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捨てられた悪役令嬢、余命一年を謳歌するため逆ハーレム(※奴隷4人)を作る

エロル / 著
KRN / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2023/12/22

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内容紹介

4人の恋人達から溺愛される余生!?
公爵令嬢エルフリーナに告げられた余命は、わずか一年。さらに、それを知った王太子からは呆気なく婚約破棄されてしまう。愛想のなさから悪役令嬢と言われることもあったが、王太子妃になるため必死に生きてきたはずだった。残りの人生くらい好きに生きたい! と願う彼女が思いついたのは、まさかの逆ハーレム!? 誰からも愛されなかったけれど、最後くらい恋人達に溺愛される余生を過ごしてみたい。けれど、そんな自分が残された時間で恋人など作れるはずがない…。それならばと、恋人達をお金で買うけれど…ワイルドな軍人、知的な文官、中性的な可愛さを持つ美男子、さらに異国の王子(?)とタイプの違う4人との予想外な逆ハー生活が始まって!?

立ち読み

第一章 悪役令嬢は、好きに生きると決めました

「このわたくしに、これ以上治癒魔法を使うなと?」
 エルフリーナは、ツンと顎を反らした。
「バカなことをおっしゃらないで」
 刺すような視線を向けると、年老いた王室侍医の体は目に見えて震えた。医療業界の最高峰にいる魔法医師の資格を有する彼が怯えているような気がして、エルフリーナは眉を顰(ひそ)める。
 エルフリーナは、自分が密(ひそ)かに「癒しのいばら姫」という矛盾した異名で呼ばれていることを知っていた。エルフリーナ自身は、なぜそう呼ばれているのか分からない。
 ただ、父親であるアヴェルラーク公爵と同じく、暗めのアッシュブロンドの髪とアイアンブルーの瞳が、見る人によっては冷たい印象を与え、近寄り難さを感じさせるのではないか、そう思っていた。父がそうだからだ。
 いや、もしかすると生まれついての気位の高さや、アヴェルラーク公爵家の家門を背負っているという高い意識が、全方位にマウンティングをしている印象を与えているのかもしれない。それが陰で「悪役令嬢」と揶(や)揄(ゆ)され、敬遠される原因となっているのではないか。
 それでも、治癒魔法の使用を禁止しようとする医師の言葉は看過できず、ついキツい口調になってしまうのだ。
「わたくしは、この力で王太子殿下の婚約者となりましたのよ? 先の共和国戦では前線にも赴き、この治癒の力で兵士らを復活させました。つまりわたくしは、我が国に勝利をもたらす一端を担ったのですわ。あなた……もしかして、わたくしの存在意義を否定しようとなさっているの?」
 王室侍医は、まるで刺されたかのように胸を押さえる。エルフリーナは構わずにグサグサと言葉の矢を放った。
「ええ、そうよね。医師にとって癒しの能力者は言わばライバル。わたくしが王室に入れば、あなたの仕事を奪うことになりますもの」
「いばら姫」や「ブリザード姫」と呼ばれているのは、もしかしたらこの舌(ぜっ)鋒(ぽう)の鋭さのせいかもしれない。エルフリーナは気づいたが、どうしても引き下がるわけにはいかなかった。なぜなら治癒能力は、アヴェルラーク公爵家の誇りだからだ。
「でもそれってどうなのかしら? 卑怯なのではございませんか。わたくしでしたら正々堂々と成果で――」
「そのようなつもりで申し上げているわけではございません」
 王室侍医は、矢継ぎ早な反論の言葉を遮ってきた。そして一瞬の躊躇(ためら)いの後、噛んで含めるようにゆっくり、だが衝撃的な言葉を告げてきたのである。
「いいですか、エルフリーナ様。あなたの命は……もって一年です」
 次の棘(とげ)を放とうと口を開きかけた状態で、エルフリーナは固まった。
「……え?」
 呆然と王室侍医の診断を反(はん)芻(すう)する。
「い、一年?」
「はい、もうご自身の生命を維持する力すら、無くなっておられるのです」
 二の句が継げない、エルフリーナである。
 最近の酷い脱力感は、疲労か貧血だろうと思っていた。ただ、治癒魔法を使った後が、特に酷くなることには気づいていた。それで今日は受診したのである。
「これほどの治癒能力者は、現在はアヴェルラーク公爵令嬢――エルフリーナ様、あなたしかおられません」
 エルフリーナの耳に、王室侍医の言葉が虚(むな)しく響いた。
「そもそも、親から嫡男に受け継がれていく『特殊魔力』自体がたいへん珍しいもので、その力の本質も不明な点が多すぎる。我々医師には……今の研究段階では、どうすることもできないのです」
 エルフリーナが使うことができる治癒魔法こそが、アヴェルラーク公爵家に受け継がれる「特殊魔力」によるものだった。
 魔力診断士や魔法医師らの考察によれば、特殊とされる魔力は他の魔力とは質が異なるという。ところが被検体が少ないため、その研究は遅々として進んでいない。そのことは、エルフリーナも知っていた。
 なぜなら、研究に協力することは、家門の手の内を晒(さら)すことと同義だからだ。
 昔から爵位は、その家門に伝わる魔力量や能力に応じて賦与されてきた。希少な特殊魔力を要する能力者は、高位貴族の血筋に生まれることが多く、その一門はそれを権力維持のために利用してきた。そしてその血を今(こん)日(にち)まで、注意深く受け継いできたのである。
