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極甘な檻で愛されて 〜イケメン御曹司からの束縛愛〜

千石かのん / 著
SHABON / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/12/24

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内容紹介

最高に可愛い、愛している
地味目なOL日向湖春の婚約者はハイスペックでイケメンな取締役の塔埼結哉。結哉とは親の借金が原因で出会い、初めは実の兄妹のように過ごしていたが、いつしか結哉が執着のような愛情を向けてきて、湖春はその手中に落とされてしまう。それから十年、現在でも衰えを知らない結哉の「偏愛」ぶりは家でも会社でも湖春を日々翻弄していく。「大丈夫…最高に可愛い」こんな愛情信じたくないはずなのに結哉に甘やかされた心と身体は反応してしまい——。ハイスペックなイケメン取締役×愛を信じられない意地っ張りOLの執着ラブ! Jパブ大賞銀賞受賞作!!

立ち読み

◇プロローグ


 自分のデスクのあるフロアから、エレベーターで一階に降りてきた日向(ひなた)湖(こ)春(はる)は、暇そうにたたずむ自社の受付嬢の様子に足を止めた。来客が一段落した、正午手前のフロアは静かで、話し声がよく聞こえる。就業中に何を嬉々として話しているのかと、半ば呆れながらも湖春は彼女達の会話になんとなく耳を傾けた。
「ねえ、塔(とう)埼(さき)取締役がいらっしゃるのって何時だったっけ」
 きちんと巻いた髪を結い上げ、上品なメイクとすらりとした体形で背の高い、男性達から高嶺の花と言われている一人が、カウンター内に設置されているカレンダーに目をやる。今日は我が咲(さき)坂(さか)エレベーターを吸収合併し、咲坂社長を陰にひなたに支えつつも実質、会社の実権を握っているイケメン取締役が会社にやって来る日だと、湖春は思い出した。
「十四時にいらっしゃる予定ですけど、早まる可能性があるって秘書課から連絡があったわよ」
 彼女の隣に立つ、すとん、としたストレートボブの女性がそう言うと、後ろにあるパソコンで作業をしていたぽっちゃり目の可愛らしい女性が「え!?」と顔を上げた。
「そうなの!? 大変大変……」
 言いながらいそいそと私物入れからメイクボックスを取り出している。
「あなたじゃ無理よ」
 その様子に、振り返りもせずに、背の高い一人がそっけなく告げた。
 きらりと光る目元と赤く艶やかな唇。ばっちりメイクで自信満々の彼女は、今日こそ、取締役から声を掛けられると確信を抱いているようだ。
 確かに、彼女ならまあ……と湖春は評価を下した。目のある男性なら彼女の容姿に目を奪われるだろう。
 そんな綺麗な形の胸を見せつけるように胸を張る彼女に、ボブヘアーが武装された睫毛をぱちぱちさせた。
「でも先日、塔埼取締役、他の女性とホテルに入っていったと、下々の者が言ってたわよ」
「!?」
 その台詞に、驚いた背の高い女がボブヘアーを振り返る。視線の先で、彼女は澄ましたように両手をお腹の前で合わせて厳かに続けた。
「しかもどちらかといえば可愛らしいタイプの女性を連れておられたそうです」
「聞いてないわよ、何情報!?」
「下々の者、と言いましたわよ、私」
 ふふん、と斜めに見下ろすボブヘアーに、背の高い女は、品のあるメイク台無しの「ぎりぃ」顔をした。遠くから見詰める湖春にもわかるほどの「ぎりぃ」顔だ。
