書籍詳細
包帯殿下の呪いを愛でていたら、左遷侍女なのに溺愛されています
| ISBNコード | 978-4-86669-871-7 |
|---|---|
| 定価 | 1,430円(税込) |
| 発売日 | 2026/08/27 |
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内容紹介
立ち読み
「きゃああ! 何あれ!」
黒い巻き毛を振り乱して侍女が叫んだ途端、その場にいた全員の視線がフェリクスに集中した。
「不審者!?」
「いや、待て……あれはもしや……」
流石に離宮に近い場所を警備するだけあり、守衛たちはフェリクスを実際に見た事がなくても、包帯姿の事がよく言い聞かされていたのだろう。
二人の守衛は腰の剣に片手をかけつつ、戸惑ったように顔を見合わせ、それからフェリクスを眺める。
「怪しい者ではない。私はルーラント陛下の異母弟フェリクスだ」
フェリクスは皆を落ち着かせようと名乗ったが、それは全くの逆効果を呼んだ。
「いやああ! やっぱり呪いつきの王弟殿下よ! 呪いの毒をまき散らして、私たちを殺す気なんだわ!」
先程悲鳴をあげた侍女が、へなへなとその場に座り込み、いっそう大きな声で泣き叫びだした。
「な……っ!」
慌てて否定しようとしたが、その声は人々の騒ぐ声にかき消された。
「そんなっ! 誰か王弟殿下を止めて!」
「なんで離宮から出てきたのよ!」
「毒で皆殺しにしようなんて、バケモノじゃない!」
口々に悲鳴があがり、恐怖と混乱があっという間に伝染していく。
だが奇妙な事に人々は、口では逃げなくてはと言いつつ、恐怖に満ちた目でフェリクスを凝視しながらその場に震えているだけ。
しかも、騒ぎを聞きつけた者たちが何事かとさらにやってくる。
「違うっ、私はただ……」
必死に弁明をしようとフェリクスは口を動かしたが、発せられたのは自分でも情けなくなる程の小さな声。そんなものが騒ぎ立て喚く群衆に届くわけがない。
フェリクスを恐れ侮蔑する声、声、声。向けられる恐怖に満ちた視線……。
(ああ……そうだった……こうなるのが怖かったはずなのに、私は……)
エルシャが来てからというもの、夢のような生活を送っていた為か、すっかり忘れていたのだ。
彼女はフェリクスを本当に『普通』に扱ってくれたから。
鱗があるのを承知で、それでも呪いでなくフェリクス自身を見てくれた。
そのうえ、エヴァンスも異母兄も父も、実はフェリクスを疎んでいなかったのだと聞かされて、世界は思っていたよりもずっと優しいものだったなんて勘違いをしていた。
幼い頃、離宮の扉や窓に鍵がかけられていなくとも、乳母と侍女たちから『外の者が殿下を見れば、大層怖がって大騒ぎになります』と厳しく言われ、外の世界への好奇心もすぐに消えたのを思い出す。
離宮から消え去って清々した大嫌いな声と視線が、今またフェリクスに向けられていた。
フェリクスを見る目に宿る、嫌悪感と恐怖。それから……『自分はああならなくて良かった』とでも言いたげな僅かな優越感。
口元は恐怖の声を発しながらも、フェリクスを見下す愉悦と侮蔑からか、微かに歪んでいる。
その光景を前に、記憶の中でくすぶっていた怒りが強烈に再燃してくるのを感じた。
(私が、お前たちにどんな危害を加えたというのだ……!)
目も眩みそうな怒りに思考が焼かれ、包帯の下で鱗が熱くなっていく。
――ソンナニ俺ヲ怖ガルナラ、オ望ミ通リニ焼イテヤル。
一瞬、目の前に観た事もない光景が浮かび上がった。
大勢の古めかしい武装をした人間が武器を持って押し寄せ、自分はゴマ粒程の大きさのそれを睨みつけている……。
自分は何者とも関わらず一匹で生きていたのに、こいつらは『俺』を見るなり竜だと喚き立て、殺そうとしてきた! それならこちらも容赦はしない!
