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お助けキャラも楽じゃない2

花待里 / 著
櫻庭まち / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-731-4
定価 1,430円(税込)
発売日 2024/12/27

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内容紹介

悪役令嬢が登場? そんなことは万能女官が許しません!
転生者と攻略対象キャラのハピエンを助ける堅物万能女官。彼女の幸せを熱烈に推す騎士団(ファンクラブ)の応援を受けて、バッドエンドを華麗に回避します!
ランスロットとラブラブ熱愛中の万能女官アナベルは、親善大使としてやってきた皇女スズのお世話係をすることに。しかし、スズはなんと転生者だった! ルイス王子と結ばれたキャロルに対し、婚約破棄イベントが発生し二人は別れ、自分こそルイスの運命の相手だと宣言。猛反発するキャロルを支えるアナベルだが、仕事に夢中になるあまり、ランスロットとも次第に距離が……。このままではシナリオの強制力が起こってバッドエンドになってしまう!?

立ち読み

『……君は婚約者がいるんだっけ? 惜しいなぁ……』
 アナベルの華奢(きゃしゃ)な腕で存在を主張するブレスレットをナギは恨めしそうに見つめた。
『その婚約は政略的なモノなのかな? どんな相手なの?』
 急に始まった質問タイムに内心驚きながらも、アナベルは正直に答えていく。
『政略ではない……と思います。我が家と縁づくメリットは特にありませんので……。相手は今ちょうどスズ様の護衛に付いているランスロット・アンバー様です』
『何だって? 君の婚約者がそんな近くにいたとは……!』
 ナギは宙を見つめて、必死にランスロット・アンバーなる人物を思い出そうとしているようだった。
 その時、ノックの音と共に、ナギの侍従が困り顔で入ってきた。
『ナギ様、ランスロット・アンバーというスズ様の護衛担当が面会を求めておりますが、いかがいたしましょう?』
(ランス様が? 今日は日勤だったはずだけど、どうしてここに……?)
 噂をすれば何とやら。ちょうど話題に上った人物が来ているとあって、ナギはすぐに入室許可を出した。
「早朝にもかかわらず面会の許可を頂き感謝します。ランスロット・アンバーと申します」
 近衛の制服をきっちり着こなし、お手本のような凛々(りり)しい敬礼を見せるランスロットに、アナベルは思わず見惚れてしまう。
(どうしよう……早朝から私の婚約者様がカッコよすぎる……)
『構わないよ。今ちょうど貴殿が紫の君の婚約者だと聞いてね。どんな人か話してみたいと思っていたところだったんだ』
 アナベルの通訳を介してナギがにこやかにそう言うと、ランスロットは一つ頷いた。
「そうでしたか。実はアナベルに用がありまして、こちらに来ていると聞いたもので押しかけてしまいました」
「私に……?」
 アナベルは目を瞬かせた。
「昨日の事で心配していたんだ。勤務が始まる前に少し話せないか?」
 硬い表情のままアナベルを見つめるランスロットに違和感を覚えながらも、アナベルはおずおずと頷いた。
『殿下、そろそろスズ様のもとへ行く時間になりますので、御前失礼いたしますね。また夕方に指の様子を見に伺います』
『ありがとう。助かるよ。君のような美しい女性に薬を塗ってもらうと、回復も早い気がするんだ』
 そう言って艶やかに笑うナギ。
(皇子の軽口にも大分慣れてきたわね……)
 アナベルが冷静にそんな事を思っていると、ランスロットがボソリと呟いた。
「……長旅になると分かっていたのに、ジェパニの医師は連れて来ていないのですか?」
