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主人公はあなたです! 私の書いた小説通り、夫が国王陛下になっていた件

クレイン / 著
氷堂れん / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-530-3
定価 1,430円(税込)
発売日 2022/10/27
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

男装小説家ですが、蜜月が書けないので国王陛下と実践することになりました!?
無実の罪で国を追われた王太子・サミュエルの妃だったヴァネッサは、田舎に逃れて男を装い、小説を書いていた。その内容はサミュエルを主人公にした復讐譚。物語は、主人公が王太子に復権し国王にまでのぼり詰め、いよいよ最終章となる恋愛編へ突入。だが恋愛のわからないヴァネッサは続きが書けない。そこへ突如サミュエルが現れて!? 「君の望み通り、この国の王になったんだよ」なぜか彼に執着されて、恋愛編の続きを実践することになり…?
「誰がなんと言おうと、僕の妻は君だけだよ。だから諦めて、僕のそばにいて」

立ち読み

『廃王子の帰還』も残すところ大団円のみだ。
 長い間引き裂かれていた主人公と女主人公の再会、そして愛し合う幸せな日々。
 結末は決まっている。————けれども、どうしても、書けない。
 ヴァネッサは寝台の上で膝を抱え込み、体を丸めた。
「もういっそ、このまま打ち切りってことでどうだろう……」
 小説が書けない小説家に、一体どんな存在意義があるのか。
 真っ白な原稿用紙を前にして、もう辞めてしまおうかと、何度も思った。
「……そんなことになったら、ヴァレリー・ランベール作品愛好者たちが暴動を起こしてしまうよ」
 サミュエルがヴァネッサのペン胼胝のできた手を握り、真剣な面持ちでそんなことを言う。
 彼自身、続きを待ち望んでいるのだろう。
 まさか自分に、こんなにも熱烈な信奉者がいるとは。しかも、こんなにも身近に。
 ヴァネッサは驚きつつも、つい嬉しくて笑ってしまった。
 それから、やはり続きを待ってくれている読者たちに報いたいと、強く思い直す。
 明日から真面目に、真っ白な原稿用紙に向き合おうと、ヴァネッサが決意を新たにしたところで。
「ねえ、ヴァネッサ。それなら僕と一から恋をしないかい?」
 突然そんな提案を、サミュエルから受けた。
 そうしたら、恋愛のことがわかるかもしれないだろう? と言って。
 そういえば先日ブランシュもそんなことを言っていたな、とヴァネッサは思わず遠い目をした。
 恋愛は、実践あるのみらしい。
「どう足?こうが、君は正真正銘僕の妻だ。つまり、もう僕以外の男とは恋愛はできない」
 何故ならそれは不貞行為に他ならないからだ。この国は女性の不貞に対し、非常に厳しい。
「最初は恋人の真似事から始めよう。それから少しずつでも僕のことを男として意識してほしい。……君を、愛しているんだ」
 サミュエルの言葉は、真摯だった。ただヴァネッサを希う言葉。
 それなのにヴァネッサは、そんな彼の手を簡単に離そうとしたのだ。
 どんなに責められても、仕方がないと思う。だがサミュエルはそれをしなかった。
「だってさ、初めて会った時、君が言ったんだよ。たとえ望んだ結婚ではなくとも、仲の良い夫婦になりたいって」
 流され辿り着いた場所で、それでも幸せになりたいと立ち上がり前を向いたのは、かつてのヴァネッサ自身だった。
 その頃のことを思い出し、ヴァネッサは何かが吹っ切れた気がした。
 そうだ。どうにもならないのなら、与えられたその場所で、できるだけのことをすればいいのだ。
 これまでずっとそうやって生きてきたのに、何を今更、小賢しいことを考えていたのか。
「それにやっぱり経験したことがあることの方が、文章に書きやすいだろう?」
「そんなことを言ったら、小説家は男にも女にもなれなきゃいけないし、何度も危険な目にあわなきゃいけないし、何度も死ななくちゃいけなくなるでしょ」
「あはははは! 確かにそうだね! でも実際に君、大体それらを経験していないかい?」
「……あ。本当だ」
 男にも女にもなったし、何度も危険な目にあったし、死んだことにもなっていた。
 思った以上に壮絶な人生を生きてきてしまったと、ヴァネッサはまた頭を抱える。
 そんな彼女を見て、サミュエルは腹を抱えて笑い転げた。
 そして笑いが収まってから、ヴァネッサに向けて、両手を大きく広げる。
 それは昔からの、抱きしめたい、という彼の意思表示だった。
 酷く懐かしくて、ヴァネッサは躊躇なくその腕の中に飛び込む。
「やっぱり僕らは、少し距離が近すぎたのかもしれないね。だから君が僕のことを男として意識できなくとも、それは仕方のないことだったのかもしれない」
 恋人というよりも、互いがかけがえのない家族だった。
 実の家族に恵まれなかったからこそ、互いに依存しあった。
 すかさずサミュエルの腕が、ヴァネッサの背中に回される。
 だからヴァネッサも彼の背中に手を這わせた。
 大きくなったなあ、と感慨深く思う。
 男性の平均身長ほどあるヴァネッサを、こうして包み込むように抱きしめられるのだから。
 彼の心臓の音が早鐘のように聞こえる。その音は、サミュエルのヴァネッサへの想いだ。
 するとヴァネッサの胸が、きゅうっと引き絞られるような、不思議な痛みを発した。
「愛してる。ヴァネッサ」
 耳元に愛の言葉を流し込まれ、ヴァネッサは体温が一気に上昇したのを感じる。
「ほら、ヴァネッサも言ってごらん」
 ?でも演技でもいいから、と。
 揶揄うように言った彼のその声には、隠された焦燥と懇願があった。
 ヴァネッサの心臓も、その速度を速くする。その言葉を紡ぐには、なかなかに勇気が必要だった。
「……愛してる。サミュエル」
 ヴァネッサがサミュエルの耳元で、小さな声で囁いた。
 その瞬間。彼の体に走ったわずかな震えを、ヴァネッサは見逃さなかった。

