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ローゼの結婚

浅見 / 著
芦原モカ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-543-3
定価 1,430円(税込)
発売日 2022/12/27
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

《第2回ジュリアンパブリッシング恋愛小説大賞受賞作》
「君を守るためなら、ぼくは誰よりも残酷になれる」
心を壊した令嬢が嫁いだのは、天涯孤独の没落貴族
優しさに満ちた彼の、隠された正体とは!?
血液から希少な魔石を生み出せる特殊体質をもつ伯爵令嬢ローゼ。それに目をつけた悪辣な義母たちに非道の限りを尽くされ、気づけば余命わずかとなっていた。そんな彼女が嫁がされた相手は、天涯孤独で借金まみれの没落貴族レオ。「ぼくは君がここに来てくれて嬉しいよ」絶望に打ちのめされたローゼの心を、彼のまっすぐな優しさと献身が解きほぐしていく。そんななか、無情にも義母の魔の手が忍び寄る。だが、レオには隠された秘密があって——!?
「君を守るよ、これからもずっと。どんな災いにも君を渡さない。ぼくは君だけのお守りだから」

立ち読み

「景色が良すぎる」
 爽やかな朝の光が差し込む寝室。
 胸の中で眠るローゼの、そのしどけない姿を見つめながら、レオはしみじみとそう呟いた。
 彼女が劇的な回復を見せてから半月ほど。
 ローゼの容姿はさらに若返って見える。
 まだ髪と瞳の色は戻らないし、目の下に少し皺と隈も残っており、肌や髪の艶も本来の彼女の年齢を考えればまだまだ元に戻ってはいないのだろうが、彼女を見て老女だと思う人間はもういないだろう。たとえ髪の色からそう見えても、顔を見ればレオより若い女性だと誰もが気づくはずだ。
 ――皺や血色はもう少し良くなるだろうけど、髪や瞳の色は戻らないかもしれないな。
 ローゼの白い髪を指で梳いて、目を細める。
 髪や瞳は、人体の中でも特に強く魔力が宿っているところなので、他人の魔力ではきっと補いきれない。彼女の元の髪色がどんなものか、この目で見てみたかったと強く思う。
 レオはふっと軽いため息をつきながら、ローゼの寝顔を見つめた。
 歪な皺による不自然な老け方で最初は分からなかったが、ローゼはとても綺麗な人だった。
 まず、ぱっちりとした大きな瞳は猫のように形が良い。それにすっと整った鼻や、ぷっくりとした可愛らしい唇が、小さな輪郭の中に完璧なバランスで収まっている。
 今でも目を瞠るような美人なのだから、本来の彼女はまるで女神のように美しいのではないだろうか。時々、レオはそんなことを考えてしまうのだった。
 その美しい女性の、それも妻である人の柔らかい体がぴったりと自分にくっついていて、白い足がレオの下半身に絡まっている。しかも襟ぐりからは無防備な白い乳房がちらりと見えているのだから、レオは近頃、毎朝とても大変なことになっていた。
 ローゼの心や体調に余裕が出てくると、今度は自分の方に余裕がなくなってくるというのは、なんとも情けない話である。
 ――まだ、肌に触れられるのは怖いようだし……。
 ローゼの過去については、いまだ肝心なことは聞けていない。
 マデリック伯爵家で辛い目に遭っていたということだけは教えてくれたが、それ以上を話そうとすると、ローゼは全身に汗をかいて、息ができなくなってしまうのである。一度、レオがもういいと言っても喋ろうとして、結局息ができずに気を失ってしまったこともあった。
 それだけ深く、強く、ローゼの心に恐怖が刻まれているということだろう。
 ――ひとまず現状で打てる手は打ったけど……。
 それもあってだろう、まだマデリック伯爵家からの干渉はない。
 だが肝心の人といまだ連絡がつかないことが、レオを焦らせていた。
 レオは、そっと自分の背中に触れた。
 脳裏に浮かぶのは、自分に魔術に関することを教えてくれた〝先生〟だ。
 最後に顔を見てからもう十年以上になるが――どうしてもその人に会わなければならない。
 ふうと、今度は深いため息をついたところで、ローゼがうっすらと目を開いた。
「レオ?」
