書籍詳細
大嫌いな幼馴染が初恋の騎士様にそっくりな顔で迫ってきます!?
| ISBNコード | 978-4-86669-823-6 |
|---|---|
| 定価 | 1,430円(税込) |
| 発売日 | 2025/12/26 |
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内容紹介
立ち読み
「俺からのプレゼント」
「えっ?」
「社交界デビューの記念だ。今日のドレスに合わせて作らせたんだ。綺麗だろ?」
それはとても繊細なデザインのネックレスで、小さな薄紫色の宝石たちが無数に流れる花のように優しく揺れながら、とても美しく輝いていた。
「……すごく綺麗。それにこの色とデザイン……もしかしてこれ、雪割草を?」
「ああ。お前、好きだろ。……気に入った?」
「ええ、とっても! だけど、お借りするならまだしも、これを私がいただくわけにはいかないわ。だってこれ、見るからに高価そうだもの」
「パートナーにアクセサリーを贈るのは、男の喜びなんだ。だからそんなこと気にせずに受け取れって。こういうのは、受け取らないほうが失礼なんだからな?」
そんな風に言われてしまったら、受け取らないわけにはいかないだろう。第一、こんなに素敵なネックレスを贈られて、嬉しくないはずがない。それも……自分の好きな人から。
「それなら、ありがたく受け取るわ。エルヴィン、本当にありがとう!」
そう言うと、今度はエルヴィンが固まった。
「エルヴィン……?」
「そこでその笑顔は……反則だろ」
「えっ、なんて?」
「なんでもない」
なぜか急にそっぽを向いてしまったエルヴィンと、くすくすと笑う侍女たち。
直後にバルテン執事が、馬車の準備ができたと伝えに来た。私たちはそのままふたりで移動して、エルヴィンに丁寧にエスコートされながら、公爵家の立派な馬車に乗り込んだ。
「……さすがに緊張するわ」
「緊張することなんて、何もないだろ。君は礼儀作法も完璧だし、王都の貴族の情報だってもう王都の普通の貴族たちより遥かに知っているさ。それにダンスだって――」
「うん、エルヴィンや公爵邸の方々のおかげで、そのあたりの心配はもうないわ。だけど……やっぱり不安よ。いくら知識をにわか仕込みで身につけたからって田舎伯爵令嬢には違いないし、王都の洗練されたご令嬢たちとは全然違うもの」
私がそう言うと、正面に座っていたエルヴィンがすっと私の隣に移ってきた。
「どうしたの?」
「ちゃんと伝えてなかったことがあるなと思って」
「えっ、なあに!? まだ、覚えるべきことがあった――」
その言葉を最後まで言う前に、エルヴィンに口を塞がれてしまった。今回も、彼の口で。
「んっ……エルヴィン、急に何っ――んんっ……!」
突然のキスの意図がわからず尋ねようとしても、さらに深く口づけられて、すっかり困惑する。
でも、ファースト、セカンドと数えられていた頃とは違い、ディープも含めもはや数えきれないほど繰り返したエルヴィンとの甘いキスにすぐさまうっとりとさせられてしまい、途中からはもう何も考えられなくなった。
そうしてすっかり蕩けさせられたところで、ようやく唇が離れた。
「はあ……はあ……エルヴィン……?」
「……アイリーン、今日の君は本当に美しいよ」
「えっ?」
「君は、いつだってとても綺麗だ。だが今日は、特別に綺麗だよ。だから、自信を持ってくれ」
深い口づけからのあまりに優しい褒め言葉に、恥ずかしさと嬉しさとで顔がものすごく熱い。
でも、どうして急に? と考え、まもなくその理由に思い至った。たくさん意地悪もするけど実はとっても優しい、エルヴィンらしい理由に。
「ふふっ!」
「……なんだよ?」
