書籍詳細
3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です
| ISBNコード | 978-4-86669-864-9 |
|---|---|
| 定価 | 1,430円(税込) |
| 発売日 | 2026/06/29 |
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内容紹介
立ち読み
……眠れない。
すぐそばでロイドの寝息が聞こえ、寝たふりをしていたレティシアは薄く目を開けた。
あんな顔をして笑うなんて、知らなかった。
向けられた笑顔に、胸の奥がじわじわと熱くなる。
気付けば頬まで火照り、落ち着けと自分に言い聞かせるうちに瞼が重くなってきて――。
どれくらい経っただろうか。
身体の奥から込み上げる異様な熱に、レティシアは意識を引き戻された。
おかしい。身体が……動かない。
これまでに感じたことのない重圧と、内側から焼けつくような熱。
ヴェリアルの魔力を根こそぎ吸収したからか……?
いやそれにしても、総量の半分程度のはず。
「……ぐ……、……ッ」
燃え上がるような熱とともに、耐えがたいほどの激痛がレティシアを襲った。
割れそうなほど強く頭が締め付けられ、体中の骨が軋みを上げた直後、ぐぐぐ、と四肢が伸びていく。
内側から圧迫されるようにして子ども用の寝間着が伸びていき、ビリリと縫い目が破けた。
ま、まずい。
ロイドの腕から逃れようと藻掻くが、がっちりとホールドされていて動けない。
まずい、まずい、まずい!
せめて腕から抜け出せれば……藻掻いた拍子に目の前にあった胸板を押してしまい、ロイドが瞼を持ち上げる。
「――ッ!?」
鼻先が触れそうなほどの至近距離で、目が合った。
波打つ黄金の髪に、紫の瞳。月明かりに照らされたその肢体が、淡く光を纏い浮かびあがる。
息を呑むほどの美貌を目の前にして、ロイドは言葉を失った。
腕の中にいたはずの幼女の代わりに、なぜか妙齢の美女がいる。
それも、――裸の美女が。
ふたりとも、無言で固まった。
見つめ続けること、一秒。二秒、三秒――!?
理解が追い付かず、ロイドの腕がわずかに緩む。
その一瞬の隙を突き、レティシアはベッドから転がり落ちるようにして、ロイドの腕から逃れた。
床に落ちていたシャツを引っ掴んで羽織るなり、脇目も振らずに部屋から飛び出していく。
「――ッ!?」
ロイドは驚きすぎて、まだ動けないでいるようだ。
着ていた子ども服はビリビリに破れ、着られる服は拾い上げたロイドのシャツだけ。
丈が長く、太もも半ばまでは隠すことができるが、下着すら身に着けていない。
つまりシャツを着たところでほとんど丸見えの状態だった。
背後からロイドが追いかけてくる気配はなく、まだ部屋の中で固まっているのかもしれない。
いつもなら腕にしがみついて、ぐっすりと眠っている時間帯。
幼女レティシアが部屋にいないと、すぐに気付いてしまうだろう。
添い寝していたはずなのに、その姿は煙のように掻き消え、なぜか代わりにいた見知らぬ美女が、裸のまま廊下へ消えていくという、――不可解な光景だったのだから。
「……レティ!?」
部屋から漏れたロイドの声が、逃げるレティシアの耳に届く。
どこにもいないと、気付いたのだ。
ロイドの部屋は二階。鍵も締まっているし、三才児が窓からひとりで出ていくのはあり得ない。
手がかりは裸で逃げていった、謎の美女……絶賛逃走中の大人レティシアだけ。
勢いよく扉が開く音が聞こえる。
レティシアは迫る足音に慄き、ドクドクと心臓が破裂しそうに脈打った。
ロイドが追いかけてきている。ここで追いつかれるわけにはいかない。
だが外へ逃げようにも、男物のシャツ一枚という、あんまりな服装である。
かといって着る物を探して自室に戻れば、ロイドと鉢合わせするのは目に見えている。
廊下を駆けながら、必死に頭を回転させた。
選択肢はひとつしかない。
階段を一気に駆け下り、専属侍女アリエッタの部屋へと向かう。
アリエッタはレティシアに何かあればすぐ対応できるようにと、屋敷内に部屋を与えられ、住み込みで働いていた。