 ————彼を愛したいと、強く思う。彼に報いたいと、強く願う。

 ヴァネッサはそろりと上を向いて、彼の顔を覗き込んだ。
 相変わらず綺麗な、紅玉の目。吸い込まれそうだな、などと思っていたら、本当に吸い込まれるかのように一気に距離を詰められ、唇を奪われた。
 温かく柔らかな感触。再会してすぐの頃とは違い、余裕を持って受け入れられる。
 彼の唇が、食むようにヴァネッサの唇を貪る。
「んっ、むむっ!」
 長い長い口付けに、息継ぎの仕方がわからない。
 文章ならば『唇を触れ合わせた』で済むところが、なんと実践では、息継ぎが必要なのである。
 ちゅっと小さな音を立てて、サミュエルの唇が離れた。
「口付けの時は、そっと鼻で呼吸すればいいよ」
「……なるほど。でも結構タイミングが難しいよ。余裕がないから混乱するし、妙に鼻息が荒かったら恥ずかしいし」
 それを聞いたサミュエルが、また声を上げて笑った。
 ヴァネッサが真剣に悩んでいるというのに、なんとも失礼である。
「それじゃあ、もう一回してみよう。今度は落ち着いてできるだろう?」
 そう言ってサミュエルはヴァネッサの?を両手で包み込むと、また唇を触れ合わせてきた。
 ヴァネッサはそれを受けて、そっと鼻で静かに呼吸をしてみる。確かにこれならば苦しくない。
 唇の角度を変えながら、食むように動かしながら、口付けを続ける。
 そうしているうちに不思議と何故か下腹部にとろりとした妙な熱が溜まる。
 ヴァネッサは思わずみじろぎをして、その感覚を逃そうとした。
 するとサミュエルが、舌でぺろりとヴァネッサの唇を舐め上げる。
 突然のことに驚いてその間を緩めた瞬間。そこからサミュエルの舌が一気にヴァネッサの口腔内へと侵入してきた。
「んんっ……!」
 思わず身を引こうとするが、サミュエルの逞しい腕にしっかりと拘束されていて、動くことができない。
 彼の舌を?んでしまいそうで、怖くて必死に顎の力を抜けば、それを許しと思ったのか、サミュエルはさらに大胆にヴァネッサの中を貪りだした。
「っんあ……」
 驚いて喉の奥に逃げて縮こまってしまったヴァネッサの舌に、サミュエルの舌が絡みつく。
 そのせいでうまく嚥下できなかった唾液が、口角から伝い落ち、恥ずかしさに泣きそうになる。
 そして、下腹部に燻る熱が、止まない。
 ヴァネッサの歯を一本一本舌先でなぞり、上顎や?の粘膜の柔らかさを味わい、こぼれ落ちた唾液を吸い上げ、散々舐り尽くしたところで、サミュエルは満足したようで、ようやくヴァネッサの唇を解放した。
 その頃にはヴァネッサの体はぐったりと脱力してしまい、一人で立つことも難しい有様になっていた。
 現実の恋愛は、すごい。
 世の恋人や夫婦は、みんなこんなことをしているのかと、ヴァネッサは感嘆し、なにやら泣きそうになってしまった。
 これは確かに、自分の知らない世界だった。知識と実践では、こんなにも違うのだ。
「……いやだった?」
 ヴァネッサの表情に、サミュエルが心配そうに聞いてくる。どこか、悲しげに。
 そんな表情をされたら、嫌などと言えるわけがない。そもそも恥ずかしいだけで、決して嫌ではなかった。
 むしろ、彼の温もりを心地よいと感じる自分もいて。
 けれど言葉に出すのはなんだか恥ずかしくて。ヴァネッサは小さく横に首を振る。
 するとサミュエルは嬉しそうに笑み崩れた。
「それならこれから毎日しようね!」
