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ナタリア姫と忠実な騎士

ナツ / 著
山下ナナオ / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-23-5
定価 1,320円(税込)
発売日 2016/08/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

欲しいのはあなただけ……。
小さな頃の初恋は、日を追うごとに胸が苦しくて——
気品にあふれ優しい性格で人気の第一王女ナタリア。しかしその容姿は兄や妹に比べてかなり地味。それを内心恥ずかしく思っているナタリアは、幼馴染である近衛騎士のエドワルドに片思いをしていた。エドワルドとのダンスの練習に顔を赤らめるナタリアを、愛しげに見つめるエドワルド。焦れったい両片思いに周囲はヤキモキしていたが、ある時、隣国の美しい第二王子との縁談が持ち上がり……!? 愛され王女と幼馴染騎士とのじれじれすれ違いラブ!

立ち読み

フィンの備忘録〜その二〜
 〇月〇日
 女の子の名前を間違えて呼ばないように、ちゃんと覚え書きしとこうと思って付け始めたこの日記。
 読み返してみたら、エドワルドとナタリアの観察日記みたいになってる。なに、これ。
 俺が気持ち悪い人みたいじゃん。
 だけど、ここでしか吐き出せないので気にせず書くことにする。とてもじゃないけど、溜めておけない。特にエドワルドが面白過ぎて生きるのがつらい。
 今日は、二人目の王子様がやってくる日。なんと前回のクリス王子から半年も空いてる。
 朝からエドワルドの機嫌は最悪だった。
 あれで自分では冷静なつもりなんだから、笑わせる。
 やってきた王子様は、なんだかぼんやりした男だった。ナタリアも大人しい方だから、全然話が進まない。沈黙。そして沈黙。
 しまいにナタリアは、何度もハンカチで額を拭い始めた。肌寒いくらいの天気だったのに。可哀想に冷や汗かいてるよ、誰か気づいて。
 あとでクロードに、あれはないだろーと言ったら、「一番無害そうだったから」という返答。
 おいおい、もっと真面目にやれよ。吟味し過ぎてわけが分からなくなってんじゃないの。
 ほら、味見のし過ぎで元の料理の味が分かりません的な。
 結局申し込みまで辿り着かず、クロードは王子様にお引取り願った。ホッとした顔してたから、本人も乗り気じゃなかったんだろうなあ。
 エドワルドはそんな王子の話を聞いて、ご立腹。
 仕事中はさすがにいつも通り振る舞ってたけど、いつもより口数が少なくて(ということはほぼ無口)、後輩の新人騎士を怯えさせてた。
 宿舎に返ってきた途端「あの王子の目は節穴か!」とかなんとかぶつぶつ文句言ってる。
 なに。じゃあ、ナタリアの婚約が決まった方が良かったわけ? って聞いてやった。
 エドワルドは泣きそうな顔をした。あんな顔、初めて見たから後味悪かった。
 ごめんってー。
 純情で一途だとは思ってたけど、そこまでこじらせてるとは思わなかったんだって。

 〇月〇日
 はいはい。久しぶりのエドワルド話ですよー。
 ナタリアが体調を崩したらしい。と言っても、寝不足で軽くふらついた程度。
 姫を心配してエドワルドはえらく気を揉んでるけど、どこから情報? ってまず驚くよね。
 エドワルドは、食堂にカイトさんがいると、いつもさりげなく彼の近くに座る。
 ほら、カイトさんはナタリアの筆頭騎士だから。
 姫の話をしないかな? って期待してるんだと思う。いちいちやることが可哀想!
 でもその甲斐あって、体調不良の話を小耳に挟んだらしい。
 新しい慈善事業に取り組み始めてるのは知ってたけど、ナタリアはすぐ根を詰めるからなぁ。
 見舞いに行ってこい、とエドワルドがしつこく急かすので、お前が行けよって言ったら、行けるわけないだろ! と逆ギレされた。
 もう本当に面倒くさい。
 癒し効果のある薬草茶とか、安眠効果のある香り袋とか、どこで買ってきたの? って聞きたくなるほど沢山の手土産を持たされた。
 しょうがないので、非番の日に行ってきましたよー。
 ナタリアはすごく喜んだ。
 エドワルドからだよ。とはもちろん言わなかった。俺の評判だけあげといた。何故かナタリア付きの侍女に睨まれた。いいことしたはずなのに、解せない。
 夕食の時にどうだったかエドに聞かれたから、ナタリアの様子を詳しく話してやった。
 話を聞きながら、それは嬉しそうにエドは笑った。
 なに、今の! 男の俺でもドキっとしたわ。
 日頃無表情で通しとくと、こういう時の落差に女の子はグッとくるわけね。なるほど。
 どこかで使えるように、覚えとこう。

