書籍詳細

冷徹宰相閣下にハニートラップをしかけたら予想外にチョロかった件
ISBNコード | 978-4-86669-789-5 |
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定価 | 1,430円(税込) |
発売日 | 2025/08/29 |
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内容紹介
立ち読み
「イルーゼ。こんなところで何、油を売っているんだ」
「うわっ」
突然話しかけられたせいで、場に似合わない声が出た。
カレルギー伯爵は、これだから礼儀のなっていない娘は、とでも言うような目線を投げてきた。
「さっさとあの男を誘惑してこい」
「開始直後から誰かしらが側に張りついていて、ちっとも隙がないんですよ」
女性然り男性然り。若いも老いもよりどりみどり。さすがは宰相閣下。大人気だった。
「浮かれる暇があったら、育ててやった分だけ仕事をしろ」
釘を刺されたイルーゼは、ディートハルトを注視することにした。
彼だって人間だ。生理現象くらい訪れるし、休憩を挟みたくもなるはず。
その時をじりじりと待ちわび、どれくらい時間が経過しただろう。
標的が動いた。
大広間から続き間へ。すたすたと歩くその背中を追って歩けば、人の気配が徐々に少なくなっていくのが分かった。
話しかけるなら今だ。
(あっ。その前に、目をうるうるさせておくんだっけ)
背中をぴたりと壁につけて、ポケットから小瓶を取り出し蓋を開ける。
ぽたり、ぽたり、と目の中に雫を入れて準備完了。
よし、と心の中で気合を入れた。
背後から声をかけようとしたイルーゼは、シュヴァルツェン宰相と呼びかけようとして、寸前で止めた。誘惑するのだから最初から名前呼びの方がいいだろう。
「お待ちになってください。ディ……ディートハルト様」
前方を歩くディートハルトが立ち止まった。
イルーゼは歩みを止めずに彼に近付く。
ディートハルトが振り返った。
「きみは……」
ここは一気に仕掛ける時だ。
「きゃあ」
若干棒読みのきらいはあったが、イルーゼは躓いたふりをしてディートハルトの胸の中に飛び込んだ。
日々同僚たちが繰り広げる、いかにして男性との自然な出会いを演出するかという議題を耳にして得た知識である。躓いたふりをして胸に飛び込むか、目の前で手巾を落とすか。どちらがより有効か、意見をぶつけ合っていたのを覚えている。
(これで振り払われて、生ごみを見るようにわたしを見下ろしてきたら、第一回目の任務は完了よ)
異母兄には「次、頑張ります」と言ってお茶を濁そう。
五秒。
……十秒が経過した。
(ん……? どうして振り払おうとしないの?)
突然抱き着かれたら、離せと体を動かすはずだ。それがどうしたことだろう。彼はその場から微動だにしない。おかげでいつまでもディートハルトの胸に張りつくしかないではないか。
…………多分、三十秒は経過したはず。
イルーゼとて普段ベアーテたちとおふざけの延長で抱き合うことはあるけれど、男性との触れ合いなど皆無(カエル事件は例外&カウント除外)だった。
くっついている箇所から温かさを感じると同時に、男性特有の体の硬さだとか女性よりも大きな体の造りだとかまで感じて意識してしまう。
なぜか先ほどディートハルトと踊った際に合わせた手のひらの感触がまざまざと脳裏に蘇った。
胸の奥がとってもむず痒くなった。
このままではイルーゼの方が、この妙な雰囲気に呑まれそうだ。
そもそもどうしてディートハルトは突然女性から抱き着かれたというのに、一向に動こうとしないのだろう。
(もしかして、積極的な女性から追いかけ回されすぎて、女性不信を超えて女性恐怖症になっているのかも――?)