 ランスロットの、どことなく棘のある言い方をそのまま通訳する訳にもいかず、『お医者様はいないのですかと聞いています』と簡潔に伝えると、ナギはおや? というように片眉を上げて、それから扇の陰でクスクスと笑った。
『連れてきた医師が、旅の途中で体調を崩してしまってね……。回復次第追いついてくる手筈(てはず)になっているんだ。彼女には迷惑をかけて申し訳ないが、この件に関わる人間を最低限にしたい事情があると理解してほしい』
 アナベルがナギの言葉を通訳すると、ランスロットは軽く唇を嚙(か)み、渋々といった様子で頷いた。
 ナギはそんな様子を面白そうに見つめて、アナベルに顔を近づけると扇の陰に隠すようにして耳打ちをした。
『君の婚約者殿はどうやらヤキモチ焼きらしいね』
『えっ?』
 ナギの言葉の意味を測りかねていると、アナベルの腕が突然ぐいと引き上げられた。
「行こうベル。時間がなくなってしまう。御前失礼いたします」
「ランス様!?」
 アナベルは強引に立たされて、そのまま腕を引かれた。何故かヒラヒラと愉(たの)しそうに手を振るナギに、何とか会釈だけして部屋を出た。
 足を止めないランスロットにそのままついていくと、人気のない通路でようやく立ち止まった。
 いつもと違って強引なランスロットの様子にアナベルは不安を覚えた。
 ランスロットはアナベルの腕から手を離すと、その手を自分の腰に当てて、疲れたような深い溜め息を吐いた。
「ナギ殿下のご事情は聞いているが……何もこんなに朝早くから行く必要はなかったんじゃないか?」
 ランスロットの発言の意図が分からず、アナベルは眉を顰めた。
「でも、出勤前じゃないと時間が取れないですし、殿下のご様子が気になりましたから……」
 人の気配がないとはいえ、周囲を気にして小声で説明すると、ランスロットは苦しそうに顔を歪めた。
「ベルが仕事熱心なのはよく知っている。でも、勤務時間外まで世話をする必要はないと思うんだ。俺は昨夜の事でベルが体調を崩したりしていないか心配で、朝早く会いに行ったらもういなかった。ナギ皇子の所だと聞いて行ってみたら、人払いされた部屋であんなに近くに座っているじゃないか」
「近くにいたのは、手当てをしたからです。人払いも私がジェパニ語で話しやすいように気遣っての事でしたし、ずっとハヤテ殿が控えていました」
 淡々と事実を述べると、ランスロットはまた重い溜め息を吐いた。
 こんなに刺々(とげとげ)しい様子のランスロットは見た事がなく、アナベルは動揺した。
「……いや、分かってる。昨日は色々あったから気が立っているんだ、すまない……。ただ、ベルが心配だったんだ」
 淋しげに呟くランスロットの様子に胸が痛んだ。
 ただの付添いとして参加したアナベルでさえ、昨夜の舞踏会は緊張の連続で疲れたのだから、国賓の警護をしていたランスロットの精神的疲労は想像を絶する。それなのに朝早くから自分を心配して訪ねてくれた事に、アナベルは申し訳なくも嬉しく思った。
 傍にいられない事で感じた昨夜の淋しさが、紅茶に入れた角砂糖のようにほろりと溶けていくようだった。
「ランス様もお疲れなのに、心配して来てくださってありがとうございます。最近ゆっくり会えていなかったですし……とても嬉しかったです」
 これではまるで淋しがり屋の小さな子供のようだと、アナベルは恥ずかしくなって、最後の方は消え入りそうな小さな声でお礼を言った。
 ランスロットはアナベルの手を取り、存在を確かめるように何度もブレスレットに触れた。
「ルイス殿下からの指令もあって、ただでさえ大変な仕事なんだから、なるべく無理はしないでほしい……」
 ランスロットはそう言って、今日初めて笑みを見せた。
(良かった……。笑ってくださった)
 アナベルは、その笑顔にホッとしながらも、これ以上ランスロットに心配をかけないように頑張ろうと決意したのだった。



