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聖なる皇帝がとんだ隠れ絶倫だった件

葛城阿高 / 著
長谷川ゆう / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-651-5
サイズ 文庫本
ページ数 320ページ
定価 880円(税込)
発売日 2024/02/26

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内容紹介

絶倫セフレは色んな意味で最強で!?

「お願いします、先っちょだけでもいいんです!!」薬師のミアは、あまりの絶倫ぶりに娼館を出禁目前になり土下座する美丈夫・ザイオンと出会う。けれどミアにとっては思わぬ僥倖。彼女は聖女として瘴気を浄化する代わりに性欲を溜め込んでしまう体質なのだ。正体を偽り彼と一夜をともにしてみると…体の相性は最高&噂に違わぬ超絶倫!純情な彼はミアに心を奪われ求婚してくるが、性急すぎると断りセフレ関係だけ結んでいた。しかしそんなある日皇城で再会した彼は、なんと“聖なる皇帝”で!?

人物紹介

ミア

十年前に日本から異世界トリップしてきた。とある事情から聖女であることを隠している。

ザイオン

ミアのセフレ。実は類稀なる神力を持ち、聖人として知られる、若き皇帝エゼキエルだった!?

立ち読み

   第一章 ミア・ベネトナシュは静かに暮らしたい

   1

「どうかお願いします、先っちょだけでもいいんです!!」
 腹の底から張られた美声。娼館(しょうかん)の玄関ホールで土下座している男。そして、その場面に偶然居合わせてしまったわたし。
(先っちょ……先っちょ? ちょっと待って、…………さ、先っちょ!?)
 わたしは廊下を歩いていた。往診先のこの娼館で診察や検査を終わらせて、女将(おかみ)さんと裏口に向かっている途中だった。
 何言ってんの? と思わず二度見した。ついでに三度見して、とどめに凝視もした。幸いなことに土下座男とは距離があったので、気づかれることなくじっくり観察できた。
 困惑中の小柄な館主の足元で土下座しているのは、ずいぶんと大柄な男だった。無害さをアピールしたいのか頑張って縮こまろうとしているが、元がでかいのでダンゴムシのようにはいかない。もはや岩。でかい岩だ。
「どうか、どうかせめて今晩だけでも! 何もしません、だから、先っちょだけッ!」
(いや絶対無理でしょ。『先っちょだけ』は『行けたら行く』以上に信用しちゃダメな言葉だもん)
 還暦過ぎの館主が床に膝をつき、土下座男を立たせようと広い背中に手を添える。
「申し訳ございませんお客様。先ほどから申し上げているように、どの嬢も出払っておりまして」
「そんなわけないじゃないですか、僕は予約していたんですよ!? ……も、もしかして、出禁? 僕は出禁になってしまったのですか!? どうしてこんな急に……なぜですか、僕はそんなに悪いことしました!? 常に清潔を心がけているし、禁止行為をした覚えもないのですが!!」
 土下座男は顔を上げ、館主に縋(すが)りついた。その拍子に、男の頭を隠していたマントのフードがずり落ちる。
 暗色のマントの中から現れたのは、黄金(きん)色(いろ)の鮮やかな頭髪。
 手も足も長い。遠目なので顔の造りまでは判別不能だが、首が太く胸板は厚く、鍛錬を積んだ肉体に思われた。
 声もいい。程よく低くて色っぽい。
 だが残念なのは性欲に愚直すぎるその思考。がっつきすぎ。拗(こじ)らせすぎ。「おうふ」とため息が漏れそうになるほどの不憫(ふびん)さも感じる。
「ミア先生、気にしないでくださいまし。迷惑客が騒いでいるだけですから」
 女将さんから声がかかるまで、わたしは足を止めその土下座男に見入っていた。
(顔はよくわかんないけど、声と体格はかなりのイケメン。娼館なんて利用せずとも恋人くらい簡単に見つかるだろうに。……まあ、婚前交渉がしたいならこういうところに来るしかないけども)
