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お見合いから逃げたらイジワル御曹司に即捕獲されました

葉嶋ナノハ / 著
天路ゆうつづ / イラスト
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2020/03/27

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内容紹介

「僕のが欲しい? 孕みたいんだろ? 僕の子ども」
経営者である父親から突然、政略結婚確定のお見合いを押し付けられ、直前に逃げ出した絵菜。ところが安心したのも束の間、お見合い相手本人である御曹司――凛太朗に即見つかってしまった! 結婚を拒絶し父からの自立を願う絵菜に、彼は嫌味や皮肉を交えつつも提案する。「家に帰りたくなければ僕のマンションに居候しなよ」――彼のもとで家事や就活をするうちに、イジワルな態度の陰に見える優しさに惹かれ、これが政略結婚であることも忘れて彼と愛を交わすようになり……箱入り娘と御曹司の初めて尽くしの年の差ラブストーリー!

立ち読み

「っはぁ、はぁ……は……っ」
 着物姿で走るのは生まれて初めてだ。
 十月下旬にしては冷たい秋の空気が、私の肺に入り込み、よけいに息苦しく感じる。
「苦し……」
 地下鉄の改札を抜けて駅構内に入った。私、緒方(おがた)絵(え)菜(な)は人混みの中で、そっと後ろを振り返る。
「とりあえず誰も追ってこないみたい。とにかく電車に乗っちゃおう」
 振り袖を翻(ひるがえ)して急いでいる私を、ホームにいる人々が振り向く。何事かと思われているのだろうが、かまってはいられない。
 私は都心方面のホームに来た地下鉄に乗り込んだ。車両の中は暖房が効いている。走ってきた私には暑く感じるくらいだ。
 息を切らしながら隣の車両へ移動した。すみません、と小さく声をかけて人の間を縫っていく。私のことを知る人がいないことにホッとし、誰もいないドア際に立った。
 景色の見えない暗い窓ガラスには、困惑と焦りが入り交じる私の顔が映っている。こうなってしまった顛末を、私は頭の中で思い浮かべた。

