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24時間耐久えっちは無理なので、分割払いでお願いします!

うすいかつら / 著
南国ばなな / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2023/04/28

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内容紹介

二十四時間、俺のものだからね
「可愛いよ。めちゃくちゃ感じさせたい」ホワイト企業に就職できたものの、残業続きの日々を送るあさぎ。一人暗い気持ちで居残る中、飯綱と名乗る男が救世主のように現れて仕事を手伝ってくれる。借りはきっちり精算したいあさぎ。お返しになんでもすると申し出ると、飯綱からは「二十四時間セックス」を提案されて!? そうして始まったお付き合い(仮)の関係。しかし二十四時間えっちがどんなものか、何もわかっていなかったあさぎは——!? 絶倫スパダリ御曹司×コンプレックス持ちの天然OL、借りの完済を目指す、超・耐久甘とろセックスライフ!

立ち読み

「おつかれさまでしたー」
 六時すぎに別チームのチーフが帰って、残りはわたしと課長だけになった。課長もそろそろ帰るかな……と思ったところで、フロアの扉が開いた。
「清瀬さん、おつかれさま」
 入ってきたのは、もちろん飯綱さんだった。この微妙で絶妙なタイミングで現れるとは。
「ちょっと待っていて」
「はい」
 と答えて見送ると、飯綱さんは課長のところに歩いていった。課長は飯綱さんと微妙な表情で話をしている。遠いので声は聞き取れないが、ニコニコ笑顔の飯綱さんに対して、課長はだいぶ戸惑っている気がする……。
 そしてすぐに飯綱さんは戻ってきた。一方課長は、飯綱さんが離れた瞬間から帰り支度を始めた。
 ここで、帰るんですか。信頼されているのか、なんなのか。
「手伝うよ。今日はどれ?」
「あ、これです」
 今日作る資料のデータのフラットファイルを、飯綱さんに見せる。苅沢さんは、この機会に古い統計データを全部わたしに打ち込ませるつもりなのかもしれないという気がしている。
 そんな後ろを、課長がそそくさと鞄を抱えて通り過ぎていった。
「お先にね……」
「おつかれさまです」
「おつかれさまでした……」
 戸惑わせてすみません、課長……。
「さっき、課長と、なんの話をしていたんですか?」
 データの打ち込みをしながら、飯綱さんに話しかける。
「俺がここ最近、清瀬さんを手伝っていることだよ。今日も手伝いに来たって」
 当たり前と言えば、当たり前の話だった。しかし、課長のあの困惑っぷりは、それだけなのだろうか。
 確かに、困惑はするか。飯綱さんが他の残業者を手伝って回っているのでなければ、わたしと飯綱さんの縁は謎だろうし。
 ……あれ? わたしだけ? 他の人のことも手伝っていたりするのかな。でもそれだと、飯綱さんの時間はいくらあっても足りない。
「他の人のお手伝いとかもしているんですか?」
「してないよ。清瀬さんのだけ」
 即座に返ってきた返事に、ちょっとむずむずして恥ずかしくなる。善意か好意かを判断するのは難しい。
 今まで男性に親切にされることはあったけど、胸のせいだなっていう下心センサーが発動して自分から距離を置くようにしてしまっていた。飯綱さんに対してそのセンサーの発動が鈍(にぶ)いのは、やっぱりイケメンだからだろうか。
「……ありがとうございます」
 恥ずかしいけど、お礼は言わないと。
「ううん、君が楽になれたなら、それでいいよ」
「はい。すごく助かりました。いろいろ考える余裕もできたし」
 よし、この流れで、言おう。
「やっぱりわたし、転職しようと思います」
「……そうか、残念だけど、仕方がないね。このままで大丈夫なのかなって、俺も思っていたし」
