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破壊の王子と平凡な私

夏目みや / 著
藤ヶ咲 / イラスト
ISBNコード 978-4-86457-297-2
定価 1,320円(税込)
発売日 2016/03/29
発売 ジュリアンパブリッシング

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内容紹介

異世界トリップしたメグこと私と、親友レイちゃんの前に現れたのは王子の花嫁候補を探しているという美形騎士団長レーディアス。魔力ゼロな私は魔力が強すぎるアーシュレイド王子の花嫁候補に指名されてしまい、命を狙われるはめに…。レーディアスは、レイちゃんに向かって「メグさんを守るため偽りでも私の婚約者になりませんか?」と言いながらその目は本気!? 一方、アーシュも「お前は俺が守るからな!」と私を見つめてきて…!

立ち読み

「お前に会えて、初めて自分の持つ力に向き合おうと思えた。お前に出会えたのもこの魔力のおかげだと思ったら、感謝の気持ちすら湧いた。不思議だな、あんなに嫌だと思っていたのに」
「……アーシュ」
 確かに最近の彼は、変わろうと努力している。最初は自分の持つ膨大な魔力から目を逸らしている様子だったけれど、実際のところ、彼には助けられた。
「もう少し側にいてくれないか。俺はお前に好意を持って欲しいと願うし、レイにも認めてもらわないといけない」
「レイちゃん?」
「ああ。少なくとも俺の一番のライバルはあいつだろう」
 アーシュもレイちゃんの存在の大きさを認めているのだと思ったら、思わずクスッと笑ってしまった。強くて美しい私の親友だもの。それがとても誇らしい気持ちになる。
「そうね。……アーシュが頑張るなら、もう少し側で見ていたいって思う」
 そう伝えると、アーシュははにかんだ様に微笑んだ後、私の体をそっと引き寄せた。
 抱きしめられたことに、思わず息を呑んだけれど、私はそのまま彼に身を任せていた。
 そして私の前髪を、彼は指でそっとかきわけた。指先が触れたことがくすぐったくて、思わず笑ってしまう。その顔を見たアーシュは、一瞬弾かれた様に目を見開いた。
「メグ……」
 優しい声で名を呼ばれ、少しだけ顔を上げた。
 瞳が潤んだアーシュの顔が近づいて来たと思ったら、唇に柔らかな感触があった。
 夜に輝きを放つ夜輝虫が周囲に飛び上がり、淡く優しい色を灯している。
 幻想的な空間に、私は酔っているのだろうか。一瞬の触れ合いの後、そっとうつむいた。
「この先、俺の側にずっといたいと、お前がそう望む様な男になることを約束する」
 私は、ただ黙ってうなずいた。
 その言葉を聞いた後、木の陰から、不意に人の姿が現れた。
「うぉぉぉぉぉ!!」
 驚いた私が声を上げる前に、アーシュが叫んだ。その声を聞いた人物は、静かにため息をついた。
「殿下、せっかく格好良く決めていましたのに、その声で台無しです」
「レーディアス、お前、いつからそこにいたんだよ!」
 動揺するアーシュだけど、そこは私も同意見だ。いつから見ていたの!?
「殿下がメグさんの前髪を、かきわけた辺りでしょうか」
「おっ、お前なぁ……!!」
 羞恥で赤くなって震えるアーシュに向かって、レーディアスさんが微笑する。
「私には殿下の護衛としての役目があります。それに、私以上に心配している方がいますので」
 そこでレーディアスさんの背後に立つ人物に気づく。それにいち早く気づいたアーシュが声を上げた。
「なっ! お前も、来ていたのか」
「いるわよ。ずっと二人っきりになんて、するわけないでしょ!!」
 周囲に響くこの声は――。
「レイちゃん」
 名を呼べば、私に向かって微笑んだ。
「メグ、夜に散歩は危険なんだからね!! まるで狼と散歩する子羊ちゃんよ!!」
「だ、誰が狼だよ!」
「あら、殿下。ご自覚があるのですね」
 レイちゃんとアーシュのいつもの掛け合いが響く。それを聞いていたレーディアスさんはにっこりと微笑んだ後、アーシュに向き合った。
「しかし殿下、毎晩、枕を相手に抱きしめて練習したかいがありましたね」
「な、な、何言ってるんだよ! おっ、お前、いつの間に俺の部屋をのぞいて見ていたんだよ!!」
 いきなり焦ってそわそわし始めたアーシュに、レーディアスさんはちょっと引き気味な様子で一歩後ろへ下がった。
「……殿下、本当ですか。カマをかけてみただけですが、まさか当たるとは」
「な、な、な、何言ってんだよ、レーディアス!!」
 レーディアスさんを怒鳴っているアーシュの顔は、きっと真っ赤だろう。もちろん私もだ。動揺しているアーシュと、ばっちりと目があった。
「ち、違う! そんな目で俺を見るなよ!!」
「あら、どういう目かしら?」
 そこでレイちゃんが素早くツッコむと、声を出して笑った。
 星空の下、私達の談笑する声が響く。それは穏やかな時間。
 そんな時私の肩に、何かが触れた。それはレイちゃんの温かい手だった。
 私だけに聞こえる声で、こっそり耳打ちをした。
「ねえ、メグ。私はメグが決めたことは、例えどんな答えでも、応援するつもり」
「レイちゃん」
「だからよく考えてね」
 そう言って笑うレイちゃんは、全てお見通しみたいだ。
 私は夜空の星を見上げる。うん、村の星も綺麗だけど、ここで見る星も十分美しい。
 大切な友人と、それとアーシュ。皆と共に見る景色だからだろうか。
 私と一緒にいたいと望んでくれるアーシュと見る星空も、そう悪くないと思う。
 そんな彼に、もう少しだけ付き合ってみようと思えた。


