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悪役令嬢の華麗なる逆転人生〜転生したからには、絶対ハッピーエンドで終わらせます!〜

すずね凜 / 著
コトハ / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/11/26

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内容紹介

誰にも渡さない君は私だけのものだ
病弱で本好きだったグローリアは、100年前のエルダー王国・グローリア公爵令嬢として転生してしまう。愛読していた歴史書に記されていた、「政略結婚が原因で王族が滅ぶ」という悲しい歴史を繰り返さないよう、フリードリヒ王太子と転生した自分自身を遠ざけ奔走する。しかし、なぜかフリードリヒはグローリアばかり構ってきて!? 別のご令嬢に一目惚れするんじゃなかったんですか!? 嫉妬の炎を燃やし激しい愛撫でグローリアを求めてきて……。燃えるような快楽を注がれ純潔を散らされるグローリア。もしかして、愛されてもいいですか? 美貌の王太子×転生して愛と健康を享受するグローリアの転生ハッピーラブ!

立ち読み

 序章


「百年前のエルダー王国。
 没落した伯爵家の令嬢マリエ・オートゥユは、舞踏会の夜にフリードリヒ王太子とダンスを踊り、一目で互いに恋に落ちる。
 だが、フリードリヒ王太子には、国王の決めた、生まれながらの身分も財産も家柄も抜きん出た、グローリア公爵令嬢という婚約者がいた。愛のない政略婚約である。
 高慢な公爵令嬢は、二人の恋を妨げようと様々な悪どい妨害をしてくる。また、宮廷の女好きなミカエル公爵が美しいマリエに横恋慕し、手に入れようと迫ってきたりする。
 マリエとフリードリヒ王太子は愛を成就しようとするが、二人は数々の試練を乗り越えられなかった。マリエは近隣国の悪どいバルビエ王の手に落ち欲しいままにされ、強引に妻にされてしまった。
 フリードリヒ王太子は絶望のままグローリアと愛のない結婚をし、夫婦仲は冷え切る。王になったフリードリヒは自暴自棄になり、国政をほったらかしにする。王妃グローリアは浪費グセのある享楽的な女となり、国の財政は逼(ひっ)迫(ぱく)し、民は貧困に苦しんだ。
 ついに国に革命が起こり、国王一家は国を追放され、やがて王家は滅んでしまうのであった」

「はぁ……お気の毒なフリードリヒ王太子様……」
 養護院の暗い病床のベッドの上で、少女グローリアはため息をつく。
 痩せて薄い胸の上には、愛読しているエルダー国歴史書が置かれてあった。
 もう何度、繰り返しこの本を読んだことだろう。
 グローリアは幼い頃に両親を流行病(はやりやまい)で亡くし、身寄りがなくて五歳でこの養護院へやってきた。生まれつき心臓が悪く、十七歳のこの年までほとんどベッドの上で過ごす人生だった。
 彼女の唯一の楽しみは、読書だった。
 特に、この国の歴史書が大好きで、その中でも、百年前に滅んだ王太子フリードリヒの悲恋にまつわるエルダー王家の逸話に心惹かれている。このくだりだけは、すっかり暗記してしまったほど気に入っている。
 悲劇の王太子フリードリヒ。
 残された肖像画の中の彼は、豊かな金髪と切れ長の青い目、スラリとした肢体、眉目秀麗な青年だ。なんて素敵なのだろう。グローリアはずっと、フリードリヒ王太子に憧れていた。病弱で恋愛などできる望みもないグローリアにとって、フリードリヒ王太子は心の恋人だった。
 もしも自分がマリエだったら、悪どい人たちに負けることなく、絶対にフリードリヒとの愛を貫くだろう。
 だから、自分がフリードリヒの婚約者の悪役令嬢のグローリアと同名なのが、ちょっと気にくわない。
 もし、来世があるなら絶対、ヒロインのマリエに生まれ変わりたい。
 そして、フリードリヒ王太子と必ず幸せになるんだ。
 グローリアはずっとそういう幸せな空想に耽(ふけ)っていた。
 この頃、ますます心臓が弱っている。
 もしかしたら、もう長くないのかもしれない。
 楽しいことが何もない哀しい人生だったな、と思う。
 グローリアは胸の上で痩せた腕でぎゅっと歴史書を抱きしめた。
 うとうとしてくる。
 目を閉じて、心の中で神様に祈る。
 神様、どうか来世は私を百年前のマリエに生まれ変わらせてください。
 そして、憧れのフリードリヒ王太子と愛し合い、幸せな人生を送らせてください。
 どうか、どうか、お願いします。
 意識がぼんやりしてきた。
 なんだか身体がふわふわ宙に浮くような気がする。
 グローリアはふっと意識を失ってしまう。


 
 第一章 転生したら悪役令嬢!?