 寝起きの、ぼんやりとした瞳に見つめられて、レオの下半身が強ばる。
「おはよう、ローゼ」
 レオはできるだけ何でもない振りをして、愛らしい唇に口づけた。
「ん……んっ……」
 初めはついばむように触れ合いながら、徐々に口づけを深くしていく。角度を変えて、舌でローゼの口内を丁寧に愛撫する。それに、一生懸命に応えるローゼは可愛くてたまらない。
 レオは、ローゼの服越しに彼女の胸に触れた。ローゼは肌を見せることや、直接触れられることを怖がるが、こうして服越しに触ることは嫌ではないようだ。
 最後まで抱くのは我慢するにしても、ローゼも回復してきたことであるし、最近では彼女が安心できる範囲で少しずつ触れ合いを深めているところである。
「あ……、っ……」
 薄い寝衣の上から胸を愛撫しているうちに、その先端が硬くなってくる。キュッと軽くそこをつまむと、ローゼがか細い声を上げてレオにしがみついた。レオの下半身に絡んだ足にぎゅっと力が入ったので、気持ちが良いのだろう。
 レオは、彼女の滑らかな太ももに触れた。肌の中でもここは触れてもいいようで、レオは時間をかけてその触り心地を堪能した。
 ――ああ、もっと触れたいな。
 たとえば彼女の胸に直接触れられたなら……。
 そんな誘惑を軽く頭を振って払いながら、レオは自分に許されたもう一つの場所に手を伸ばした。
「んっ……」
 ローゼの寝衣の裾から奥へ手を伸ばし、肌着をずらしてその先に指を這わせる。淡い茂みの奥はすでにしっとりとしていて、レオは自身がさらに熱を持つのを感じた。
「ローゼ……」
「や……」
 熱を込めて彼女の名前を呼ぶと、ローゼがイヤイヤとレオの胸に頭をこすりつけてくる。最初はこれで行為をやめていたが、どうやら本当に嫌がっているわけではないらしい。レオはもう片方の手で彼女の頭を撫でながら、愛らしい花芯を弄った。
「あっ……あ……」
 ローゼの体がびくびくと震える。愛らしい反応を堪能しつつ、レオは濡れそぼったその場所につぷりと指を挿入した。
「っ……」
 必死に堪えたあえぎ声がとても可愛い。レオは彼女の顔を上に向けると、可憐な唇に口づけた。甘い口内を味わいながら、指で彼女の中をゆっくり愛撫していく。
 ――ああ、熱いな。
 ローゼの中は、熱くて、きつくて、とろとろだ。この場所に自分の昂ったものを挿入したら、いったいどれほど気持ちが良いだろう。
「はっ……ぁ……」
 レオのキスと愛撫に、ローゼの目がとろんと溶けていく。その気持ち良さそうな顔を見ているだけで、レオの心は満たされる。
 レオは指を曲げて彼女のいいところを愛撫しながら、花芯をくねくねと親指で刺激していく。
 それをいくらか続けていると、やがてローゼは一際高い声を上げて背中をそらせた。
「……気持ち良かった?」
 指を名残惜しく引き抜きながら、耳元で囁く。するとローゼはのぼせたような目でこくりと頷いた。だがすぐにはっと我に返ったような表情を浮かべ、顔を耳まで真っ赤にしてレオの胸に隠してしまう。
 ――いや、可愛すぎる。
 本当に可愛い。可愛すぎて涙が出る。こんなに可愛い人がいるなんて聞いていない。
 今すぐこのままローゼを抱き潰したい衝動に駆られるが、それは彼女の心の準備が完璧に整ってからだと決めている。なのでレオは、目を閉じて一人頷いた。
 ――よし、トイレに行こう!
 だが前屈みにベッドを抜け出そうとしたレオの服を、ローゼがくいと引っ張った。
「どこに行くのですか……? レオ」
 ローゼが不安げな目をしてレオを見つめてくる。可愛い。
「え?」
「今……行こうってレオが」
 どうやら、意気込みが強すぎて思考の一部が声に出てしまっていたらしい。
 ここでトイレと言ってしまうのは簡単だ。しかし、なぜと聞かれたら気まずい。ローゼは一般的な性知識は学んでいるようだが、男の生理的なものについては全くだからだ。下手に説明することで気を遣って欲しくもない。
 そういうわけで、レオはキリッとした顔を作って口を開いた。
「今日は天気が良いから洗濯に行こうと思って」
 言ってみてから、ここで洗濯というのは不自然だったかと後悔する。
 しかしローゼは、一瞬目を丸くした後、なにやら決意を込めた表情で頷いたのだった。
「洗濯に……今日は私も連れていってください」

