書籍詳細

悪役令嬢の華麗なる逆転人生 転生したからには、絶対ハッピーエンドで終わらせます!
ISBNコード | 978-4-86669-781-9 |
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サイズ | 文庫本 |
ページ数 | 312ページ |
定価 | 880円(税込) |
発売日 | 2025/06/25 |
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内容紹介
誰にも渡さない君は私だけのものだ
本好きのグローリアは、百年前のエルダー王国・公爵令嬢に転生する。歴史書に記された「政略結婚が原因でエルダー王家が滅ぶ」という悲しい歴史を繰り返させないため、フリードリヒ王太子とグローリア自身を遠ざけることに。しかし、なぜかフリードリヒはグローリアの事ばかりかまってきて!? 別のご令嬢に一目惚れする筈では!? 嫉妬の炎と激しい愛撫でグローリアを求めてきて、純潔を散らされる。もしかして、このまま愛されてもいいですか? 王太子×天涯孤独の乙女の転生ラブ!!
人物紹介

グローリア・アッカーマン
病弱な天涯孤独の乙女。百年前の世界のグローリア公爵令嬢に転生する。

フリードリヒ・エルダー
エルダー王国の王太子。歴史書によると、グローリアと愛のない政略結婚をするが…。
立ち読み
序章
「百年前のエルダー王国。
没落した伯爵家の令嬢マリエ・オートゥユは、舞踏会の夜にフリードリヒ王太子とダンスを踊り、一目で互いに恋に落ちる。
だが、フリードリヒ王太子には、国王の決めた、生まれながらの身分も財産も家柄も抜きん出た、グローリア公爵令嬢という婚約者がいた。愛のない政略婚約である。
高慢な公爵令嬢は、二人の恋を妨げようと様々な悪どい妨害をしてくる。また、宮廷の女好きなミカエル公爵が美しいマリエに横恋慕し、手に入れようと迫ってきたりする。
マリエとフリードリヒ王太子は愛を成就しようとするが、二人は数々の試練を乗り越えられなかった。マリエは近隣国の悪どいバルビエ王の手に落ち欲しいままにされた末、強引に妻にされてしまった。
フリードリヒ王太子は絶望のままグローリアと愛のない結婚をし、夫婦仲は冷え切る。王になったフリードリヒは自暴自棄になり、国政をほったらかしにする。王妃グローリアは浪費グセのある享楽的な女となり、国の財政は逼迫し、民は貧困に苦しんだ。
ついに国に革命が起こり、国王一家は国を追放され、やがて王家は滅んでしまうのであった」
「はぁ……お気の毒なフリードリヒ王太子様……」
孤児院の暗い病床のベッドの上で、少女グローリアはため息をつく。
痩せて薄い胸の上には、愛読しているエルダー国歴史書が置かれてあった。
もう何度、繰り返しこの本を読んだことだろう。
グローリアは幼い頃に両親を流行病で亡くし、身寄りがなくて五歳でこの孤児院へやってきた。生まれつき心臓が悪く、十七歳のこの年までほとんどベッドの上で過ごす人生だった。
彼女の唯一の楽しみは、読書だった。
特に、この国の歴史書が大好きで、その中でも、百年前に滅んだ王太子フリードリヒの悲恋にまつわるエルダー王家の逸話に心惹かれている。このくだりだけは、すっかり暗記してしまったほど気に入っている。
悲劇の王太子フリードリヒ。
残された肖像画の中の彼は、豊かな金髪と切れ長の青い目、スラリとした肢体、眉目秀麗な青年だ。なんて素敵なのだろう。グローリアはずっと、フリードリヒ王太子に憧れていた。病弱で恋愛などできる望みもないグローリアにとって、フリードリヒ王太子は心の恋人だった。
もしも自分がマリエだったら、悪どい人たちに負けることなく、絶対にフリードリヒとの愛を貫くだろう。
だから、自分がフリードリヒの婚約者の悪役令嬢のグローリアと同名なのが、ちょっと気にくわない。
もし、来世があるなら絶対、ヒロインのマリエに生まれ変わりたい。
そして、フリードリヒ王太子と必ず幸せになるんだ。
グローリアはずっとそういう幸せな空想に耽っていた。
この頃、ますます心臓が弱っている。
もしかしたら、もう長くないのかもしれない。
楽しいことが何もない哀しい人生だったな、と思う。
グローリアは胸の上で痩せた腕でぎゅっと歴史書を抱きしめた。
うとうとしてくる。
目を閉じて、心の中で神様に祈る。
神様、どうか来世は私を百年前のマリエに生まれ変わらせてください。
そして、憧れのフリードリヒ王太子と愛し合い、幸せな人生を送らせてください。
どうか、どうか、お願いします。
意識がぼんやりしてきた。
なんだか身体がふわふわ宙に浮くような気がする。
グローリアはふっと意識を失ってしまう。
第一章 転生したら悪役令嬢!?
