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ラスボス予定の悪役令嬢ですが、クラスメイトの公爵令息がその座を代われとそそのかしてきます!

月神サキ / 著
まろ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-797-0
定価 1,430円(税込)
発売日 2025/08/29

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内容紹介

お前を恋人として手に入れるか、それとも世界を滅ぼすか、どちらかだ。
世界を滅ぼしたい公爵令息に振り回される悪役令嬢!?
物騒すぎる人たちに囲まれる波乱ずくめの魔法学園ラブコメディ!
公爵令嬢のシャルは前世の記憶を思い出したものの、覚えているのは自分が《ラスボス系の悪役令嬢》ということだけ。頭を抱えていたところを公爵令息のレヴィアスに聞き咎められ、その役を代わって欲しいと言われ!? もちろん断固拒否するが、それ以来二人でラスボスについて探っていくうち、シャルを狙った嫌がらせが多発。その都度助けてくれるレヴィアスに、淡い思いが芽生える。そんな二人の前にシャルを倒すはずの主人公が現れて!?
「恋人になるんだから、世界……滅ぼさないわよね?」
「人は嫌いだが、お前が望むのなら我慢してやってもいい」

立ち読み

「……シャル」
 レヴィアスがジロリと私を睨みつける。彼が言いたいことを理解した私は両手を挙げた。
「言わないで。分かっているから」
 そう告げる私は全身ずぶ濡れ姿だ。

