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お助けキャラも楽じゃない1

花待里 / 著
櫻庭まち / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-672-0
定価 1,430円(税込)
発売日 2024/05/29

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内容紹介

転生ゲームヒロインに振り回され、クーデレ騎士にはグイグイ迫られる堅物女官。波乱の王子妃選考会を無事乗り越えることができる!?
王子妃を決める選考会で、女官のアナベルが担当することになったのは、言動がアレという評判の男爵令嬢キャロル。「スパダリランス様キタコレー!! 転生して良かったぁぁ!!」「さっすがヒロインなアタシ」謎の言語の数々に、冷静沈着な万能女官アナベルもさすがに引き気味。苦労が耐えない彼女をいたわる騎士ランスに支えられ、彼との距離も縮まっていくが……。選考会の裏で進行する陰謀が発覚!? アナベルを守ろうと水面下で動く筋肉騎士団、腹黒王子ルイスの思惑も入り乱れて選考会は大波乱!?
「小説家になろう」書籍化作品。コミカライズ企画も進行中!

立ち読み

 孤児院に着くと、わらわらと子供達が集まってきた……と思ったら、私ではなくランスロット様に群がった。
「「「ベル姉ちゃんが恋人連れてきたーー!!」」」
 慌てて否定するけれど、子供達のどよめきに搔き消されてしまい、困り果てて思わずランスロット様を見上げる。
 ランスロット様は顎に手をやって数秒思案した後、爽やかな笑顔を子供達に向けてこう言った。
「今はまだ違うんだ。いずれ……ね?」
 驚いて言葉が出ない私を余所に、また大きなどよめきが起こり、子供達は更に騒ぎ立てる。
「ライバル多いけど頑張れ兄ちゃん!!」
「ベル姉鈍いからストレートに攻めた方がいいよ!」
「ここに来る騎士様の中でも兄ちゃんが一番カッコイイから、きっと大丈夫だよ!」
 嬉々として様々なアドバイスや励ましをする子供達に頷きながら、ランスロット様は私を見て嬉しそうに言った。
「ベルは本当に子供達から好かれているな」
 それは嬉しいけれど、この状況は恥ずかしすぎます……!
 せっかくの休日だろうに、監視役でわざわざ南の孤児院までついてきてくださったランスロット様。これから夕方まで孤児院に居るので、どうぞ街でゆっくりしていてくださいとお伝えしたら、また良い笑みで却下された。
「そういう訳にはいかないな。これは『任務』の一環だからね。それにもっとベルや子供達の事を知りたいし」
 そう言って子供達に笑いかけると、女子達は一様に顔を赤くして嬌声を上げ、男子達はわいわいと囃し立ててまた大騒ぎとなった。更には持って来たお土産を披露して、子供達を完全に虜にしてしまったようだ。
 その後は子供達と遊んだり、院長に施設の事を熱心に聞いていたり、質素な食事も子供達と楽しそうに食べてくれた。
 体が資本の騎士様には物足りない食事だっただろうと、念の為余分に用意してきていた手作りのお菓子を差し出すと、ものすごく嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
「これがあの手作りの菓子か。食べられる日が来るなんて夢のようだ」
 あのというのがよく分からなかったが、喜んでくれたようで良かった。ランスロット様は一つ一つ味わうように食べた後、菓子よりも甘い台詞をくださった。
「とても美味しかった。今度は俺の為だけに作ってくれたものが食べたいな」
 ……無言で脳内キャロル様が倒れた。
 これだけあからさまなアプローチを未だかつて受けた事がなくて、どうしていいか分からなくて困ってしまう。
 王妃様のもとに来て以来、結婚は王妃様の薦めてくださった方とすると決めていたし、周囲にもそのように言っていたから、今まで誰かと恋の駆け引きというのをした事がない。経験がないから、自分のドキドキするこの気持ちも、ランスロット様の気持ちもまだ信じられない。
 自分に耐性がないだけかもしれないし、もしかしてランスロット様は誰にでもこういう事を言っているのかもしれない。そんな事を考え出して更に身動きが取れなくなっていた。
 でも女官生活で、ありとあらゆる噂話を聞いてきたが、ランスロット様に関してはその手の浮いた噂はついぞ聞かなかった。それゆえの『クールで寡黙なランスロット様』という印象だったのだ。それに半月を共に過ごして沢山話をして、新たな一面を沢山知る事ができたけれど、軽薄だとか不誠実だとか感じる事は一度もなかった。
 そんな事を考えながらランスロット様を見遣ると、いつの間にかヤンチャ盛りな男の子達を順番に肩車してやったりして遊び始めていた。
 子供達と楽しそうに遊ぶその自然体な笑顔に胸がときめく。
 ……ランスロット様のくれる言葉を信じてみよう。
 あとは自分の気持ちがどうなのかだけれど……と、ここまで考えて、はたと気づく。
 でもランスロット様からは好きだとか交際してほしいとか、そういう決定的な言葉は貰っていない……。親しくなりたい、もっと知りたいとは言われたけれど、もしかして友好を深めたいって事かもしれない!?
 だとしたら自意識過剰だ……。
 自分ばかりあれこれ考えて、ドキドキしているのが恥ずかしくなる。
 孤児院に来て、子供達以外の事をこんなに考えるのも初めての経験だった。
 顔に集まった熱を手で扇いで散らしていると、人形を持った女の子が遊びに誘ってきたので、私はその手を握った。
 言われてもない事をあれこれ考えても仕方ない。またその時考えよう!!
 人はそれを現実逃避と言うのだが、更に現実逃避したい出来事が、豪華な馬車に乗って孤児院に迫っていた。


