書籍詳細 一覧へ戻る

じゃじゃ馬皇女と公爵令息 両片想いのふたりは今日も生温く見守られている2

月神サキ / 著
紫藤むらさき / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-667-6
定価 1,430円(税込)
発売日 2024/04/26
ジャンル フェアリーキスピュア

お取り扱い店

  • Amazon
  • セブンアンドワイ
  • 楽天

電子配信書店

  • Amazon kindle
  • コミックシーモア
  • Renta
  • piccoma
  • どこでも読書
  • booklive
  • ブックパス
  • ドコモ dブック
  • ebookjapan
  • DMM
  • honto
  • 楽天kobo
  • どこでも読書

内容紹介

いとしい人と結婚するため、邪魔する者は許しません!
魔法学園で巻き起こる騒動を乗り越えてハピエンを目指します!
留学先で出会った公爵令息のクロムと結婚する気満々で、父皇帝のもとに赴いた戦う皇女様ディアナ。なのに大臣たちが結婚に猛反対。国一番の名門魔法学園に編入し彼が首席で卒業することを条件にされてしまう。憤慨するディアナは、クロムがどれほど優秀か見せつけてやるんだから! と闘志を漲らせる一方、再び彼とラブラブな学園生活を送れることに胸がときめく。ところが二人の周りで次々と不可解な事件が起こり、真相を探ろうとするが!?
「ラッキーなのは俺だと思うぞ。何せ、好きで堪らない女性と結婚できるのだから」