「グローリア、グローリア!」
 遠くで誰かが呼んでいる。
 聞き覚えのない声だ。
 低く少し鼻にかかったとても色っぽい青年の声だ。
「う……ん……」
 目をこすりこすり起き上がろうとした。
 ふいに軽々と横抱きにされて、身体がふわりと宙に浮いた。
「きゃっ」
 誰かに抱き上げられたことなどないので、グローリアは悲鳴を上げてしまう。
「君は突然倒れて、気を失ってしまったんだよ。よかった、何事もないようで」
 抱き上げた青年が気遣わしげに顔を覗(のぞ)き込んでくる。
「!?……」
 グローリアはまじまじと青年の顔を見た。
 年の頃は二十代だろうか、サラサラした金髪に宝石みたいに美しい青い目、知的な額に高い鼻梁(びりょう)、形の良い唇——ぞくりとするほど整った白(はく)皙(せき)の美貌だ。着ている服は上等そうだが、なんだか古式ゆかしいデザインだ。
 だが、この青年にどこかで見覚えがあるような気がする。
「私——」
 抱き上げられたまま、きょろきょろと辺りを見回す。
 いつもの薄暗い寝室ではない。
 眩(まぶ)しいほどの日差しが差し込み、色とりどりの花が咲き乱れた明るい庭園の中だ。
「ここ、どこ?」
 グローリアはうろたえる。
 青年は困惑したように答えた。
「どこって、エルダー城の屋上庭園じゃないか。君と私は散歩をしていたんだ。君が急に卒倒したので、焦ったよ。今日は少し暑かったから、のぼせてしまったんだね」
 グローリアは目をパチパチさせて相手を見つめる。
「あ——あなたは、どなた?」
 青年が表情を変えた。
「えっ、私はフリードリヒじゃないか。君の婚約者のフリードリヒ・エルダーだよ。どうしたんだ? 忘れてしまったのか?」
 グローリアは愕(がく)然(ぜん)として息を呑む。
「フリードリヒ? ——ひょっとして、あなたはフリードリヒ王太子? なの?」
「ひょっとしなくてもフリードリヒだ。ああ、愛しいグローリア、倒れた時に頭でも打ったのだね、すぐに医務室へ連れていく」
 フリードリヒはグローリアを抱き直すと、足早に屋上庭園の出口から、階段を駆け下りた。
 寝たきりだったグローリアは急激な動きに慣れていない。
「ま、待って、待って、そんなに揺らさないでっ」
 思わず声を上げると、フリードリヒはハッとしたように歩みを遅くした。
「ああすまない。君の身体のことが心配で。不注意な点は、何でも言っておくれ。私は君のハキハキしたところが、大好きなんだから」
 彼はそう言って、優しい目で見つめてくる。
「……」
 グローリアは何が何だかわからず混乱しきっていた。
 どうして、百年も前に死んだはずのフリードリヒ王太子がここにいるのだろう。そもそも、なぜグローリアはエルダー城になどいるのだ。
 わけがわからない。
 きっと深い眠りに落ちて、夢を見ているのだと思った。
 そうだ、夢の中で憧れのフリードリヒ王太子と出会っているのだ。
 夢だと思うと、少し納得できた。
 屋上庭園の階段を降りたあたりに、使用人らしき男女たちが待機していた。
「すぐに医務室の医者たちに伝えろ。グローリアが庭で頭を打って、少し記憶が混乱している。上等のベッドと着替え、飲み物など、早急に手配せよ」
 使用人たちが色を変えて、さっと動き出す。侍女の一人がたずねる。
「王太子殿下、担架を用意しましょうか」
「いや、大事な私の婚約者だ。このまま医務室へお運びする」
「御意」
 フリードリヒは歩みを進めながら、真摯な表情でグローリアの耳元でささやく。
「心配しないで、愛しい人。すぐにいつもの明るく元気な君に戻るからね」
 甘く背骨を撫で上げるようなコントラバスの声に、グローリアは心臓がばくばくした。