実際には観た事もないはずのその光景とリアルな心情が、ローツの記憶だと本能的に解ったが、今のフェリクスには自分の怒りとさほど区別がつかなかった。
どうしようもない憤りが膨れ上がり、フェリクスの全身から深紅と金の火花がパチパチと散り始めた。
今なら幼い頃にエヴァンスを吹き飛ばした時より、いっそう強烈な炎を放てる。
この場にいる全員を瞬時に消し炭にしてしまうなど、造作もない。
それを本能的に理解し、そうしてやりたくてたまらなくなった。
「……」
フェリクスは無言で片手を突き出し、へたり込んでいるあの一番煩い侍女に狙いを定めた。
そうだ。やってやればいい。そうすれば……。
――エルシャはどうなる?
不意に、冷静な自分の声が脳裏に響き、フェリクスは魔力の炎を放つのを既のところで押しとどめる。
(そうだ……私が外に出たのは……)
こんな連中の喚き声に怒る為ではない。
エルシャを診てくれる医者を探す為に来たのだ。
苦し気に息を吐くエルシャの姿を思い起こした途端、嘘のように頭が冷えた。
こんな事をしている間にも、エルシャは苦しんでいる。一刻も早く、彼女の楽しそうな笑顔を取り戻したい。
少し前までなら、誰も傍にいなくても平気だった。むしろその方が平穏でいいとさえ思っていたのに、今は違う。
エルシャを失いたくない。エルシャに元気で傍にいて欲しい。
その為なら、なんだってする。
勿論、無礼な者たちに対する怒りは変わらずにあるが、それよりもはるかに重大な用事を済ませるのが先決だ。
フェリクスは深く息を吸い込んで憤りと火花を抑え、周囲を見渡した。
いつのまにか人々は喚くのを止めて息を詰め、フェリクスの一挙一動を凝視している。
胸に手を当て、フェリクスは彼らに頭を垂れた。
これでエルシャを救う手段が得られるのなら、嫌な相手に頭を下げるくらい、どうという事はない。
「騒がせてすまなかった。離宮勤めの侍女が熱を出して倒れたので、医者を頼みたい。私の用件はそれだけで、決して皆に危害を加えたりはしないと誓う」
腹の底から声を出し、はっきりと簡潔に告げると、人々の表情がポカンとしたものになった。
「フェリクス殿下! それではエルシャが倒れたと仰るのですか!?」
不意に人を掻き分け、一人の侍女が姿を現した。
金髪碧眼でエルシャと同じ年頃の侍女――フェリクスは彼女を見るのは初めてだったが、その容貌の侍女の名を、エルシャからよく聞いていた。
「その通りだが……もしや、アメリアか? エルシャから友人だと聞いている」
内心で少し面白くないくらい親しそうだった名前を告げると、侍女は丁重にお辞儀をした。
「はい。アメリアにございます」
そして彼女は唖然とする周囲を尻目にフェリクスへ駆け寄ってきた。
「医務室は少し離れておりますので、私がこれから走って医者を呼んで参ります。ですからフェリクス殿下は先に離宮に戻り、エルシャの看病をしてお待ち頂けますか? 汗を拭いたり、冷たい水に浸した布で額を冷やすなど……高貴な方にお手を煩わせてしまうなど恐れ多いのですが、どうかお願いします!」
アメリアはとても賢く有能な侍女だとエルシャから聞いていたが、実に的確な指示をテキパキと出され、フェリクスは感心した。
彼女はあえて言及しなかったけれど、フェリクスが人前に少し出ただけでこの騒ぎだ。
医務室が遠いのなら、そこにフェリクスが行くまでにもっと大騒ぎになって時間が余計に取られるだろう。
それならアメリアに医者を呼んでもらい、フェリクスは離宮に戻った方がいい。しかも看病の仕方まで教えてくれた。
「解った。エルシャと離宮で待っているので、医者を頼む」
「畏まりました」
アメリアはもう一度お辞儀をすると、身体を起こすなりスカートを翻して駆け出す。
フェリクスもすぐに身体の向きを反転させ、離宮に戻る道を駆け出した。
その背後で、残された人々がどんな顔をしていたのかなど、もう気にもならなかった。
エルシャはぼんやりとしたまま、何度目かに重たい瞼を開けた。
熱のせいか思考が定まらず、夢と現実の区別がはっきりとつかなかったが、今は随分と楽になった。
どうしてか、アメリアと王城の医者がこの離宮に来て、腕に注射をされたような気もしたけれど、あれは現実だったのだろうか?