あんなキスをしてあんなことを言って、私をこんなにドキドキさせておいて、今はわかりやすく恥ずかしそうな顔をしてる。そんなところも含めて、私はエルヴィンが好きでたまらないみたい。
「エルヴィン、貴方って、なかなか優しいところがあるのね! 励ましてくれてるんでしょう? そしてキスで、緊張も解してくれた。おかげで、さっきまでみたいな緊張感はもうなくなったわ。それに――今のキスのおかげで、ちゃんと思い出せた」
「何を?」
「毎晩、貴方が教えてくれたこと。あの秘密のレッスン、私が田舎令嬢だって舐められないためのレッスンだったものね。ねえエルヴィン、正直に答えてね? 一週間前の私より今の私のほうが、女として魅力的になったと思う? これなら、田舎者で世間知らずの初心な令嬢だって思われずに済みそうかしら?」
優しい彼は、きっと肯定してくれる。それがわかっててこんなことを尋ねたのは、たとえそれが私を励ますための言葉にすぎなくても、「君は魅力的だよ」って、彼から言われたかったから。
この質問に、エルヴィンは私の頬をそっと撫でながら言った。
「ああ、誰も君をそんな風に思わないよ。本当に……後悔するほど魅力的になったから」
彼の手が触れたところが、すごく熱い。でもとても優しく微笑んでいるのに彼がどこか切なげに見えるのも気になるし、なにより――。
「……後悔? ねえエルヴィン、それってどういう意味よ? 褒めてるの、貶してるの?」
なぜか意味深に笑ったあとで、エルヴィンは言った。
「挨拶のときを除いて、今夜は何があっても、一瞬たりとも俺のそばを離れないこと。いいな?」
「えっ? ええ、もともとそのつもりだけど?」
「絶対だぞ?」
さっきの表情とあの言葉の意味もわからないし、エルヴィンがわざわざこんなことを言った理由もわからなくて、困惑する。
でもそこにどんな意味があるとしても、一瞬も離れないようにと彼に言われたことが、なんだかとても嬉しかった。そうだ、少なくとも今日、エルヴィンは私だけのパートナーなのだ。
直後に今夜の会場である王宮に着いたため、私たちは馬車を降りて、舞踏ホールへと向かった。
ホールに入場した瞬間、思わず言葉を失った。
大理石の付柱と黄金の彫像が立ち並ぶ、全長百メートルはあろうかという美しい鏡張りの回廊。壮麗な天上界が描かれる高い天井からは豪奢なクリスタルのシャンデリアがいくつも吊られており、その眩い虹色を無数に反射し煌めかせる鏡面は、その下に集う華々しい人々の姿までも無限に反射させている。この中へと立ち入るのは、夢の中に足を踏み入れる感覚に一番近いかもしれない。
豪華絢爛、などという言葉では到底足りない。ここは、まさに別世界だ。それこそお城のようなエーデルシュタイン公爵邸に見慣れた今だからこそこうして平静を装えているが、そうでなければこの雰囲気に圧倒され、一目散に逃げ出していたかも……。
さて、そんな舞踏ホールに入って早々、私はこれまでの人生で経験したことのない視線の集中砲火を浴びていた。
ほーら、やっぱり浮いてるじゃないの! 最初はそう思ったけれど、どうやらこれは違うみたい。
だってこれ、エルヴィンとテラスでお茶をしたときに向けられた、あの視線である。つまりこれも、例の「エルヴィン・エーデルシュタインのお相手の品定め」というやつなのだろう。
たしかにいくら見栄のためのパートナーでも、普通の男性とエルヴィン・エーデルシュタインでは全く違う。事情を知らない人たちにとって、まだ婚約者のいないエルヴィンをパートナーとして伴ってきた正体不明の令嬢なんて、注目を浴びないはずがなかったのだ……。
「はあ……こんなことならやっぱりエルヴィンにパートナーなんてやってもらうんじゃなかったわ」
「なんだって?」
「だってほら、こんなに注目されてしまってるのよ? 私はただ社交界デビューを王都でできたらそれでよかったのに、有名人の貴方がパートナーなせいで、そっちのインパクトが強すぎるんだわ。こんなことなら、貴方のお友だちの誰かにパートナーをお願いしてもらえばよかった」