 昼食後の休憩も兼ねて孤児院の庭で子供達と遊んでいると、遠くに王宮のものだろう豪華な馬車が近づいてくるのが見えた。
 先駆けで一足先に駆けてきた騎士と、いつの間にか門の外に出たランスロット様が話している。話が終わったのかランスロット様は額に手を当て、陰鬱な溜め息を吐きながらこちらへ歩いてきた。
 何か良くない事が起きたのだろうか?
 不安に思う気持ちが顔に出たのだろうか、ランスロット様は私を見ると、眉間のしわを緩めて苦笑いをした。
「あの馬車にルイス殿下が乗っているらしい。この孤児院の視察に来たそうだ」
 蜂蜜腹黒殿下再び……!?
 衝撃のあまり声も出せずに固まっていると、ランスロット様は顎に手をやり目を細めた。
「おそらく、北の孤児院の寄付問題の調査の一環だと思うが……絶対俺の邪魔しに来たな、陰険腹黒王子め」
 後半何だか恐ろしいキャロル語が聞こえてきたが、そうこうしている間に、馬車が孤児院の慎ましやかな門の前に到着したので、院長を伴って慌てて迎えに出た。
 馬車から降りてきたのはやはり第二王子ルイス殿下。
 王宮にいる時と変わらない王子然とした美しさは、素朴な孤児院において異様に浮いていた。
 が、しかし……。
「「「王子様キタ―――!!」」」
 子供達にはものすごくウケていた。
 ランスロット様が来た時以上の大騒ぎが始まり、あっという間に殿下は子供達に取り囲まれていた。護衛が慌てて止めに入ろうとするのを手で制し、殿下は子供達に向かって優しげに微笑んだ。
「いきなり来ちゃってごめんね? ベルがこちらに来てると聞いたから僕も来たくなっちゃって」
 キャロル様がよく使う、《テヘペロ☆》という擬音語が聞こえてきそうな素振りで話す殿下に、口元が引き攣る。
 感じる寒さを必死に堪える大人達に対し、子供達は更に盛り上がる。
「ランス兄ちゃんのライバル登場だ!!」
「ベル姉ちゃんモテモテだなー!!」
「どっちもカッコ良すぎて選べないよー!」
 話が変な方向に行ってる……!
 下手したら不敬罪にもなりそうな為、慌てて止めに入ろうとすると、殿下は悲しげに子供達に言った。
「ランスはベルとずっと一緒に居るから、今のところ僕の方が不利なんだ。だから皆、僕の事を応援してほしいな?」
 マシュマロの蜂蜜がけのような甘い笑顔に、年少の子供達は落ちた。
「いいよー!!」
「おうじさまがんばれー!!」
「おうじさまとけっこんしたら、ベルねえはおひめさまだね!!」
 きゃいきゃいと可愛らしくはしゃぐチビッ子達を余所に、もうすぐ卒院を控えそれなりに世の中を知っている年長の少年少女達はヒソヒソと囁き合う。
「王子様と結婚なんて苦労が絶えないんじゃ……?」
「しかもあの王子絶対腹黒いぜ?」
「でもベル姉みたいな賢くて慈愛に満ちた人が王子妃になれば、この国は更に良くなるんじゃないかなぁ?」
「でも腹黒……」
「天は二物を与えずとも言うから、この際もう腹黒は諦めるしかないんじゃない?」
 ちょっと! 聞こえてるから! もう少し小さい声で!! いや、それ以前に思っていても口に出したらダメなのよ!!
 度重なる不敬に、これはもう頭が地面にめり込む勢いで平身低頭謝罪せねばならないと決意した時、殿下が面白そうに笑い出した。
「君達は人を見る目が備わっているね? 特に最初に腹黒と言い出した君」
 殿下と目が合った少年キーファは顔を強ばらせて固まった。
 思い思いに騒いでいた子供達も微妙な空気を感じ取り、水を打ったようにしんとなる。