 飯綱さんは、そう言ってくれると思っていた。わたしの意思を尊重して、強く引き止めはしないだろうと。
「俺がもっと助けてあげられればいいんだけど……こんなことがなかったら、この会社を辞めたくはなかったって言っていただろう?」
「はい」
 その通りだ。でも、会社は悪くなくても、中の人はどうにもならない。ちょっといざこざがあっても我慢できる範囲ならいいが、もう限界だなと思うところまでいってしまった。その許容範囲は人による。わたしは、それがちょっと狭かったのかもしれない。
「でも、辞める前に飯綱さんに恩返しをしていきたいんです」
 市販品のそこいらのお菓子では、もしかすると折詰弁当一つ分の真実の値段に負けるかもしれず、かといって値段のつかない手作りお菓子でどうこうできるほどの腕はない。料理も、自炊はできるけど客をもてなせるほどではなく、お店に連れていこうにも、おそらく折詰弁当の味に負ける……。
 折詰弁当、めちゃくちゃ助かったし美味しかったけど、ここにきてあれが、わたしの前に立ち塞がっているのだ……!
「恩返しって……そんなに気を遣わなくていいのに。そこまで貸し借りを気にすることはないんじゃないか?」
「でも借りっぱなしで辞めるのは嫌なんです。実はわたし、借金が嫌いで」
「借金……」
「はい」
 借金が苦手でローンも組めないという話をする。こんな体になったのは、もちろん姉と義兄のせいだ。さらには実際の借金ほどの抵抗感ではないものの、人に借りを作るのにも精神的な苦痛を感じるようになってしまった。
 どうしても借りを返したいという主張は変な人に思われるかもしれないので、正直に原因も語った。理由が明らかならば、ちょっと変な人くらいですむだろう。すむと思いたい。
「ローンの組めない体かぁ……」
「そうなんです」
 厳(おごそ)かな気持ちで頷いた。
「ローンが組めないと大変じゃないか?」
「辛い時はありますね……」
 この世の中には、クレジットカードを必要とする場面がある。しかしこんな借金嫌いが、クレジットカードを好きなわけがない。就職してから親の勧めでカードは作ったものの、作る時点でもう葛藤(かっとう)があった。
 そして作ったカードは、未使用のままタンスに眠っている。本当にどうにもならなくなるまでは、眠っていてもらうつもりだ……。高い買い物の時には辛いけど、一括で払えない買い物は今のわたしにはまだ早い。
 幸い住居も会社も町中なので、すぐコンビニには行ける。ネット通販などは、コンビニ払いですむ。それに本当に急ぎの時のために、通販サイトに少々ギフト券を事前チャージしてある。事前チャージ式なら、わたしにも抵抗なく使える。
 支払い方法には、いろいろな手段があるのだ。辛いことはあるけれど、抜かりはない。そう思っていたのだけれど。
「ちょっと慣れた方がよくないか?」
 なんと。飯綱さんが、こういう方向で説得してくるとは思わなかった。
「えっ……そ、そうですか?」
 動揺してしまった。
「積極的に借金するべきだとは言わないけど、そこまでだと大変じゃないか? 現代で借金をすべて避けるのは、縛りプレイすぎるだろう」
「縛りプレイ……」
 ってなんだっけ……ええと、あれだ。ゲームの実況動画みたいなので、難しい条件をわざとつけて、ゲームをクリアするやつだ。確かに、借金にあまり抵抗のない人には、そういう風に見えるのかもしれない。
 でも、飯綱さんはわたしを馬鹿にして、こんなことを言っているわけではないことはわかる。普通は理解されないことが多いけれど、飯綱さんは真面目に心配してくれているのだ。
「せめてクレジットカードに慣れるとか……分割払いができるようになるとか」
 分割払い。確かにそれができるようになると、だいぶ楽にはなる。たとえばスマホの本体代なんて、そもそも最初から一括で払う前提のプランになってない。いや、でも、しかし。
「す、すぐには……」
 困惑しているのが伝わったのか、飯綱さんもそれ以上押してはこなかった。