「明日から、お前は会社に行かなくていい」
 土曜の夕方。私を書斎に呼び出した父が言った。
「行かなくていいというのは、どういう――」
「お前は会社を昨日付で辞めたことになっている。明日、形ばかりでも見合いをするから、そのお相手と結婚しなさい」
 私は大学卒業後から、父が経営する会社――オガタフルーツで働いている。
 その会社を解雇? そしてお見合い? その人と結婚?
 半ばパニックに陥った私は、大きなデスクの前に座っている父に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと待って、お父さん。何を言っているのか、わからないんだけど……。私が何か良くないことをしてしまったから、会社を辞めさせたの?」
「会社都合で辞めさせたのではなく、お前の結婚による自己都合退職となっている。これは元から決まっていたことだ」
 父は会社にいる時と同じく、硬い表情を崩さない。母が亡くなってから十年以上、父は笑顔を見せたことがなかった。
 とにかく、元からも何も、そんな話は初耳だ。
「相手は白石(シライシ)食品の、社長のご子息だ。明日の昼、お前とお相手がふたりで会食の予定だ。世(せ)田(た)、手配は済んでいるな?」
「はい。すべて整っております」
 父の秘書の世田さんがうやうやしくお辞儀をする。
 彼は私が生まれる前から祖父の秘書をしており、緒方家に詳しい人物だ。父が跡を継いだと同時に、父の秘書になった。
「明日の段取りを教えてやってくれ」
「かしこまりました。では、絵菜さん。ご説明しますので、リビングへ」
 ドアへ促されたが、私は父に向き直る。
「お父さん、ちょっと待って。こんなの――」
「いいから行きなさい」
 父は書類へ目を落とし、二度と私を見ることはなかった。
 いつも、こうだ。
 私の意見は遮られる。行きたい場所も、行きたい学校も、やってみたいことも、すべて否定されてきた。そして就職は当然のように、父の会社以外の選択肢は与えられなかった。
 私にはひとりで生活できる力がないのだからと、自分を納得させ、父の会社で働くことにも慣れ、ようやくやりがいを見出せそうだったのに。
「こちらが相手様のお写真と釣書です」
 リビングに移動してソファに座った私の前に、世田さんがそれを置いた。
「これって、ただのお見合いじゃないのよね……?」
「結婚前提のお顔合わせ、と伺っております」
「普通のお見合いだったらお断りできるものね。私には、その権利もない……」
「絵菜さんがどうしても、とおっしゃるなら、社長もお考えを改めることはおありかと」
「お父さんに限って、それは有りえません」
 私は相手の写真をチラリと見てすぐに、世田さんにそれを返した。
「もう、いいです。片付けてください」
「絵菜さん……」
 世田さんが眉をひそめた。
「ねえ世田さん、今の元号は令和ですよね?」
「え? ええ、左様でございます。今年は令和二年になりますが」
「お父さんはいつまで平成の……ううん、昭和の頭でいるんですか? いくら社長だからって、勝手に私を自己都合で辞めさせるなんて、どう考えてもおかしい。納得できるわけがないでしょう」
 私の斜め前のソファに座る世田さんが、困った顔をしている。
「私は、お父さんの会社で真面目に仕事をして、これからも頑張ろう、って……」
 思いがあふれ出し、涙声になってしまった。
「絵菜さんが頑張っていらっしゃったのは、社長にもちゃんと伝わっていますよ。社長は絵菜さんのためを思って、このようにされたのだと思います。差し出がましいことを言うようで申し訳ありませんが……」
 ずっと緒方家の社長についてきてくれた世田さんは、娘の私にも何かと声をかけて良くしてくれた。彼の歳は父と変わらない。