 それゆえに、特殊魔力の血筋にある貴族家門は、その魔力や使用可能な魔法について詳しく解析されることを嫌がる。相手がほぼ高位貴族となると、国の研究機関といえど、情報を寄越すよう強く要請することができず、特殊魔力を解明する資料はほとんど手に入らなかった。
 現在分かっているのは、遺伝する通常の魔力とは違い、特殊魔力は親から子――多くは長男――一人にまるごと譲り渡されるということだけである。
 アヴェルラーク公爵家当主トゥバルト――エルフリーナの父も、ある日突然治癒魔法を使えなくなってしまった。ちょうどエルフリーナが思春期の半ばに差し掛かった頃である。
 父は弟のディーテリヒを呼びつけると、自分の手をナイフで傷つけ「治してみろ」と弟に言った。しかし弟には何もできなかった。
 脇で見ていたエルフリーナはなぜか突然どうすればいいか分かり、その時咄(とっ)嗟(さ)に父の手に触れてしまった。すると、父の傷は瞬く間に塞がったのである。
「古(いにしえ)には、アヴェルラーク公爵家に匹敵する治癒能力の一門もあったと聞きましたが、今はその血はすべて途絶えています。現在残っているのは、すべて子爵以下。軽傷しか治せないレベルの治癒能力者です」
 治癒の力は癒す側が同等、もしくは上回る力を持たなければ治せない、そうでなければ焼け石に水、大海に一滴の水を落とすようなものにしかならない、王室侍医はそう説明した。
「ですから、エルフリーナ様の魔力の枯渇を癒せる者は、いないのです」
 片眼鏡を装着し直し、王室侍医はふぅっ……と深刻そうに息をついた。
「共和国戦の救護活動がお体に強く影響したのでしょう。そもそも人には天命がございます。致命傷を負えば死ぬのは当たり前。天の理を無視してまで、その命を長らえさせるべきではなかった……」
 王室侍医は、哀れみの視線をエルフリーナに向けてきた。
「魔力診断士の見解によれば、おそらく『癒しの力』とは己の生命力を増幅させて、他者に与えるもの。エルフリーナ様は、ご自分の生命維持のための力すら、使ってしまわれたのではないか、とのことです」
 あまりにも唐突すぎる話に、エルフリーナは医師の言葉など理解していなかった。ゆえに上の空で言葉を紡ぐ。
「王太子妃……となるための義務を……遂行したまでですわ」
「お立場上、お断りするのは難しかったかと存じます」
 気遣うように、王室侍医は頷きながら低く囁いた。
 アヴェルラーク公爵家は、癒しの力ありきで拝領した家門で、その力は後継者の能力が少ない今の王家にとって、取り入れたい最たるものであった。
 国王は他にも王太子の婚約者候補の娘たちを集めたが、おそらくそれはアヴェルラーク公爵家以外の家門にも配慮したためだろう。
 エルフリーナ自身、当時は他の候補者を蹴落として婚約者になった気でいたが、今ではあれが出来レースのようなものだったと勘づいていた。国王は初めから、王太子妃をエルフリーナに決めていたに違いない。癒す力は、それほど稀(け)有(う)な能力であった。
 エルフリーナは長いまつ毛を伏せた。
「殿下が……望まれたのです」
 婚約者の期待に満ちた笑顔が、エルフリーナの脳裏に浮かんだ。
(そうよ、ウィルフリード殿下が、望んだことだもの)
 我が国を勝利させるための使命感や義務感より、どちらかというと、王太子の願いを叶えてあげたいという気持ちの方が、エルフリーナには大きかった。
「……っ」
 込み上げてくる吐き気をぐっと堪える。耳鳴りがする。周囲がぐるぐると回っているように思えた。医師の言葉が頭の中で反芻される。
 癒しの能力を女子が継承したのは、アヴェルラーク公爵家始まって以来である。
 能力に目覚めた十五のあの日から、エルフリーナの細い両肩に責任が重くのしかかった。なぜなら、それは本来、弟が引き継ぐはずの特殊魔力だったからだ。
 さらにはそれを知った王家から、すぐに婚約者候補の打診があった。
 王太子妃となり、やがては王妃となる。癒しの能力を王家に取り入れることが、自分の使命だと……。プレッシャーもあったが、その誇らしさに震えたものだ。
「驕(おご)っていた……というの? 自分の力を過信しすぎた結果だと?」
 王室侍医は首を振った。
「高位貴族の皆様は往々にして、魔力を無限だと思われがちです。もちろん他の魔法ならば、魔力が無くなれば復活するまで強制的に使えなくなるだけのこと。命にまで危険は及ばないのですが……」
 魔法が使えなくなるなら、使いすぎるという事態には陥らない。己の生命維持力まで他者に与えてしまう治癒能力とは、根本的に違うのだ。
「エルフリーナ様の力は、女性にしては強大すぎる。周囲も無限だと思っている節がございました」
 瀕死の者を立て続けに治癒しなければ――魔力が回復するための時間さえ置けば、こんなことにはならなかったと、痛々しそうに説明する彼の言葉を、エルフリーナはもう聞いていなかった。
「……わたくし、本当に死ぬの?」
 実感できなかったが、そう言葉にして漏らした途端、医師の診断は現実感を伴って襲いかかってきた。胸の中にどっと暗雲が湧き、垂れ込めた。不安と恐怖という名の、真っ黒な雲である。
 年老いた王室侍医は、項(うな)垂(だ)れて言った。
「はい」
 エルフリーナは、膝の上にきっちりそろえて置いた手をぎゅっと握りしめる。爪が手の平に食い込み、夢ではないことを自分に突きつけた。だがそのおかげで、エルフリーナはやっとその診断を……自分の運命を受け入れていた。
 そうすることしか、今の自分にはできなかったからだ。

