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三姉妹の真ん中はモブでいたい

青黄赤 / 著
ぽぽるちゃ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-837-3
定価 1,430円(税込)
発売日 2026/02/27

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内容紹介

双子王子の婚約者候補から次女だけあぶれました
将来は冒険者として楽しく自由に暮らす予定ですので、私のことはどうぞ放っておいてください!
カトレッド公爵家の三姉妹は、全員が双子の王子の婚約者候補。次女のミスティーナは、気性の激しい姉と妹に敵視されないよう、影を薄くして過ごしてきた。そんな彼女の夢は、しがらみの多い公爵家から逃げ出して、楽しく自由に生きること! 幸せ未来計画に向けて、家族に隠れて冒険者としてギルドに所属しながらお金を貯めつつ市井の暮らしを学ぶ日々。着々と計画を進める一方で、双子の王子たちがやたらとミスティーナを構ってくるようになって……!?
「思われていなくても良いから側にいてほしいと思ってしまったんだ」

立ち読み

 今日の私は自由学習時間が多く、教室にいることで起こりうる些事を未然に防ぐため図書室へと逃げて来ている。
 古びた本の匂いに、本を守るために薄暗い書架、反対にテーブル席には柔らかな光が差し込み、何よりテストという繁忙期を過ぎた図書館は、とても人がいない、故に落ち着く。
 個人的には穴場だと思ってここへ来て、本棚の間にある薄暗くて誰も寄りつかないテーブル席でアレコレ調べ物をしつつメモを取っていたのだが。
「あれ、ミスティーナ嬢?」
 わざわざ本棚の間にある薄暗いテーブル席に陣取っていたのにナゼいる。もしや!
「サボりですか? 殿下」
「三年はもう授業ないんだよ」
 わざわざ隣の席に座られたが拒否するのも面倒でそのままにしている。
「学園に来る意味あります?」
「出席は一応確認されるからね、今は卒業まで将来のために顔を繋ぐ時間」
 僕は煩わしいから逃げてきちゃった、とお茶目に言っていたが気持ちは分かる。
 確かにそのシステム初めて知ったけども嫌だ、何その今の期間に思う存分交流してくださいってやつ。面倒なことこの上ない。
「そう言うミスティーナ嬢こそサボり?」
「二年も自習なので」
 二年もそうだっけ? なんて返事が返ってくるが、あれ? なぜ私はこんなに和やか? に殿下と会話をしているのだろうか?
 まあ、大前提として弁明しておくと、私は殿下のことを嫌っている訳ではない。この人達と絡むと生じうるであろう出来事が煩わしいので絡みたくないだけだ。
「ペン、使ってくれているんだね」
 めざとい奴め。と今更隠しても仕方がないがなんとなく反対の手で隠す。
「……使い勝手が良い物ですから」
 もらった物はよほど気に入らない物でもない限り使い倒す主義である。
 ……今まで物をくれたのは、王妃様というセンスの塊のような人であるので、ほぼほぼ使い倒していることになるが。
「気に入ってくれたなら良かった。ところで、さっきから気になっていたんだけど」
「はい?」
「髪の毛に埃が付いているから、触れてもいい?」
「え!? ハイ! お願いします」
 髪の毛にゴミを付けたままなのはちょっと令嬢として由々しき事態である。
 するりと首元から手を差し入れられ肩が跳ねる。
「動かれると取れないよ?」
「首は人間の急所なんですよ? 正当な防衛反応なんですが」
 クスクスと笑っている殿下に、笑い事じゃないと反論するが相手は何処吹く風である。
 くるりと向きを変えられ背後から殿下が私の髪をいじる。
「三つ編みに引っかかりそうだからほどくね」
 結い紐をほどかれ手ぐしで髪を梳かれた。そんなにしつこい埃なのだろうか?
「……よく見たら両方だ。今日は一体何処をくぐり抜けてきたの?」
「私が通った場所で今日一番埃っぽいところは、図書館なんですが」
 そんなに埃をかぶることはあるのだろうか? 埃っぽいが掃除されていない訳ではないのでそんなにひどくはないと思うのだが。
 考え込んでいる間にも殿下がするすると髪に指を通す。時折殿下の指が触れた場所は、徐々に熱を持ってきた……気がする。
「殿下? サフィア殿下、いらっしゃいますか?」
 静寂を破るように、突如として耳に入ってきた声に飛び上がりそうになる。大声という訳ではないのだが、小声と表すには図書室では睨まれるレベルの音量である。
 しかし残念なことに、本日はその睨んで来そうな配慮すべき図書館利用者が、およそ私か殿下しかいないので、鋭い視線を浴びることはない。
「っと、ちょっとごめん」
「え」
