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将軍閣下の異世界らぶらぶ婚姻奇譚 下

葛城阿高 / 著
逆月酒乱 / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/09/10

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内容紹介

絶倫スパダリのせいで発情モード!?
「君への愛が溢れて止まらないんだ! 君を妊娠させたくてたまらない……っ!」異世界から全裸で転移してきた将軍閣下・ジークハルトに連れ帰られ、そのまま彼の妻としてらぶらぶ新婚生活を楽しんでいるアラサー女・伊織。彼のお母さまに挨拶するために夫とともに旅立ったはいいものの、突然謎の一団からの襲撃が!? 屈強なジークハルトとその部下たちによって追い払われたはいいものの、その頃から不穏な陰謀の空気が伊織の周りにも現れ始め――。そんな中、伊織は考える。わからないことばかりながらも、彼の妻として今何ができるか。そして事件解決に奮闘しつつも事あるごとに自分を押し倒したがる絶倫旦那様をどういなせばいいのか!? 身も心も相性良すぎるのが最大の悩みな二人の、波乱の新婚ラブストーリー!

立ち読み

   24、 結婚は計画的に

 ジークの故郷ニンギルスへ向かう道中、私たちは襲撃に遭(あ)った。
 金目のものを狙った無差別な犯行かと思いきや、彼らは「異世界人の女」、つまり私を狙っていた。
 速度を上げて振り切ろうとするも、爆発音とともに傾く車体。
 死ぬのか、生きて目的地に辿り着けるのか。外にいる味方は、ジークは。
「大丈夫です! イオリさま、大丈夫。馬車自体が攻撃を受けたわけではございません」
 パニックを起こし、今にも叫び出しそうになっていた私を、ロビンが必死に宥めようとする。
「ゆゆっゆ揺れた! スッゴク揺れたああっ! あいつら、わた、わたしを、異世界っ」
「イオリさま、落ち着いてください」
 デイジーの手を握るくらいじゃ心細さは解消できず、私は全身を使い彼女の体に抱きついた。
 心臓が口から飛び出そうだった。呼吸が荒く浅くなり、息を吸っているはずなのにちっとも楽になる気配がなく、あまりの苦しさに汗びっしょりになった。
「なに!? ねえ、どうなってるの!?」
 窓には濃い緑色のカーテンがかけられ、外の様子は全く見えないし見たくもない。でも、騒がしい音は耳に届く。
 右に回れとか、死にさらせとか、ヒヒーンとか、捕まるくらいならナンタラカンタラとか。魔法があるというのなら、どうして馬車の車体に防音を施しておいてくれなかったのか。
 そして、そんなロックな騒音をBGMにしながら、ロビンが私ににっこりと微笑(ほほえ)む。
「ご安心を。分(ぶ)は最初からこちらにございます。もう少しで旦那さまの領地に入りますので、そこで方がつくでしょう。申し訳ございませんが、それまでご辛抱ください」
「う、うぐ〜!」
 私は唇を噛んだ。そうでもしなければ、嗚咽(おえつ)が漏れてしまいそうだった。

 長距離移動の旅行の場合、途中どこかで休憩を挟むものだ。ところが今回、ニンギルスへの旅程では、一度の休憩すら挟まなかった。
 せめて領内に入れば外の空気を吸えるかと思ったのに、ジークをはじめとする御一行は休むことなく馬を走らせた。
 もしも私が車酔いしやすいタイプだったらどうするつもりだったのだろう。馬車の床に吐けとでも? それとも、ゲロ袋完備?
 私はただ守られる立場で、自ら戦うことも馬を操ることもなかった。にもかかわらず精神的な消耗が半端なかったのは言うまでもない。
「ジ、ジ、ジークううううっ!!」
 馬車から降りてまず私がしたことは、ジークの姿を探すこと。
 見つけるや否や駆けつけて、両手を広げて抱きついた。彼を絞殺するくらいに強く強く抱きしめたいのに、両手が震えて力が入らない。
「ははは、イオ、寂しかったか?」
「なんなのあれ、すっっっごく怖かったよおおお!!」
 ジークの笑い声に殺意を抱いたのは、後にも先にもこの時だけだろう。
 私は恐怖でどうにかなりそうだったというのに、ジークときたら呑気なもので、「おやおや子猫ちゃん、俺と離れ離れなのがそんなに寂しかったのかい?」とでも言いたげな笑顔。しかも実際に笑っている。ちくしょう。 
「あれはない! まじで! 賊が出るかもとは聞いていたけど、あそこまでしっかり巻き込まれるとは聞いてなかった! 事前告知が足りてないよ、寂しいとかじゃない、死ぬかと思ったんだよ!」
「すまない。だが、襲撃を受けることは確定ではなかったし、君をむやみに怖がらせることも避けたかった」
 納得がいかずに睨みつけたジークの顔に、泥がついているのを見つけた。頬と額に、跳ねたような小さな泥の跡が二つ。そこで私はハッとする。
 怖かった。確かに怖かった。
 でも、私は馬車で縮こまっていただけ。
 ジークやペネロペ、それに彼の部下さんたちは、実際に悪漢相手に命を賭(と)して戦ったのだ。きっと私より危険で、下手したら怪我もして、当たり前に怖かったに違いない。
「――ジーク、ごめん」
「……イオ?」
 腕を伸ばし、彼の顔についた汚れを服の袖で拭った。そして、自分のことしか考えていなかった愚かしさを反省する。
「ごめん。先にあなたの心配をすべきだった。……怪我はない? 大丈夫だった?」
「もちろん。……イオ?」
 ジークは悪くない。ちっとも。
「守ってくれて、……ぅ、ありがどう」
「おい? イオ、どうして泣く? どこかぶつけたか?」
 じわじわ溢れる罪悪感。
 自分じゃ何もできないくせに、他人に多くを求めてばかり。己(おのれ)の享受する幸せが、誰のおかげで成り立っているかも考えずに。
「ジークが無事で……よがっだ」
 幼な子だろうと二十八歳のいい年こいた大人だろうと、泣きたい時は等しく泣く。
 私は改めてジークの体を抱きしめた。今度こそ、労りと愛情を精一杯込めて。


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