書籍詳細
契約結婚のオマケ妻なので自由を満喫していいですよね?
| ISBNコード | 978-4-86669-817-5 |
|---|---|
| 定価 | 1,430円(税込) |
| 発売日 | 2026/01/30 |
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内容紹介
立ち読み
「これなら文句ないでしょう」
二人で一つのブランケットに一緒に包まる。ちょっと恥ずかしいけれど、こうすれば二人とも暖かいはずよ。
「そうだな」
サイラスも納得したようで優しい声でうなずいた。
暖炉の木がパチパチと音を出して燃えている。
落ち着いた深みのある彼の香りから、距離の近さを感じる。
「さっきの話――」
サイラスが真正面を向きながら口を開く。
横から見る彼の顔は端正でつい見惚れてしまう。
女性たちから騒がれるのも無理はないわね。
「カルロス侯爵夫人と話していたが……」
「ええ」
サイラスは最初、グッと唇を引き締めた。
「今は二人の時間を大事にしたいと言っていたな」
「あっ、それは……」
言葉に詰まり、しどろもどろになる。皆の前でとっさに出た台詞だった。
「カルロス侯爵夫人が跡継ぎとか言ってきたから……」
上手くごまかす方法がわからなかっただけだ。
サイラスは静かに顔を向けた。
「同じ考えだ」
「え……」
「俺も君と同じで、まずは二人で過ごす時間を大切にしたいと思っている」
それはどういう意味なの?
私たちは鉱山で結ばれた契約結婚のはずじゃないの。
「今はそれでいいと思っている。だが――」
サイラスの全身に力が入ったのがわかった。ものすごく緊張している?
「いつかは俺のことだけを見てくれるか?」
とっさに言葉が出なかった。
サイラスの真剣な眼差しが目に飛び込んできたからだ。
それに、まるで私が他の人を見ているかのような言い方が引っかかる。
でもそれよりも、私を自分だけのものにしたいと、望んでいるようじゃない。
鉱山の採掘にしか興味がないんじゃないの? 三年後には別れるって決めたはずよ。
さまざまな思いが胸に交錯する。
「それって……」
混乱して眉根を寄せた。ダメだ、サイラスの言いたいことがわからない。
口を開きかけた時、外がピカッと光った。次の瞬間、雷鳴がとどろいた。
「キャーー!!」
叫び声を上げ、耳をふさいだ。
「今の音は絶対近くに落ちたわ!!」
こんなに大きな雷は初めてで、パニックになる。冗談じゃない。私は雷がとても苦手なのだ。
恐怖心から目の前のサイラスに力いっぱいしがみついた。
そうこうしているうちに、また外からゴロゴロと聞こえ始めた。
「来る? また来るの!?」
サイラスに抱きつき、顔を埋める。
怖い怖い、雷なんて大っ嫌いだわ。
震えていると、そっと耳に手が触れた。きっとサイラスは私に雷を聞かせまいとしてくれているのだ。
サイラスの胸に顔を押しつけ、ギュッと目を閉じた。
彼の胸の音が聞こえる。
ドクドクと規則正しい音を聞いていると、いつしか心が落ち着いてきた。それに彼の体温は、熱いほどだ。
やがて雷の音が静まってきた。遠ざかっていった気がする。
埋めていた彼の胸からおずおずと顔を上げる。
「もう、大丈夫?」
目が合ったサイラスは気のせいか、頬が赤い。
彼はごくりと喉を鳴らす。手を伸ばし頬に触れ、私の顎を優しくつかんだ。
え……。
彼の顔が真正面から飛び込んでくる。
長いまつ毛、その奥に輝く瞳から熱情を感じた。
どうしてこんな眼差しを私に向けてくるの?