 フリードリヒの腕の感触、呼吸音、体温、そんなものがひどく現実味を帯びて迫ってくる。
 こんなくっきり明確な夢を初めて見たと思う。
 城内は、いつもくすんだ寝室しか知らないグローリアから見ると、この世のものとも思えないほど豪華で立派なものだった。
 アーチ型の高い天井からクリスタルのシャンデリアが幾つも下がり、だだっ広い廊下にはふかふかの毛織の絨(じゅう)毯(たん)が敷き詰められ、規則正しく並んだ高窓にはどっしりと重厚な天鵞絨(ビロード)のカーテンがかけられ、あちこちに高級そうな美術品が飾られている。その城内の廊下を進み、医務室らしき部屋に連れて行かれた。
 白衣を着た医者たちがぞろりと待ち受けていて、グローリアは奥のベッドに寝かされる。
 医者たちが寄ってたかってグローリアを診察する。いつものよぼよぼの町医者ではなく、いかにも有能そうな医者たちばかりだ。
 フリードリヒは心配そうに部屋の隅に立っている。
 グローリアはこんな大勢の医者に診(み)てもらったことがないので、緊張して目を瞑(つむ)ってしまう。
 熱を測られたり、聴診器を当てられたり、怪我がないか全身をくまなく診察される。
 やがて、医者たちは何事かぼそぼそ相談してから、フリードリヒに向かって伝えた。
「王太子殿下、ご令嬢は幸いにもどこにも怪我はなく、体温脈拍も正常でございます。おそらく、暑さで少しぼんやりなさってしまったのでしょう」
「そうか、ああよかった!」
 フリードリヒは声を弾ませ、グローリアの寝ているベッドに駆け寄った。
 そして、髪を優しく撫でてきた。
「愛しいグローリア、君が無事でよかったよ。君のこの烏の濡(ぬ)れ羽色の髪も、エメラルドのような緑の瞳も、すべて愛おしい」
「え?」
 我が耳を疑い、グローリアは思わずガバッと起き上がった。
「おお、もう元気になったか? グローリア」
「ちょ、ちょっと、か、鏡。鏡を見せて」
「鏡か? 私が抱き上げたせいで髪型が崩れたからな、待ちなさい。ここへ鏡を」
 フリードリヒが傍(そば)にいた侍従に合図し、手鏡を持ってこさせた。
 グローリアは引ったくるように手鏡を奪い、覗き込んだ。
「ええっ!? 誰これっ!?」
 グローリアの声が裏返った。
 そこには、長い黒髪とぱっちりした緑の目、つやつやした薔薇(ばら)色の頬、艶やかで派手な美貌の女性が映っていた。いつもの地味な栗色の髪に青白く生気のない顔のグローリアではない。
 この女性のことはよく知っている。歴史書で何度も読んだし、肖像画も見覚えている。
「こ、これは、グローリア・アッカーマン公爵令嬢じゃないですかっ」
 甲高い声を出すと、フリードリヒがぽかんとする。
「そ、そうだ。君はグローリア・アッカーマン公爵令嬢だ。そして、私の許嫁(いいなずけ)だ」
 グローリアは呆然として、思わず自分の頬を抓(つね)る。
「いたた……っ」
 夢ではないのか。
 百年前、フリードリヒ王太子とマリエ伯爵令嬢の恋路を邪魔し、二人を不幸に追い込んだ悪役令嬢。それが、自分だというのか?
「嘘……!」
 まだ信じられない。
 だが、夢にしてはなにもかもがあまりにも真実味を持っている。
 もしかして——。
 何かの理由で、グローリアは百年前のエルダー国のグローリア・アッカーマン公爵令嬢に転生してしまったのだろうか?
「嘘、そんな……!」
 頭がクラクラした。手鏡を床に取り落としてしまう。
 かちゃんとガラスが割れる鋭い音がした。
 そして、グローリアは本当に気を失ってしまったのだ。


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