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一目惚れの呪いにかかっても、王太子とは恋に落ちません

ほづみ / 著
鶴 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-546-4
定価 1,430円(税込)
発売日 2023/01/27
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

恋の呪いは失敗したはずなのに、王子様から求婚されてます!?
女嫌いの生真面目王太子VS訳あり借金令嬢
呪いのせいで始まった険悪すぎる契約関係から、じれじれ攻防ラブ勃発!
女学校の卒業式の日に、王太子アレクシスと一緒に「一目惚れする呪い」に巻き込まれてしまったリーナ。しかし極度の女嫌いな彼は恋に落ちず、代わりにリーナに触れなければ毒に侵される体に! 訳あって借金を抱えているリーナは、報酬と引き換えにアレクシスの「毒消し係」として契約を結ぶ。最初は無愛想で冷たいアレクシスだったが――「君にそばにいてほしくてたまらない。君に触れたい。……俺は、君が好きだ」いつの間にか熱く迫られていて!?
――リーナは誰にも渡さない。それが運命であっても、だ。

立ち読み

 もともと泊まるはずだった部屋に戻ってきたリーナは、トランクからドレスを出してハンガーに吊るしたあと、ベッドに腰かけて痛めた足首を眺めた。目で見てわかるくらいに腫れ上がり、実に痛々しい。
 四月の冷たい水の中に落ちたリーナは、アレクシスに助け出されたあとすぐに温かい湯を使わせてもらった。
 服を脱いでみて、自分の体が青あざだらけになっていることに気づく。階段から落ちた時にひねった足首はすでに腫れていた。
 とはいえ、結果としてリーナは無事だったので、アレクシスとカッセルが話し合った結果、明日以降の日程に変更はなしということになった。
 せっかく貸してもらった騎士服も、水に浸かったせいで台無しだ。そのため、今後は持参したデイドレスでの参加になるが、一着しかないのが悩ましい。リーナの持参品なので、王太子の随行員にしてはちょっと地味なのも気になる。
 水に落ちた時の恐怖を思い出せば、助かってよかったと思う一方、一歩間違えばアレクシスを道連れにしていたかもしれないのだ。
 ――アレクシス殿下に何事もなくて、本当によかった。
 それにしても、あんな絶妙なタイミングでアレクシスが助けに来てくれるとは思わなかった。
 地下室の壁のことを言っていたから、リーナが閉じ込められた部屋からあの穴と通路を通って、リーナを捜してくれたのだろう。
 そう思うと、嬉しさが込み上げてくる。
 リーナが水に落ちた音に気づいてすぐに飛び込んでくれた。強い力で引っ張り上げてくれた。水から出たあと、抱きしめてくれた。
 リーナの大好きな大きな手が、リーナに差し伸べられた。あの手を思い出すと心臓がうるさいほどドキドキし始める。
 ――でも……勘違いしてはいけないわ。
 あの手がリーナを想って差し伸べられたものなら、有頂天になるところだけれど、頭をよぎるのは展望デッキでの「こんなこと、するつもりじゃなかった」という言葉だ。
 ――私に詫びるということは、あの口づけはアレクシス殿下の本意ではなかったということだものね。
 今日、アレクシスが必死に自分を捜してくれたのは、リーナしか呪いの毒を消すことができないからだろう。
 そう思うと切なくなるが、それでもアレクシスがリーナを捜し回ってくれて、最後には抱き締めて無事を喜んでくれたことは嬉しい。
 嬉しい気持ちと切ない気持ちがないまぜになって、心がぐちゃぐちゃだ。自分でも何をどうしたいのか、さっぱりわからない。
 千々に乱れた心を持て余しながら、リーナはぼんやりとハンガーに吊るしたデイドレスを見る。
 ――昼はともかく、晩餐会などでは見劣りしてしまうわね。足の状態もよくないから、もし晩餐会に招待されたら、欠席させてもらおう。
 そんなことを思っていた時、コンコンと控えめなノック音が響いた。暖炉の上にある置時計の針は零時過ぎを指している。こんな真夜中に誰だろうと思って、足を引きずりながらドアに近づき、そっと開けてみたら、アレクシスが立っていた。
「どうされましたか?」
 驚いてもう少しだけドアを開くが、リーナ自身は就寝前なので下着の上にガウンを羽織っただけだ。あまり見られたい姿ではない。一方のアレクシスはシャツにスラックスと、カジュアルではあるが人前に出られるかっこうをしている。
「足を痛めているだろう。寝る前に手当てをしよう」