言葉にしたくても口から言葉が出ることはなかった。
サイラスの端正な顔がゆっくりと近づいてくる。
それ以上近づいてきたら、ぶつかってしまう。
反射的に腰が引けそうになったところで、グッと腕を回された。強い力を感じる。
熱っぽい顔をしたサイラスの顔が、静かに落ちてきたその時――。
「雷、怖い怖い!! 避難~~!!」
大きな声と共に、バタンと大きな音を出して扉が開いた。
「あ……」
扉を開けた人物と目が合った。
「セドリック様!?」
そこにいたのはセドリック様だった。お付きの人たちも数名控えている。
一瞬固まってから私はサイラスを押しのけ、すっくと立ち上がった。
「まあ、すごいびしょ濡れ」
「そうなんだ、見てよこれ。全身ぐっしょり」
セドリック様は両手を広げた。
「狩りをしていたらすごい豪雨でさ。こうなったら中止するしかない。で、僕たちは避難してきたってわけ」
セドリック様は身振り手振りで説明してくれる。どうやら先ほどまでの私たちの様子は見えていなかったようだ。危ないところだった……。変な汗が出てしまった。
そっとサイラスを見上げると、なぜか肩を落として大きなため息を吐き出し、額を手で押さえている。
「君たちにも見せてやりたかったな、こんな大きな熊を仕留めそうだった」
セドリック様は両手を広げて豪快に笑った。
「熊!?」
まさかこの森に熊が生息しているの!? とても危険な動物なのに。襲われたらひとたまりもない。
「大丈夫だ、セドリック様は少し、いや、かなり盛って話すお方だから」
サイラスが冷静に私に言い聞かせた。
「サイラス、本人の前で言わないでくれるかい」
「失礼しました」
太々しい態度を取りながら、深々と頭を下げた。
「クション!!」
その時セドリック様がくしゃみをした。いけない、風邪を引いてしまうわ。
「セドリック様、暖炉の前にどうぞ」
「助かるよ。じゃあ、遠慮なく」
お付きの方々も小屋に入ってもらった。これだけの人数が集まるとさすがに中が狭く感じる。
「こちらをお使いください」
先ほどまで使っていたブランケットを、セドリック様へそっと差し出した。
視線を感じ、サイラスが私を見ていることに気づく。顎に手を当てて、なにかを考え込んでいる様子だったが、私と目が合うと、サッと逸らした。
そういえば……。
セドリック様が現れたことで忘れていたが、さっきサイラスと――。
サイラスはなにをしようとしたの? まさか口づけ? ううん、そんなわけないわよね。
意識してしまうと顔が火照る。
両手で頬を挟むが熱を持っている気がする。
いけない、セドリック様もいるのに挙動不審にならないように、平常心よ!!
窓に目を向けると外は先ほどまでの空模様が嘘のように、雨が止んでいた。
私はサイラスに近づき、こそっと耳打ちをした。
「私たちもう戻らない?」
「だが……」
「今は小雨だし大丈夫よ。マリエッタも心配していると思う。それに――」
セドリック様やお付きの人はずぶ濡れになった服を脱ぎ、しぼったり乾かしたりしたいと思う。女性である私が同じ空間にいるから遠慮しているように感じた。
「男性同士の方が気がねなく過ごせると思うし」
含みを持って伝えるとサイラスには伝わったようだ。
「セドリック様、先に失礼します。妹が心配していると悪いので」
「それは大変だ。早く戻るといいよ」
そうして私とサイラスは小屋を出て、皆の待つ場所へと戻ったのだった。
「お姉さま~~!!」
マリエッタは私を見つけると、走ってきた。
「無事でよかった、心配していました!!」
ギュッと抱きついて離れないマリエッタ。
「ごめんなさい、途中で雨がひどくなってきて、小屋で休んでいたの」
「こっちのお茶会は中止になり、皆が早々と帰り支度を始めて。私は馬車の中で雨が止むのを待っていました」
あの雨の中、きっと心細い思いで待っていただろう。マリエッタの頭をそっとなでた。
「寂しかったでしょう、ごめんなさいね」
だが意外なことに、マリエッタの頬がボッと赤く染まった。
「と、とんでもないです!!」
両手と頭を大きく横に振る。
「ラドルフ様が狩りから早々に帰ってきて、様子を見に来てくださったのです。馬車に招き入れてくださり、一緒にお姉さまを待ってくださったの! たくさんお話ができて、とても素敵な時間が過ごせました」
どうやらラドルフが一緒にいてくれたようだ。心細い思いをしなくて良かった。
「ようやく戻ってきたようね」
横からヌッと顔を出したのはディアーナだった。
「あなたも待っていてくれたの?」
「なっ……」
ディアーナは言葉に詰まる。
「当然じゃない。あなたったら、森に消えたまま帰ってこないんですもの! そのうち雨は降り出すし!!」