 ラスボスから遠ざかっている。
 虐め上等、もっと来い。

 そう思ってから一週間――事態は悪化の一路を辿っていた。
 まず、私物がものすごい頻度でなくなる。私に関する噂も収まるどころか、更に尾ひれがついて広まっているようだった。
 上からものが落ちてくることも増えた。
 落ちてくるのは植木鉢だけではない。教科書や黒板消し。時には鞄やペンケースまで、色々なものが降ってくる。
 もはや落とせるものならなんでもいいと言わんばかりだ。
 ここまで来ると逆にすごいなと感心してしまうし、あまりの執拗さにすっかり面白くなっていた私は「おお、今日は黒板消しか……」くらいにしか思っていなかった。
 ちなみに全部、私に当たることはなく無事に済んでいる。
 私が気づく前に、レヴィアスが察知してくれるからだ。
 なくしたものも魔法を使って探し出してくれる。
 鬼のような形相をしながら「気をつけろと言っただろう!」と言い、なくしたものを渡してくれるのだけれど、本当に面倒見の良い男だ。
 もちろん非常に助かっているので「ありがとう」と心からお礼を言っているが、彼の怒りとストレスが日々たまっていっているのは、端から見てもよく分かった。
 自分のことではないのだから無視してくれればいいのだけれど、どうにも放っておけない性分らしい。
 プンプンと怒りながらも毎日助けてくれている。
 そしてそんな日々が一週間ほど続き、今、彼の怒りゲージはほぼMAXまで高まっていた。
 理由は簡単だ。先ほど、上からバケツが降ってきて、中の水を被ってしまったからである。
 ちょうどレヴィアスと離れていたタイミングで、気を抜いていた私は見事にびしょ濡れとなった。そして戻ってきた彼は、濡れ鼠になった私を見て、怒り心頭に発すと言わんばかりにキレているわけである。
「……シャル」
「……ご、ごめんなさい」
 気をつけろと言われていたのに、少し彼が目を離しただけでこれなのだから、謝るしかないというもの。
 普段助けてもらっているだけに、非常に申し訳なかった。
「そ、その……言い訳になると分かっているけど、私も気をつけていたのよ? 上からものが落ちてこないように気にしていたし」
「その結果がこれか」
「申し訳ありませんでした」
 地を這うような声が恐ろしい。私は即座に再度謝罪の言葉を告げた。
 レヴィアスが鋭く舌打ちをする。そうして呪文を唱え、びしょびしょの身体を乾かしてくれた。
「……あ、ありがとう」
 これくらいなら自分でもできると思ったが、さすがに空気を読んで言わなかった。
 レヴィアスが私から背中を向ける。
 怒りの波動が伝わってきて、可能な限り距離を取りたいと思ってしまった。
 彼が振り向く。
「我慢するのもいい加減限界だ。――シャル、今からマリアーヌ・ローズテリアに会いに行くぞ」
「えっ、な、なんで」
 どうしてそんな必要があるのかと質問すると、彼はカッと目を見開いた。
「なんで、だと? 毎日毎日、ここまで嫌がらせを受けて、黙っている方がおかしいということが分からないのか!」
「や……だって実害はほぼないし」
「私物を捨てられたり、植木鉢を落とされたり、嘘の情報を流されたりしているのに実害がないだと? 一体お前は何を言っているんだ!」
「だ、だって、全部レヴィアスが助けてくれたもの……」
 縮こまりながらも答える。
 なくなった私物は見つけてくれたし、上から降ってくるものはレヴィアスが直前に察知してくれた。
 私に被害は殆どないのだ。先ほどバケツの水は被ってしまったが、それくらいなら可愛いものだと思う。
「だから大丈夫。それに言ったじゃない。悪役令嬢が虐められるほど原作から離れるだろうから、それはそれで構わないって」
「お前がそう言うから我慢していたが、ものには限度というものがある。一度、はっきりマリアーヌ・ローズテリアと話をつけておいた方がいい」
「マリアーヌさんと? え、無理よ。だって私から話しかけられないし」
 ふるふると首を横に振る。
 前も言ったが、学園の人気者に自分から話しかけるとか、絶対にできる気がしないのだ。
 そんな高度なことができるのなら、友達がいないなんて惨めなことになっていないと思う。
「別に私はこのままで構わないから――」
「私が嫌だと言っているんだ」
 私の言葉に被せるようにレヴィアスが告げる。
 彼は私の手首を掴むと、のしのしと歩き出した。
「ちょ、ちょっと! どこに行くのよ!」
「マリアーヌ・ローズテリアがいるところだ。あの女は今、廊下を歩いている。ちょうどいいから捕まえるぞ」
「廊下を歩いているって……どうして分かるの?」
「マリアーヌ・ローズテリアの魔力なら覚えている。前に魔力の残滓を調べたことがあるだろう。その時に記憶した。魔力の色や性質はひとりひとり違うからな。一度覚えれば間違えることはない」
「わあ……チート」
 ひとりひとりの魔力の違いを認識していると告げられ、遠い目になった。
 相変わらず、レヴィアスがすごすぎる。
 私の元婚約者であるソマリア王子、彼も優秀で難しい魔法も難なく使いこなす人なのだが、レヴィアスの場合は桁が違うのだ。
 単なる学生にできないことを易々とやってのける。
「――ほら、行くぞ」
「わっ……」
 レヴィアスの能力に感心を通り越して呆れていると、強く腕を引っ張られた。
 一応抵抗してみたが無視されたので、仕方なくついていく。
 私としては彼に告げた通り、別に怒ってなんていなかった。
 役割から逃れられそうで万々歳だし、まず悪役令嬢が虐められているという状況が面白すぎる。
 だがレヴィアスは完全に怒っているようで、眉毛が思いきり吊り上がっていた。
 ――うーん、レヴィアス、すごく怒ってるわね。
 小さく息を吐く。
 彼の怒りは激しく、その深さがこちらまで伝わってくる有様だ。それを見て、申し訳ないが少しだけ嬉しく思ってしまった。
 だって彼が今怒っているのは、私のためだ。
 私が理不尽な目に遭っていることを、彼は本気で怒ってくれている。
 今まで周囲にそんなことをしてくれる人がいなかっただけに、彼の気持ちが擽ったく、尊いものだと感じた。
「……なんだ」
 私の視線に気づいたのか、レヴィアスがこちらを見てくる。そんな彼に今思っていることを告げた。
「レヴィアスって優しいなと思っただけよ」
「優しい? 私がか?」
 レヴィアスが顔を顰める。そんなことを言われるとは思ってもみなかったという態度だ。
「私は別に優しくはない。人が嫌いだとも言っているはずだ」
「ええ、分かっているわ」
 彼の人嫌いを疑っているわけではない。
 言葉通り、彼は人を嫌っているのだろう。
「でも、それとあなたが優しいのは別よね。あなたが虐められたわけでもないのに私のために本気になって怒ってくれて……ありがたいなと思うの」
「それは……お前があまりにも気にしないからだろう。虐められて『面白い』などと言うのはお前くらいなものだと思うぞ」
「いや、状況が状況だからであって……さすがに私も悪役令嬢でなければそんなことは言わなかったと思うのだけれど」
 悪役令嬢がヒロインに虐められているというのは、普通に面白いと思うのだ。
 私だけが変というわけではない。だが、レヴィアスは懐疑的だ。
「嘘を吐くな、嘘を。……前から思っていたが、お前のその、自分を顧みないのはなんなのだ。脳天気で危機感はないし、見ていて苛々する。放っておきたいのに放っておけない」
「顧みないわけではないわよ。ただ、気にしても仕方ないって思うだけ。気にしたら解決するのならそうするけど、違うでしょう?」
「それで本当に放置できるのが怖いと言っているんだ。お陰で目が離せない」
「放っておいてくれて構わないのに……」
 言いながら、これはちょっとだけ嘘だなと思った。
 本当にレヴィアスが構ってくれなくなったら寂しくなるという気持ちがあったからである。
 レヴィアスが胡乱な目を向けてくる。
「今更、放置などできるか。それにお前は私と賭けをしているだろう。途中で降りられても困る。だから私が見ておく必要があるのだ」
「そうなんだ……」
「ああ。だから仕方なく! 私はお前を見ているんだ。分かったな?」
 念を押すように言われ、頷いた。
 仕方なくのところに無駄に力が入っている気がしたが、指摘しない。
 レヴィアスの言葉が、なんだか自分に言い聞かせているように聞こえたから、黙っている方が良いのかもと思った。
「……そうだ。私は人間が嫌いなんだ。それなのにどうして……くそっ」
 レヴィアスが小さく呟く。
 その声があまりにも困惑を含んでいたせいもあり、聞いてはいけなかったと気づいた私は顔を逸らして聞こえなかった振りを貫いた。