「グローリア、グローリア!」
遠くで誰かが呼んでいる。
聞き覚えのない声だ。
低く少し鼻にかかったとても色っぽい青年の声だ。
「う……ん……」
目をこすりこすり起き上がろうとした。
ふいに軽々と横抱きにされて、身体がふわりと宙に浮いた。
「きゃっ」
誰かに抱き上げられたことなどないので、グローリアは悲鳴を上げてしまう。
「君は突然倒れて、気を失ってしまったんだよ。よかった、何事もないようで」
抱き上げた青年が気遣わしげに顔を覗き込んでくる。
「……!?」
グローリアはまじまじと青年の顔を見た。
年の頃は二十代だろうか、サラサラした金髪に宝石みたいに美しい青い目、知的な額に高い鼻梁、形の良い唇―ぞくりとするほど整った白皙の美貌だ。着ている服は上等そうだが、なんだか古式ゆかしいデザインだ。
だが、この青年にどこかで見覚えがあるような気がする。
「私―」
抱き上げられたまま、きょろきょろと辺りを見回す。
いつもの薄暗い寝室ではない。
眩しいほどの日差しが差し込み、色とりどりの花が咲き乱れた明るい庭園の中だ。
「ここ、どこ?」
グローリアはうろたえる。
青年は困惑したように答えた。
「どこって、エルダー城の屋上庭園じゃないか。君と私は散歩をしていたんだ。君が急に卒倒したので、焦ったよ。今日は少し暑かったから、のぼせてしまったんだね」
グローリアは目をパチパチさせて相手を見つめる。
「あ―あなたは、どなた?」
青年が表情を変えた。
「えっ、私はフリードリヒじゃないか。君の婚約者のフリードリヒ・エルダーだよ。どうしたんだ? 忘れてしまったのか?」
グローリアは愕然として息を呑む。
「フリードリヒ? ―ひょっとして、あなたはフリードリヒ王太子? なの?」
「ひょっとしなくてもフリードリヒだ。ああ、愛しいグローリア、倒れた時に頭でも打ったのだね、すぐに医務室へ連れていく」
フリードリヒはグローリアを抱き直すと、足早に屋上庭園の出口から、階段を駆け下りた。
寝たきりだったグローリアは急激な動きに慣れていない。
「ま、待って、待って、そんなに揺らさないでっ」
思わず声を上げると、フリードリヒはハッとしたように歩みを遅くした。
「ああすまない。君の身体のことが心配で。不注意な点は、何でも言っておくれ。私は君のハキハキしたところが、大好きなんだから」
彼はそう言って、優しい目で見つめてくる。
「……」
グローリアは何が何だかわからず混乱しきっていた。
どうして、百年も前に死んだはずのフリードリヒ王太子がここにいるのだろう。そもそも、なぜグローリアはエルダー城になどいるのだ。
わけがわからない。
きっと深い眠りに落ちて、夢を見ているのだと思った。
そうだ、夢の中で憧れのフリードリヒ王太子と出会っているのだ。
夢だと思うと、少し納得できた。
屋上庭園の階段を降りたあたりに、使用人らしき男女たちが待機していた。
「すぐに医務室の医者たちに伝えろ。グローリアが庭で頭を打って、少し記憶が混乱している。上等のベッドと着替え、飲み物など、早急に手配せよ」
使用人たちが色を変えて、さっと動き出す。侍女の一人がたずねる。
「王太子殿下、担架を用意しましょうか」
「いや、大事な私の婚約者だ。このまま医務室へお運びする」
「御意」
フリードリヒは歩みを進めながら、真摯な表情でグローリアの耳元でささやく。
