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9784866694115

公爵家の養女になりましたが、ツンデレ義弟が認めてくれません

柊 一葉 / 著
あとのすけ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-411-5
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/06/25
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

ツンデレ義弟に萌えてたら外堀埋められてました!?
義弟を愛でたい鈍感養女と彼女を攻略したい義弟のハートフル萌えラブコメディ
おんぼろ孤児院から名門公爵家に引き取られ、養女になったルーシー。しかし公爵家の一人息子ジュードに初対面で「義姉だなんて、絶対に認めない!!」と言われ、絶句! それもつかの間、「違う! 嫌だとか、仲良くしたくないとかじゃなくて……」耳を赤く染めて目をそらすジュードのいじらしさに、ルーシーのツンデレ萌えが覚醒!? 外では眉目秀麗で完璧な公爵令息なのに、ルーシーの前では素直になれないジュード。そんな彼を愛でる日々を送っていたが、成人を機にジュードが態度を一変させて!? これまでのツンはどこへやら、甘い視線を向けてくる義弟。ルーシーの快適ツンデレ萌えライフはどうなる!?
「義姉だなんて認めないって、最初に言ったよね」

立ち読み

「ねぇ、ルーシーはいつジュード様と結婚するのです?」
 想定外の質問に、私は驚いて反応が遅れたほどだった。
「もう、教えてくださればよかったのに! いつから恋人になっていたんですか?」
「プロポーズの言葉はなんと? 揃いの指輪はもうデザインなさいました?」
「婚約式は略式ですの? 私の両親が『いつ頃に婚約祝いを贈ればいいか』と聞いてきまして、ぜひ教えてくださいな」
 何のことだかまったくわからない私は、皆の勢いに呑まれてオロオロするばかりだ。
「け、結婚? 結婚って何のこと……?」
 私とジュードが結婚!?
 まったく話についていけない。私が戸惑う様子を見て、皆はきょとんとした顔になる。
「え? だって先日、お二人で仲睦まじく何曲も踊っておられたではないですか。ジュード様はずっとルーシーだけを愛おしそうに見つめておられましたし、てっきりもう婚約が調ったのかと思ったのですが違うのですか?」
「えええ!?」
 なんでそんな風に思われているの!?
 義弟が私のダンスレッスンなんかを夜会でしてしまったがために、大いなる勘違いをさせてしまっていた。
「違うんです、あれはジュードが踊りたくない事情があったらしくて、それで」
 必死で事情を説明するも、誰一人それを信じてくれなかった。
 何か訳ありなのね、と生温かい目で見られてしまい、これでは必死に否定すればするほど勘違いが進んでしまうと早々に気づく。
「本当に違うんですよ?」
 困った顔で、再度否定するが今度は何か事情があって言えないのだと勘繰られる始末で……。もう黙ってお茶を飲んでやり過ごすしかなかった。
「そうですか? まぁ、手続きやら親戚への根回しやらが済んでいなくて、今はまだ何も言えないということですわね。わかっております。わたくしたちだって貴族令嬢ですもの」
「はぁぁぁぁぁ、本当に素敵でしたわ! お二人が踊っておられる姿……! わたくし、こういうお話大好きですのよ、禁断の愛とか真実の愛とか、秘めた恋とか」
 いえ、まったく秘めていません。私とジュードの間には、姉弟愛しかないと思うの。