「陛下や殿下に、報告しないわけにはまいりません」
 医師の言葉に、エルフリーナの喉が鳴る。
 能力を失い、余命すらいくばくもないエルフリーナは、もう役には立たない。余命一年では今から結婚し懐妊できたとしても、出産の体力があるか怪しい。
 そして婚約者の候補など、他にもたくさんいるのだ。
「残念です」
 医師は申し訳なさそうに、それだけ告げた。



 王室侍医の診断書を秘書官に返しながら、王太子ウィルフリードはあっさり告げた。
「君との婚約を破棄する」
 エルフリーナは淡々としたその口調に怯(ひる)んだ。
 国王は共和国政府と講和条約を結ぶため、国境近くの都市にいる。代わって王の仕事を担う王太子が、多忙であるのは分かるが……。
『エルフリーナ、愛している。君は神が遣わした奇跡の女性だ。君になら、この国を救うことができるだろう?』
 キラキラした笑顔で期待され頼まれれば、野戦病院に赴くことなど苦にはならなかった。
 エルフリーナは婚約者候補となった時から彼を支え、立派な王太子妃となるべく邁(まい)進(しん)してきた。危険でも我が国のためだと、震える膝を叩いて自分を鼓舞した。
 あの時、王太子にとって自分は無くてはならない存在になっていると、思い込んだのだ……。
「以上だ、今までご苦労だった」
 冷たい口調にエルフリーナはハッと我に返る。
 これまでの王太子の態度は、エルフリーナを意のままに利用するための、手管であったのではないかとすら思えてしまう。
 スカートを握りしめ、それでもエルフリーナは表情を変えなかった。足を引いて腰を落とし優雅な一礼をすると、くるりと背を向け立ち去ろうとした。
「待ちたまえ」
 その背中に王太子の声がかけられた。エルフリーナは立ち止まる。
「君は、何も言うことは無いのか。私の婚約者でなくなるのだぞ?」
 無礼かと思いつつ、そのまま振り返らなかった。苛立ちが、エルフリーナの胸に湧き上がる。
 何を言えというのか。縋(すが)りついて、婚約を解消しないでと頼めばいいのだろうか?
「一年では、跡継ぎも生(な)せませんので」
 強(こわ)ばった声で、やっとそれだけ言った。
 シン……と執務室に沈黙が落ちる。
 居心地の悪い間の後、殿下、と秘書官の窘(たしな)めるような囁きが聞こえた。小さなため息の後、王太子の低い声が再び響いた。
「……悪かった。停戦合意に漕ぎ着ければ、君とすぐ結婚できると思っていた。まさか魔力が欠乏するまでになるとは、思わなかったのだ」
 エルフリーナは、声が震えないように気をつけながら――気をつければ気をつけるほど、突き放すようなキツい声色になってしまったが――こう返した。
「ウィルフリード殿下のせいではございません。陛下もご了承くださいました」
 ただし、指揮官となる上級士官の怪我を、死にかけの新兵より優先して治すこと。国王はそう条件をつけ、彼女が救護に当たることを許可したのだ。
 ところが、この王太子から託された願いは違った。
 この国の兵が不死身であると思わせれば、やつらさぞかし驚くと思わないか? と顔を輝かせて提案してきたのだ。
 我が国の兵士を速やかに治癒し、再び前線に送り込めば、共和国軍は動揺し恐怖に戦(おのの)くだろうと。
(今思えば、死にかけの者を救う危険性を、陛下の方は案じられていたのね)
