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嘘つき聖女は俺様王子に狩られる寸前です! 口先で結婚回避するはずでしたが!?

月城うさぎ / 著
水野かがり / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2025/04/25

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内容紹介

俺だけを見て、俺だけに甘えろ。
「ひとつずつ君の仮面を剥がすのも一興だな」仕事帰り、ひょんなことから異世界トリップした織奈。そこで出会ったのは目も覚めるような美貌の王子! 何と彼は最も自分と相性のいい『運命の花嫁』を得られる魔法を使い彼女を召喚したという。けれど織奈は25歳、そんな夢物語に乗れる年ではない。何とか穏便に断ろうと、45歳既婚(超若作り設定)と嘘を吐き何かの間違いと言い張るものの、王子――エミールはとってもいい笑顔で、間違いか否か見定めるまで異世界にいるよう要求してきて――。やむなく“異世界から来た聖女”という体で滞在するも、真実を見抜こうとする俺様王子との腹の探り合いで心が休まらない。やがて焦れたエミールは、とんでもない手段で織奈の心と身体に訴えてきて――!?

立ち読み

 プロローグ


 キルシュタイン王国の第二王子、エミール・ヴェンデル・キルシュタインが年季の入った文献を見つけたのは偶然だった。
 王宮にある資料室で、古びた革の背表紙が目に入った。背表紙にはなにも書かれていない。なにかの資料に紛れるようにひっそりと収まっていたそれがなんとなく気になり、軽く目を通す。
 古(いにしえ)の言語で書かれたものだが、読み解くことはできた。いつ、誰がどんな目的で書き記したものかはわからない。
 パラパラと読み終えると、エミールはそれを資料棚に戻すことなく懐にしまった。自然と口角が上がる。
 ――面白いものが手に入った。
 想像もしていなかったものだが、もしも本物なら試す価値がありそうだ。
 エミールはすぐに神殿に向かい、神官長を呼び出した。
「殿下、急にどうされましたか?」
「人払いを。貴殿に話がある」
 盗み聞き防止の魔法をかけた後、エミールは入手した本を神官長に渡した。
「おや、古代語の文献とは珍しい……って、これはまさか」
「ああ、そのまさかだ」
 異界から聖女を呼び出す召喚魔法だ。
 かつてこのキルシュタイン王国でも聖女を召喚したことはあったが、それも三百年以上前のこと。ほとんどおとぎ話の中でしか語られていない。
 そして文献に記載されている魔法陣はただの召喚魔法ではないようだった。そこには術者の身体(からだ)の一部を使えば、最も相性のいい相手……運命の花嫁を呼び出すことができると書かれている。
「身体の一部なら髪でも爪(つめ)でもいいか。いや、血の方が確実か?」
「お待ちください。殿下が試されるつもりですか? 得体のしれない召喚魔法ですよ?」
「ここまで詳細に書かれているんだ。誰かの研究結果ではあるんだろう」
 残念ながら保存状態はあまりよくなかったらしい。表紙に書かれている筆者の名前はインクが掠れてわからない。
 だが本の中身は無事だった。肝心の召喚魔法は最初から最後まで読み解くことができた。
「ええと……確認ですが。殿下は異なる世界から花嫁を召喚したいということで合ってますか?」
「そうだな」
「今まで美しい令嬢たちには見向きもしなかったのに? 一体どういう風の吹き回しですか。てっきり女性が苦手なのだと思っていましたが」
 神官長が訝しむのも無理はない。事実、エミールはこれっぽっちも女性に興味が湧かなかったのだから。
「別に苦手というわけではない。ただ奥ゆかしくて従順で出しゃばらず、自己主張をしない女のどこに魅力があるんだ? よく教育された令嬢なぞつまらんだけだろう。家柄と外見だけが取り柄の女に興味はないだけだ」
「それ、ここだけの話にしておきましょうね……令嬢たちが泣きますよ」
 先日エミールは二十六歳になった。さすがにもう持ち込まれる結婚話も無視できなくなってきた。
 結婚は王族の義務だ。どんなに面倒だと思っても、この年になったら真剣に考えなくてはならない。
 エミールも散々舞踏会や夜会に出席し、多くの令嬢と踊らされた。だが誰ひとりエミールの心を掴んだ者はいない。
 兄である王太子は早々に結婚相手を決めて、今では子供がひとりいる。仲睦まじい夫婦は素直に羨(うらや)ましい。しかしエミールは妥協で結婚などしたくない。
「どうせ結婚するなら気に入った女性がいい。それに、せっかく召喚魔法を知ったんだ。運命の花嫁とやらに会ってみるのも一興じゃないか。本当に相性がいい相手かもしれない」
「ですが、それで呼び出された女性と相性が悪かったらどうするんですか。お相手の人生の責任を取らないといけませんよ?」
 神官長は優しく窘めた。安易な好奇心だけで誰かの人生を変えるべきではない。
「そのときは相手が望むことを叶(かな)えよう。結婚以外の方法で責任を取ってやる」
 当然帰す方法も探しておくつもりだ。一方通行での呼び出しでは双方リスクが高すぎる。
「必要なものはすべて俺が用意しよう。手を貸してくれるな? 神官長殿」
「念のためにお聞きしますが、私に拒否権は」
「あってないようなものだな。花嫁を召喚しないなら、俺は一生独身を貫くだけだ」
 そしてその理由のひとつとして神官長の名前が刻まれるだけ……実にはた迷惑だ。
「はあ……わかりました。殿下が一生独身というのは、誰も納得しないでしょうね」
 エミールの性格は少々難があるが、見た目は美しく聡明で完璧な王子様だ。
 陽の光を浴びてキラキラ輝く金の髪に理知的な海色の瞳。自信に満ちた眼差しと甘い微笑は誰もが見惚(みほ)れてしまいそう。
 それほどに麗しい美貌(びぼう)を持つ一方で、第二王子エミールはやると決めたら絶対にやり遂げる男だ。それを知っているだけに、神官長は諦(あきら)めの境地に入った。
「一度だけですよ。もしも失敗したら潔く諦めてくださいね?」
 最低限の約束を交わす。できれば心変わりをしてほしいと言われたが、エミールに聞き入れる気は一切ない。
 準備期間中に運命の女性だと思えるような出会いは訪れず、花嫁召喚の日を迎えたのだった。


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