 団外秘!
【天使と書いてベルたんと読むの会】会報 号外

 〇月×日 曇り
 報告者
 ランディ・スミス

 事件だ。重大事件が起きた。
 今日は王宮で、ジェパニ御一行の歓迎舞踏会が開催され、俺達も警備として会場にいた。
 繊細なレースをあしらった、淡いミントグリーンの上品なドレスという出立(いでた)ちのベルたんは、今日も今日とて語彙力が死滅する程に美しかった。
 皇女スズ様の傍付きとして参加しているからか、アクセサリー等は控えめにしているのに、圧倒的に輝いている。ベルたんを前にすると、尊さのあまり瞳孔が散大するから余計に眩(まぶ)しく見えるのだろうか……。
 そんなシャイニーベルたんの傍にはランスロット・アンバー卿の姿が……。
 なんでも、急遽スズ様の護衛騎士に任命されたんだとか。
 ……は? ルイス殿下の妃選考会に引き続き、またベルたんとペアだと? ベルたんの婚約者という身分だけでも充分羨ましいのに、同じ職場ってズルくないか!?
 誰だ! そんな任命したやつは!
 確かにアンバー卿の腕はピカイチだ。それは俺達第一騎士団の団長さえも認める事実。けどなぁ……。優遇されすぎじゃないかと思っちまう奴(やつ)は、俺だけじゃないハズだ。
 そんな訳で俺は、直立不動を保ちつつ、最強かつ最凶にやさぐれた目線でアンバー卿を見ていた。
 ……だが、それは間違っていたとすぐに分かる事になった。
 すまねぇ、アンバー卿。謝るぜ。
 冷静に考えたら、任務中に可愛い婚約者が傍にいるって、これ程気が散る環境はない。俺だったら護衛対象そっちのけで、ベルたんをガン見しちまう。
 その上、更に気を散らせる厄介な要因が存在しているのだ。
 それはズバリ、ナギ皇子。
 この国の男と全然違ったその異国情緒溢(あふ)れまくりの雅やかな容貌は、それだけで貴婦人達の熱い視線のマトな訳だが、この御仁が笑顔で何かとベルたんに話しかける!
 ベルたんはジェパニ語が分からない設定なのに、何故かやたらと話しかける!
 その度にベルたんは片言のジェパニ語で懸命に応対せざるを得ない。距離が離れているから内容までは聞こえないが、きっと可愛い事を言っているに違いない!
 今度読唇術を学びに行こうと俺は決意した。
 そんな訳で、ナギ皇子とベルたんが何か話す度に、アンバー卿がチラリと二人を見るのだ。
 気になるよなぁ……。婚約者でも何でもない俺だって気になるぐらいだからなぁ……。
 近くに配置された同志も同じ気持ちだったのだろう。いつの間にかアンバー卿を見る目が、やさぐれたものから、同情的なものに変化している。
 未だにベルたんの婚約を受け入れられていない団員も多数存在するが、俺としてはベルたんの幸せの為に二人には円満でいてほしい。
 これ以上ナギ皇子が変なちょっかいをかけて、二人の仲が拗(こじ)れたりしないといいが……。
 そんな事を考えつつ、会場をぐるりと見渡していると、ダンスを終えたらしいスズ様が歩いているのが見えた。
 と、次の瞬間、スズ様が転びそうになった。
 遠目だったが、視力の良い俺には見えた。とある令嬢がスズ様に足を引っ掛けたのだ。ボリュームのあるドレスのスカートに上手く隠れていたが、間違いない。
 そのまま転んでしまうかと思われたスズ様は、風のように駆けてきたアンバー卿によって支えられ、事なきを得た。
 あれだけ気が散る環境で、咄嗟に動けるアンバー卿、パねぇ。その場で思わず拍手しそうになったぐらいだ。
 そんなアンバー卿の勇姿に気を取られていたら、何かが大量に割れる音がした。
 すぐにそちらを見ると、なんと、俺らの天使ベルたんがびしょ濡れになっているじゃないか!
 何という事だ!!
 状況を推測するに、ベルたんがナギ皇子を庇って、給仕が転んだ拍子にぶちまけたグラスの中身を浴びたのだろう。グラスの破片で怪我をしていないか心配になる。
 皇子の周りには人だかりができていたから、もしかして、皇女の時と同様、何者かが作為的に給仕を転ばせたんじゃないだろうか?
 付近を警備していた同志よ、目撃情報求む!
 その後ミリオン卿が何やら騒ぎ立て、ルイス殿下に鎮圧されていたが、そんな事は正直どうでもいい! ベルたんのあんなに綺麗だったドレスが汚れてしまったんだ!
 普段無表情のベルたんも、流石に動揺を隠せず泣きそうになっているように見える。
 任務を忘れて駆け寄りたくなる気持ちをグッと堪えて、その場からジリジリと見守る。
 アンバー卿も、スズ様を置いて駆け付ける訳にもいかず、拳を握りしめてその場に待機している。
 辛いよなぁ……。
 大切な婚約者が酷(ひど)い目にあったんだから、真っ先に駆け寄って抱きしめてやりたいだろうに……。
 でも実際そんな事されたら、俺達が精神的に撃沈するんだがな……。
 誰も動けずにいる中、ベルたんに真っ先に手を差し出したのは、例のナギ皇子。
 ちくしょう、美味(おい)しいところを持っていきやがる……!
 アンバー卿を見ると、今日一番我慢してる表情だ。何なら僅かに殺気が漏れている……!
 その後、傍に来たキャロル様がハンカチで拭いてあげて、何やら言葉をかけると、ベルたんの表情が少し和らぎ、俺はホッと胸を撫で下ろした。
 着替えの為に一旦退場する事になったベルたん。そんなベルたんを護衛したい……!
 去り際にベルたんはスズ様の傍にいるアンバー卿を見つめ、また沈んだ表情になってしまった。
 違うんだよベルたん! アンバー卿もホントはベルたんに付き添いたいんだよ!
 けど、国賓の護衛任務中にそんな事が許される訳がない。ベルたんもそれは分かってるから、何も言わずに退場していく。もどかしい……! もどかし過ぎる……!
 アンバー卿、後でちゃんとフォローしないとダメなんだからねっ!? 無表情だからって、ベルたんが傷ついてない訳じゃないんだからっ!!
 それにしても、次から次へとトラブルが起きるこの舞踏会。やはりルイス殿下から事前説明があった通り、鎖国派が動いているんだろうか……?
 スズ様の近くにいるベルたんが巻き込まれないよう、今後も細心の注意を払って警備に当たらねばならん。
 同志諸君には、今回の舞踏会での目撃情報や、鎖国派に対する今後の対策など、多くの意見を求めたい!
 なお、ジェパニ語検定三級合格者を対象とした、バーソロミュー先生の『もっと分かる筋肉による筋肉の為のジェパニ語講座』を、明日午後七の刻から団長の執務室で開催する。
 ジェパニ語への理解をより一層深め、薔薇の宮での警護任務に活(い)かす為、三級保持者は奮って参加されたし!
 以上。