◇◇◇

 カカラタ村は、やはり美しい場所だった。
 朝の光を浴びた湖面はキラキラと輝いて、その豊かな水の恵みを受けた緑もまた朝露に煌めいている。
 村のそこかしこから活気ある人々の声が聞こえてくるし、畑の方からは手伝いなのか遊んでいるのか、子供たちの笑い声も響いてくる。
 丸い屋根の間をゆっくりと馬に跨がって進み、すれ違う人たちと挨拶を交わしながら向かうのは川辺の洗濯場だ。
 普段の洗濯は家でしているが、週に何度かは、レオはそこでシーツの洗濯などをしている。今日はローゼもそれに参加するつもりだった。
「あら! おはようございます、ロスティールドさん」
 ローゼたちが到着した時には、すでに村の女性たちが十人ほど集まっており、そのうちの一人がレオに気づいて声をかけた。四十代半ばの恰幅の良い女性である。
「おはよう、エリナさん。今日もよろしく」
 レオが先に馬から下りて、軽い調子で挨拶を返す。続けてローゼを抱き上げるようにして馬から下ろすと、あらためて口を開いた。
「こっちは妻のローゼだ」
「……初めまして、ローゼです。よろしくお願いします」
 レオの紹介に合わせて頭を下げる。すると他の女性たちも興味深そうにこちらへ視線を向けた。
 崖の上のロスティールド家に嫁いできたという謎の花嫁に、皆興味があったのだろう。
 視線がちくちくと刺さるような気がしてローゼは体を強ばらせたが、それ以上不安を感じる前にエリナがにこりと笑ってくれた。
「……体調を崩していると聞いていたけど、もう大丈夫なんですか?」
「はい、夫のおかげで」
 頷きながら、ローゼは一人胸を撫で下ろした。
 ――大丈夫、普通に喋れている。
 サンスが頻繁に屋敷に来て会話をしてくれるから、自分でも少しは自信を持てるようになっていた。
 ただ、こうして全く見ず知らずの人と話をするのは本当に久しぶりで、きちんと声が出たことにまず安堵してしまう。
 本音を言えば、ローゼはまだ他人が怖い。
 けれど強くなりたいと思ったのだ。
 容姿が回復しても、ずっとレオのお荷物でいては、いつまでも自分に自信が持てないままだろう。
 少しずつでも人の輪の中に戻っていく努力をしたい。
 そう思えるようになったのも全て、支え続けてくれたレオのおかげだ。
「やだ、綺麗な人じゃない。ロスティールドさんにはもったいないわ」
「でもまだ顔色が悪いよ、もう少し家でゆっくりさせてあげた方がいいんじゃないの?」
 女性たちが口々にレオに話しかける。それにレオが一々照れたり困ったりと表情を動かすので、皆が面白がって声を上げて笑う。
 こんな風に笑うレオを、ローゼは以前見たことがあった。
 仕事部屋で、魔道具の鏡がカカラタ村にいるレオを見せてくれた。
 その時は自分の知らないレオを見て落ち込むばかりだった。
 今その笑顔を真横で見上げ、ローゼは胸がくすぐったくなるのを感じて笑みを浮かべた。
 木陰からこちらを見つめる若い女性に気づいたのは、ちょうどその時だ。
 彼女の視線は、どことなく恨めしげに見える。
 ――あれは、確か。
 鏡が映す景色の中で、レオに抱きついていた娘ではないか。
「気にしなくていいですよ」
 エリナがすぐに察し、そう声をかけてきた。
「ロスティールドさんは、ほら……あの見た目で性格も優しいから、村の娘は大体あの人に初恋を奪われるんです。そして、ある程度の年頃になると、ただ誰にでも優しいだけって気づいて冷めるの。あの子はまだ、それに気づいていないだけ」
 励まそうとしてくれるのは分かったが、ローゼの胸は微かにざわついた。
 あの娘がレオに好意を持っているかもしれないと思ってはいたけれど――少々もやもやする。
 レオがローゼにだけ特別優しいのではないということも。
 分かっていたことでも、あらためて突きつけられると心が揺らいでしまう。
 表情に影を落とすローゼを、エリナが思わずといった様子で笑った。
「大丈夫、奥さまのことは特別に思っていらっしゃいますよ。だってここに来ると、いる間中ずっと、ずーっとあなたのことを喋ってるんだから。妻のここが可愛い、こんな仕草が可愛いって……あんなに幸せそうなロスティールドさんを見るのは初めてです」
「そうなのですか?」
「ええ……お二人とも想い合っておられて、とても羨ましいですよ」
 洗濯の籠の中身を仕分けながら、エリナが声を立てて笑う。
 ローゼは顔を真っ赤にして俯いた。
「じゃあ始めましょうか!」