「……大丈夫。私のほうこそ、ごめんなさい。決定したのはお父さんであって、世田さんが悪いんじゃないのに、すみません」
 世田さんの顔を見て無理に笑った。世田さんも、頷きながら笑みを返す。
 ――また、諦めるしかないのだろうか。
 頭に浮かんだ気持ちを振り払うように、私はソファから立ち上がった。明日の予定が書かれた紙を世田さんから受け取り、リビングを出る。
 二階にある自室の窓ガラス越しに、庭を見下ろした。日はすっかり落ちている。暗闇に溶けた木々が、深まる秋の風にざわめいていた。
 
 翌日の午前十時。お見合いをするホテルに到着したところまでは、私は昨日の諦めを持ち続けていたはずだった。
「緒方様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
 ホテル内の着付けをする部屋で、スタッフが出迎えてくれる。
「先にヘアを整えますがよろしいですか? お着物は、お父様からお預かりしておりますので」
「……はい。お願いします」
 父が用意していたのは、私が成人式で着た振り袖だった。母が遺(のこ)した着物を、私用に仕立て直したものだ。
「本当にお似合いですね」
 スタッフのなすがままに、私はお見合い用の姿へ変身した。
 ヘアメイクと着付けをしてくれた女性が私を褒めてくれるのに、心はますます沈んでいく。
「あの、すみません。レストルームに行きたいんですが……。ちょっと冷えてしまって」
 もう逃げられない。そう思った私は、席を立とうとした瞬間、とっさに嘘を吐(つ)いていた。
「ご案内いたします。大丈夫ですか?」
「ええ、すみません」
 心配そうな顔で、着付けの女性が他のスタッフに案内を頼んでくれる。私は部屋の外で待っていた世田さんに声をかけた。
「世田さんすみません。ちょっとレストルームに寄りますので、先に行っていてください」
「かしこまりました。相手の方が到着されるまでだいぶ余裕はありますから、焦らずに。会場は――」
「三十二階の和食店ですよね? 後から行きます」
 にっこり笑った私は、案内の女性とともに廊下に出る。まっすぐ行った先に目的の表示が見えた。
「あ、あそこですね。もう大丈夫です。すみません」
「いえ、とんでもありません。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
 挨拶を交わしてレストルームへ向かう。しばらく歩いて振り向くと、案内の女性の姿はもうない。世田さんも上階へ向かったようだ。
「さすがの世田さんも、おトイレまではついてこられないよね」
 もう一度周囲を見回して確認する。私のことを知っている人は誰もいない。今がチャンスだ。
「世田さん、ごめんなさい。迷惑かけちゃって……」
 出口へ向かおうとした私は、世田さんの困った姿を想像して、足を止めた。けれどそれは一瞬で、次々と湧き上がる疑問に心が覆われていった。
 一生、私は父の言いなりで生きていくの? 結婚すら相手を選べずに――。
 母を失った父をかわいそうだと思い、彼の言うことには逆らわなかった。
 でも、それなら私は? 母を失った悲しみは私にだってある。父の思いを優先させるばかりで、私の思いはないがしろにされてもいいというの……?
 父の思惑通りに結婚する。その結婚相手が父の会社を継ぐのだろう。そしてそこに〝私〟はいない。政略結婚に使われるだけの存在なんて……イヤだ。
 胸がモヤモヤする。息が上手(うま)く吸えないような気がして、昨日からずっと苦しくてたまらない。
 だからこんな状況を振り切るために、前へ踏み出すのだ。
 私は、絨毯(じゅうたん)の敷かれた廊下をレストルームとは真逆に進んで出口を目指した。一刻も早くここから立ち去りたいという、衝動のままに。 