 エルフリーナは、別に王太子に謝ってほしいわけではなかった。こうなったのは、自分の力を過信していたからである。自業自得だった。
(分かっているわ――ただ……)
「もう、退出してもよろしいですか?」
 早くこの部屋から逃れたい。名状し難い感情を抑える。このモヤモヤした気持ちはなんだろう。
 それは奇(く)しくも、王太子の次の言葉で知ることになった。
「可愛げがないな」
 エルフリーナは耳を疑った。
 動揺し、血の気が引くのが分かった。
 可愛げが……ない? 少なくとも、容姿のことは褒めてくれていたはず。「美しく完璧ないばら姫」と呼んでくれていたのだから。
 だが、続いて聞こえた言葉の響きにも、優しさや労(ねぎら)いなど窺(うかが)えなかった。
「笑った顔など、ついぞ見せてくれなかったしな」
 エルフリーナのピンと伸ばした背中はそのままだ。ゆえに王太子には動揺は伝わらなかっただろう。
 王宮に集められた他の候補者たちに侮られぬようにするため、そして家門の威厳を見せつけるため、エルフリーナはあえて笑わず、常にその表情も硬かった。いや……元々笑うのは苦手だった。
 エルフリーナが答えあぐねていると、気まずい雰囲気に耐えかねたのか「ウィルフリード殿下、労いの言葉を……」という秘書官の声。
 王太子の舌打ちが聞こえ、その後でやっと明るい声が続いた。
「次の婚約者のことは心配するな、エルフリーナ。もう君は、跡継ぎのことは憂えずとも良いのだ。安らかに余生を過ごせ」
「ご期待に沿えず、申し訳ございませんでした」
 それだけ言うのが精一杯だった。エルフリーナは王太子を振り返らず、扉に手をかけようとした。
 秘書官が背後から駆けつけ、代わりに開けてくれた。しかし彼はエルフリーナの顔を見て凍りついた。
(見ないで)
 我慢できなかった。涙を。
 ポーカーフェイスを作ることには慣れている。公的な立場にある者は、みっともなく感情をさらけ出すものではない。エルフリーナの父はそう言って、娘を王都に送り出したのだ。
 だから泣いてはいけない。分かってはいたが、涙腺は鍛えられなかった。
 何か言おうとした秘書官は、エルフリーナが睨みつけるとグッと黙った。しかしすぐに姿勢を正し、エルフリーナに自分のハンカチを渡してきた。
(わたくしは、惨(みじ)めではないわ)
 ハンカチを受け取り、礼代わりに軽く頷いてみせたエルフリーナだが、表情は変えなかった。
 謝ってほしいわけではないし、それに労ってほしいわけでも同情してほしいわけでもない。
 微(ほほ)笑(え)みかけてくる王太子と、周囲からの羨(せん)望(ぼう)の視線を思い出す。ズキッと胸が痛んだ。
(そうよ、だってわたくしは功績を残し、王家のお役に立てたのですもの)
 では、なぜ悲しいのだろうか。
 モヤモヤの原因がはっきりした。
(ウィルフリード殿下にとって、わたくしの価値は癒しの能力だけだったと分かったからだわ)
 そしてそれは、エルフリーナ自身も自分に対して抱いている評価そのものであったと、知ったから。
 力を使えなくなって初めて、自分にはそれしかないと気づいたのである。

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