どうしよう! 彼は動かないのではなくて、動けないのかもしれない。
今すぐに離れて誠心誠意謝らなければ。
「突然触れてしまって申し訳ございませんでした!」
イルーゼが身を離そうとした瞬間、ディートハルトは俊敏に動いた。
なぜだか背中に腕が回され、ぎゅっと引き寄せられる。
「え?」
さらに腕の力が強くなった気がした。
(ちょっ! え、待って。どういう状況!?)
軽く混乱したイルーゼは彼の胸から体を離そうと身じろぎした。
その直後、ディートハルトがパッとイルーゼを離した。
「いや、これは――。躓きそうになったご婦人を助けようとしただけで――」
狼狽が混じったような声でディートハルトが言った。
「そ、そうなんです。どうやら靴が合っていなかったようで」
申し訳ないと思いつつ、彼の言葉に便乗させてもらう。するとディートハルトはさらに乗ってきた。
「それは大変だ。痛みはないだろうか。靴擦れしていては大変だ」
「い、いえ。それほど大事にはなっていないので大丈夫です。それよりも、シュヴァ……ディートハルト様の方こそ、ご気分はいかがでしょうか」
「最高だ」
「やはり最悪なの……へっ? 最高?」
見ず知らずの女に接触されて吐き気が――などと考えていたのに、一体なぜ。
「あの……?」
先ほど水を垂らしたおかげで瞳の潤んだイルーゼは、訝しんで彼を見上げた。
視線の先でディートハルトが「うっ……」と吐息のようなものを漏らした。
舞踏会会場よりも明かりが乏しいため、顔色まではうかがい知れないが、やはり気分が悪くなったのだろうか。何だか瞳に熱が集まっているような気がしなくもない。
「き、きみはわたしに用事があったのではないか?」
「実はそうなのですが……。ディートハルト様のご気分がすぐれないようでしたら次の機会にします」
もう今日の任務完遂はいいかなと、早々に打ち切ろうとしたイルーゼに、ディートハルトが前のめりになる。
「私はこの通り、とっても元気だ! 走れと言われればこれから宮殿周りを百周は走れる」
すぐ目の前のディートハルトからは、用件を言えという意思がビシバシと伝わってくる。言わないと解放してくれそうもない。
「……憧れのディートハルト様とお話がしてみたくて……。つい追いかけてきてしまいました」
イルーゼはそっと目を伏せ儚げに聞こえるよう声色を調整してみた。
「そ、そうか。話とは……ぐ、具体的にはどのような?」
相槌を打つディートハルトの声が上擦っているようにも思える。
もしかしたら呆れているのかもしれないが、決定的な拒絶を受けたわけではないため、そのまま続けることにする。
「ええと……わたしたちの今後について的な?」
「分かった」
「えええ!?」
突然ディートハルトに横抱きされたため、素っ頓狂な声を上げてしまう。
彼はそのまますたすたと歩き出したではないか。
何が何だかさっぱり分からない。一体何が起こっているのか。
ディートハルトは重たい盛装を纏うイルーゼを危なげなく抱いたまま、涼しい顔で宮殿の奥へと進む。
運ばれた先は、数ある客室の一つだった。
舞踏会の日に宮殿の客室が複数開放されることは知識として知っていたが、自分が使用する側になるとは思ってもみなかった。
イルーゼは室内に置かれた長椅子の上にそっと降ろされた。
「足の具合はいかがか?」
跪いたディートハルトがイルーゼの足から靴を脱がせた。
まるで女主人に傅く従僕のようだ。世間では見目麗しい従僕を雇い、身の回りの世話をさせる女性がいるとも聞く。
(いけないことをさせてる気分……)
ぞくりとした背徳感が背中を駆け上がる。
「だ、大丈夫です」
「しかし、マメができているかもしれない」
やけにぐいぐいくる。だがさすがに男性の前で靴下を脱ぐ行為は躊躇われる。
(も、もしかして、わたしのハニートラップにあえて乗っかったのかしら? おまえの罠にはとっくに気付いているぞっていうサイン?)