ため息混じりにそう言うと、エルヴィンがやけに不機嫌そうに言った。
「なにを馬鹿なこと言ってるんだ? 君のパートナーは、俺以外ありえない」
「どうして? パートナーはただの見栄なんでしょ。だったら別に、誰でもいいじゃないの」
「……さあな」
「さあなってエルヴィン、いったいそれはどういう意味――」
エルヴィンは意味深な微笑を浮かべたが、そのままふっとどこかに視線を逸らした。その視線を辿ると、高官と思われる人物がホールの奥のほうから現れた。
「ほら、ちょうどパーティーが始まるぞ。忘れずにちゃんと言うんだぞ? エルヴィン・エーデルシュタインのパートナーとして参加、ってな。それが一番重要なんだ。それだけで、このあとの全てが大きく変わるから」
「もうっ! ちゃんと覚えてるわよ!」
わざわざ念を押されずとも、社交界デビュー用の挨拶文は丸暗記している。だってこの挨拶こそが社交界デビューをする令嬢の第一印象を決めるものであり、今後の社交活動の広がり方を大きく左右する、とっても大事なものだから。
だからこそ、短時間でも印象に残るよい挨拶を考えねばと、エルヴィン完全監修のもと、立派な挨拶を考えたのだ。田舎伯爵令嬢であるというマイナス部分を補うために、「エーデルシュタイン公爵家の後援で」という部分と、あのエルヴィン・エーデルシュタインのパートナーであるという点をしっかりと強調する、立派な挨拶をね!
立場の弱い貴族が超強力な後ろ盾の存在をアピールすることで社交界で生き残ろうとするのは、貴族なら当然のこと。公爵様も「めいっぱい公爵家の威光を借りてくれたまえ!」と言ってくださったので、遠慮なくそうさせてもらうつもりだ。
このあと、今回社交界デビューを果たすご令嬢たち数名が呼ばれ、順々に挨拶することになる。呼ばれるのは爵位の順なので、上位貴族しか参加していないこのパーティーで伯爵令嬢である私は最後のほうのはず。
というわけで、自分が呼ばれるまではひとまず気長に待とうと思ったのに――。
「アイリーン、さっそく呼ばれたぞ? 挨拶、頑張れよ」
そうエルヴィンに言われて何かの間違いではないかと思ったが、しかしもう一度はっきりと私の名が呼ばれ、エルヴィンがパートナーであることまで言及されたことによって、これまで向いていなかった視線までもが一斉に私たちふたりに集まった。
「えっ!? どうして私が最初に呼ばれるのよ!? はっ、もしかして今日社交界デビューするのって、私だけなの!?」
「そんなわけないだろ。ほら、ここから応援しといてやるから。それとも、俺も一緒に行ってやろうか?」
「馬鹿言わないでよ! 付き添ってもらうなんて、子どもじゃないんだから!」
「そうか? じゃ、頑張ってこいよ」
そう言ってエルヴィンはぐいっと私を引っ張ると、私の頭にちゅっとキスをした。
「「「きゃあああっ!」」」
悲鳴にも似た黄色い声が、大きなホール中に響き渡った。
「ちょ、ちょっとエルヴィン!? いったいなんのつもり――!」
「早く行けって! みんな待ってるぞ!」
彼の予想外の行動に唖然としつつ、でも仕方がないのでそのまま前に出て、壇上へと上がった。
会場中の視線が一身に集まり、本当に卒倒しそう……だけど、たくさんの人に協力してもらって迎えたこの社交界デビュー、失敗するわけにはいかない。
深呼吸。そして、エルヴィンのほうを見る。いつもの、ちょっと意地悪なあの笑顔を見たら……なぜか嘘みたいに、安心できてしまった。
「王都の皆様、初めてお目にかかります。エーデルシュタイン公爵家の後援で本日参加いたします、シェーンベルク伯爵家のアイリーンと申します――」
こうして……無事、社交界デビューの挨拶を成し遂げたのだった。