「ここまで来れば大丈夫。……たぶん」
 JRへの乗換駅で降り、地上へ出た私は駅前通りを小走りに進んだ。
 電車内で思いついたのは、愛媛(えひめ)に住んでいる母方の祖父母の家に、しばらく置いてもらうこと。父方の祖父母は既に他界している。
 そこですぐに連絡を入れようとしたが、思いとどまった。
 もし父や世田さんからそちらに連絡が行った場合、私が向かうことを祖父母が伝えてしまったら、おしまいだ。祖父母は私を育ててくれている父に遠慮がある。大好きな彼らを困らせてしまうのは、申し訳なかったので、やめたのだ。
 ふと、世田さんのことが気になり、スマホを見てみる。たくさんの着信とメッセージが入っていた。
「え……」
 メッセージのひとつを見て、立ち止まる。
 顔合わせをする相手の人が、予定より早めにホテルへ向かっていたというのだ。
 私はスマホをタップして、世田さんに返事をした。
『心配かけてごめんなさい。やっぱり結婚は無理です。ひとりで考えたいので、落ち着いたらまた連絡します。相手の方には、本当に申し訳ありません……』
 それだけメッセージを入れて電源を切る。父には連絡しなかった。
 世田さんにも、相手の人にも迷惑をかけていることに胸が痛んだ。でももう、後戻りはできない。
 私は勢いのままに、電車内で調べておいた商店街に入った。
「あ、あそこね」
 いつまでも振り袖姿でウロウロしていては、目立って仕方がない。後から追いかけてくるだろう世田さんに見つかる可能性もある。
 私は小さなリサイクルショップで洋服を買うことにしたのだ。
 早速店に入る。古着がたくさん並ぶ店内を通り、さりげなくレジ前に行って確認する。現金のみと書いてあった。現金の持ち合わせが少ない私にとって、キャッシュレス払いができないのは厳しいが、やむを得ない。
 適当な服や靴を素早く手に取り、店員に声をかけてから、試着室で着物を脱いだ。そして持ち込んだ洋服に着替える。
「私じゃないみたい……。これ、可愛(かわい)い」
 全身が映る鏡を見て、思わずつぶやいた。
 白い開襟シャツにデニムのサロペットを合わせ、上からざっくりした厚手のニットを羽織っている。着てみたいと思っても、父が口うるさいので着ることのできなかった服装だ。これなら、誰かが探しに来ても、すぐにはバレないはず。
「グズグズしてられない。行こう」
 私は脱いだ着物一式と草履(ぞうり)を持って、レジへ向かった。
 靴下が売っていないので、ヒール靴に素足で歩く。寒いけれど我慢した。またどこかで買えばいい。草履や小さなバッグを入れるために、レジ近くに並んだ大きなエコバッグも買うことにする。そばに置いてあったサングラスと帽子もレジ台に置く。ベタだけど、これくらいしないと安心できない。
「すみません、試着した服をこのまま着て帰りたいんですが……あと、靴と、この帽子とサングラスもつけたいんです」
「ありがとうございます。値札をお取りしますね」
 女性の店員は私の後ろに回り込み、襟元や袖口についていた値札を素早く外し、小物類も同じようにしてくれた。
「あの、大きめの紙袋に着物を入れたいのですが、いただけますか?」
「ええ、もちろんです」
 代金を払って紙袋を出してもらう。
 とにかく、早くここから移動したい。焦る私に気づいたのか、店員は急いで着物を袋に入れて渡してくれた。
 リサイクルショップの斜め前に、千円カットの看板を見つけた。こういうお店ではすぐにカットをしてくれて、住所なども聞かれずに済むらしい。私がいつも行くサロンは緒方家の家政婦さんに知られているので足がついてしまうだろうし、そもそも予約なしでは受け付けてくれない場合がある。
 私は意を決して千円カットのお店に入った。幸いなことに並んでいる人がおらず、すぐに順番が来た。
「どのようにいたしましょうか?」
 女性の美容師が尋ねてくる。
「顎(あご)くらいまで、ばっさり切ってください」
「顎の長さのボブでよろしいでしょうか?」
「はい」
「綺麗(きれい)にセットされているので、もったいないですね」
 着物用にヘアセットされた私の頭を見て、店員が苦笑した。
「かまわずに、どんどんやっちゃってください」
「かしこまりました」
「できれば、ものすごく急いでくださると助かります」
「オッケーです」
 快諾してくれたことに安堵する。
 ロングヘア以外にカットするのは生まれて初めてだ。ドキドキする胸を押さえ、カットの様子を見つめる。美容師との会話はほとんどなく、本当に短時間で終わらせてくれた。
 千円を払って店を出る。
 だいぶ子どもっぽくなってしまったけれど、これなら私だとは気づかれにくいはず。帽子を被(かぶ)り、サングラスをかけた。これで変装は完璧だ。
 私は着物が入った袋とエコバッグを肩に提げて商店街を戻った。とりあえず駅が見えるところまで来て、足を止める。
「どこに向かおう。もしかしたら、すでに世田さんが近くまで追いかけてきているかもしれないし……。電車には乗らないでバスで移動しようかな、いたっ!」
 強い力で手首を掴まれた私は声を上げた。
「な、何?」
 振り向くと、いかにも軽い感じの男性が私の顔を覗き込んでいる。
「重たそうな荷物だね~、持ってあげるよ」
「え……」
