこらえようとするほど、漏れ出る嬌声はより高く甘美に響く。膣口に二本の指を差し入れた鷹瑛は腹側の浅い部分をかきながら、花芽を唇ではんで吸う。
「あっ、だめっ……ひむ、ろ……かちょ……っ……」
とろとろと溢れてくる蜜をすすり、喉を鳴らして飲み下す。胸いっぱいに広がった雪乃の香りに神経が高ぶった。彼女の目を視線で射貫きながら唇を拭ってみせる。
「熱い。雪乃のココ」
「!」
「そろそろもどかしくなってきただろ?」
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