 謝られたと思ったと同時に通路から見えないテーブルの陰に引きずり込まれる。
「な! むんぐ」
 後ろから抱え込まれる形となり、恋に恋する乙女的には流石に抗議ものなので、文句を言おうとしたところ、手で口を塞がれた。
「静かに」
 耳元でそう囁かれる。近すぎて息がかかる耳がこそばゆい。
「サフィア殿下? いらっしゃらないのですか?」
 声が近い。この声はもしかしなくともイモットゥーリだ。
 ヤバいヤバい! 普通に話しているだけならまだなんとかなったかもしれないが、こんなところ見られたら言い逃れなんて出来ない。
 ただでさえ卒業が近づくにつれ、お互い過激な権勢と報復合戦となっている姉妹達に、今回の出来事を知られたらマズい。
 特にイモットゥーリはアネットーカの相手と私が密着なんてしていたら、それを嬉々として言いふらしそうである。そうなれば今まで石ころ程度の存在として扱ってくれていたアネットーカに、障害物として認定されてしまうだろう。
 アネットーカに邪魔者認定されたら、徹頭徹尾私を排除しようと躍起になるだろうし、刺客でも送り込まれれば気を抜けない日々となること確実だし、見張りでも付けられれば国を出て行く計画がバレるかもしれないし!!
 こ、コレはピンチだ。
 早鐘を打つ鼓動がやけに大きく聞こえる。静まれ静まり給えと願いながら、嫌に響いて近づく靴音にさらに息をひそめる。
「おかしいですわね、確かに図書室に入られたとお聞きしたのに、あの子使えないわ。そもそも――」
 イモットゥーリの独り言はだんだんと遠ざかっていきやがて聞こえなくなった。
「「はぁ」」
 塞がれていた口への拘束が解けて、潜めていた息を吐き出したのは二人同じタイミングだった。
「……二人して隠れる必要ありました?」
 私が隠れて殿下が対応すれば良かったじゃないか。
「ミスティーナ嬢は見つかりたかったの?」
「いえ、イモットゥーリは殿下を探していたんで、殿下が対応してくだされば収まりましたよ」
 少なくとも二人同時に隠れてスリル満点なんて状況にはならなかったはずだ。
「嫌だよ、見つからないために図書室に来ているんだから」
 真っ当すぎて何も言い返せない。
「じゃあ私を見つけて、さぞかし残念な思いをしたことでしょう」
「嫌だったらそもそも話しかけてないよ」
 ごもっともである。私もそうだし。
 最近気が付いたのだが、そもそも殿下達に険悪な態度をとられることの方が少ないのだ。
 私が他の姉妹に対して危害を加えた(冤罪)の時は、当たりが強めではあったが、聞く耳は持ち合わせていたし、理不尽ではなかった。そう考えてみるとここ最近一方的に遠ざけていたのはむしろ私の方か。
「ミスティーナ嬢?」
 返事がないことを疑問に思ったのか私の名前を呼ぶ。
「あの、いつまでこの体勢で隠れているおつもりですか?」
「……あ」
 後ろから抱え込まれたままである。そろそろ離してもらいたいのだが。
「サフィア殿下! おられますの?」
 ビクっと跳ねたのはどちらの体だったのか。
 イモットゥーリの声が聞こえたことで再び息を潜める。復路があるとは聞いていないんだけど!!
「おかしいですわね、話し声らしき音が聞こえたと思ったのですが……まさか、図書室の幽霊!?」
 え、そんなのいるの? 初耳なんだけど!?
「ききき、気のせいですわね! おほ、おほほほほほ」
 イモットゥーリは引きつった高笑いをしながら足早に去って行った。が、しかし、図書室の幽霊、か。き、聞いたことない、よ? それに――。
「……まだ明るいから出る訳ない」
「……どうだろ? もしかしたら日光を克服しているかもしれないよ、幽霊」
 克服出来るモノなのだろうか? 幽霊という概念に当てはまらなくならないか? それ。
「少し考えてみたのですが、体が透けているのであまり明るすぎると見づらくないですか? わざわざ出る意味ないのでは」
「でも図書室はいつも暗いでしょ?」
「……」
「もしかして幽霊苦手だったりするの?」
「な、訳ではないですよ、得体が知れないと思ってはいますが」
 だって幽霊は物理攻撃が効かない。
 いわゆるアンデット系の魔物なら物理攻撃か、少なくとも魔法攻撃が効くのだが、幽霊は多分おそらく効かない。生物ではないし。ちなみに幽霊には会ったことがなければ戦ったこともないので推測なのだが。
「あッ!!」
「ヒッ!?」
 殿下がいきなり驚いたような声を出すのでつられて大きな声が出る。
「なななな、なんですか!?」
 見えたのか!? いたのか!? ヤツが!! 視界に入らないように背後の物体へと顔を埋める。見なければ、見えなければ比較的平気!! 多分!! ぎゅっと掴んで恐怖をやり過ごそう。
「大丈夫? ミスティーナ嬢」
 子どもでもあやすように、回された腕でぽんぽんと背中を叩かれ、我に返る。