 どう答えていいかわからない私に、もうひとりの男性が寄ってきた。こちらは茶髪で背が高い男性だ。きつい香水の匂いが、私をイヤな気持ちにさせる。
「サングラスが透けてるから、可愛いのがバレてるよ」
「ちょっと付き合ってよ、ね?」
「いえ、あの、結構です」
 あっという間にふたりに囲まれてしまった。茶髪の男性が私の肩をがっしりと抱く。
「天気いいからさ、俺らと車に乗って出かけよう。どこまで行こうか? あっちに停めた車にもうひとりいるから、みんなで遊ぼ?」
 掴まれている手首から全身まで、ぞっと鳥肌が立った。みんなでなんて、どう考えても危ない。
「離してください。急いでるので」
「いいからいいから。ほら、俺が荷物持ってあげる」
 逃げようとするも、着物が入っている紙袋を取り上げられてしまう。
「あっ、それはダメ!」
 声を上げたけれど、私は肩を抱かれたまま、ぐいぐいと路地へ連れ込まれてしまった。
「ちょっと、やめて……!」
 ポケットのスマホに手を伸ばそうとしても、がっちり肩を掴まれて動けない。誰も通らない細い路地が恐怖を増長させた。
「だ、誰か助け――」
「何してるんだ、やめろ」
 まったく別の男性の声とともに、私の体は、ふいに自由になった。
 目をしばたたかせた私が見たのは、知らない男性だ。私を守るように、茶髪の男たちの前に立ちはだかった男性の背中が、もう大丈夫だよと、私に語りかけている。
「なんだ、このオッサン」
「……オッサンって、一応まだ二十代なんだけどなぁ」
 目の前の彼が小さくため息を吐き、私を振り向いた。逆光でよく見えないが、微笑(ほほえ)んだらしい彼が私の肩にそっと触れる。強引な男たちに馴れ馴れしく触れられて嫌悪が湧いた時のものとはまるで違う、その優しい感触に涙が出そうになった。
「ごめんね。待ち合わせの場所、わかりづらかったかな?」
「え、あっ、うん。ちょっとわからなくなっちゃって」
 私を助けてくれようとしている彼のセリフにとっさに合わせた。怖さから手が震えているのをどうにか抑える。
「なんだ、彼氏持ちかよ」
 男のひとりが舌打ちをする。
「今日は特別警戒取締まり中だよ。そのへんをうろうろしてる警官、ここに呼ぼうか?」
 彼の言葉に、男たちは私の荷物を投げ捨てて、その場を去った。
「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……!」
 私は助けてくれた彼に、何度もお辞儀をした。
 こんな目に遭ったのは初めてだ。焦っていた私は隙があるように見えたのだろう。この人がいなかったら、今頃は車に連れ込まれて、男たちに何をされたかわからない。
「いいえ、どういたしまして」
 彼は私の荷物を拾い、渡してくれた。
「大丈夫? どこか痛いところはない?」
「すみません。大丈夫、です」
 心配そうに私を見下ろす彼は、一五八センチの私より、二十センチほど背が高い。スラリとした体躯に品の良いスーツがよく似合っている。すっきりした顔立ちながら、二重の目が印象的だ。前髪を上げた黒髪は、ほどよい長さで清潔感がある。
 怖さは去ったけれど、別の意味でドキドキしていることに気づいた。こんなに素敵な感じの人に守ってもらえたのは、生まれて初めてだからだろう。
 でも、なんだかこの人、どこかで見たことがある。もし知り合いだったら、この状況はまずいのでは? 私は一刻も早く、誰にも知られずにどこか別の場所へ逃げたいのだから。
「じゃ、じゃあ、失礼します……」
 私はもう一度お辞儀をして、そそくさと彼の前から立ち去ろうとした。
「まだそのへんに、あいつらがいるかもよ?」
「えっ!」
 彼の言葉にドキリとする。
「僕と離れたとたんに、また狙われるかもね。やっぱり彼氏なんて嘘だったじゃないか、とか」
「それは……そうですよね」
 恐怖が再び私を襲った。
「って、普通はそういうふうに考えるもんじゃない? 世間知らずなのかな?」
「え……?」
 急に皮肉っぽい口調に変わった彼の言葉に耳を疑う。
「そんな大荷物持って、そんなおかしな変装してたら、怪しさ満点でしょ。逆に私に注目してくださいって言ってるようなものだよ。もっと警戒しないと。自業自得もいいところだ」
「お、おかしな変装って、失礼なこと言わないでください」
 ムッとした私を見ても、彼はどこ吹く風で、少し離れた場所を指さした。
「ということで、駅前のカフェで僕とお茶でもしよう。しばらくしたら出ればいい。さすがに、あいつらもそこまで追ってはこないだろうから」
 ここでひとりになるのは怖いが、彼の感じの悪い言い方が気になる。だから申し出を断ろうとしたのだが……。
「でも、これ以上ご迷惑はおかけできませんし、結構です」
「ちょうど僕も時間が空いたからヒマなんだ。君を助けたお礼としてつき合ってほしい。それならいいでしょ?」
 さっきとは打って変わって屈託のない笑顔を向けられた。私としても助けてもらったことに感謝はしている。行かない、とも言えなくなった。
「……じゃあ、お願いします」
 私がうなずくと、彼が荷物をひとつ持ってくれた。


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