(やれやれ……)
 いつまでこの雑談が続くのだろうかと、湖春は一本に縛った髪に手をやって、そのすべらかさを確かめるように掌を滑らせた。
 湖春はクリアファイルに収められた二枚の書類を持っていた。それをあそこにいる人間に届けるのが使命であるのだが。
(下々の者、ねぇ……)
 彼女達は自分達こそが会社の花であると理解していた。故に、受付嬢という職務以外の人間を時折「下々の者」として分類している。
 まあ、営業職の女性達は女性達で、自分達が一番だと自負しているし、開発部の女性達も同様だ。自分達こそがこの社内の花でそれ以外はモブだと認識している節もある。
 その中で、自分はまず間違いなくモブだと湖春は考えていた。モブである必要がある、とも。
 再び塔埼取締役のスキャンダルに花を咲かせ始める彼女達に、足を止めていた湖春は、これ以上雑談を許していいものだろうかと、のろのろと近づいた。
 これから冬に向かう季節の昼は短く、太陽は力弱い。だが空気も空も透明で、差し込む日差しは透度が高かった。ダイヤモンドのような日差しをきらりと自らの眼鏡に跳ね返しながら、ゆっくりと顔を上げ、湖春は声を掛けようとした。
 その瞬間。
「ホテルってどこなのよ」
 絶賛メイク中のぽっちゃり女が会話に参戦した。ボブヘアーが高級ホテルの名前を上げる。
「それって本命ってことじゃな〜い」
「そうね」
「どこの女よ、それ! あり得ないわ」
 背の高い女の、細い顎が強張っている。奥歯を噛み締める彼女を見詰めながら、ふむ、と湖春は考え込んだ。
 確かにそのホテルで塔埼取締役と咲坂社長、それからどこかの会社の社長との会食があったような気がする。
 そこに取締役がお気に入りの女性を連れて行った……という線はありだろう。
「どっちかっていうと取締役は仕事できる系が好みだと思っていたけど、実際は違うみたいね」
 ボブヘアーがこれみよがしに告げ、背の高い女が、ぴきっとこめかみを引きつらせる。だが、彼女はこれしきで折れるようなやわな女ではなかった。
「まあ、取締役がその女を気に入っているんだとしても、そのゆるふわな女には諦めて貰うわ。取締役に認められるために人知れず努力してる、私のような女が最後は勝つのよ」
「何をしてるっていうのよ」
 化粧を終えたぽっちゃりが素早く二人の横に並んで尋ねる。
 勢い込んで自分の「努力」を語ろうとした彼女はふと、自分達を遠巻きに眺めている湖春の存在に気付いた。
(やば)
 ぼんやり彼女達を眺めていた湖春の背が、びくりと伸びる。途端、背の高い女の眉間に皺が寄り、口の端の片側が釣り上がった。だがそれも一瞬で、彼女はこれ見よがしに憐れむような表情をすると歌い上げるように告げた。
「ま、どっちにしろ、何の努力もせず、フツーの事務職で、お茶淹れしか特技の無い女には見向きもしないでしょうけどね」
 棘のある台詞に彼女達が一斉に振り返った。こちらを眺める湖春の存在を認め、彼女達は一通り湖春の全身に視線を注いだ後、くすくすと忍び笑いを始めた。
 その様子に、湖春はうんざりした。正直「やっちまったな」という感じだ。
(絡まれるのは好きじゃないし、できれば穏便に過ごしたいんだけどなぁ……)
 だが。
 ギアを切り替え、湖春は顔を上げた。太陽光を反射して彼女の眼鏡がきらりと光る。真っ白なレンズが目を隠し、ついでに表情は不気味なほどの無表情。そして仁王立ちしたまま、彼女はゆっくりと三人を見渡した。