 ふと興味を抱き、女将さんに尋ねてみる。
「あの男性、出禁なんですか?」
 女将さんはまさか質問されるとは思っていなかったのだろう。少々驚きつつも、苦笑しながらわたしにこぼす。
「そうなんですよ、温厚で嬢にも優しいんですが、如何(いかん)せんかなりの絶倫で」
「ぜっ、かなりの……ぜつりん!?」
 聞き返しながら、女将さんを二度見。意図せずわたしの喉が鳴る。
 絶倫。その考えはなかった。
 金銭以上のサービスを要求したり、ガシマン大好きだったり、不潔だったり。出禁になった理由としてそういうのを予想していたから、頭が真っ白になった。
「あのお客、いつも嬢を一晩丸ごと買ってくださるんですけどね、明け方まで腰を振りっぱなしなんだそうです。巨根というだけで嫌がる嬢は多いのに、何度イかせても蘇(よみがえ)る、まるで屍鬼(ゾンビ)みたいな男だと、嬢の間ではすこぶる不評でございまして」
 腰を振りっぱなし。巨根。……ゾンビ。性欲に特化しすぎていやしないか。
 女将さんは語りながら「イヤだイヤだ」と虫を追い払うような仕草をしたけれど、ワケあって性的な単語に過剰反応するようになっていたわたしには、それら全てが福音にしか聞こえなかった。
(やば、最高じゃんか。あの人なら、わたしの荒ぶる性欲をなんとかしてくれるかもしれない……っ!)
 悲しいことにわたしは今、尋常じゃなくムラムラしていた。
 土下座男に感化されたわけじゃない。これはわたしが“この世界”に存在するがゆえのやむにやまれぬ事情によるもので、わたしの意思とは無関係の、生理現象みたいなものだ。
 だがそれは、そのままにしておいては生活に支障が出るほどの強烈な欲求。普段は“薬”で抑えているが、ここ最近仕事にプライベートにと非常に立て込んでいたせいで、薬の在庫を切らしていたのだ。
 だから今のわたしは、実はとても無防備な状態。薬なしでは次から次へと湧き上がる欲求に抗(あらが)えず、あんな情けない土下座男にも発情している次第だった。
(先っちょだけ。――うん、わたしも先っちょだけでいいから、とにかく楽になりたい……)
 ときめきを胸に抱きながら、再び彼に目を向ける。
 身長ヨシ、筋肉ヨシ、若いから体力もきっとヨシ。どんな体位を望んでも、喜んでわたしを担いでくれそうな気さえする。
(…………待て。待て待てわたし、落ち着くのよ。娼館通いが趣味の男は、いくらなんでも!)
 館主が土下座男に告げる。
「お客様、大変残念なことですが、当館ではもうお客様のお力にはなれません。これ以上は他のお客様のご迷惑にもなりますから……お帰りいただけますね?」
「どうかそんなことおっしゃらず! ここも出禁になってしまったら、僕はこれからどうやって生きていけばいいんですか!? もう他に、ここら一帯では僕の通える娼館がないんです!!」
 わたしの視線に気づかないほど必死な土下座男は、再びギュッと丸まりながら悲痛な叫びを轟(とどろ)かせた。
(すごい、全然諦めないじゃん)
 複数の娼館を出禁になっている土下座男。暴力的行為はなく女性に優しく接するが、絶倫。絶倫と巨根を持て余したゾンビ……。
 恥も外聞も掻(か)き捨てて館主に土下座している姿を眺めながら、女将さんがぽつりと呟(つぶや)く。
「出禁になるの、ウチが初めてじゃないのかい……よっぽどだね」
 そう、よっぽど。女将さんも館主さんもドン引きしている一方で、わたしだけが胸の高鳴りを抑えられずにいた。
「さ、行きましょうミア先生。先生には関係のないことでございます。どうぞ気になさらず――」
「待って!」
 わたしは女将さんの袖を掴(つか)んだ。
 もうこうなっては自分じゃ止められない。わたしは欲望の容(い)れ物(もの)。欲望に操られるがまま、あり得ない台詞(せりふ)を吐く。
「女将さん。あの人の相手、わたしにさせてください」
「…………はあ?」


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