これが政治の第一線に身を置く宰相のやり方なのかもしれない。とっとと背後にいる者を吐いてしまえという。
しかし、ここで終わるわけにはいかない。ハイデマリーの輿入れまで引っ張っておかないとイルーゼの人生計画は台無しだ。
(ええい! イルーゼ、やるっきゃないのよ!)
腹をくくったイルーゼは体を前に傾け、ディートハルトの肩にそっと手を置いた。
「足の具合よりも、わたしを見て……」
か細い声を作れば、ディートハルトの体がぶるりと震えたようにも見えた。
「わたしは……あなたのことをもっとよく知りたいの」
イルーゼは流れるように彼の手を取り、ぎゅっと握りしめた。
目線はディートハルトに合わせて、できうる限り目がうるうるするよう意識してみる。
こうすれば男性は『こいつ、俺に気がある?』と思うのだそうだ。誰かが言っていた。ありがとう同僚。今、とっても役に立っている。
「それに、ディートハルト様にも、わたしのことをよく知ってもらいたいのです」
とっても恥ずかしかったが、最後まで言い切った。
これで失敗したら末代までの恥だが、知るのは目の前にいるディートハルトただ一人。傷はまだ浅いと自分に言い聞かせる。
「……」
ディートハルトは黙りこくってこちらを見つめたまま。
さすがにここから先へ踏み出すのは彼も躊躇われるだろう。適当に理由をつけて『誰とも付き合うつもりはない』とか何とか言い始めるはずだ。
ディートハルトが立ち上がった。
今度はイルーゼが見下ろされる立場になる。
最小限の明かりの中、感情の読めない顔がぼんやりと浮かび上がる。
ディートハルトはおもむろに身をかがめ、両手を伸ばしてきた。
長椅子の背もたれに両腕をついた状態のディートハルト。
イルーゼは長椅子とディートハルトの間に閉じ込められたかのような錯覚に陥った。
次の瞬間――。
「!?」
温かなもので唇を塞がれた。
彼の顔が間近にあった。
なぜなら、イルーゼの唇を塞いでいるのは、ディートハルトの唇なのだから。
(ど、ど、ど、どうして――!?)
◇◇◇◇◇
「そういえばさディートハルト、最近になってカレルギー伯爵がハイデマリーに連絡を取っているようなんだよ」
王太子がそんなことを言い出したのは、話し合いの合間の休憩の時であった。
「正確にはハイデマリー付きの侍女、イルーゼ・カレルギーに連絡を取っているって意味なんだけれど」
「イルーゼに?」
ディートハルトは想い人の名前にきっちり反応した。
「フリッシュ夫人が気にしていた。彼女は中立派のフリッシュ子爵家の人間だからね。空気を読んで、私に情報をくれることがあるんだよ」
「イルーゼ・カレルギーは確かに現カレルギー伯爵の妹ですが、彼女自身は政治的に警戒すべきところのない、ごく普通の女性であることは殿下も十分理解されたと思っていましたが」
「まあ、そうだね。彼女がハイデマリー付きの侍女になると聞いた時は、父上と私が押し進める近代化政策が気に食わないルガート公爵一派が、私たちのことも忘れるなというアピールの一環としてカレルギー伯爵家の娘を使ったのではと思ったし、私たちへの間諜だとも考えた。けれど、彼女にはそういう素振りは全くなかったからね」
「ええ、そうでしょうとも。殿下がそのようにおっしゃったため、私もイルーゼ・カレルギーについてはそれとなく観察していましたが、西の大国フラデニアに憧れるハイデマリー殿下を保守的な考えに染めようとするでもなく、ごく真面目に職務に励んでいると見受けられます。フリッシュ夫人の評価も高いですし」
「彼女自身、カレルギー伯爵と確執があることは、私もフリッシュ夫人から聞き及んでいるよ。……ちょっと待て。やけにイルーゼ・カレルギーの肩を持つね?」
王太子は問いただすような視線を向けてきた。
「恋する女性の肩を持つのは、ごく当然の心理だと思いますが」