 湖春は一度、塔埼取締役に、ほとんどの女子社員がいる前で「お茶を淹れるのが上手だね」と褒められたことがあった。それを彼女達……特に心の底から取締役に声を掛けて貰えると思っている連中は面白く思っていなかった。これは目の前の女子に限らず、他部署のギラギラ系も同じだ。
 事務職の後方が、なにをしゃしゃり出て取締役に褒められてるんだ、下っ端は下っ端で大人しくしてろ、という所なのだろう。
 しかし、湖春はここまで言われて黙っていられるような性格の持ち主ではなかった。
「何よ」
 立ち尽くす湖春に、背の高い女が馬鹿にしたように片眉を上げる。
 その彼女に、湖春は持っていたファイルをぴしっと突き出した。
「ご苦労な、無駄すぎる残業を繰り返す女も見向きもされないでしょうけどね」
 まさか言い返されるとは思っていなかったのか、彼女がぎょっと目を見開く。しん、と冷たい沈黙が落ちた。
 その三秒後。
「はあ? 私がいつ、無駄な残業をしたって言うのよ」
 ヒステリー全開で憤慨する女に、湖春は肩を竦めた。
「先日、取締役がいらっしゃった日と、先週取締役がいらっしゃった日と、先々週取締役がいらっしゃった日と……ていうか、塔埼取締役がいらした日に限って、いつも定時上がりなあなたが十九時半近くまで残られてますよね」
 会議が終わるのを待ってるのでしょうけど、ハッキリ言って人件費の無駄です。
 きっぱりと告げられて、彼女の顔が真っ赤になった。次いで一緒にいた受付嬢二人が目を見張る。
「ちょっと……そんなことしてたの?」
「それは給料泥棒と言われても仕方ないわね」
 半眼で見詰められて、背の高い女がむきになる。
「い、言い掛かりよ! 証拠は!?」
 引っ込みがつかなくなり、鬼の形相で愚かなことを言う女に、湖春はクリアファイルからA4用紙を引き抜いた。
「本日こちらを訪れたのは、最近就業規則に盛り込まれた『ノー残業』の項目に、著しく違反している方がいらっしゃるからです」
 出退勤時にIDカードをタッチする。それで自分達の勤務がきちんと管理されているのは、新人でも知っていることだ。その勤務時間がプリントアウトされたものと、大きく『理由書』と書かれた用紙を差し出し、彼女は淡々と伝えた。
「一か月に残業五回。何故、発生したのか理由を書いて提出してください。そしてこちらは塔埼取締役が推進している案件の一つでもありますので、全て彼の元に送付されます」
 うーわー、という溜息にも似た囁(ささや)きが他の二人から漏れ、ふるふると背の高い女が身体を震わせる。
「──アンタ、ホントにムカつくんだけど」
 鼻の穴を膨らませ、人一人射殺しそうな眼差しでこちらを睨みつける女に、湖春は肩を竦めた。
「無駄な残業を『努力』という人よりはましだと思いますが」
 ぶふ、と一人が吹き出し、顔を真っ赤にした女の視線が同僚に向く。
「な、なによ!? 何か文句あるわけ!?」
「ないけど……」
「ねぇ」
「とにかく」
 彼女達が大喧嘩を始める前に、湖春は釘を刺した。
「その理由書、早急に提出してください。本日塔埼取締役がいらした時にお渡ししますので」
 言って、彼女にくるりと背を向ける。
 全く。こういう勘違い女が増えるから、破壊力のある笑顔を誰彼構わず見せるのは止めて欲しいとそう思うのだ。だが、あの男はそういうことをてんで気にしない。むしろ気にしているのは……。
(考えるの止めよ……)
 すたすたと大股で歩きながら、湖春はうんざりした顔でそう思う。
 そうでなくても、全生活の大部分を「あの男」に占められているのだから。?