立ち読み

「わ……すごい」
 クロムが連れて来てくれた店はかなりの人気店のようだった。
 大通り沿いにある広めの店はテラス席と店内席のあるオープンカフェ。
 だが、長い行列ができていて、十人以上が並んでいる。
 店名は『ケーキの店トマス』。壁にクマの絵が描かれているが、店のマスコットキャラクターだったりするのだろうか。
「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」
 店を観察していると、列を整理していた店員が私たちに気づき、声をかけてくる。クロムは頷き、名前を告げた。
「ああ、サウィンだ」
「サウィン様……。はい、ご予約承っております。二名様ですね。中のお席にどうぞ!」
 店員が持っていた予約表を確認し、頷く。行列を差し置いて中に入るのは申し訳ないような気もしたが、予約しているのだからと気にしないことにした。
 どうやら店員は私が皇女だとは気づいていないようで、ごく普通の態度で接してくれる。
 先ほどの芝居小屋にはそれなりの身分の者が多かったからすぐに気づかれたが、貴族でもなければ、パッと見ただけで私が皇女かなんて分からないものなのだ。
「こちらのお席へどうぞ」
 予約席と書かれた場所に案内され、着席する。
 店内席ではあるが、外の景色が見える良い場所だった。店員が置いていったメニューを手に取る。
 ケーキ店というだけあって、ケーキの種類が多かったが、パスタなどの食事系もあった。
 紅茶の種類が豊富で、テンションが上がる。
「どれも美味しそうね」
「ここのケーキは、どれも当たりだと聞いている。ディアナが好きなものを選ぶといい」
「そうね……じゃあ、私はこのレモンのケーキにしようかしら。お茶は……ローズティーにするわ」
 一番興味を引かれたものを選ぶ。
 クロムは、エスプレッソケーキと書かれたものを頼んだ。
 飲み物も紅茶やハーブティーではなく、珈琲にしている。
「美味しい……!」
 用意されたケーキは美味しく、大きくカットされたものだというのに、あっという間に食べてしまう。
 先ほど見た芝居の感想を言い合いながらのティータイムはとても楽しかった。
「――でも、もうすぐこの生活も終わりなのね」
 芝居の話も終わり、少し間が空いたタイミングで呟く。クロムが珈琲を飲んでいた手を止め、私を見る。
「ディアナ? どうしたんだ?」
「どうしたって、別に何かあるわけじゃないんだけど、ほら、私たちが転入して、もう一年近くになるのかって感慨深い気持ちになっただけなのよ」
「……そうだな。あれからもう一年か」
 フーヴァル学園の卒業式にクロムを迎えに行って、そうして結婚しようと意気揚々と帰ったらまさかの結婚延期。
 それどころか別の学園に入って首席卒業を結婚の条件にされるとか、誰が思っただろう。
 少なくとも私は想像すらしなかった。
「あの時の予定では、今頃はもうクロムと結婚しているはずだったんだけど、人生って分からないものね」
 しみじみと告げると、クロムも同意した。
「確かに、俺も思わなかった」
「でもようやく、最後のテストなのよね」
 学年最後の卒業テスト。
 ここで首位を取れなければ、最終成績を首席で終えることはできないだろう。
 卒業テストは今までの集大成。なんとしても結果を出さなければならないし、皆、少しでも良い成績を取ろうと頑張っている。
「……クロム、首位は取れそう?」
 聞いても意味はないと分かっていたが、それでもなんとなく聞いてしまった。クロムが珈琲を一口飲み、告げる。
「取れそう、ではないな。絶対に取る、だ」
 そう言う彼の目には強い決意が籠もっていて、胸がときめいた。
 彼がここまで言ってくれるのならば、絶対に大丈夫だろう。確約できるものではないはずなのに、何故か大丈夫だという気持ちになってくる。
「そうよね。クロムなら絶対に首位間違いなしよね」
「当たり前だ。でなければ、なんのためにわざわざアインクライネート魔法学園に転入したのか分からなくなる。俺はなんとしても君と結婚したいんだ。……君を愛しているから」
「嬉しい、クロム……私もよ」
 告げられた言葉が嬉しい。
 私は幸せを嚙みしめながらも口を開いた。
「でも、最大限に警戒しなきゃいけないわよね。最近はないけど、また何かが起きないとも限らないし」
「七不思議のことか? それはあの最初の二回だけだったし、今は脅威にはならないだろう?」
「ううん。そのあとのリアルグリズリーのこととか、あと、精霊世界に落とされたこととかもよ。なんなら、あなたがテスト当日に遅刻したりとか、それこそ色々あったじゃない。そういうもの全部を警戒しなきゃって言ってるの」
 アインクライネート魔法学園に転入してからあった様々なことを思い出しながら告げる。
 こうしてひとつひとつ挙げていくと、本当に色々なことがあったなと改めて思った。
 だがクロムはあまり気にしていないようだ。
「リアルグリズリーは多分偶然だろうし、精霊世界に落ちたことだって、運悪くドミノ倒しに巻き込まれただけ。俺がテストに遅刻したのも、困っていた女性を助けたから。全部偶然だと思うが」
「……偶然にしては回数が多すぎるのよ。ここまで来たら必然としか思えない。絶対に、卒業テストの日も何か起こるわ。そう思うの」
「君は考えすぎだ」
 クロムは笑い飛ばすが、私はそうは思えない。
 確かにどれも偶然といえば偶然。でも、偶然とは、ここまで何度も連続して起きるものだろうか。
 やはりこれまでの全てに、悪意を持った第三者が存在している……。そう考える方が自然だと思っていた。
 だから告げる。
「偶然なら偶然でもいい。でも、警戒は怠らないで欲しいの。クロムに何かあったら絶対に嫌だし」
「分かった。だがそう言うのなら君も警戒してくれ。俺が狙われていると決まったわけじゃない。君は皇女なんだ。本当に犯人がいるのだとするなら、狙われるのは君の方が確率は高い」
「分かったわ」
 クロムの言うことは尤もなので頷く。
 せっかくのデート中に快くない話をしてしまったけれど、大事なことだと思うから、話題に出したことを後悔しなかった。