 水から上がって屋敷に戻る時に痛がったのを覚えていたらしい。
「え、アレクシス殿下が? いいですよ、別に。折れているわけじゃなさそうですし」
「俺はこう見えてもずっと体を鍛えてきたから、それなりにけがへの対処方法も知っている。放置してあとで大変なことになったら困るだろう」
 そう言ってアレクシスが小さな箱をリーナに掲げてみせる。救急箱のようだ。
「でもこんな真夜中に……私の部屋で……? カイル様に同席していただいたほうが」
「若い女性の部屋に男が二人も押しかけるほうが問題のような気がするが。そう身構えるな。薬を塗って関節を固定するだけだ。すぐ終わる」
 そう言われてしまうと、アレクシスを意識しすぎている気がして逆に恥ずかしい。あの口づけは呪いの影響なのだからと、リーナはおとなしくアレクシスを中に招き入れた。
「そこに座って」
 アレクシスが指示したのは、暖炉前の長椅子だった。言われるがまま腰をかけ、痛めた左足を差し出すと、アレクシスがリーナの前に膝をついてその足に触れてきた。
 むき出しの足なんて人に見せることがないから、恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。室内は小さなランプだけなので、顔色まではわからないだろう。そこは救いだった。
「だいぶ腫れているな」
 アレクシスはしばらくリーナの左足首を観察したあと、腫れている部分に軟膏を塗り込み始めた。手つきが優しいせいか、アレクシスの指先を強く意識してしまう。くすぐったくてゾクゾクする。呪いの毒の気配とも違う感覚に、リーナは戸惑った。
 ――何かしら、これ。なんだかおかしいわ。
 アレクシスが触れている部分だけ、いつもより敏感になっている気がする。
「あ、あの……先ほどは、ありがとうございました」
 困惑を押し隠すように、リーナは口を開いた。
「君が無事でよかった。それにしても、無茶をする。君はとんだじゃじゃ馬だ。本当にボーフォールの乙女なのか?」
 アレクシスがリーナの足首に包帯を巻きながら言う。事務的な手つきと口調に、アレクシスがただリーナのけがを気にしてくれていただけだとわかる。
「今日のことを知ったら、先生方は卒倒するでしょうね」
 変に意識してしまった自分をごまかすように、リーナはわざと明るい声を出した。
「ボーフォールの乙女を見る目が変わりそうだ」
「基本的にはみんな、おしとやかですよ」
「……そうか……? 俺に呪いをかけてきた乙女もいたし、級友を追い回していた乙女もいたぞ?」
 アレクシスが訝しげに呟いて、リーナを見上げてきた。
「ああ、まあ、その……だから、基本的には、です」
 リーナはしどろもどろに答えた。そこだけ聞くと、確かにボーフォールの乙女はお転婆揃いみたいだ。けれど、アレクシスのいつもの軽い調子の会話に、妙に敏感になっていた心がほぐれていく。いつも通りに会話できてほっとする。
 アレクシスを意識していることを気取られて、ぎくしゃくしてしまうことだけは避けたい。
「なるべく動かさないように。ほかに痛むところはないか?」
 アレクシスが包帯を巻き終える。足首は包帯でぐるぐる巻きに固定されていた。
「もう大丈夫です」
 本当はいろいろ痛むが、太ももだったりお尻だったりと、とても見せられる場所ではない。リーナは安心させるためににっこり笑って返した。跪いたまま見上げてきたアレクシスの氷色の瞳には、心配そうな色が浮かんでいる。
「そういえば、ボーフォール学園には、君のお父上が生前のうちに入学手続きをしてくれたんだったな?」
 ふと、アレクシスが聞いてくる。
「戸籍には庶子として載っていた。これは、自分の子として認めるという意思表示だ。生前のうちにこの国でも指折りの名門校に入学手続きを終えるということは、君のお父上は君のことを自分の娘として育てるつもりでいたわけだ。そういう方が死に際し、何も残さずに亡くなっているわけがない気がするんだが」
「それこそ、ボーフォール学園への進学のことだと思うんですけれど」
 むしろ父が最期までリーナを庶子と認めてくれていただけでもありがたいという気がする。継母との結婚に際し、リーナを手放していてもおかしくなかったのだから。
「それなら学費もお父上持ちでもおかしくないだろう? 入学手続きだけなんて、なんだかおかしい気がして」
 アレクシスの指摘に、リーナは目を伏せた。確かに、リーナをかわいがってくれていた父なら、そこまでしてくれていてもおかしくない……そんな気はするが、継母が素直にリーナへ父が残してくれたお金を渡すとは思えない。継母はリーナにお金をかける気は一切なかった。