 私の言葉なんて誰の耳にも届かず、話はどんどん飛躍していく。
「でもジュード様って、クールに見えて実はおかわいらしいところがありますのね! ご自身が成人なさったらすぐにルーシーを独り占めなさるなんて……!」
 ジュードがかわいい、という部分に、私はぴくりと反応する。
 それを一番知ってるのは私であり、皆にももっと知ってほしいと思っていたのだ。ティーカップを置いた手をそのままぐっと握りしめ、やや興奮ぎみに会話を奪う。
「そうなの! ジュードのかわいさは幅広いんですが、実は辛辣な言動の後に繰り出される優しさが漏れ出したときが最高にかわいくて、さらに言えば、照れて顔を背けたときの右斜め四十五度からのはにかみ顔が特にかわいらしいの。それからほかにもあって、動物が苦手なのに猫に触れたくてこっそり視線を送っては興味ないそぶりをしつつ、お菓子で釣ろうとしている横顔なんて最高にかわいいわよ!」
 あぁ、猫とジュードの組み合わせは本当に愛おしい。うっとりと思い出に浸っていると、皆がふふふと含み笑いで私を見た。
「もう、ルーシーったらやっぱりジュード様が好きなんじゃないですか~。いいのですよ? 幸せなら、今みたいに存分に惚気てくださいませ」
 しまった、惚気だと思われた!
 皆が頰を緩ませ、からかうような目を向けてくる。
 結局のところ、友人たちの間ではジュードと私は結婚するということで決まってしまっていた。
 お茶会は流行りのファッションや観劇の感想、お勧めの本などの情報交換の場でもあるけれど、会話の多くが恋バナや社交界を賑わしている噂で占めるので、私とジュードのありもしない恋バナでも十分に皆は楽しめるらしい。
「結婚式は長いヴェールを仕立てるのが流行りですけれど、ルーシー様は銀の髪がとてもきれいだから、最高級の真珠がたくさんついた薄青のショートヴェールが似合いそうね」
「ドレスはもちろん、マダム・シルフィーヌのデザインでしょう? 早く見たいわ~」
 話はどんどん進んでいって、最終的には私たちの間に子どもが二人生まれるところまで続いた。
「私たちは義姉弟なのよ?」
 私は、眉根を寄せてそう訴える。が、一瞬にして正論で返された。
「本当はハトコでしょう? 結婚できるじゃない」
「いや、あの気持ちの問題が……」
 皆はそれからも大いに盛り上がり、噂話を払しょくすることはまったくできなかった。しかも、噂は妄想を呼び、私がいつも持っている母の形見の指輪にまで及ぶ。
「ルーシー様が大事にしていらっしゃるおもちゃの指輪って、ジュード様が幼少期に贈ったものなのでしょう? お二人はそのときから、互いに恋心を抱いて結婚を誓っていたと聞きましたわ」
「素敵です~!」
 ごめんなさい、お父さん。お母さんに贈った結婚指輪を、子どものおもちゃ扱いされました。
 確かにイミテーションで価値がないから、誰にも取られずに孤児院にも持っていけたんだけれど、娘としてはちょっと複雑な気分になる。
 けれど、些細なことも恋バナの前では妄想の材料になるようで、友人たちは大盛り上がりだった。
「はぁ~! 私も早く素敵な方に巡り合いたいです! ジュード様ほどの美形は望みませんから、私だけを愛してくれる人がいいわ」
「やだ、重すぎる愛は受け止めるのが大変って聞くわよ?」
「それでもいいではないですか! ルーシーのように、情熱的な目で見つめられてダンスを踊ってみたいです」
 うん、これはもう今日中に誤解を解くのは無理ね!?
 私は諦めておとなしくケーキを食べて聞き役に徹し、「いずれ私かジュードに婚約者が決まれば誤解は解けるだろう」と来るべき日を待つことにした。
 
