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期限付きの継母なのに、可愛い継子と冷徹陛下からの溺愛が留まるところを知りません

十帖 / 著
桜花 舞 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-827-4
定価 1,430円(税込)
発売日 2025/12/26

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内容紹介

家族とはどんなものか私が教えて差し上げます!
魔寄せ体質が原因で期間限定の王妃に!?
ウソから生まれたホンモノの恋物語
魔寄せ体質の男爵令嬢ステラは、王子リヴェルのお披露目パーティーで、突然、彼に「僕のかあさま!」と抱きつかれてしまう。4歳のリヴェルは身体に魔獣を封印しており、それがステラの体質に反応したのだと、父親である国王のスアヴィスは推測。母親を早くに亡くしたリヴェルのために「王妃になってほしい」とステラに頼み込む。期間限定で承諾したステラだったが、なぜか夫からも継子からもめちゃくちゃ愛されて……? え、私って期間限定のはずでは!?
「君が君だから好きになった。ずっと俺とリヴェルのそばにいてほしいと思った……どうか本当に、俺の妻になってくれないか」

立ち読み

 二分ほど歩いて開けたところまで出ると、視界に広がった景色にステラは歓声を上げた。
「わあ……っ! 綺麗です……!」
 視界の先には、色とりどりの花が一面に咲き乱れていた。雲一つない青空の下に広がる花畑は、七色の絨毯みたいだ。風が吹く度に揺れる花は、笑っているようにも見える。揺れて角度が変わる度に色合いも変化し、様々な表情を見せる花畑に、ステラは感嘆の息を吐いた。
「綺麗ですね、リヴェル……!」
「うん! すごいねぇ」
 継母がはしゃいでいる様子が嬉しいのか、リヴェルもご機嫌だ。
「本当に綺麗です……。王都の外にはこんな場所もあったのですね……」
「――君が好きそうだと思って。こんなことしか思い浮かばなかったが……気に入ったか?」
 そう尋ねるスアヴィスの表情は、わずかに緊張している。
(君が好きそうって……もしかして、私を喜ばせようと……?)
 馬車の中で黙りこんでいたのは、ステラの喜ぶことを考えていたせいだったのかもしれない。
(……優しい……!)
 御伽噺のワンシーンのように綺麗な景色とスアヴィスを交互に眺め、ステラは目を輝かせた。
「はい! とっても素敵です。わ、いい香り……」
 風に乗って、花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「陛下、素敵なところに寄ってくださって、ありがとうございます」
「……ああ」
 ホッとしたように、スアヴィスは顔を綻ばせる。その表情がとても甘くて、同時に宝物を慈しむみたいに優しくもあって、ステラは胸が小さく高鳴った。
 その後、やってきたレリアナが大きい布を敷いてくれたので、そこに腰を落ちつける。お茶や軽食も用意してくれた彼女が去っていくと、リヴェルはやる気に満ちた声を上げた。
「僕、かあさまにお花の指輪つくる」
「え?」
 紅茶を飲む手を止めたステラは、ティーカップをソーサーごと敷物の上に置く。リヴェルは両手を天に突きあげ、勇んだ様子で言った。
「お花で指輪、つくれるよね?」
「ええ。よく知ってますね」
「アルがいってたよ」
 木陰で警護をしているアルフィニクを指し、リヴェルが言った。話が聞こえていたのだろう、ステラたち同様レリアナからもらったお茶を飲んでいたアルフィニクが説明する。
「イルフィニアスでは結婚式で指輪を交換する文化があるって、以前リヴェル様に噛み砕いて説明したんですよ。要は大好きな人に指輪を贈るんだって」
 護衛と言いつつ世話係のような役目も果たすアルフィニクに教えてもらった知識を、リヴェルは披露したらしい。
「僕、かあさまに指輪あげる」
「わあ、とっても嬉しいです」
 ステラは継子の優しさに感激して喜ぶ。指輪をくれるとは、大好きと言われているのと同義だ。嬉しくないはずがない。しかし……。
「ダメだ。リヴェル、お前は指輪をステラには贈れない」
 意外なところで、制止の声がかかった。スアヴィスだ。止められたリヴェルは、くしゃりと顔を歪める。
「なんで?」
「……ステラは、俺のお嫁さんだからだ」
 禁止したスアヴィスは、小難しい顔をして告げる。ステラは目を点にして言った。
「え……? わ、私は……」
「君は俺の妻だろう。リヴェルには正しい知識を身に付けさせたい。だから薬指に指輪を贈るのはダメだ」
「え、あ……そう、なのです……?」
「そうだ。分かったな?」
 スアヴィスの手がステラの頬を撫でる。まるで言い聞かせるみたいな言動に、ステラは顔を赤らめながらコクコクと頷いた。