枕元でローツが泣きそうな声で何度も『死ぬんじゃねーぞ、エルシャ!』と呼びかける声も聞こえていた。
額に震える手をやれば、ひんやりと濡れた布の感触がある。
これをしてくれたのは……。
薄らと朝日が差し込み始めた部屋の中で視線をめぐらすと、すぐ傍に深紅の髪があった。
(殿下……?)
低い腰かけに座り込んだフェリクスが、寝台の脇に突っ伏して眠っている。
その背中に張り付くようにして、ローツもスピスピと寝息を立てていた。
(額の布……殿下が載せてくれたような……何度も冷たい水に浸してくださって……)
ぼやけた記憶を思い出しながらフェリクスを見つめていると、彼が微かに呻いて瞼を震わせた。
「エルシャ……」
そう呟いて目を開けた彼と、視線がかち合う。
「エルシャ! 気がついたのか!」
ガバッとフェリクスが起き上がった拍子に背中に乗っていたローツがゴトンと床に落ちた。
「痛ぇ! 何すんだ!」
抗議の声をあげてフラフラと羽ばたいてきたローツも、エルシャを見て目を瞬かせた。
「あの医者、やるな! エルシャが目を覚ました!」
「ええ。もう大丈夫……」
ローツが宙返りをして喜ぶのを見ながら、エルシャは身体を起こそうとしたが、フェリクスにそっと押しとどめられた。
「無理をしてはいけない。どうも病ではなく、溜まっていた疲れが出たそうだ。もう少ししたらまた医者が様子を見に来てくれるから、それまで大人しくしているんだ」
「え……殿下が、本当に外へ出てお医者様を呼んでくださったのですか?」
倒れた時の記憶は曖昧で、フェリクスが医者を呼びに行くと言って出ていったのが、現実だったのか自分の夢だったのかよく解らない。
恐る恐る尋ねると、彼が苦笑して頭を掻いた。
「ああ。大嫌いな乳母だったが、私が外に出たら騒ぎになると言っていたのは正しかったな。実際に周囲を怖がらせ騒ぎを起こしてしまったが、幸いにもアメリアがその場におり、私の話を聞いて医者を呼んできてくれた」
するとアメリアと王城の医者が傍にいたのは、本当の事だったわけだ。
ただし、その代償は……。
「殿下……」
「ん?」
優しく目を細めるフェリクスを前に、こみ上げてきた涙が止められずに溢れ出るのをエルシャは感じた。
「どっ、どうした!? また具合が悪くなってきたか!?」
「おい、フェリクスの馬鹿! 何したんだよ!?」
涙を零し始めたエルシャを見て、フェリクスとローツがあたふたと慌て始める。
「いいえ……具合は悪くありません……ただ……っ」
しゃくりあげ、零れていった涙が枕を濡らした。
無理やりに気怠い身体を起こし、フェリクスを見つめる。
以前のフェリクスは、離宮の窓を開けるのも拒む程に外界を拒絶していた。
それは酷く不自由なように見えたが、彼にとっては安心できる暮らしだったのだろう。
フェリクスが呪いのせいで毒をまき散らすなんて噂は嘘だと、ここしばらくエルシャが熱心に言いふらしたから耳を傾けてくれる人も増えてきたけれど、そうでない人もいた。
以前に食堂で『ここにまで毒をまき散らさないでよ。トカゲ女』と言い放った侍女など、エルシャが離宮の生活が楽しいと話す程、ムキになったように遠くでフェリクスの陰口を言っていた。
騒ぎになったという言葉から察するに、きっと離宮を出た彼は、運悪くそうした人々に囲まれ傷つけられたのだ。
「私の為に外に出てくださったのに、殿下がそのせいで嫌な思いをしたのでしたら、本当に悲しくて……」
そこまで告げた時、不意にフェリクスの腕が伸びて、抱きしめられた。
「っ!?」
「何も心配はいらない。私が外に出る勇気を出せたのも、不快な言葉に対する憤りを抑えられたのも、会った事もなかったアメリアを味方に得られたのも、全てはエルシャのおかげだ」
エルシャを抱きしめる腕に力が籠り、彼の巻いている包帯が頬を柔らかく擦った。
