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亡びゆく国の双子姫

蒼磨奏 / 著
夜咲こん / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/09/10

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内容紹介

貴女を攫いに来た
『双子の王女は不祥である』神託による命の危機を秘密裡に救われ、ひっそりと育てられた妹王女エステル。普段は明るく振舞うも寂しさにふるえる日々を送っていた。美しく成長したエステルは、父王の暴政により崩壊寸前となった国と、困窮する国民を救うため、再会した双子の姉ミレイアと共に隣国の力を借りて再興を図る。そんな中、隣国〝オルトロスの軍神〟アドルファスの逞しい腕と「綺麗だ」囁く情熱的な眼差しに心を奪われて……。決意の夜、純潔を散らされる――。寡黙な軍神×運命にあらがう王女のエターナルラブ!!

立ち読み

 プロローグ


 カタフニア王国で双子の産声が上がったのは、満天の星が瞬(またた)く夜だった。
「お兄様、この子を……エステルを頼みます」
 王妃マルグリッタは、涙ながらに兄のクロフォード公爵に赤子の片割れを差し出した。
「陛下には知られないように、お兄様とエヴァ夫人の手でこの子を育ててください。この子を生き延びさせるためには、それしか方法がありません」
 王妃の寝室にいるのは侍女のゾーイとワイアット将軍、そして王妃の身内であるクロフォード公爵だけだった。
「この子が成長していけば、いずれ王女であることに誰かが気づくでしょう。その前に、お兄様の口からこの子に説明して、この国から逃がすなり、素性を知られないよう身を隠すなり、然るべき対処をしていただきたいのです。どうか、よろしくお願いします」
 クロフォード公爵は毛布に包まれた赤子を見て痛ましげに顔を歪(ゆが)めたが、頭を垂れる。
「お任せください、王妃様。私が責任を持って王女殿下を保護し、お育てしましょう」
「公爵、早くこちらへ。抜け道があります」
 ワイアット将軍に急かされ、クロフォード公爵は赤子を抱えて寝室を出ていく。
 マルグリッタ王妃は両手を組んで祈りを捧げた。
「ああ、エステル……可愛い、私の娘……どうか、息(そく)災(さい)で……」
 エステル。名前すら公表されず、殺されるはずだった可愛い娘。
 生まれたばかりの我が子を手放さなくてはならないのは、身を切るような思いだった。
 しかし、双子を生き延びさせるためには、そうするしかない。
 海神(カタフニア)を祀(まつ)る神殿に、神託が下ったからだ。
 
 ――双子の王女は、不祥の存在。
 ――片割れを殺さなくば、いずれこの国を亡ぼすだろう。

 神託を受けた神官長カリハは老(ろう)獪(かい)で、信心深い先代の王を意のままに操り、カタフニアにおいて権力を握っていた。
 そして先代の王が亡きあと、気の弱い息子――現カタフニア王も陰から操って、生まれたばかりの赤子の片割れを殺すようにとワイアット将軍に命令を下した。
 しかし、聡明なマルグリッタ王妃は、以前から神官長の下す〝神託〟というシステムを疑問視していた。
 それは本当に神のお告げなのか?
 神官長にとって、都合のいい要求をしているだけではないのか?
 そう疑ってしまうような神託が多かったからだ。
 何よりも、マルグリッタ王妃にとって双子の王女は腹を痛めて産んだ子だ。
 赤子の命を取れと言われて納得できるはずがない。
 どんな形であれ、生きていてくれればいい。
 そんな切なる願いを籠めて、最も信頼している兄に娘を託したのだ。
 王の命を受けたワイアット将軍も、神官長が王を傀(かい)儡(らい)のように操っていることを快く思っておらず、まして生まれたばかりの王女を手にかけることはできないと言って、マルグリッタ王妃に協力してくれた。
 赤子の遺(い)骸(がい)は、動物の死体を偽装して王に見せる。
 それで切り抜けてみせると、請け負ってくれたのだ。
 そして不条理な死を回避した王女の片割れは、マルグリッタ王妃の手を離れた。
 マルグリッタ王妃は耳を澄ませて、将軍と兄の足音が聞こえなくなったのを確認すると、肩の力を抜く。
 一気に気が抜けたせいか、目(め)眩(まい)を覚えて倒れかかると、侍女のゾーイが支えてくれる。
「王妃様っ……」
「大丈夫よ、ゾーイ……ちょっと目眩がしただけだから」
 マルグリッタ王妃は心配そうなゾーイに笑いかけると、傍らのゆりかごで眠る、もう一人の王女を腕に抱いた。
 双子の王女――彼女の最愛の娘たち。
 姉のミレイアと、妹のエステル。
「私の大切な娘たち……あなたたちは、離れ離れで生きなくてはならないの……本当に、ごめんなさいね」
 マルグリッタ王妃は眦(まなじり)から溢(あふ)れた涙を拭(ぬぐ)うことなく、しばらく声を殺して泣き続けた。