一言一句間違わずに言えたし、挨拶文自体はエルヴィンと推敲に推敲を重ねたので完璧なはず。それに練習の甲斐もあって、なかなか堂々と振る舞えたと思う。
うん、そのためなのだろう。そのためなんだろうけど……これはどうも、尋常じゃないレベルの拍手喝采な気がする。大成功、ということでよいのだろうか。ある程度の拍手をいただけることは期待していたが、ここまでの喝采を浴びると逆に不安になってしまう……。
エルヴィンがわざわざ私を迎えに来てくれたので彼の手を取ると、それだけでまた大きな歓声と拍手。
「完璧だったよ」
「本当? よかった。でもまさか、あんなに歓迎ムードだと思わなくて驚いたわ」
王都ってもっと冷たいところかと思っていたけれど、よそ者をこんなに温かく迎えてくれるなんて、想像してたより怖いところではないのかもしれない。
「君は、エルヴィン・エーデルシュタインのパートナーだからな。失礼なことをできるわけがない」
そう言って例の如く、自信満々な顔で微笑むエルヴィン。
「ふふっ! 貴方に感謝しなくちゃね! 貴方のおかげで、社交活動が断然楽にできそうだわ!」
「言っただろ? 俺のパートナーだってことが、一番重要なんだって」
「ええ、本当にそうみたいね!」
ちなみに、そのあと結局七名のご令嬢が一緒に社交界デビューしたけれど、いずれも私より身分の高い家柄だった。それでようやく、私が最初に呼ばれた理由もわかった。あれもエーデルシュタイン公爵家が後援だからだ。こうして改めて、エーデルシュタイン公爵家の貴族社会における圧倒的な強さというのを実感することになった。
社交界デビューする令嬢たちの挨拶が終わると、次はダンスタイムだ。いよいよ例の特訓の成果を見せるときだと気合を入れ直していると、エルヴィンがなぜか私の前で膝をついた。
「エルヴィン?」
またもや会場に、大きな歓声が起こる。何事だろうと思って周囲を見回すと、エルヴィンのほかにも何名かの男性が、パートナーと思われる女性の前に跪いている。
――どうやら、まだ知らなかった慣習があるらしい。どうして予め教えてくれなかったのだろうと不思議に思いつつ、でもきっとエルヴィンのことだから、私がこうして予定外のことに驚く様子をおもしろがりたかったのだろうと気づく。
エルヴィンは目の前で跪いたままそっと私の手を取ると、妙に真剣な眼差しで私を見つめた。
「アイリーン・シェーンベルク。私は今夜、貴女ひとりとだけ踊ることをここに宣言いたします」
大きな声で、突然そんなことを言い渡された。いや、改まってそんなこと宣言しなくても、前に自分でそうするって言ってたじゃないの。
不思議に思っていると、彼は私の手の甲にそっと口づけ、またもや会場に歓声が上がる。それも、会場全体が揺れるほどのものすごく大きな歓声が。
今のこのパフォーマンスに、そんなに盛り上がる要素があっただろうか。こんなことでこれだけ場を盛り上げてくれるなんて、王都の人たちってものすごくノリがいいのかもしれない。
でも、今もまだとても真剣な表情で私を見つめるエルヴィンの目を見ていると、心臓がおかしくなりそうなほどドキドキしてしまう。だってこんな風に跪かれ、手の甲にキスされて……こんなの、まるでプロポーズでもされたみたいだもの。
エルヴィンに続いて、ほかの跪いている男性たちもパートナーの女性に対し同様の宣言をして、その度に大きな歓声が上がった。どうやら、この宣言をするのは王都の流行らしい。
「……ってことで、ここからはダンスを楽しもうか!」
立ち上がった笑顔のエルヴィンが、私をぐいっと抱き寄せる。それと同時に音楽が流れ出して、私たちはダンスを始めた。
この続きは「大嫌いな幼馴染が初恋の騎士様にそっくりな顔で迫ってきます!?」でお楽しみください♪