   第六章【レイ】 前途多難な恋路

 隣で笑うメグを見て思う。
 ああ、本当にいい顔をしている。きっとメグも殿下のことが好きなんだ――。
 自覚しているのか微妙なところだけどね。
「殿下、せっかくこんなに素敵な場所にいるのに、騒いじゃって雰囲気がぶち壊しだわ」
「それはお前らがいきなり現れるからだろう!」
 ぎゃあぎゃあとわめきたてている殿下を放置して、まずはメグに向き合った。
「メグ、せっかくここまで連れて来てもらったんだから、もう少し先の場所まで行ってみたら? 小川が流れて、月を反射して綺麗だったわよ」
 私が提案するとメグは殿下に近づき、そっと服の袖を引いた。それに気づいた殿下がやっと静かになる。そしてメグが小声で何かを言った様で、殿下は腰を折り、メグの話を聞く。
 そこで優しげに微笑んだ殿下はメグを連れて、私達に背を向けて歩き出した。
 やれやれ、だわ。
「あなたは、それでいいのですか?」
「ん? 何が?」
 遠ざかる二人を見送っていると、ひっそりと横から聞こえて来た声に私は反応する。
「殿下がメグさんを捕まえてしまっても、構わないのですか?」
 いつの間にか隣に並んでいたレーディアスに聞かれるけど、そりゃね、少し寂しい気持ちはある。
だけど――。
「私はメグが幸せなら、それでいいよ」
「――では村へは帰らないのですか」
「将来的にはわからない。けど、今すぐには無理そうじゃない?」
 私はそう言うと二人の向かった方向へと視線を投げた。並んで会話をしながら歩く二人は、幸せそうに見えた。
「それは私も安心しました」
 そこでなぜ彼が安堵の表情を浮かべ、明らかにホッとしているのか。
「メグが村に帰りたいって希望したら、私はどんなことをしてでも、帰るつもり。だけど、殿下の告白を聞いて、だいぶ揺らいでいるんじゃないかしら?」
「メグさんのことですし、殿下に押し切られそうな気もします」
 鋭いレーディアスの読みに、私は豪快に笑った。
「悩め、悩め! まだ時間はたくさんあるし。私はメグが決めた道を応援するよ」
「あなたの気持ちは、それで固まっているのですね」
「うん。メグを泣かせたら、殿下だろうと、何だろうと、ボッコンボッコンのギットンギットンだけどね」
「その濁音が、穏やかじゃないですね」
 苦笑するレーディアスに私も笑いかけた。
 私のいる場所からは、そんな二人の姿は見えない。今頃、どんな展開になっているのかしら。本当は駆け付けて側にいたいけれど、見守ることも大事だと、自分に言い聞かせた。
「こうやって多くの人に関わることができて、メグにとっていい変化を見いだせたみたいだ。……本当は少し寂しいけどね」
 なぜか私は本音を漏らしてしまった後、その感情を振り払うかの様に空を見上げた。
「しかしすごい星空だね」
「星降る丘は、流れ星がよく見える場所です。恋人同士で行くと、星の恵みを受け、幸せになると言い伝えられているのです。この丘の別名は、『恋人たちの聖地』ですから」
 夜の闇の中、月光を浴びてレーディアスの髪が輝いている。
「私もここは、ずっと来たかった場所です」
 はっきりとそう告げた彼は唇を一度強く引き締めた後、口を開いた。
「今度はぜひ、二人で来たい」
 真剣な眼差しを向けてくるレーディアスだけど、それはどういう意味? 現に今は二人っきりじゃないか。私の横に並ぶレーディアスが、静かに微笑んでいるものだから、私もつられて笑った。
 穏やかな空気が流れるが、私は自分のこれからを考えるべきだ。――だけどもう、私の中では決まっている。
「さて、メグが狙われていた件も解決したし、メグもしばらくは殿下の側にいることを選んだみたいだ。後は私のやり残したことは……そうね、レーディアス」
「レイ」
 彼が私の名を呼び、その顔を見ると、彼は私を見つめていた。

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