その直後、王太子はゴフッとむせた。
口に含みかけていたコーヒーを何とか飲み込む。涙目である。
「……っく。きみがおかしなことを言い始めるから、コーヒーが変な場所に入ったではないか」
「おかしなこと?」
「恋とか何とかだよ!」
「私はイルーゼに恋していますので」
きっぱり宣言すると、王太子は口をぽかんと開けたまま固まった。
そういう顔は表ではしないでほしいと思った。王太子の威厳が台無しである。
「い、一体いつからだ!」
我に返った王太子が吼えた。
ディートハルトはあれはいつのことだったか、と彼女との出会いから思い起こす。
そうだ。二年近く前のことだった。
ある日、ハイデマリー付きの女官フリッシュ夫人から紹介されたのだ。
「彼女は語学が堪能で字もきれいで読みやすいため、今後はそちらの方で王女殿下のお役に立つよう教育していくつもりです。そのためシュヴァルツェン宰相と顔を合わせる機会もございましょう」
「最初は無作法があるかと存じますが、何卒ご指導のほどよろしくお願いいたします」
緊張を宿した声と共にお辞儀をしたイルーゼの第一印象は、カレルギー伯爵の身内の娘は王女の教育係を務めたフリッシュ夫人の眼鏡にかなうくらいには優秀らしい、という素っ気ないものだった。
この人事に関しては前から知らされていたし、王太子が随分と心配していたことも心に留めていた。
王太子はあれやこれやと考えすぎる性質なのだ。たまに思考を深掘りしすぎて胃を痛め薬を飲んでいるのである。
とはいえ保守派の動きが気になるのはディートハルトも同じであるため、イルーゼのことを観察するようになった。
だが宰相と王女付きの侍女とでは、同じ宮殿で働いてはいるものの、毎日顔を合わせるわけではない。
せいぜい「若い者がいた方が娘の口も軽くなるだろうから一緒に来てくれ」という国王の我儘に付き合わされて王女のもとへ通う時くらいなものである。
ちょうどハイデマリーの婚約相手の選定が進められている頃のことだった。
国王は娘から「わたくしもお父様に倣って二回目の結婚までは見合いで我慢しますわ」と痛烈な皮肉を言われ、落ち込んでいたのだ。
どうやら「二回目までの結婚はおまえたちの言う通りにしてやったのだから、最後くらい好きになった女性と結婚してもいいだろう」と再々婚の時に口にした台詞が回り回って二番目の妃が産んだ王女、ハイデマリーの耳に入ってしまったらしい。
国王は初めての妃を癌で亡くし、二番目に迎えた妃を産褥熱で亡くした。王妃の座というのはたとえそれが再々婚であっても妃の外戚側には旨味がある。
国王が「これが最後の結婚になることを神に誓おう」と求婚した相手が二代前に叙爵された男爵家の娘であったことに、格式を重んじる保守派が大反対したが故の前述の発言である。
「ハイデマリー殿下とは少なからず交流を持っておりましたから、紹介されたイルーゼに話しかけてみることにしました」
「へえ、何て?」
「きみは二代前の国王陛下が行った戸籍法の改正をどう思う? と」
「……へえ」
聞き役の王太子の目が半目になった。
「保守派の考え方に染まっていれば彼女は反論を展開するだろうと踏んだのですが、思い切り怪訝そうな顔をされました」
「……だろうねえ」
当時、彼女の顔には『どうしてそんなことをわたしに?』と書かれてあり、話題が唐突すぎたことを悟った次第だ。会話の糸口を間違えたのだということがひしひしと伝わってきたが、一度口にした言葉を取り消すことはできない。
「回答を待つ私の無言に耐えきれなくなったのか、彼女は農民たちを土地に縛りつける旧来のやり方はどうかと思うので、結果よかったと思いますと返してきました」
「へえ」
相槌に感心するような色が乗った。