「ええ?」
 そして要求を一気にガツンと上げてきた。流石腐ってもこの国の王、抜け目がない。
「こうして毎日君に触れるよ。君が僕を必要としてくれるまで」
 サミュエルは、脚に力の入らないヴァネッサを軽々と抱き上げ、寝台へと運ぶ。
 細心の気遣いを持って、そこへヴァネッサを横たえると、自らも寝台の上へ乗り上げる。
 ————そう、夫婦は同じ寝台で眠るものなのである。
 ヴァネッサの心拍数が、一気に上がった。顔が熱いから、きっと赤面していることだろう。
 そんなヴァネッサの反応を見たサミュエルが、面白そうに片眉を上げた。
「いやあ、昔君が僕の隣で、なんの疑問も警戒心も持たずに、幸せそうにすやすやと寝ていたことを思い出すなあ……」
「そ、その節は大変ご迷惑をおかけいたしまして……」
「君の無防備な寝顔を見ながら、僕がどれほど悶々としたことか」
 大変だったんだよ、などと今更恨み言を言われても、困ってしまう。
 なんせ男性の下半身の生理現象について、当時のヴァネッサは本当に何も知らなかったのである。
 つまりは不可抗力であり、自分は悪くない……はずだ。
 だがそれにしても過去の自分は、こんなにも美しい男が隣にいるのに、よくもすやすやと眠れたものである。
「……そんな顔をしてるってことは、君はもう何もかも知っているんだよね?」
 色香溢れる嗜虐的な表情で、サミュエルが聞いてくる。ヴァネッサは泡を吹きそうになった。
 絶対に何かいけないものが、彼から放出されている気がする。心臓への負担が重い。
 するとサミュエルが、突然仰向けに寝ているヴァネッサの上にのし掛かってきた。
 下から見上げる彼の顔は、やはりこの世のものとは思えないほど美しくて。ヴァネッサは言葉を失う。
「うん。やっぱりもう少し触らせて」
「ちょ、ちょっと一足飛びが過ぎるんじゃないかな……?」
「でも僕らは夫婦だからね。もう十年近く前から。少しくらい急いても、仕方がないと思うなあ……?」
「うう……!」
 またしても、ヴァネッサにはぐうの音も出ない。
 ヴァネッサとしても、サミュエルに触れられることは嫌ではない。むしろ喜びすら感じている。
 だが、ただただ不思議と恥ずかしいのである。こんな自分が、正しく女性として扱われることが。
(私が本当に金髪碧眼巨乳美少女であったなら、これほど恥ずかしくはなかったのだろうか……)
「……ねえヴァネッサ。また余計なことを考えているでしょう?」
 付き合いの長さからか、くだらない阿呆な考えをすぐに見破られ、ヴァネッサは閉口する。
 無意識のうちに色々と頭を巡らせてしまうのは、ヴァネッサの悪い癖だった。
「君は昔から想像力が豊かな分、本当に考えなくてもいいことまで考えるんだよね」
 サミュエルのヴァネッサ考察は、本人が考える以上に的を射ていた。
「……だからもう、何も考えられなくしてあげるよ」
 そう言って、サミュエルは微笑んだ。
 その笑みは間違いなく美しいのに、背筋が凍るのは何故だろう。
 サミュエルの唇が降りてきて、ヴァネッサの唇を塞ぐ。
 しつこく唇を吸われ、ヴァネッサの思考が定まらなくなってきた頃、ヴァネッサのドレスの裾を捲り上げて、サミュエルの手がその内側に入り込んできた。
 ヴァネッサの体の形を確かめるように、肌の表面を彼の硬い手のひらが辿っていく。
「っ……!」
 くすぐったさに身を捩るが、サミュエルに体重をかけられ、逃げることができない。