      ◇◆◇

 薄暗い路地裏は、どぶの臭いがした。
 アドルファスは殴り飛ばしたごろつきを足(あし)蹴(げ)にすると、唇に滲(にじ)んだ血を拭いながら路地を後にする。
 時刻は夜更けで、大通りにも人の姿はまばらだった。
 アドルファスは乱れた黒髪をかき上げる。
 十六歳の彼は身体つきも出来上がっていないのに、喧嘩慣れしていた。
 上質な生地のジャケットは手段を選ばぬ殴り合いのせいで埃だらけになっており、シャツの袖もビリビリに破れていて、一見すると貴族の子息に見えないだろう。
「どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだ……本当に、くだらない」
 誰を殴っても、彼の心が満たされることはない。
 こんな世界はくだらない。
 生きている意味もない。
 投げやりな感情が胸の内で渦巻いていて、はけ口が見当たらなかった。
 アドルファスがふらつく足取りで夜の大通りに出ると、大柄な男が待機していた。
「アドルファス様。もう夜も更けました。屋敷へ戻りましょう」
 男は側仕えの使用人とは名ばかりの、監視役。
 屋敷を抜け出す際には必ずついてきて、アドルファスが裏通りをぶらつき、がらの悪い連中とつるんでいるのを遠巻きに眺めている。
 そして、頃合いを見計らい「屋敷へ戻りましょう」と声をかけてくるのだ。
 アドルファスは返事もせずに大通りを進み、上流階級の者たちが暮らす住宅街へ向かう。
 ひときわ大きな屋敷の門を通り、無遠慮に玄関のドアを開けると執事が出迎えた。
「おかえりなさいませ、アドルファス坊ちゃま」
 執事を無視して階段を上り始めると、義理の父親――ヘルマン侯爵が二階から下りてきた。
「――まったく、ごく潰しめ。これほどの出来損ないだとはな。親族だからと哀れに思って引き取ってやったのが間違いだった」
 侯爵とすれ違ったところで辛(しん)辣(らつ)な呟きが聞こえたが、アドルファスは気に留めなかった。
 両親を亡くしてヘルマン家に引き取られて以来、義理の兄弟には陰湿ないじめを受けて、義父であるヘルマン侯爵にも躾(しつけ)と称して体罰を受けてきた。
 革のベルトで気を失うまで打ち据えられるつらさは、筆(ひつ)舌(ぜつ)に尽くしがたいものがある。
 邪魔者。ごく潰し。出来損ない。
 頭ごなしに罵声を浴びせられて育ってきたアドルファスは、この家の住人たちを家族だと思ったことは一度もない。
 やがて、彼は己の居場所を求めるように夜な夜な屋敷を抜け出すようになった。
 夜の街をうろつくアドルファスに、ヘルマン家の住人たちは近寄らなくなり、彼はますます孤立していった。
 アドルファスは自室に入ると、ドアに背を凭(もた)れてずるずると座りこむ。
「……うるさい、黙れ」
 誰にも届かぬ声量で、彼は絞り出すように悪態をついた。
 傷ついた心の穴は大きくなるばかりで、冷たい隙間風が吹いている。
 孤独と失意の底で育ったアドルファスには、この世の全てが敵に思えてならなかった。

 アドルファス・ヘルマン。
 のちに〝オルトロスの軍神〟と恐れられるようになる彼は、この時まだ、自分の未来に運命的な出会いが待ち受けているとは知る由もなかった。



 星と夜の章


 カタフニア王国、謁(えっ)見(けん)の間には緊迫した空気が流れていた。
 国王オズワルドは跪(ひざまず)いている王女ミレイアを睨(にら)みつけて、しゃがれた声で言った。
「ミレイア。女が政治に口を出すなと、どれだけ言えば分かるのだ。もう下がれ」
「ですが、これはわたくしだけの意見ではございません。これ以上の増税を行なうと国民の生活が困窮してしまいます。どうか、考え直してはいただけないでしょうか」
「黙れっ!」
 今にも殴りかかりそうな勢いの怒声に、謁見の間にいる宰(さい)相(しょう)や側近がビクリと震えた。
 オズワルドは血色の悪い顔を真っ赤にしながら、唾を飛ばす勢いで罵(ののし)る。
「王女の分際で私に意見するなっ! お前の顔を見ているだけで不愉快だ! さっさと私の前から消え失せろ!」
 怒鳴り散らしたオズワルドが、ミレイアから顔を背けた。
 わたくしはまるで毒虫扱いねと、心の中で呟いた王女ミレイアは、これ以上の問答は無駄だと悟って踵(きびす)を返す。
 足早に謁見の間を出たら、侍女のゾーイと王女付きの衛兵が待っていた。
「ミレイア様」
「ゾーイ。やはり、わたくしの進言は聞き入れてもらえなかったわ。部屋へ戻りましょう」
 ミレイアは母の代から仕えてくれている古参の侍女に告げて、ふうと一息ついた。
 側近たちから嘆願を受けて進言したものの、女が政治に口を出すなと一(いっ)蹴(しゅう)されてしまった。
 オズワルドの耳には、もはや誰の言葉も届かないのだ。
「この国は、もう未来がないわね」
 ミレイアは廊下を歩きながらぽつりと呟く。
 国は傾き始めていて、跡継ぎの王子もいない。未来は暗(あん)澹(たん)たるものだった。
 侍女のゾーイと衛兵は、何も聞こえないふりをしていた。