◇◇◇

「見つけたぞ、マリアーヌ・ローズテリア。話がある」
 レヴィアスが鋭い声で前を歩く人物を呼び止める。
 マリアーヌの魔力を覚えたと言っていたのは本当のようで、彼はすぐに目的の人物を見つけ出した。
 目の前には廊下をひとり歩いているマリアーヌ。周囲には他に誰もいないようだ。呼びかけに振り向いた彼女は、私たちを見て驚いていた。
「何……?」
 愛らしい緑色の瞳が見開かれる。
 正面から見たマリアーヌは可愛いというより綺麗な顔立ちをしていた。全てのパーツが正しいところに収まっている、誰が見ても美人だと思う容貌だ。私みたいにいかにもというようなキツイ顔ではない。優しい雰囲気を持つ、いわゆる正統派ヒロイン。柔らかなウェーブを描く髪は背中まであり、ハーフアップにしていた。
「ここのところの嫌がらせ、その犯人がお前だということは分かっている。答えろ、どうして執拗にシャルを狙う。お前は何を目的にしているんだ」
「……」
 レヴィアスがひと息に畳みかける。マリアーヌは目を見張っていたが、やがて厳しい視線を私に向けた。
「……っ!」
 レヴィアスが話しているというのに、何故か彼を見ようともしない。
 彼女はただ私のことだけを睨みつけていた。
 その視線があまりにも強くて、困惑を隠せない。
「……」
「私のこと、憎いわよね?」
「え……?」
 突然、彼女の口から出た言葉に目を丸くする。マリアーヌは私を見つめたままもう一度言った。
「私のこと、憎いわよね? 植木鉢を落としたり、ものを隠されたり、嘘を教えられたり。こうして聞きに来たってことは、私が犯人だって分かっているんでしょう? 憎いと思うのが当然よね?」
「え……そんなこと、は思わないけど……」
 戸惑いつつも答える。
 嘘を吐いたつもりはなかった。実際、マリアーヌのことは特に何とも思っていないのだ。
 私が重視しているのはあくまでも『ラスボス系悪役令嬢にならない』ことであり、そこから明らかに乖離しているであろう現状は歓迎すべきものだからである。
 むしろ気持ち的には「虐めてくれてありがとう」である。さすがに気持ち悪いし意味が分からないだろうから言わないけれど。
 だが、私の答えは彼女を満足させるものではなかったらしい。
 マリアーヌは唇を噛みしめ、ふるふると肩を震わせ始めた。
 キッと私を睨みつける。
「どうしてよ!」
「え」
「私、こんなにも酷いことをしているでしょう? あなたを困らせて、大怪我する可能性があることまでしているわ。普通は憎むし、憎まない方がおかしい。私のことを心から憎む。それがあなたのすべきことよ!」
「……そ、そんなこと言われても」
 まさか「憎め」と言われるとは思わなかったので驚きである。
 無視されたことで更に機嫌を悪くしていたレヴィアスもこの展開には吃驚しているようだ。口を挟むことなくこちらを窺うだけに留めている。
 マリアーヌが再度私を強く睨む。人差し指を突きつけてきた。
「いいわね? 私を憎みなさい! できるだけ強く! こう、良い感じに!」
 そう言い捨て、唖然としている私たちを余所に、走り去っていく。あまりにもあまりで、何も言い返せず、呆然と見送るしかなかった。


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