「やっ……」
 制止の声を上げようとすれば、また唇を吸われ言葉にならない。
 知らぬ間に胸元のリボンが解かれ、上半身を?き出しにされてしまう。
 そしてサミュエルの手がヴァネッサの太ももを撫で上げた時。彼の手に硬い何かが当たった。
「きゃあっ!」
 サミュエルはヴァネッサのドレスの裾を、一気に足の付け根あたりまで捲り上げてしまう。
 そこにあったのは、ワイン色の革でできたホルスターと、銀色の銃だった。
「……これは」
 目を瞠ったサミュエルに、ヴァネッサは少々バツが悪そうに視線を逸らした。
「……貴方からもらった宝物。何度も私の命を助けてくれたんだ。ほら、私天才銃使いだから!」
 何かを誤魔化すように笑いながら、ヴァネッサは戯けて言う。
 事実この銃がなかったら、ヴァネッサはとっくに死んでいただろう。
 だがその一方で、ヴァネッサはこの銃を常に身につけていないと、落ち着かない体になってしまった。
 丸腰でいることが、怖くて怖くて仕方がないのだ。
「この王宮が安全だってことは、わかっているんだけど……」
 生き残るために、ヴァネッサがどれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか。
 うっすらと察してしまったサミュエルは、悔しそうに小さく唇を?んだ。
 それから彼はヴァネッサの太ももからホルスターごと銃を外してしまうと、脇机の上に置いた。
 銃を手放し心許なくなったヴァネッサの体が、小さく震える。
「……僕がそばにいるから、大丈夫。君はもう、何も心配しなくてもいいよ」
 ————絶対に僕が守るから。
 そう言って一気にヴァネッサのドレスを脱がしてしまうと、サミュエルは下着だけになった彼女を、眩しそうに目を細めて見つめる。
 彼の赤い目に映る自分の姿が、ひどく卑猥で、恥ずかしくて死にそうだ。
「……あんまり、見ないで」
 硬くてやたらと量の多い、炭のような真っ黒な髪。気の強そうな大きな吊り目に、高い背と骨太の体。
 男性ならば褒められるであろうそれらは、女性としては哀れまれ、時に蔑まれるものばかりだ。
 だからこそ、『廃王子の帰還』のヒロインを、ヴァネッサとは真逆の存在として書いた。
 あの作品の中で、最も事実と異なる部分。それは、ヴァネッサの女性としての劣等感だ。
 男装するようになって、あまり気にならなくなったそれらは、王妃となって、また息を吹き返してしまった。
 必死に体を隠そうとするが、サミュエルはヴァネッサをしっかり寝台に縫い付け、それを許してはくれない。
「だって、綺麗だ」
 サミュエルが恍惚とした声で言った。その声に、ヴァネッサの女性としての何かが慰撫される。
「ねえ、ヴァネッサ。僕がどんなに君に触れたいと思っていたか、君にはわからないだろう」
 その言葉に、偽りは感じなかった。ヴァネッサに触れるサミュエルは、本当に嬉しそうだ。
「ひゃぁっ……!」
 突然胸の頂を摘まれ、ヴァネッサは高い声を上げた。
「ほら、また余計なことを考えてる」
 サミュエルが唇を尖らせ、仰向けに寝るとわずかな膨らみしか残らないヴァネッサの胸に、顔を埋める。
「……君は何も考えず、ただ僕に愛されているといい」
 そして、ヴァネッサの小さな胸の先端を口に含んだ。


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