「私の……?」
「そうだ。エルシャと出会う前の、呪いを理由に引き籠っていた私は、周囲への恨みばかりが募って本物の怪物になりかけていた。あの頃の私のままだったら、いつか何かのきっかけで爆発してどんな惨状を起こすかも解らなかった。そんな自分がずっと怖かった。だが……」
エルシャの耳に、微かに啜り泣くような声が聞こえた。抱きしめられたままだったから、フェリクスの表情は解らなかったけれど。
「ありがとう……エルシャ。私の心を人間に戻してくれて」
フェリクスが抱きしめる腕を緩め、真正面からエルシャを見つめた。
金色がかった深紅の瞳が潤んで、いっそう綺麗に見える。
しばし、言葉もなくエルシャはその美しさに見惚れ、無音の時間が過ぎた。
「おーいっ! ここはキスする場面じゃねーのか!? 景気よくブチュッとさーっ!」
唐突にけたたましく喚いたローツに揶揄われ、エルシャたちは弾かれたように身を離した。
「ば、馬鹿な事を言うな! エルシャは身持ちの良い立派な貴族令嬢だ。私にそういう関係を望むはずもない!」
赤面したフェリクスが怒鳴る横で、エルシャも顔を赤くして横を向いた。
「馴れ馴れしくて申し訳ございません……そのようなつもりでは……」
彼とは身分が違うというのに、抱きしめられて有頂天になっていたようで、気恥ずかしくて敵わない。
「なーんだ、残念だったなフェリクス。それじゃ手を出しちゃ駄目だぞ?」
「出すわけがないだろう!」
丁々発止と二人がやり合っていると、呼び鈴の音が鳴り響いた。
どうやら医者がやってきたらしい。
フェリクスがそそくさと応対に出て、すぐに年配の医者と、果物の入った籠を持ったアメリアを連れてきた。
「エルシャ! 良かった。顔色がとても良くなっているわ!」
見舞いの品を机に置いたアメリアに、ギュッと手を握りしめられた。
医者も彼女も、ローツには昨日既に会ったのか、姿を見ても驚く様子はない。
「ありがとう。フェリクス殿下から、アメリアが助けてくれたと聞いたわ」
心からの感謝を告げれば、アメリアが照れ臭そうに微笑んだ。
「かつてはあんな噂を鵜呑みにしていた身としては恥ずかしいわ。それにエルシャの為にフェリクス殿下が懸命にお医者様を探す姿に、貴女の話が紛れもなく本当だったとやっと信じられたのだもの。あの一件で、フェリクス殿下に対する印象が変わった人は大勢いると思うわ」
「その通りですぞ。加えて、医学的観念からも、数名に指導をいたしました」
診察鞄をゴソゴソしていた医者が急に口を挟んだ。
「指導……とは?」
気になってエルシャが問うと、髪も髭も真っ白になった医者は、嘆かわしいとばかりに頭を振る。
「エルシャ殿の診察を終えて医務室に戻りましたら、毒で具合が悪くなったと主張する者が数名いましてな。診察をしたところ、全員が健康そのもの。その毒は己の気分がもたらしたものだと言い聞かせて帰しました」
「……ふむ。すると私の無実は晴れたのか?」
腕組みをして頷くフェリクスに、医者が微苦笑した。
「人の心は弱いものです。今回も、私が幾ら体調不良と殿下は無関係だと言い聞かせようと、彼らは私を藪医者だと罵り、己の信じたいものしか信じないでしょう。不快だとは存じますが、どうかこう思ってくださいませ――言いたい者には言わせておけばいい、と」
「解った」
フェリクスが頷き、快活に笑う。
包帯を巻いていても解る明るい表情は、以前の、エルシャに剣呑な視線を向けていた彼とは見間違う程で、また見惚れた。
「エルシャ……頬が赤いけれど、また熱が出てきたのではない?」
心配そうにアメリアに尋ねられ、エルシャはハッとする。
「そ、そうかしら? 体調はとても良くなったけれど」
「どれ……最低でも一週間は休養するとして、とりあえず熱は下がったようですが」