◇◇◇

「美味しかったわ。ごちそうさま」
「いや、喜んでくれたのなら良かった」
 会計を済ませ、店外へ出る。
 奢ってもらったお礼を言うと、嬉しそうな顔をされた。
 クロムに尋ねる。
「その、これからとか、まだ何か予定があったりする?」
「いや、今日はこれで終わりにしようと思っていたが。何せもう夕方だから」
 彼の言う通り、確かに日が傾いてきている。
 時間的にはそろそろ終わりにするのが良さそうな頃合いだ。
 だが、私も今日のデートに当たり、考えていたことがあったのだ。
「その、ね。私、行きたいところがあるんだけど、少し付き合ってもらえないかと思って」
「行きたいところ? 店か?」
「ええ。専門店なんだけど」
 クロムの反応を窺いつつ告げると、彼は笑顔で了承してくれた。
「もちろん構わない。君が行きたいところがあると言うのなら、喜んで付き合おう」
「ありがとう」
 無事、同行を頷いてもらえてホッとした。クロムの手を引く。
「こっちなの。そう遠くない場所だから、時間は取らせないわ」
「専門店だと言っていたな。紅茶とか、そういう関係か?」
 先ほどハーブティーを飲んでいたことを思い出したのだろうが、私は「違うわ」と否定した。
「紅茶ももちろん好きだけど、今日行こうと思っているのは別のところよ。……多分、クロムは喜ぶんじゃないかしら」
「俺が?」
 なんだろうと首を傾げるクロム。彼の驚く顔を見るのが今から楽しみだった。
 自然とワクワクした気持ちになる。
 五分ほどで目的地に着く。視線を向けると、クロムが大きく目を見開いていた。
「……! これは……!!」
「先月、オープンしたばかりのプロテイン専門店らしいわよ。プロテインを専門にして客が来るとは思えないんだけどね、それなりにお客さんは入っているみたい」
「!!」
 感に堪えないという顔をするクロムを見て、喜んでもらえたみたいだとホッとする。
 この店を見つけたのは本当に偶然なのだが、最初に見た時にいかにもクロムが好きそうだなと思ったのだ。
 小さな店だが『プロテイン専門店「筋肉」』と書かれた看板の文字は太く、目立つ。
 昔のクロムに片想いをしていた頃の私なら、プロテインという言葉にすら虫唾が走ったと思うが(プロテインに自分が負けるのかという意味で)両想いかつ婚約者となった今なら話は別……というか、私のために色々頑張ってくれている彼に何か返したかったので、この店に連れて来ることも吝かではなかった。
「どう?」
「……すごい。メイルラーン帝国にはこんな店があるのか」
 クロムを見れば、彼は目をキラキラと輝かせていた。
 分かりやすくソワソワとするクロムに告げる。
「入りましょう。せっかく来たんだもの。中、見たいわよね」
「いいのか……!?」
 期待に満ちた目を向けられ、苦笑した。
 喜んでもらえるとは思っていたが、それでもまさかここまでとは思わなかったのだ。
 クロムを引き連れ、『プロテイン専門店「筋肉」』に入店する。
 自分ひとりなら絶対に入らないと確信できる店名だ。
「こんにちは」
 チリンチリンと店のドアに付けられた鈴が軽快な音を立てる。その音と私の声に気づいた店員がこちらを見た。その身体は引き締まり……いや、むっちりと筋肉で溢れている。特に上半身の筋肉が大きく、筋が張っていた。
「うわ……」
 思わず声が出たが仕方ないではないか。
 だってムッキムキのマッスルが可愛らしいエプロンを身につけて、私たちを見ていたのだから。
 白い歯がキラリと輝く。
「いらっしゃいマッスル!!」
「なんて??」
 なんだ、今のは。
 目を点にして、店員を見る。筋肉を見せたいのか、袖なしの白い服を着た店員は、両腕をムンと上げると、何故かポージングし始めた。
 己の筋肉を見せつけるように、広背筋を大きく広げる。
「いいプロテイン、入っているよ! マッスル!!」
「……いや、あの」
 マッスルじゃない。
 どう反応すればいいのか分からない私だったが、クロムは目を輝かせている。
 店員に駆け寄り、嬉しげに話しかけた。
「いい筋肉だな! 広背筋が実に素晴らしい!」
 クロムに褒められた店員は嬉しそうに、次のポージングを始めた。クロムはいちいち「いい筋肉だ!」「でかい!」「キレてる、キレてる!」と意味の分からないかけ声をしている。
 理解不能だが、それを言われた店員はますます張り切ってポーズを取り始めた。
「あ、あの……」
 お願いだから、ふたりでよく分からない世界を作らないで欲しい。
「いいな……! この店はすごくいい! どうやったらそんな筋肉になれるんだ!」
 クロムが嬉しそうなのは良かったが、ムッキムキになられるのは嫌だ。
 私は細身で引き締まっている今のクロムの体型が好きなのだ。お願いだからマッスルに憧れを抱かないで欲しい。
 私の気も知らず、クロムと店員は盛り上がっている。


この続きは「じゃじゃ馬皇女と公爵令息 両片想いのふたりは今日も生温く見守られている2」でお楽しみください♪