部屋の前に到着するなり魔法でそっと解錠し、音を立てないよう中に滑り込む。
ロイドがすぐに入れないよう、今度は中から、また内鍵をかけ直した。
***
「……?」
深夜にも拘らず、ドタドタと廊下を駆ける足音でアリエッタは目覚めた。
一体何事だろう。怯えたようにそっと身を起こす。
暗がりの中、部屋の隅に何者かの気配を感じる。
ゆっくりと視線を向けて、――アリエッタはぎくりと動きを止めた。
半開きのカーテンから差し込む月明かりを背に、息を呑むほどの美女が立っている。
金の髪がゆるりと肩に流れ落ち、紫の瞳はしっとりと艶めきながらアリエッタを映し込んだ。
上気した頬は薄桃色に染まり、乱れた吐息は煽情的で、夜の営みを想起させるほどに艶めかしい。
すらりと伸びた足は剥き出しになっており、シャツだろうか、薄地の布が、その肢体をなめらかにかたどっている。
つまりは見たこともないほどの、絶世の美女。
そして問題は、鍵をかけたはずのアリエッタの自室に、男物のシャツ一枚で立っていることだった。
「ええと、どなたでしょうか……?」
アリエッタが恐る恐る問いかけた次の瞬間、その視線がシャツの胸ポケットで止まった。
辺境伯家の紋章が控えめに刺繍されている。
真夜中、妙齢の美女、男物のシャツ、剥き出しの脚。
アリエッタの頭の中を、多すぎる情報が巡っていく。
衣服をはぎ取られ、落ちていたシャツをなんとかして羽織り、必死で逃げてきたのだ。
セシリオ辺境伯、つまりロイドから。
ぱちり、ぱちりと瞬きをして、アリエッタは断片的に理解した。
「まさか旦那様が、ご無体を!?」
あのロイドが、女性を手籠めにしようとするとは。
でもそれも仕方ないと思えるほどに、目の前の女性は美しかった。
駄目だ、こうしてはいられない。
逃げてきたということは、追手がこの部屋に辿り着くのも、もはや時間の問題だった。
アリエッタは跳ね起きるなり、音も立てず扉に駆け寄り、確実に施錠されていることを確かめる。
これだけ美しい女性なのだ。男性なら誰しも、心惹かれるに決まっている。
だとしても。
アリエッタはやるせない思いで、グッと唇を噛みしめた。
よりによって、レティ様がいる邸内に女性を連れ込むなんて――!!
ふつふつと怒りが湧き上がる。
心細げにアリエッタを見つめる美女と目が合い、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ、前セシリオ辺境伯も、同じ屋敷にいらっしゃいます。今は隠居されて奥様とのんびりお過ごしですが、閣下は大変に公平な方。決して悪いようには――」
まだ説明が終わらないうちから、ドンドン、と乱暴に扉を叩く音がした。
「いるのだろう。開けろ」
「ひぃッ」
怒気を孕んだ声は、紛れもなくロイドのもの。
アリエッタは小さく声を上げ、扉と美女を交互に見た。
自分に怒りが向けられているのだと知り、アリエッタの全身が恐怖でわなわなと震える。
それでも、美女を差し出す気にはなれなかった。
「アリエッタ、大丈夫だ。別に何かされたわけじゃない」
「……え?」
緊張感溢れるこの場面で、見知らぬ美女から突然名前を呼ばれ、アリエッタは戸惑った。
なぜ自分のことを知っているのか。
どこかで会ったことがあれば、この容姿である。忘れるはずがない。
訝しげに美女を見遣れば、何やら申し訳なさそうにポリポリ頭を掻いている。
外見に似合わない、どこか男性のような仕草にまた驚いて、アリエッタは美女をまじまじと眺めた。
「ですがそのお召し物は……?」
「こんな格好だが、本当に襲われたわけではないんだ」
美女は首を振り、乱れた息を整えながら言葉を続ける。
「服を貸してもらおうと思っただけなんだ。そうだな、すぐに羽織れるものがいい。迷惑をかけるつもりはないから、すぐに出ていく」
落ち着いた、優しい声でそう告げる。
深窓のご令嬢に見えるのに、話し方は男性のようだ。
アリエッタは美女の手を引き、慌てて自身の衣装棚へと向かった。
当たり前のことだが、各部屋にはマスターキーと呼ばれる合い鍵がある。
ロイドが本気で部屋を開ける気なら、合い鍵を使えば済む話。
どれほど内鍵をかけたところで意味はないのだ。