「ありがとう。心配かけたわね」
ディアーナはツンとそっぽを向きながら、ブツブツ言葉を続けた。
「まあ、私は心配なんてしていないけどね。サイラスが一緒なんだし。なにも怖いことはないじゃない」
その様子を見たマリエッタがクスクスと笑う。
「ディアーナ様はいつお姉さまが帰ってくるか、何度も馬車から降りて、周囲を確認していましたわ」
「マリエッタ、そんなこと言わなくてもいいから!!」
「アイシャ、無事だったか」
そこへ私に気づいた兄が森の方から駆け寄ってきた。
「お兄さま、ご心配をおかけしました」
「あまり無茶するなよ」
ラドルフは私の肩を軽くポンと叩いた。
「あら、お兄さま、それは……?」
ラドルフはバスケットを手にしている。蓋つきのバスケットはサンドイッチや軽食を入れて持ち運ぶのにピッタリだ。
「まさかピクニックへ行こうとしています……?」
この天気が不安定な中、出かけようというのだろうか。だとしたらわが兄ながら止めなければ。
「違う、違う!! さすがにこの天気でそれはない」
ラドルフは焦って弁解する。
「ちょうどいい大きさだっただけだ」
つぶやくとマリエッタに向かってズイッとカゴを差し出した。
「マリエッタ嬢、これをやる。ハンカチのお返しだ」
「え……私にですか?」
驚いたマリエッタは目を瞬かせてカゴを受け取る。
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「ああ、そっと開けると約束してくれ」
彼女は小さくうなずきゆっくりとふたを開けていく。するとそこには小さなリスが入っていた。丸い瞳でこちらを見上げ、鼻をひくひくさせている。
「可愛い!!」
「大人しい種類のリスで人にもよく懐く。可愛がってやってくれないか」
「嬉しい!!」
マリエッタはカゴをギュッと抱え、破顔する。
「私、精いっぱいお世話しますわ!!」
「ああ、そうしてやってくれ」
「毎日ご飯をあげて水浴びもさせて、夜は一緒に寝ます」
「はは、人間みたいだな」
「名前は『ラドルフ』とつけてもよろしいでしょうか!?」
「あっ!? 俺……?」
ラドルフは目をぱちくりとさせた。
「別に構わないが……。違う名前の方がいいんじゃないか」
ラドルフは顎に手を当て苦笑している。
「いえ、素敵な名前です!! それにラドルフ様がお側におられる気がするので」
マリエッタの際どい発言を聞いても、ラドルフは笑うのみだ。
「ちょっと……」
「ん? なんだ」
ラドルフの服の裾を引っ張る。
「雨が降っている間、馬車の中で待っていたとお聞きしましたが――」
いったい、なにをしていたのだろうか。気になる。
「ああ、お前の小さい頃の話や、しりとりをして時間を潰していた」
ラドルフの返答を聞き、胸をホッとなで下ろす。
変な噂になっては困ると心配したが、考えすぎだったようだ。
まあ、マリエッタはまだ十一歳だし、ラドルフは基本子供や動物に優しいから。
「私、一生懸命に面倒見ますから、ラドルフ様もたまに会いに来てくださいますか?」
「ああ、そうだな。約束しよう」
頬を染め、満面の笑みを見せるマリエッタに、ラドルフは優しい眼差しを向け、彼女の頭をくしゃくしゃとなでた。
狩りはその場でお開きとなった。
もっとも雨が降った時点で大半の貴族たちは帰っていた。
残念だが、天気はどうしようもない。
一方でリスをカゴに入れてウキウキのマリエッタは張り切っている。
「帰ったらラドルフのためにいろいろ準備してあげなくちゃ」
「そうね、エサも用意しなければいけないわね。――クシュン」
とっさにクシャミが出てしまった。
「お姉さま、大丈夫ですか」
「ええ、気にしないで」
雨に打たれて体が冷えたせいだろうか。鼻がムズムズした。
ふわりと肩が温かくなったと同時にサイラスの香りがする。
「これを羽織っていろ」
それは彼の上着だった。
「あ、ありがとう」
照れながらも言葉にすると、サイラスは口の端を少し上げた。
「帰るか」
サイラスの一声で馬車に乗り込むことになった。
「お姉さま」
服の裾を引っ張るマリエッタと目が合った。
「どうしたの?」
顔を近づけると耳打ちをされた。
「お兄さまとなにかありました?」
「えっ……」
私は小屋での一件を思い出し、顔が赤くなった。
「お兄さま、すごく機嫌がいいから気になって」
「そ、そうかしら」
兄妹だからこそ、わかるのだろうか。
「お二人には恵みの雨だったのかもしれませんね」
マリエッタはニコッと笑うと私を急かし、馬車に乗り込んだ。
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