 回覧者サイン欄
 いや……もう慣れたよ、団長室ジャック【団長】
 お陰で団長も何気に四級取ってるじゃないですか。ありがたく思いなさい【副団長】
 副団長に同意!【副団長補佐】
 俺は見た! 招待客の男が、給仕に背中からぶつかっていった! だが、ワザとかどうかは何とも判別し難い感じだった!【キングスリー】
 遠くて何を話しているのかは聞こえなかったが、ミリオン伯爵がジェパニの随行員とコソコソ話しているのを見たぞ!【ニコラ】
 今日初めてアンバー卿に同情したぜ……【クリス】
 ナギ皇子邪魔すんな【アーロン】
 スズ様が『なんでお兄様のイベントの相手がアナベルなの……?』と呟いてたっす!【イーサン】
 ……
 ……
 ……
 ……
 とにかく誰も怪我がなくて良かったわ。ランスロットはちゃんとアナベルをフォローしたのかしら?【アイリス】
 その件に関しましてはコメントを控えさせていただきます【ランスロット】
 ミリオン伯に関しては至急調査させよう。上手く鎖国派の尻尾を摑めるといいけど……【ルイス】
 危ないところを助けられて恋に落ちるってありがちすぎて怖い! ナギ皇子、これ以上ベルに近づくと二人の仲が拗れそうだからヤメテ! 【キャロル】


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