「ああ、まあ、無理にとは言わないから……少しずつ、できることとかで」
「すみません……」
「謝らなくていいんだよ。苦手なものは誰しもあるからね。清瀬さんは真面目なんだと思う」
 自分が不真面目だとは思わないが、この借金嫌いは真面目不真面目とは別の問題だと思います。真面目と言うなら、この話に対して真剣にアドバイスをくれる飯綱さんのほうが、よほど真面目かと。
「清瀬さんが辛くならないようにできれば、いいと思うよ。ただ俺も、なにで貸しを返してもらうとかは、すぐには思いつかないな。……どうしてもって言うなら、菓子折りとかでいいけど」
「菓子折りは見合う金額を考え出すと、よくわからなくなってきてしまって」
 値段不明の折詰弁当のせいもあるけれど、飯綱さんには本当に助けられた。ただ手伝ってくれたっていうだけじゃなくて、追い詰められかかっていたわたしの心を救ってくれたのだ。その気持ちがお金に換算できないので、どう返していいかわからない。
 値段じゃないってことなんだけど、気持ちを物に置き換えられなくて困ってしまった。今まで、こんなに難しく考えたことはなかったのに……と、自分でも不思議になる。
「本当にそんなに、真面目に考えなくてもいいと思うんだけどな。今日も呼んでくれて嬉しいよ。もし君が残るのに俺を呼んでくれなかったら、悲しかった。俺が君を助けたいんだと思ってほしい」
 飯綱さんの、お手伝いへの情熱がすごい。
「ありがとうございます。でも……」
 今日なんて自分で呼び出しておいてと思うが、やっぱり借りは、気になるのだ。本当に面倒くさい女で、すみません。飯綱さんがお手伝いに情熱を燃やしてくれていても、借りは借りだ。
「なにかないですか? わたしにできること」
 ちらっと飯綱さんを見たら、飯綱さんもこっちを見ていた。
「……あんまり、そういうことは気軽に言わないほうがいいと思うよ」
「え」
「俺が、君とエッチしたいとか言い出したらどうするの?」
 ええ……。
 そんなことを言う飯綱さんが、心臓を掴まれたような気持ちになるほど色っぽくて、あまりに恥ずかしくなって、ばっと目を逸(そ)らした。
 ……不自然ですみません。でも、あまりに恥ずかしくて、汗が吹き出してくるほどなんで、許してください。
「そ、それは、お付き合いしてからじゃないと駄目です」
 そうだ。結婚だって焦ったら失敗すると、わたしは姉で学習した。そして男性の下心は初対面でも発生するというのは経験上わかっているので、ぐいぐいこられても、本気か、ただの下心のみかを見極める時間が必要だ。
 ……飯綱さんにぐいぐいこられたら、踏みとどまれる女の子はあんまりいないような気がする。そう思ったら、ちょっと落ち着いたかも。わたしが焦ったのは、普通のことだ。
「お付き合いしてからなら、いいの?」
 ぐいぐいこられたら……。
「それは、まあ……」
「じゃあ、君への貸し一つで、どう?」
 ええ……!?
「お試し、お付き合い。すぐにエッチなことしたいとは言わないからさ。お付き合いしなければ始まらないんなら、まずは始めるところから」
 始めなければ始まらない。それはその通りだ。後輩君の時もそうだったけど、ぐいぐいこられてもすぐには応じられない。本気かどうかを考えるのには、時間が必要なのだ。
「お試しって……駄目だったら、やめてもいいんですか?」
「お試しだからね。俺はすごく残念だけど、でもそういうこともあるだろうから。その時は言ってくれればいいよ」
 お試しお付き合いは、考えてみればわたしにとっては都合のいい提案だ。借りも一つ返せて、考える時間も作れて……なんだか都合がよすぎて、飯綱さんが気を遣って言ってくれている気がしなくもないけど。
 とにかく、これで借り一回分返せる、というところに強く惹かれる。
「わ……わかりました!」


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