 カタフニアの王、オズワルドは心の弱い人間だった。
 決断力に乏しくて、王の資質に欠けていた彼を陰ながら支えていたのは、妻のマルグリッタ王妃だ。
 しかし、マルグリッタ王妃はミレイアを産んでから数年後、流行病に罹(かか)って崩御した。
 それ以降、オズワルドは精神的に病んだ。
 王妃の喪が明けるまで私室に閉じこもり、ようやく外に出たかと思えば、好き勝手にふるまっていた神官長のカリハを「鬱(うっ)陶(とう)しい」という理由で斬り捨てたのだ。
 それからオズワルドは大事な理性の糸が切れてしまったかのように、国民を顧(かえり)みない圧政を敷き始めた。
 カタフニアは海に浮かぶ海洋国家。
 近海では新鮮な海産物が豊富に採れて、美しいサンゴや真珠といった宝飾品が名産だ。
 それらは貿易において高値で取引されていたが、マルグリッタ王妃が亡くなってから、オズワルドは宝飾品を安値で買い叩いて王室で独占するようになった。
 それと同時に国民たちへの課税を引き上げて、異国との貿易を制限した。
 島国で領土の狭いカタフニアでは国民の多くが海辺の港街に住んでいて、漁業や貿易業を生(なり)業(わい)としている。
 海産物と宝飾品を輸出する代わりに、穀物や果物といった食糧品と生活用品を、最も近いオルトロス帝国から輸入する。
 それがカタフニアの生活の基盤だった。
 しかし、貿易が制限されるようになると、国民は瞬く間に収入源を失った。
 そして税金が支払えなくなった国民を、兵士は容赦(ようしゃ)なく牢に放りこんで、保釈の際は多額の保釈金を要求した。
 暴政をふるうオズワルドは城で贅(ぜい)沢(たく)三(ざん)昧(まい)をしており、軍の兵士は王命を笠に着て怯える国民から金を搾(さく)取(しゅ)していく。
 そんな状況下で国民は苦しみ、困窮していった。
 また、唯一親交があったオルトロス帝国との関係も、オズワルドは一方的に断ち切ってしまった。
 オルトロス帝国と断交してしまったら、カタフニアは孤立してしまう。
 王の愚行に堪りかねた側近や、宰相をはじめとする貴族は次々と反発の声を上げた。
 しかし、そういった者たちは国外へ流(る)刑(けい)にされ、時には見せしめで首を刎(は)ねられたため、皆は王の暴挙を恐れて口を噤(つぐ)むしかなかった。
 病んだカタフニア王に取り入って、新たに宰相の座に就いたノルムッド侯爵は私腹を肥やすことにしか興味がなく、王の打ち出す政策に唯(い)々(い)諾(だく)々(だく)と従った。
 たった一人の王女であるミレイアも、出過ぎた発言をすれば首を刎ねられるだろう。
 かつては平和な島国だったはずのカタフニアは暴君の独裁国家となり、国民の不満は爆発寸前にまで膨れ上がっていた。