そう呟いた医者に、脈を測られたり喉の様子を診られたりと診察を受け始めた。
「果物を切りたいので、台所をお借りいたします」
アメリアがそう言って出ていき、診察が終わる頃、切り分けた果物を持って部屋に戻ってきた。
「おおーっ! 美味そう!」
歓声をあげて果物に飛びつこうとしたローツの背を、フェリクスがむんずと掴んだ。
「こら、それはエルシャのものだ」
竜といえば逞しく大きな身体でバクバクと肉を貪り喰らうというイメージだったが、意外にもローツの大好物は果物なのだという。
それは彼が封印される前から変わらず、肉も食べられなくはないが、『臭くてまずいから嫌い』という理由で遠ざけていたそうだ。
そして現在の彼は竜玉も失って肉体もほぼ魔力で構成されている不完全なものだが、少量ならば物を食べる事ができ、封印されていた長い年月の間に品種改良されて美味しくなった果物が、いっそう好物になっていた。
「えー、こんなにあるなら少しくらいいいだろ」
「エルシャが厨房に頼んで、私の食事時に果物を毎食追加してもらっているだろう。それで我慢するんだ」
そんな言い合いをする彼らに、アメリアはクスリと笑ってエルシャに果物の皿を差し出す。
そして、彼女はフェリクスとローツに向けてお辞儀をした。
「侍女長にかけあって、エルシャの休養中は私が代理でここに通う事になりました。これも彼女をしっかりと休養させる為ですので、宜しくお願いします」
「えっ!?」
驚愕の声を発したフェリクスとローツに加え、エルシャも驚いて目を見開いた。
「アメリアが来てくれるの!?」
「ええ。事情を伝えて志願したら、二つ返事で了承してくれたわ」
きっぱりと言い放ったアメリアはとても頼もしく、心から安堵がこみ上げた。
食事や必要なものを、エルシャが来る前のように厨房の人に運んでもらう事もできるだろうが、今は窓辺で日向ぼっこが大好きなローツがいる。
何かの拍子にローツを目撃されて騒ぎになれば、呪いをかけた者の耳に入って警戒されてしまうかもしれない。かといって、また窓を閉めて暮らさせるのも気の毒だ。
その点、アメリアなら口が堅くて信用できる。
「ありがとう。貴女が来てくれるのなら安心だわ」
心から礼を述べると、フェリクスが頷いた。
「協力をしてくれる事に感謝をする。ただ、エルシャの看病なら私もできるので、その辺りは任せて欲しい」
コホンと咳ばらいをして言った彼を、アメリアは驚きと面白さの入り混じったような顔で眺めていたが、すぐに頷いた。
「畏まりました。私はここに寝泊まりではなく通いになるので、ご厚意に甘えてお手を借りる事にもなると思います」
アメリアがニッコリと微笑んで言うと、帰り支度を終えた医者が軽く頭を下げた。
「それでは、私はこれで失礼します」
「本当に、ありがとうございました」
エルシャがお礼を言うと、フェリクスも「感謝する」と胸に手を当てて丁重に述べた。
「なんの、これが私の務めですから。フェリクス殿下にも久しぶりにお会いできて光栄でした。貴方様がお生まれになった時に私が取り上げましたが、ご立派になられましたな」
嬉しそうに言った医者を、アメリアが玄関まで見送りに行き、ローツもなぜかニヤリと笑ってエルシャたちの方を見てからそれに付いていった。
急にフェリクスと室内に取り残されたエルシャは、何となく落ち着かなくて、ソワソワしながら視線を泳がせる。
彼の方も居心地の悪そうな様子だったが、不意に思い立ったように果物の皿に添えられていたフォークを手に取り、小さくカットされたオレンジを一つ刺した。
「体調が悪い時は、こうして食べさせてもらうのだろう? 口を開けてくれ」
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