それまで領主が行っていた戸籍の管理を国が定めた機関が代わって行うようになり、人々に移動の自由を与えることになったこの法律は、二代前の王の時代に施行され、次の王の時代に保守派によって覆され、現王が即位してすぐに再施行され、今に至っている。
「現在も保守派が反対し続けている戸籍法について、よかったと口にしたのです。彼女はカレルギー伯爵とは異なる意見を持っているのだと、そう考えました」
「彼女が偽りを口にしているようには見えなかったわけだ」
「ええ」
ディートハルトはシュヴァルツェン侯爵の後継者として、昔から様々な大人たちに囲まれて育った。その中には彼の機嫌を取ろうとする者や、貴族の御曹司目当ての女性など、擦り寄ってくる者も大勢いた。
当時のイルーゼは社交界デビューをせずに宮殿に出仕し始めた、言い換えれば世間慣れしていない娘であった。その彼女の言動に裏表があるかどうか見定めることくらい造作もない。
そんなイルーゼにはもう一つ驚かされることがあった。
一度の会話を足掛かりにディートハルトへ興味を抱き、それが恋心へ発展し――という過去の女性たちの例から外れたのである。
◇◇◇◇◇
ディートハルトは教会の鉄門に手を伸ばした。建物の横には奥へ伸びる細長い煉瓦道があった。壁際にいくつか置かれた鉢植えから管理者の存在を感じ取る。
細道を奥へ進むにつれて、ぼそぼそと誰かが会話する声が拾えるようになった。
気配を殺し、さらに奥へ歩いた。
男と女の声だ。
「議員法の改正をシュヴァルツェン宰相が企んでいるのは知っているな」
「……はい」
男の声はどうでもよかったが、頷いた女性の方は即座に分かった。イルーゼだ。
(やはりその話か……)
デイゲルンは王政だが、議会を通して法律や予算案を可決させる必要がある。
その議会は、貴族の称号を持つ者たちで構成される『本議会』と、主に聖職者や三親等以内で貴族の血を引く者で構成される『準議会』の二つに分かれている。
ディートハルトは王の意向のもと、この議会制度の見直しを図っており、準議会に市民階級、つまりは貴族の血を引かない者の参加を認めるための法改正に取り組んでいる。
大陸の西の端にある国では商人の力が強く、彼らが政に参加できる制度が整えられている。端的に言えば、貴族や聖職者以外であっても一定の条件下で議会に席を持てるのだ。
その西の国の先に広がる大洋、西端海の先にある新大陸に建国された移民国家では、共和制が採択され、国の代表は議会で選出された議長が務めている。
国王は、力をつけつつある市民階級が共和制に希望を見出すことを恐れている。革命でも起きたらそれこそ一大事だ。そのため議会に席を持たせることで彼らの声の一部を政に反映させることにしたのだ。
それともう一つ。有力市民を味方につけることで、利権に固執する一部の貴族たちの力を削ぎたいという思惑も持っている。
「シュヴァルツェン宰相たちは本議会に席を置く議員たちに根回しを行っている。おまえは議員法の改正に賛成する者を聞き出してこい」
彼女を政争には巻き込みたくなかったのだが――。
今出ていったところでカレルギー伯爵を牽制はできても拘束するまでには至らない。
ただ、彼らが切羽詰まっていることと、妨害工作を意図していることは分かった。
「……お時間をいただくことになると思いますが……努力はします」
「いちいち口答えをするな。はい、とだけ答えろ」
「しかし――」
「おまえが手紙に書いて寄越したのだろう。シュヴァルツェン宰相の誘惑は順調に進んでいます、と。すでに奴がおまえに骨抜きになっているのなら簡単なことだ」
ドクン。心臓の鼓動が体中に響いた。
誘惑? 順調に進んでいる――?
一体、何の話をしている?
「……分かりました」
体を強張らせるディートハルトのすぐ側から、イルーゼの返事が聞こえてきた。
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