 自室に戻ったミレイアは、リビングを突っ切って寝室に入った。
 誰かがベッドに座っていることに気づくと、素早く寝室のドアに鍵をかける。
 ベッドに腰かけてミレイアの帰りを待っていたのは、質素なシャツとスカートを纏(まと)い、ミレイアと瓜二つの容姿を持つ娘――双子の妹エステルだった。
「おかえりなさい、ミレイアお姉様」
「エステル」
 双子の姉妹は相手に駆け寄り、互いの存在を確かめるように頬へ触れた。
「誰にも見つからずに来られた?」
「うん。何度も通っている道だから問題ないわ。城の裏手は人けのない林だから、見つかる心配もないし」
 ミレイアの髪は透き通るような銀色。
 エステルは変装用の黒髪のウィッグを被っているが、その下にはミレイアと同じ美しい銀髪が隠れている。
 紺碧の瞳と、小ぶりな鼻に、ふっくらとした唇。
 繊細で品のある顔立ちをした姉妹はそっくりだが、横に並んでみると少し印象が違う。
 やや吊り目で表情が乏しいのがミレイアで、ぱっちりとした目を持ち、朗らかな笑みを浮かべているのがエステルだ。
 エステルは現在、身分を隠しながら城の外で生活している。
 王女の寝室には有事の際に使用する抜け道があり、城の下水道に繋がっていて敷地の外に出ることができた。
 彼女はその通路を使ってミレイアに会いに来るのだ。
「お姉様。王の反応は、どうだった?」
「わたくしの意見は一蹴されたわ。女は政治に口を出すな、だそうよ。他に口を出せる者が一人もいないから、わたくしが口火を切っただけなのに、まるで毒虫を見るような目で睨みつけられたわ。あの人の耳には、もう誰の言葉も届かない」
「そう……じゃあ、やっぱり実行するしかないのね」
「この国のためを思うのなら、それしかないわ。すでに書状の下書きは用意してあるの。クロフォード公爵に確認してもらってから、公爵名義に書き直してオルトロスの皇帝陛下に宛てて送ってもらうつもりよ。エステルも目を通してみて」
 ミレイアは、鍵のかかった化粧箱にしまっておいた書状を差し出した。
 カタフニアと海を挟んで接している、オルトロス帝国の皇帝に送る予定のものだった。
 エステルが受け取った書状に目を通す。
「国の現状と……帝国の傘下に入り、自治権の確立……王族の処遇は、オルトロスの皇帝陛下に一任するのね」
「ええ。わたくしたちが大人しく従えば、国民の安全も保障されるでしょう。ただ、わたくしたちは国民を虐(しいた)げてきた王族として、公衆の面前で処刑されるかもしれない。もしくは、オルトロス帝国のために望まぬ婚姻を強要されて、女としての尊厳を奪われることも大いにあり得るわ」
 エステルがきゅっと唇を引き結ぶのを見て、ミレイアは声をひそめた。
「エステル。この書状を送れば、カタフニアの未来は守られたとしても、わたくしたちは泥船に乗ったも同然なのよ。でも、その責務を負うのは、わたくしだけでいい。貴女まで犠牲になることは……」
「やめて。私は最後まで、お姉様と一緒にいる」
 強い口調で遮(さえぎ)ったエステルが、顔を曇らせたミレイアの手をぎゅっと握りしめる。
「私たちは、かけがえのない姉妹でしょう。それに、私はこの目で国の現状を見てきた。これ以上、王を放っておいちゃいけないのよ。覚悟なら決まっているわ」
 笑顔で躊躇(ためら)いなく告げる妹に、ミレイアは喉元まで出かかった言葉を呑みこんだ。
 エステルは、こんな泥船に乗らなくていい。
 あなたがどれほど耐え忍んできたのか、考えただけで胸が張り裂けそうになるのに。
 だが、それを聞いたら、エステルはきっと「それは私の台詞なのよ、お姉様」と返してくるだろう。
 だから、ミレイアは口を噤むしかない。
 エステルが指を搦(から)めて、額をコツンと押し当ててきた。
「泥船に乗ったのなら、沈む時は一緒よ。お姉様」
「……ええ、そうね。最後まで一緒よ」
 双子の王女は顔を寄せ合い、とっておきの秘密を打ち明けるように囁(ささや)き合った。
「私の半身、私の大好きなお姉様」
「わたくしの半身、わたくしの可愛い妹」
 たとえ犠牲になろうとも、最後まで共にいよう。
 全ては、祖国カタフニアのために。

      ◇

 オルトロス帝国――カタフニア王国から東に船を進めた先にある大国だ。
 大陸の半分以上を領土にしており、かつては軍事力を用いて全土に戦火を巻き起こしたこともあった。
 しかし、若き皇帝カイルが玉座に就いてからは、傘下に置いた小国に自治権を許し、敵対していたガルド王国と平和協定を結ぶことで戦に幕を下ろした。
 それ以来、オルトロス帝国は盛んに交易を行ない、港には多国籍の船が寄港するようになった。
 
 
 アドルファス・ヘルマンは、帝国の最西端にある港で海原を見渡していた。
 埠頭に打ち寄せる波の鼓が耳をくすぐり、塩辛い風がアドルファスの黒髪を揺らす。
 後ろからトントンと肩を叩かれて、アドルファスが振り向くと、護衛兵を連れた金髪の男が立っていた。
「アドルフ。準備は整ったようだね」
「皇帝陛下」
 アドルファスが礼をとると、金髪の男――オルトロス帝国の皇帝カイルは、薄らと笑みを浮かべて、船旅の支度をした彼をしげしげと眺め回す。
「お前は船乗りに見えないね、アドルフ」
「軍人らしさが抜けていないでしょうか」
「いや、軍人というよりも、育ちのよい貴族に見える」
 顔を顰(しか)めたアドルファスは、もう一度、自分の装いを確認した。


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