 目の前には男性物の学園の制服。それをギッチリ掴んでいるのは私の手。制服の持ち主はもちろん殿下……。
「大丈夫じゃないです」
 どちらかというと状況の方が。
 やってしまった!?
 慌てて飛び去って距離をとる。
「……ごめんそこまで幽霊が苦手だとは思っていなかった」
「いやあの、そっちではなくて……」
 わたわたと何の意味もなく両手が動く。
 だって弱点は隠しておきたい、野生生物は弱点を知られたら命を落とす危険性が上がるのだ……じゃなくて!!
「驚かした僕が言うのもなんだけど、落ち着いて、ね?」
 立ち上がった殿下に、元々座っていた椅子を引かれ座るように促される。
 素直にそこに座ると、次にこみ上げてきたのは羞恥心だ。真っ赤になっている顔を隠すために両手で覆う。
「髪ほどいてしまったから、直すね」
「え、いや、あの?」
 宣言と共に素早くお下げを作っていく殿下を止める隙もなく、何ならお下げをまとめて結い上げられた。なぜ髪を結える。
「髪留めは持っている?」
「普段使わないのに持ち歩く訳ないじゃないですか」
「人によるんじゃない?」
 髪留めか。収納魔法には何か入っているはずだが、学園内では基本、トラブル防止のため生徒は魔法が使えないようになっている。なのでココでは出せない。
 学園で魔法が使えるのは訓練場のみなのだ。持ち物が被害に遭わないように全ての私物を持ち歩いている私は、いったん訓練場に出て、収納魔法から教科書類を出し入れして次の授業に出るのが日常化している。
 そのため髪留めなんて私物は今現在持ち合わせていない。
「じゃあこれで」
「なんで髪留めなんて持っているんですか殿下」
「自分の髪が長いからね」
「そう……ですね?」
 そうだった。普段下の方にくくってはいるけれど殿下の髪も長い。
「いやいや、騙されませんよ!? 普段リボンでひとまとめにしていますけど、髪留めでまとめているところは見たことないですし!」
「自分が付けるとは一言も言っていないよ」
 そうっすね。完全に私の早とちり、いや、誤魔化そうとはしていただろ殿下。
「実を言うと人にあげようと思っていたんだけど、その人にあげる口実が見つからなくて持ち歩いてただけ。自分で使うのも何だし、誰かに使ってほしいなって思っていたからちょうどいいなって」
「私もいただけませんが? お返しします」
 ちょうどって何だちょうどって。
「……驚かした詫び?」
「いや、詫びるくらいなら驚かさないでくださいよ」
 髪留めを外そうと後頭部に手を伸ばすと、その手を掴んで止められる。
「せっかく結ったから崩さないでほしいな?」
「あ、ハイ」
 何か圧のかけ方が王宮の侍女さんに似ていた。アレは自分の作り上げた作品を壊すなという圧でもある。
「というかもう付けてしまったし、それを他の人に贈るのも失礼だと思うから、使ってくれたら嬉しい」
「ですが」
「いらないなら捨てて」
「……アリガトウゴザイマス、時々使わせてイタダキマス」
 物に罪はない、そうないのだ。私はその後いたたまれなくなって、早々に図書室から退避した。
 気もそぞろで自習という名の自由時間をこなし、寮に戻ってから、やっと先日私の誘拐された件について聞きそびれたことに思い至った。
 あーっとため息をつきつつ髪飾りを外し、途中合わせ鏡で確認する方法もあったとハッとしながら、もらった物の全貌を確かめる。
 それは貝をくりぬいて細工がなされている髪飾りだった。小花を何個も連ねているデザインで、花の真ん中に小さな石が埋め込まれている。
 見間違いでなければ殿下と出掛けた時に意見を求められた品である。
「でも宝石は一種類だけだったような?」
 何の石だったかは忘れたが、薄い桃色の石が入っていた気がする。ということはこれは特注品か。
 手元にある飾りの石は、寒色系を中心に様々な宝石が埋め込まれており、アクアマリンに、アメジスト、サファイアに、ブルーダイ……!?
「なんか希少な鉱石まで入ってない?」
 見ただけでこれだと自信を持って言えるほど宝石に詳しい訳ではないが、それなりに見分け方は王妃様から仕込まれている。代表的な石の色であるとか、光を当てた時の輝き方だとか、内包物だとかである。
「高くないこれ、誰にあげる気だったんだろ……」
 寒色系の宝石、つまりは青系の石が多い訳である。
「あーなるほどね?」
 アネットーカの瞳の色はアイスブルーである。殿下の名前の由来はサファイアだ。
 寒色系は二人を象徴するような色に違いない。
「……ま、金に困ったら売ってしまおう」
 もらった物を今更返すのも申し訳ないし、かといって返せと言うような男ではないだろう。ほとぼりが冷めたら売ろうなんて心に決めて収納魔法にしまい込んだ。


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