「ベルに院長? 彼の人柄と学力はどうなのかな?」
 私と院長は慌てて地面に膝をついて頭を下げた。
「畏れながら申し上げます。このキーファはとても聡い子で学力も申し分なく、昨年推薦で王立学院に入学した子にも劣りません。隣国語はもちろん、私が教えているジェパニ語も日常会話はマスターしております。とはいえまだ子供ですから、至らない点もあります。本人にはよく言って聞かせますので、どうぞお慈悲を……!」
「わ、私からもお願い申し上げます!! キーファは将来有望な子です!」
 院長と二人、平伏して最大限の謝罪スタイルをとる。
 そんな私達を見て事の重大さを悟ったのか、子供達は凍りついている。
 キーファも、余計な事を言った自分の口を戒めるように強く唇を嚙みしめて、深々と頭を下げていた。
 殿下はそんな事はしないだろうが、世の中には理不尽な貴族も居て、下手したらその場で手打ちという事も有り得るのだ。
 子供達が固唾を呑んで見守る中、殿下は子供達を安心させるように優しげに笑った。
「ガードナー伯爵令嬢ならびに院長の献身と、キーファの今後の可能性に免じて謝罪を受け入れよう。キーファは孤児院を卒院後、王立学院に入り、更なる知識を身につけて国の為に働くように。推薦状は私が書こう」
 殿下の言葉に子供達が沸き立った。
 キーファの優秀さは誰もが認めるところだったので、未来が拓けた事を皆喜んでいた。
 本人は頰を紅潮させながらも、口元をひくつかせて最敬礼していた。
 うん、分かるよ。腹黒王子にロックオンされてしまった気持ち。
 彼は本当に優秀な子だから、殿下の後見のもとでメキメキと頭角を現すだろう。遠くない未来、殿下に扱き使われるキーファの姿が想像できて嬉しいやら、気の毒になるやら……。
 でもきっと、彼の未来は明るいものになるだろうし、その輝きは孤児院で育つ子供達の希望ともなるだろう。
「さて、時間もあまりないから、僕に孤児院の事を沢山教えてくれるかな?」
「うん! あのねー、今からちょうどお勉強の時間なんだよー!」
「王子様こっちだよー!」
 殿下は大はしゃぎで案内をするチビッ子達について、院内に入っていった。
 その後は、私が担当するジェパニ語の授業と、年少組の算術の授業を視察したり、会計帳簿を検めたり、本当に真面目に視察されていた。
 その後、あっという間に帰る時刻になり、ルイス殿下は私達に微笑んだ。
「せっかくだから王都まで一緒に帰ろう? いいよね?」
 無言の圧力付きの提案を辞退する勇気はなく、私はランスロット様と共に殿下の馬車に乗り込んだ。
「あの、殿下はどうして今日こちらに?」
 勇気を出してそう質問すると、殿下はニッコリ笑った。
「僕がいれば何よりも確かな証明になるからね。それに、僕は選考会やら調査やらで色々大変なのに、ランスばっかり順調のようでズルいから邪魔しに来たんだ」
「やっぱりですか……」
 がくんと項垂れ、溜め息を吐きながら呟くランスロット様の横で、私は首を傾げた。
「……証明になるとは、どういう意味ですか?」
「今は内緒。近いうちに分かるよ」
 そう言うと殿下は、これ以上は聞いてくれるな、という風に意味深に笑った。
 ――ひいっ! 黒い!!
 脳内キャロル様が怯えるのも無理もない、何やら言いようのない圧のこもった雰囲気に、私はそれ以上の詮索を諦めたのだった。


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