「心配しないで、愛しい人。すぐにいつもの明るく元気な君に戻るからね」
甘く背骨を撫で上げるようなバリトンの声に、グローリアは心臓がばくばくした。
フリードリヒの腕の感触、呼吸音、体温、そんなものがひどく現実味を帯びて迫ってくる。
こんなくっきり明確な夢を初めて見たと思う。
城内は、いつもくすんだ寝室しか知らないグローリアから見ると、この世のものとも思えないほど豪華で立派なものだった。
アーチ型の高い天井からクリスタルのシャンデリアが幾つも下がり、だだっ広い廊下にはふかふかの毛織の絨毯が敷き詰められ、規則正しく並んだ高窓にはどっしりと重厚な天鵞絨のカーテンがかけられ、あちこちに高級そうな美術品が飾られている。その城内の廊下を進み、医務室らしき部屋に連れて行かれた。
白衣を着た医者たちがぞろりと待ち受けていて、グローリアは奥のベッドに寝かされる。
医者たちが寄ってたかってグローリアを診察する。いつものよぼよぼの町医者ではなく、いかにも有能そうな医者たちばかりだ。
フリードリヒは心配そうに部屋の隅に立っている。
グローリアはこんな大勢の医者に診てもらったことがないので、緊張して目を瞑ってしまった。
熱を測られたり、聴診器を当てられたり、怪我がないか全身をくまなく診察される。
やがて、医者たちは何事かぼそぼそ相談してから、フリードリヒに向かって伝えた。
「王太子殿下、ご令嬢は幸いにもどこにも怪我はなく、体温脈拍も正常でございます。おそらく、暑さで少しぼんやりなさってしまったのでしょう」
「そうか、ああよかった!」
フリードリヒは声を弾ませ、グローリアの寝ているベッドに駆け寄った。
そして、髪を優しく撫でてきた。
「愛しいグローリア、君が無事でよかったよ。君のこの烏の濡れ羽色の髪も、エメラルドのような緑の瞳も、すべて愛おしい」
「え?」
我が耳を疑い、グローリアは思わずガバッと起き上がった。
「おお、もう元気になったか? グローリア」
「ちょ、ちょっと、か、鏡。鏡を見せて」
「鏡か? 私が抱き上げたせいで髪型が崩れたからな、待ちなさい。ここへ鏡を」
フリードリヒが傍にいた侍従に合図し、手鏡を持ってこさせた。
グローリアは引ったくるように手鏡を奪い、覗き込んだ。
「ええっ!? 誰これっ!?」
グローリアの声が裏返った。
そこには、長い黒髪とぱっちりした緑の目、つやつやした薔薇色の頬、艶やかで派手な美貌の女性が映っていた。いつもの地味な栗色の髪に青白く生気のない顔のグローリアではない。
この女性のことはよく知っている。歴史書で何度も読んだし、肖像画も見覚えている。
「こ、これは、グローリア・アッカーマン公爵令嬢じゃないですかっ」
甲高い声を出すと、フリードリヒがぽかんとする。
「そ、そうだ。君はグローリア・アッカーマン公爵令嬢だ。そして、私の許嫁だ」
グローリアは呆然として、思わず自分の頬を抓る。
「いたた……っ」
夢ではないのか。
百年前、フリードリヒ王太子とマリエ伯爵令嬢の恋路を邪魔し、二人を不幸に追い込んだ悪役令嬢。それが、自分だというのか?
「嘘……!」
まだ信じられない。
だが、夢にしてはなにもかもがあまりにも真実味を持っている。
もしかして―。
何かの理由で、グローリアは百年前のエルダー国のグローリア・アッカーマン公爵令嬢に転生してしまったのだろうか?