 エリナがかけ声を上げると、散らばっていた女性たちが川べりに集まって洗濯物を水に浸していく。ちょうどこの辺りは流れが緩やかなようで、それで流されていくことはない。
「ローゼ、おいで」
 レオの隣でやり方を習いながら一緒に洗濯物を水に浸け、汚れの酷いところなどを手でゴシゴシと洗っていく。
 しばらくすると女性たちが揃って立ち上がり、スカートの裾を軽く括って、隣の人と腕を組み始めた。
「ローゼもほら、ぼくと腕を組んで」
 ローゼもまたレオに手を引かれて立ち上がり、訳の分からぬままスカートを括って腕を組む。そして言われるままに靴を脱いで川に足をつけた。
 ――あ、冷たくて気持ちいい。
 ひやりとした感触に微笑む。すると誰彼ともなく、女性たちが歌い始めた。
 軽快なリズムで、花や草木の美しさを讃える歌だ。全員がそれに合わせて足を動かし、川底の洗濯物を踏んでいく。
「レオ、あの、これは……っ」
「ほら、ローゼも!」
「ええっ……!」
 レオも皆と同じように歌い、足を動かしている。ローゼも慌てて洗濯物を踏み始めた。
 どうやら歌も動きも一定のリズムで同じことを繰り返しているようで、レオを盗み見ながら体を動かしているうちに、ローゼにも何となくそれが摑めてきた。
「上手じゃないか」
 レオがにこりと笑ってそう言う。ローゼは唇を尖らせて彼を見つめ返した。
 ダンスがあるなら、初めに言っておいてくれたらいいのに。レオは時々こういうことをする。たぶん、根が悪戯好きなのだ。
 とはいえ難しい動きはないし、歌詞も何となく分かってきた。
 ――楽しい……。
 ふくらはぎに跳ねる水しぶきのくすぐったいような冷たさも、青空の下で声を出して歌うことも、それに合わせて踊るように足を動かすことも。
 時折レオの顔を見上げ、笑いながら歌う。
 大体動きが分かってきたという頃になると、今度はレオがわざとこちらに足を出して邪魔してくる。ローゼは頰を膨らませ、負けじとレオに水しぶきを跳ねさせる。するとレオは、楽しくて仕方がないとばかりに声を上げて笑った。
 やがて歌がやんだ頃には、ローゼの息はすっかり上がってしまっていた。
「レオは……いつも一人で女性の方々に交じってこれをしているのですか?」
「そうだよ、楽しいだろ?」
 確かに楽しいけれど、鋼の心臓すぎる。
 ローゼはふふっと笑いながら、足の裏を軽くさすった。どうやら小石を踏んでしまったようで、少し痛い。
 ――痛い?
 ローゼは、はっと顔を上げた。
 痛みの感覚はこれまでずっと鈍いままだった。もう、戻ることはないと諦めていたけれど……。
「ローゼ、どうかした?」
 レオが心配そうに青い目を細める。ローゼは、ごくりと唾を飲んで彼を見つめ返した。
「足の……裏が少し痛くて……」
 レオに、痛覚がほとんどないとはっきりと告げたことはない。
 だが、ここ一年近くの暮らしの中で彼はきっと気づいているはずだ。
 案の定、レオは大きく目を瞠った。
「痛いです……レオ」
 目に涙を浮かべて告げると、レオは強くローゼの手を引いて抱きしめた。
「そっか……」
 ぐいっとローゼの腰に腕を回し、満面の笑みで抱え上げる。
「それは大変だ!」
 レオの足下から上がったしぶきが、日の光を浴びてキラキラと輝く。
 突然ローゼを抱え上げて笑い始めたレオを女性たちが驚いた表情で見つめている。それがまたなんだかおかしくて、ローゼも声を出して笑った。
 ――ああ、私……レオが好き。レオが大好き。
 強い想いが胸に込み上げてくる。
 ――今なら、言える気がする。
 ローゼの全てを、過去を。
 心に深く刻まれた恐怖を、レオへの想いが上回っているとはっきりと思えた。
 ――レオになら、この体に流れる血を全て捧げたっていい。
 この幸福な日々は、今はまだ仮初めのもの。
 これを本物の日常にするために、自分にはやるべきことがある。戦うべき相手がいる。
 もちろんローゼが全てを打ち明けたことが知られれば、レオにも義母たちの魔の手が及ぶだろう。彼を危険にさらすかもしれないと考えると足が竦むようだ。
 だがレオは、きっとそれも分かっていて、ローゼが話せるようになる時を待ってくれている。
 自分と共に、義母たちに立ち向かおうとしてくれている。
 それにレオは魔術に関する知識もあるから、何かその術を知っているかもしれない。
 ――この先もレオと共に生きていくために。
 今日こそレオに、全てを打ち明ける。
 ローゼは強く決意をしたのだった。


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