それなのに鍵を取りに行く猶予すら惜しいのか、ドン、またドアが叩かれる。
返ってこないアリエッタの返事に苛立ったように、もう一度、音が響いた。
「アリエッタ、起きているのだろう? ――ここに入っていくところを見た」
扉の向こうからロイドの声が聞こえる。
荒らげているわけではないのに、先ほどにも増して怒気を孕んでいる。
「匿うつもりなら、力尽くでも開けさせてもらう」
「ひぇッ」
それはそれは恐ろしい声に、アリエッタは口元で小さく悲鳴を上げ、……だが内鍵を開けることなく美女の手を引いた。
「は、早くこちらへ! 何かお召し物を……ッ」
震える手で衣装棚を開け、手近なものを掴んで振り返る。
貴族女性が着るには粗末だが、それでもこの恰好でいるよりは何倍もいい。
急いで着替えを手伝おうとしたその直後、美女の腕が、驚くほど熱くなった。
燃え上がるような熱に驚き、アリエッタは思わず手を引っ込める。
「ぐ……うぅ……」
「あの、どうされました!? 大丈夫ですか!?」
その間も、熱は留まることなく上がっていく。
それに呼応するように頭を押さえ、美女が小さく呻き声を上げた。
視界が定まらないのだろうか、その身体が酩酊したようにぐらりと揺れる。
「……え?」
次の瞬間、アリエッタの目の前で、レティシアの身体がみるみる縮んでいく。
腰元まで波打っていた金の髪が短くなり、手足もまた細く、短く――?
気付けばそこには、一糸纏わぬ姿の幼女レティシア。
力を失ったようにして床にペタリとしゃがみ込み、はぁはぁと苦しげに肩で息を吐きながら、小さな胸を押さえている。
「――え?」
もう何度驚いたかも分からない。だが今宵一番の衝撃とともに、アリエッタの動きが止まる。
「レティ様……?」
ドン、とまたしても扉が叩かれる。
ロイドの呼びかけはついになくなり、ゴキッと音がして、ドアノブを力尽くで回す音がした。
施錠されているのにも拘らず、無理やり開けたのだ。
どうしよう、部屋に入ってきてしまう。子ども服も置いていない。
アリエッタは咄嗟に動いた。レティシアを抱えて元居た寝室に飛び込むなり、自分が寝ていたシーツを掴み、幼女レティシアをふわりとくるむ。
「少しだけ、我慢してくださいね」
隙なく巻けたのを確認し、それからギュッと抱きしめた。
「アリエッタ、……返事をしろ」
ギギ、と鈍い音を立てて、扉が開いていく。
「いるのだろう。隠し立ては許さない。先ほど金髪の女が来たはずだ」
これ以上ないほど眉を寄せ、鬼のような形相でロイドが部屋に踏み込んでくる。
「レティがいなくなった。その女が行方を知っているはずだ」
喜怒哀楽をほとんど外に出さないロイドが、怒りに満ちた目でアリエッタを糾弾する。
美女が幼女だった、これはレティ様だと、自分の口から説明すべきだろうか。
場が混乱するだけで、何の解決にもならなそうだ。
ロイドの怒りは収まる様子がない。
目が覚めたら愛する幼女の姿がなく、見知らぬ美女がいたのだ。
連れ去られたと思っているのかもしれない。
だがアリエッタは、美女が幼女になる一部始終を見てしまった。
連れ去ってなどいない。だって同一人物なのだから。
「あ、あの、失礼ですが……いらっしゃったのは、レティ様です」
「お前は何を言っている? ……庇い立ては許さんぞ」
きっと、止むにやまれぬ事情があるのだ。専属侍女として、なんとしても守り通さねば。
アリエッタは恐怖に身を震わせながら、それでも一歩も引かずにロイドを見上げた。
「レティ様は、こちらに」
「は?」
ロイドの眉がわずかに動いた。
確かにアリエッタの腕の中に、シーツにくるまれたレティシアがいる。
「……なぜレティがここに?」
無事を確認し、眉間の皺がわずかに緩んだ。それだけ心配していたのだろう。
「レティ、どういうことだ。お前の口から説明しろ」
これでは埒が明かないと思ったのか、説明を求められ、……レティシアはシーツにくるまれたまま、ぷいっと顔をそむけた。
「……れてぃ、おねしょした」
「おねしょ?」
テルテル坊主みたいに丸まったシーツの奥から、消え入りそうな声が聞こえる。
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