「嘘、そんな……!」
頭がクラクラした。手鏡を床に取り落としてしまう。
かちゃんとガラスが割れる鋭い音がした。
そして、グローリアは本当に気を失ってしまったのだ。
「グローリアっ」
フリードリヒの声が遠のいていく。
「では、幼馴染の二人を許嫁同士にさせよう」
国王陛下が重々しく宣言する。
グローリアが五歳の頃だ。
王家の血筋に当たるアッカーマン公爵家の一人娘のグローリアは、王家の第二王太子フリードリヒと婚約させられた。
まだ幼かったが、グローリアはその時の胸に迫る熱い喜びをはっきりと覚えている。
二つ年上の幼馴染のフリードリヒが大好きだった。
天使みたいに綺麗で優しくて、ちょっとだけ気が弱いフリードリヒ。
お転婆なグローリアは、フリードリヒと遊ぶ時にはいつも彼を引き回していた。フリードリヒは嬉しそうにグローリアの後からついてきた。
グローリアが七歳の頃だ。
高い樫の木に作られたブランコ。
グローリアは立ち乗りでブランコを大きく漕ぐ。
傍でフリードリヒがハラハラして見ている。
「グローリア、グローリア、落ちてしまうよ、グローリア」
フリードリヒの今にも泣きそうな気遣わしげな表情が可愛くて、グローリアはますます大きくブランコを漕ぐ。
「危ないよ、グローリア、危ないよ」
「平気平気。万が一落ちても、あなたが助けてくださるでしょう? フリードリヒ? あなたは私の婚約者ですもの」
グローリアがからかうように言うと、フリードリヒは綺麗な顔を真っ赤にさせた。そして、真剣にうなずくのだ。
「も、もちろんさ。グローリア。僕は君のことを必ず守るよ」
「うふふっ」
グローリアはその言葉と真摯な表情に胸がドキドキするけれど、わざと余裕のある笑みを浮かべてみせるのだ。
アッカーマン公爵家は由緒正しい軍人の家系で、父のアッカーマン将軍は公明正大な人物だった。そのため彼は子どもたちにも常日頃から厳しくしつけていた。
「正義を貫け。正しい行動をすることを恐れてはいけない」
グローリアも父の教えを守り、いつでも間違っていることには臆せず言葉と態度で正してきた。ただ、そのハキハキした物言いと派手な美貌のせいで、同世代の少女たちからは疎まれ気味だった。あらぬ噂や悪口を言われることも多々あった。
高貴な家柄とひときわ目立つ美貌、思ったことははっきりと口にする歯に衣を着せない態度、その上美男子の第二王太子の許嫁。
年を経ると共に、社交界ではやっかみ半分に、
「高慢令嬢」
と陰であだ名されてしまう。
でもグローリアは平気だった。
嘘やずるいことは大嫌いだ。
自分の信念を曲げたりしない。
それに―大好きなフリードリヒは自分の味方だもの。
グローリアが十二歳になった時だ。
フリードリヒの兄王太子が、流行病に倒れ崩御してしまったのだ。
フリードリヒは突如、次期国王後継者となった。
大事な第一王太子を失った王家の悲しみは深く、特に兄王太子に目をかけていた国王陛下は絶望で伏せってしまったくらいだ。
兄王太子の葬儀の日。
グローリアは父とともに追悼の意を捧げに登城した。
城の大聖堂の祭壇に置かれた兄王太子の棺の前には、憔悴しきった国王夫妻が佇んでいた。引きも切らぬ弔問客が訪れ、兄王太子の死を悼んだ。
「―フリードリヒは、どこ?」
グローリアは周囲を見回す。
フリードリヒの姿はなかった。
グローリアはそっと大聖堂を抜け出た。
もしかしたらと、いつも二人で遊んでいたブランコのある奥庭に向かう。
「あ……」
喪服に身を包んだフリードリヒが、ブランコに腰かけていた。
十四歳のフリードリヒはすらりと背が伸びていたが、まだ頬の辺りがふっくらして少年ぽさを残している。彼はうつむいてぼんやりブランコを揺すっていた。
「フリードリヒ」
グローリアが声をかけると、彼はハッと顔を上げる。目が真っ赤だった。
「グローリア―」
まだ声変わりしない澄んだアルト声で、フリードリヒが名前を呼んだ。
グローリアはフリードリヒに近づく。
「遺族がお葬式を抜けてはいけないわ」
「グローリア」
フリードリヒがせつない顔で見上げてきた。赤い唇がかすかに震えている。
「グローリア、私は怖い」
「怖いって……?」
「私は今まで、第二王太子という立場で安穏に生きてきた。よもや、私が次期国王の地位になるなんて、思いもしなかった」
「フリードリヒ……」
兄王太子はどちらかと言うと武闘派で負けん気の強い人物だった。
一方で、フリードリヒは読書好きで穏やかな争いごとを好まない性格だ。
フリードリヒはすがるような瞳でグローリアを見つめてくる。青い目に涙がうるうる光っている。
「私にはできない。兄上や父上のような国の頂点に立つような人物になる自信がない」
苦渋に満ちたフリードリヒの表情に、グローリアは胸が掻きむしられそうになる。
大丈夫、泣かないで、大丈夫、そう言って抱きしめてあげたい。
フリードリヒは慰めを求めている。
だが、グローリアはキュッと唇を噛み締め、深く息を吸った。
そして、片手を振り上げた。
ぱあん!
小気味好い音を立ててフリードリヒの頬を引っ叩いた。
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