 〇月〇日
 リセアネが十六になった。あの我が儘姫も、とうとう成人だ。
 盛大な誕生パーティーが行われ、俺達も出ることになった。
 エドワルドは、着飾ったリセアネには目もくれず、ナタリアだけをずっと見つめてた。
 そのくせ、目が合いそうになると慌ててそっぽを向く。思春期の少年か。
 お前、いくつになったの? 二十一? ?だろ。
 エドへの嫌がらせを兼ねて、ナタリアにダンスを申し込んだ。
 あんなに上手いなんて知らなかった。昔は苦手だったはずなのに。
 びっくりして褒めたら、ナタリアは一瞬、すごく寂しそうな顔をした。
 エドに教えてもらったそうだ。その話をするナタリアの表情に、胸がきゅうとなる。
 好きな女にこんな顔させて、よく平気でいられるな。
 腹が立ってエドワルドを目で探すと、なんとリセアネと踊っているではないですか。
 馬鹿じゃないのか。
 ナタリアのデビューの時には、外をうろつき回ってただけだったのに。
 ナタリアがこんなに寂しそうな、でも諦めたような顔で、お前を見てるのに。
 いつもなら可愛い女の子達と楽しく過ごすんだけど、さすがにそんな気分になれなかった。
 ずっとエドワルドを応援してたけど、違う男の方がいいかもな。
 もっとナタリアの気持ちに敏感なやつ。
 俺だって彼女の幼馴染だ。可愛くないわけがない。幸せになって欲しい。
 ムカつきながら、宿舎に引き上げた。
 ところがエドワルドもムカついてたみたいで、部屋にやってきて、くっつき過ぎだのなんだの言うもんだから、あやうく殴り合いになるところだった。
 俺とナタリアが踊るのを見てられなかったから、リセアネにねだられるまま踊ったとか意味が分かりません。
 エドワルドの朴念仁! もう知らない!
 鈍感な恋人を持つ女の子の気持ちがよく分かった。

 〇月〇日
 ナタリアが十九になった。来年は二十歳。そろそろ結婚が決まってもおかしくない年だ。
 俺達にもちらほらと縁談話が来ている。
 まだまだ遊びたいから、知らんぷりしてるけどね。
 エドワルドも親父さんから呼び出されたらしい。
 ロゼッタ公が懇意にしてる伯爵家の娘と、エドを引き合わせたいみたい。
 ところがエドワルドが頑として頷かないものだから、とうとう親父さんは怒ってしまった。
「誰とも結婚しないだと!? 一生一人でいるつもりか! 公爵家は誰が継ぐ!」と問い詰められ、エドは「知るか!」と怒鳴り返した。
 いや、そこまで言ったかどうかは分かんないけど。
 でもまあ、そんな感じで喧嘩になったんだって。
 エドは相続権を放棄してもいい、とまで言ったらしい。
 うわあ。それはまずくないか? 売り言葉に買い言葉の典型だな。
 その夜珍しくエドワルドは深酒した。
 クロードのところで飲んでたんだけど、あそこまでエドが酔っ払ったのは数年ぶりだった。
 エドはまだいい。弟が二人もいるから。いざとなったら、彼らが家を継ぐだろう。
 うちなんて妹がいるだけだからなぁ。
 近衛騎士っていう今の立場、結構気に入ってるのに、いつかは家に戻らなきゃならない。
「ナタリアが嫁ぐまで、結婚しないつもり?」
 黙ってエドの愚痴を聞いていたクロードが、ぽつりと聞いた。
 エドワルドはぐっと詰まった。詰まって、さらに酒をあおった。
 意地悪なことを言ってやるなよ、とクロードに注意したら、てへと笑ってた。
 この子ったら、すぐエドワルドをからかうんだから。いい加減にしなさいよ。
 お母さんみたいな気持ちになった。知らないうちにだいぶ俺も飲んでたらしい。
 ぐでんぐでんになったエドワルドを引きずって、宿舎に帰った。
「いやだ……誰とも結婚したくない……」
 酔っ払ったエドは、ぐずぐずとそんなことを言っていた。
 これ、次の日覚えてたら猛烈に後悔するだろうな。
 ベッドに放り込んだあと、どうしても気になって聞いてみた。
 だって、誰ともって言うからさー。
「ナタリアとは? ねえ、ナタリアとは結婚したくないの?」
「……したい」
 エドワルドは目を閉じたまま、ふにゃりとだらしなく?を緩めた。
 うわあ。見てはいけないものを見てしまった気分。
 返事なんて分かりきってたのに、聞いた俺が悪かった。

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