「もし……そうだとしても、私にはどうすることもできません」
 相手はフェルドクリフ伯爵となっている人物だ。一方の自分は、力のない一庶民。
「だが、今なら俺も味方できる。行動を起こすことは可能だ」
「それは、裁判を起こせということでしょうか。徒労に終わる気がします。継母はそのあたりまできちんと調べて手を打っていると思うんです……私が進学を承諾、あるいは平民になることを承諾した時点で、相続放棄ということになっているんじゃないでしょうか」
「リーナは相続を放棄した覚えはないんだろう? おそらく君は、パトリシアから様々な権利を奪われている。本来君が手にするはずの権利を。俺はそれが許せない」
 アレクシスが救急箱を手に立ち上がる。
「ありがとうございます。でも、たとえ身分を回復してフェルドクリフ家に戻れたとしても、ここに私の居場所はありません。……だから、もういいんです」
 リーナは首を振った。
「だが君のお父上は、君を伯爵家の娘として育てようとした。お父上が君に受け取ってもらおうと思ったものを、諦めないでほしい」
 アレクシスにそう言われると、心が揺れてしまう。リーナだって、フェルドクリフ家が嫌いだから家を出たわけではないのだ。ただ、この家に残っていては母の願いでもある「幸せな人生」を送ることが難しいと思ったから、家を出ることを選んだのだ。
 リーナが何か言おうと思って顔を上げた瞬間、アレクシスがリーナの座る長椅子の背もたれに手をついてきた。えっと思っているうちに、腰をかがめてリーナの唇に唇を重ねてくる。
 人生二度目の口づけだ。リーナは驚きのあまり、大きく目を見開いた。そんなリーナにお構いなしに、アレクシスは口づけを続ける。その口づけは、ただ唇を重ねるだけのものではなかった。唇を柔らかく食まれたかと思うと、舌先が唇を舐めてくる。
 唇を味わうための口づけをされている。その意味に気づいた途端、頭にカッと血が上る。
 ――また呪いなの!? 一度目は『するつもりじゃなかった』と言っていたのに……!
 不本意な口づけなんてされても困る。こっちが悲しくなるだけだ。あとで我に返ったアレクシスに「なんでこんなことをしたんだろう」などと落ち込まれでもしたら、いたたまれないなんてものではない。
 せっかくアレクシスとは穏やかな関係を築けているのだから、それ以上なんて望まない。その関係を壊したくなくて、リーナは慌ててアレクシスを突っぱねようとした。
 だがその両腕は、アレクシスに捕まってしまう。姿勢を支えるためか、アレクシスの片膝がリーナの脚の間に差し込まれたため、逃げ出すこともできなくなってしまった。
 しまったと思ったが、あとの祭りだ。
 唇が離されて覗き込まれる。何か言わなくては。だが言葉が出てこないうちに、再びアレクシスが顔を寄せてくる。顔を背けたら、首筋に唇が降ってきた。そのまま軽く啄むように唇が皮膚の上をたどる。敏感な場所に触れられて、全身が総毛立つ。ドキドキと爆発しそうなほど心臓の音がうるさい。
 アレクシスを部屋に入れた迂闊さを悔やんだ。やはり入れるべきではなかった。
「どういう、つもりなんですか!?」
 動揺のあまり体を震わせながら、ようやくの思いで声を絞り出すと、
「さっき、君がいなくなって、生きた心地がしなかった」
 首筋に顔をうずめたまま、アレクシスが呟く。リーナの大好きな声で囁かれて一瞬だけ気が遠くなった。この声は凶器だ。首筋にかかる吐息がくすぐったい。あり得ないほど近くにいるアレクシスに、これは現実なのだろうかとすら思い始める。
「前に姿が見えなくなった時もそうだった。そして、君は呪いが解けたら俺の前からいなくなる。……こんな思いはたくさんだ。俺には君が必要だ」
「……何をおっしゃっているんですか……」
 声が震える。目の前にいるのは、リーナの知るアレクシスだろうか? よく似た本物だったりはしないだろうか。それとも夢を見ているのだろうか。本当は疲れすぎて眠ってしまっているのかもしれない。それくらい、リーナには目の前で起きていることが現実だとは思えなかった。
 でも、アレクシスの体温も息遣いも感じる。だから、これは夢ではない。
「君にそばにいてほしくてたまらない。君に触れたい。……俺は、君が好きだ。……そばにいてほしい。ずっと。……できれば、一生」
 アレクシスに囚われたまま、リーナは目を瞠る。見上げたアレクシスの氷色の瞳には、確かに切実な思いがあふれているように見えた。
「俺の言葉が信じられないか?」


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