◇1


 自分のデスクに戻り、本日提出された領収書と申請書の束の処理を開始しながら、湖春は先程連中が言っていた「取締役が来るのが早まる」という情報を思い出した。
 ちらっと時計を見れば、あと少しでお昼だ。
 高速で書類に目を通しながら、湖春はどうしようかと考える。十中八九、「あの男」は湖春の昼休みを狙って来るつもりなのだろう。
 そう。あの受付嬢やその他、咲坂エレベーターの女性従業員のほとんどが「素敵」と思ってうっとり眺め、その腕に抱かれたい〜なんて春色のおめでたい考えを抱く塔埼取締役は、何を隠そう湖春の「婚約者」だ。
(いや違うな……)
 奥歯を噛み締めながら、湖春は苛立ち交じりに考える。
 婚約者ではない。借金のカタだ。どちらかというと。
 湖春の父親が、塔埼取締役の父親に億の借金をしたことが、全ての始まりであった。


 あれは湖春が中学三年生になる春のことだった。
「夏(なつ)樹(き)、湖春……父さんと母さんはこれから試される大地でパイナップルを作ろうと思う」
 家族四人で普段と変わらぬ夕食を取ったあとに、突然父がこんなことを言い出した。湖春も、兄の夏樹も意味が不明すぎてリアクションを取れず、「え?」という顔をしているうちに、父は興奮したように目をキラキラさせて事業の計画を話し始めた。
 なんでも、「今まで苦労を掛けてきた母の願いでもあった北海道パイナップルを作り出し、北から発信したい」というのである。
 ていうか、母の願いの北海道パイナップルとはなんだ!?
 全く理解できない湖春を他(よ)所(そ)に、八つ年上の夏樹は「事務所はどうするんだよ?」と現実的なことを尋ねた。
「新卒とはいえ、お前は特に優秀だからな。事務所のことは松(まつ)さんに任せてきたから、ゆくゆくはお前が引き継いで欲しい」
 松、というのは父親が経営する設計事務所の副所長で、長年タッグを組んで仕事をしてきた人物だ。その彼にはもう、話はつけてある、とダイニングテーブルでかしこまって告げる父親に、夏樹の顔色がみるみるうちに青ざめた。
 その優秀な兄の動揺に、湖春は事態が笑って見過ごせないことだと気づいた。
「じゃあ、私は? あと一年で卒業なのに北海道に引っ越すの?」
 不安と反抗が過分に滲んだ声で尋ねれば、今度は母親がおっとりした笑顔を見せた。
「それでは湖春が可哀想でしょう? お友達もこっちにいるし。それに、母さん……父さんと、誰も知り合いのいない場所で一から自分達の関係や、二人の愛を見詰め直したいの」
 仕事中心で家族旅行も数えるほどの日向家。その中で、母は何も言わずに「母親業」をこなしていた。だがそれが、何かのきっかけで嫌になったのだと、笑みを浮かべて母が告げる。
 その台詞は、中学生の湖春には衝撃的だった。
 両親は両親で、父親は父親、母親は母親、というのが湖春の世界の全てだった。彼らに個性があり、それぞれの人生があり、自分と同じように夢や希望があるのだとは思っていなかったのだ。
「湖春ももう中学三年生だし。これからは家のこともちゃんとできるわよね? 無理なら通いの家政婦さんでも雇いますから」
「向こうでは伝(つ)手(て)もコネもない。一から己の力を試されるから厳しい暮らしになると思う。だからお前達にはこの家で安全に暮らして欲しい。なにせ熊が出るそうだしな」
 あっはっは。
 こわいですわね、うふふ。
 そんな両親を前に、湖春は震えるほどの怒りと絶望しか感じなかった。
 これは体のいい厄介払いだとそう思ったのだ。一人で生活できるでしょ、無理なら家政婦さんを雇うから、あなた達はここで自らの力で生きなさい、なんて。
 そこまでして……自分達を捨ててまで確かめる、「愛」とは何なのか。二人の間の愛、なるほど。愛し合って結婚する。でも、その愛が消えたら離婚する。その二人の間の物を確かめたいということなのか。
 でも……じゃあ……家族間の愛は? 親子間の愛は?
 そんな湖春の疑問を他所に、両親は歩みを止めることなく北海道へと旅立った。
 嫌だと言っても、兄が「アンタ達の行為はネグレクトだ!」と訴えても、「私達二人が壊れたら、家族も壊れてしまうでしょう」という謎理論を振り回されて、取り合って貰えない。
 更に、事業を始めるお金はどうしたんだよ、と兄が問い詰めた所、父親は、「親友の塔埼に工面して貰った」と事もなげに言った。
 塔埼慎(しん)一(いち)……。彼は大会社をいくつも経営する、やり手のビジネスマンだった。だが、その評価とは真逆に、幼い頃一度会った時にはとても気さくで笑顔が優しそうな人だった。
 その人から、父は億に近い借金をしたのだという。
 あれから十年以上が過ぎたが、億に近い借金が未だ返済されていないのを湖春は知っていた。というか、そんな夢みたいな事業内容で利益が出るなんて湖春には到底思えない。兄も同様だろう。
 だが、それは両親が被った借金であり、ぶっちゃけ湖春や夏樹には関係ない話だった。
 もともと父と親友との口約束で、塔埼慎一は借金を返済して貰う気など全くなかったのである。
 それがおかしな方向に流れたのは、父親が怪し気な事業に億に近い金を「投資」(という名目だった)したことを「信じられない愚行」だと考えた息子の所為である。
 それが湖春の婚約者、塔埼結(ゆう)哉(や)であった。