(あ、圧が強い……。それに何だか、陛下の距離が以前より近いような……?)
 対して、不満を露わにしたのはリヴェルだ。小さな天使は父親に向けて歯をむき出し、威嚇する。
「うーっ」
「唸ってもダメだ」
「やだ! 僕かあさまに指輪おくるんですっ」
 譲らないリヴェルに、スアヴィスは手を焼く。ステラはどっちの味方をすればよいのか分からず、アルフィニクに助けを求めて視線をやった。しかし当の彼は、のほほんと「愛されてますねぇ、ステラ様」と呟くだけだ。
 スアヴィスは眉間にしわを刻んで言った。
「ステラに贈るなら花冠にしろ。ほら、作り方を……アルフィニクが教えてくれるはずだ」
「え、陛下、勧めといて知らないんですかっ!?」
 急に指名されたアルフィニクは、持っていたティーカップのお茶を零す勢いで突っこむ。ステラはこれ以上スアヴィスとリヴェルが険悪な空気にならないよう、慌てて挙手した。
「わ、私、知ってますよ。では皆で作りませんか? 交換しましょう」
「一緒につくる?」
 へそを曲げていたリヴェルが、ステラに尋ねる。
「ええ。一緒に作ります」
「んー……じゃあいいよ」
「何でステラの言うことは素直に聞くんだ……」
 スアヴィスの呟きに苦笑を返しつつ、ステラは花を丁寧に摘む。
「早速編みましょう。こうやって、まずお花の二本の茎を交差させて……」
 リヴェルが見よう見まねで花を編み進める。それに手を貸してやりながら自分の分も作っていると、スアヴィスは感心したように言った。
「……君は何でも知ってるな」
「いいえ……! 知らないことばかりですよ。陛下の視察に同行して痛感しました。干ばつ問題は私たちにとっても深刻な課題なのに、解決方法の一つも浮かばず……情けないです」
「だが、一緒に協力してくれるんだろう?」
「はい! 私の知らないことを沢山学びたいです! 私は期限付きの王妃ですが、だからって終わりの日を迎えるまでお飾りでいるのは違うと思うので。たった一時でも、国を治める陛下の妻になったのですから、できることは何でもしたいです! 陛下……? っきゃ」
「できた」
 スアヴィスの手により帽子を外され、代わりに彼の作った花冠を頭上にそっと載せられる。いつの間に。クッキー作りの時は不器用に思われたスアヴィスだったが、花を扱うのは上手らしい。
 いまだ悪戦苦闘中のリヴェルは、柔らかい色合いの花冠をつけたステラを見上げて絶賛した。
「かあさま、かわいいね」
「ありがとうございます。陛下も……」
「……可愛い」
 ふと、心の中の声が滲みだしたかのような響きだった。一切の混じりけを含まぬ声色で呟かれたスアヴィスの言葉に、ステラの体温が上がる。
「あ、あの……っ?」
「君の髪に映えてよく似合ってる」
 何の衒いもない、だけど甘い声だった。はたしてスアヴィスは、以前からこんな慈愛に満ちた表情で自分を見つめていただろうかと、ステラは疑問に思う。
(私に向けられる視線が、触れる指先が、かけられる言葉が、甘く感じる……)
 煮詰めた砂糖よりも甘い仕草に、ステラの心拍数は上がっていくばかりだ。
(お、落ちついて、私。私は契約妻で、形だけの王妃なんだから……! きっと陛下がとろけるように甘く接してくれるのも、彼の中の魔獣が、私の魔寄せ体質に反応してるだけに違いないわ。……違いないの、よね?)
 胸の高鳴りを覚えながらスアヴィスを見つめ返すと、秀麗な彼の顔が近付いてくる。アメジストの瞳を縁どる睫毛の多さに驚くほど、距離が近い。そう思っていると……。
「僕のもできたー!」
 スアヴィスとステラの間に割って入るように、リヴェルが完成した花冠を掲げた。
「とうさま、かあさま、僕のじょーずにできた?」
「……ああ」
「と、とっても上手ですよ!」
 自慢げなリヴェルを目いっぱい褒めてやりながら、ステラはスアヴィスを盗み見た。もしリヴェルに話しかけられなかったら、唇が重なってしまいそうなほど距離が近付いていたのでは。そう思うと、心拍数が上がる。
(わ、私が気付かなかっただけで、きっと陛下は距離感が近い方なんだわ)
 きっとそうに違いない。だから一刻も早く、騒がしい心臓が落ちつくようにと願う。
 ステラが平常心を取り戻すため深呼吸していると、スアヴィスは不意に囁いた。
「ありがとう、俺は君に救われている」
 それは先ほどステラが発した『できることは何でもしたい』という言葉に対する礼だろう。そうに違いないのだが、いかんせんスアヴィスは大袈裟だとステラは思った。
(救われているなんて)
 自分の方こそ、スアヴィスとリヴェルと出会ってから幸せでいっぱいなのに。身に余る言葉を受けて、ステラは鈴蘭のように可憐な笑みを浮かべた。


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