 デスクの横に置いてある湖春のスマホから「ぽこん」と音がする。
 計算ソフトに金額を打ち込んでいた彼女は、ちらっとだけ画面を見て舌打ちしそうになった。表示名は「結哉くん」だ。
 内容を確認することなく、彼女はひたすらモニターを睨んだ。
 恐らく、本日の予定が書き連ねてあるのだろう。何時に家に行くとかそういう感じの。
(もしかして予定を繰り上げてるのはそのためなのかな……)
 だとしたら振り回される人間が可哀想だとそう思う。
 なにせ彼は、湖春と一緒にいる為だけに、咲坂エレベーターの買収に踏み切り、社長をお飾りに据え(引退を考えていた咲坂社長はそれはそれは喜んだ)我が物顔で湖春が籍を置く会社に出入りするようになったのだ。
 どうしてここまで彼が湖春に執着するようになったのか……もちろん、きっかけは例の借金事件にある。


 中学三年生に進級した湖春の生活はがらりと変わった。なにせ両親が不在な上に、突如経営側に回らざるを得なくなった兄が、社会人一年目から激務になってしまったからだ。
 帰宅し扉を開けても、それまで迎えてくれた母はいない。いつも夕食時にいた兄もいない。朝起きてから夜寝るまで、湖春は一人ぼっちになった。
 慣れない家事に嫌気がさし、光に満ちた朝を迎えるのが苦痛になり、湖春の気落ちは擦り切れて行った。友達が遊んでいるのを横目に、家に帰らなくてはいけない自分が酷く惨めで、湖春は引き籠る一歩手前まで行ってしまった。
 それを助けてくれたのが、何を隠そう塔埼結哉だった。
 彼は日向家が崩壊の危機にあると気づいた塔埼慎一に連れられて、湖春の家にやって来た。慎一は、「自分が保(たもつ)にお金を貸したばっかりにこんなことになるなんて」と絶句したあと、なんでも力になるからと平謝りしてくれた。
 その具体案として、夏樹と同学年で社会人一年目だった結哉が、家庭教師兼、家政夫を申し出てくれたのだ。
 普通に考えて、血の繋がりもない若い男が、ほぼ一人暮らしの少女の元に通ってくるというのは聞いた者の眉間に皺が寄るような事態だろう。だが、社会的地位があって、信頼がある人間の息子である、という部分と、更には中学三年生の女の子が一人で暮らしている方が危険だというもっともな意見から、警護の意味も含めて結哉が日向家に通うことになった。
 湖春自身も、たった一人で何もかもこなすのは限界が来ていたし。
 そもそも優しい笑顔で出迎えてくれた母も、時折旅行に連れて行ってくれた父も、バイト先のケーキ屋からガトーショコラを買って来てくれた兄も居ない。それは酷く心細くて……「なんで」を連呼したくなる状況だった。
 だがそれも結哉の家政夫業のお蔭で解消した。
 こんないいことはない。
 何を疑問に思うというのだ。むしろ彼こそ、その時の湖春にとって歓迎すべき人間だったのだから。
 出会った当初、ぽかんとして見上げる事しかできなかった湖春に、結哉はにっこり笑って手を広げ、「安心して。今日からは俺が、湖春ちゃんを護るから」と告げてくれた。
 そして泣きそうだった彼女をしっかりと抱き締めてくれたのだ。


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