 あっという間に三時間が経ち、そろそろお迎えの馬車が各家から到着し始める。
「楽しい時間は早いですわね~。今夜は、婚約者と会食ですの。皆さん、また集まりましょうね」
 颯爽とドレスの裾を翻すレーナ嬢。私たちは笑顔で手を振り、帰りを見送った。
「またね、ごきげんよう」
 一人、また一人と友人が帰っていく。
 そして残りは四人となったとき、まさかの人物が私を迎えにやってきた。
「お久しぶりです、皆さん。義姉を迎えに参りました」
 爽やかな笑み、理想的な公爵令息モードのジュードが颯爽と登場したのだ。その笑顔があまりにキラキラと輝いているように見え、私は思わず「うっ」と目を瞑る。
「きゃあっ! ジュード様、ようこそいらっしゃいました!」
「ルーシーのお迎えにわざわざいらっしゃるなんて、やはりご結婚の噂は本当ですのね!」
 はしゃぐ友人らを見て、私は困ってしまった。
 その誇張された妄想を、ジュードにまで言わないで?
 すぐに否定しようとすると、座っている私の肩にそっと手を置いたジュードがにこやかに告げた。
「噂は噂ですよ。ただし、本当であればいいと思うことも世の中にはございますが」
「!?」
 驚きのあまり、私はパッと振り返ってジュードを見上げた。
 何も間違ったことは言っていないけれど、こんな言い方をしたら私たちの噂が本当であればいいという風に聞こえてしまう。しかもそれを、ジュードが望んでいると。
 友人らはものの見事にそう受け取り、頰を赤らめて「やっぱり」とうれしそうに微笑んだ。
 絶句する私の手をさらりと握ったジュードは、麗しい笑顔を向けてくる。
「さぁ、ルーシー。遅くなる前に帰りますよ。それでは皆様、どうか義姉をまたお誘いください」
「「「はい!!」」」
 何がどうなってこうなったの? どうしてジュードは誤解をさせるようなことをするの?
 わけがわからず戸惑っているうちに、停めてあった馬車に乗せられ、バタンと扉が閉まる音がした。
「「………………」」
 気づいたら隣にいたジュードは、私の手を握ったまま足を組んで座っている。
 ゆっくりと動き出した馬車の中、ジュードの真意がわからずじっと横顔を窺っていると、彼はぽつりと呟くように言った。
「ここ意外に遠いよね」
「え……? 遠いって、ジュードはどこから迎えに来てくれたのです?」
 私は首を傾ける。
「どこからって、学院から直接だよ」
 王都の端と端ではないか。
 私が驚いた顔をしたせいか、ジュードは気まずそうに目を伏せた。
「別に、ついでだから。ついで! わざわざ来たわけじゃないからな!」
「――っ!」
 何それ、出かけたついでってこと!? そんなのあり得ないから!
 ついでの距離じゃないし、私を迎えに来るはずの馬車に連絡をしてそれを帰らせてまで迎えに来たってことでしょう?
「もしかして、心配してくれたんですか? 何かあったらって」
 優しい。私は胸がじんとなる。
「…………悪いの?」
 じろりと睨んだ顔はやや朱に染まっていて、きゅんとしすぎて心臓が握り潰されるかと思った。
「誕生日パーティーなら、知らない顔も来ているだろう? ぼぉっとしているルーシーに声をかける男がいるかもしれないし、迎えに来た方がいいと思っただけだ」
 さっきは「ついでだから」って主張したくせに、その後すぐに心配で迎えに来たってバレるようなことを自分から言うなんて……!
 しかも私のことを「ぼぉっとしている」って貶しておきながら、結果的に自分がフォローしてあげようって思ってくれていたとは、気遣いも完璧だわ。
 久しぶりのツンデレ、ありがとうございます。そっと目を閉じると、幸せすぎて天国の扉が見えかける。
「ちょっと、話聞いてる?」
「はっ!? すみません、旅立っていました」
 いけない。平常心を心がけないと。背筋を正してキリッとした表情を作ろうとするも、恨めしそうにこちらを見るジュードの前では彼がかわいすぎて頰がふにゃりと緩んでしまう。
「で、何か聞くことはないの?」
 しばらく馬車に揺られていると、ふいにジュードがそんなことを尋ねる。
 聞くこと? そうね、そういえば何かあったはず。
 義弟のツンデレにやられてすっかり自分を見失っていた私は、その言葉でさきほどの珍事をようやく思い出した。
「そうだわ! さっきはどうしてあんなことを? 皆が誤解してしまいました」
「誤解ねぇ」
「はっ、それに噂をどうにかしないと! 私とジュードが結婚するなんて、早く否定しないと大変なことになるわ」
 オロオロする私を横目に見ると、彼はいつも通りの冷静な口調で言った。
「大変なことって?」
「それは、その、ジュードの想い人が勘違いしてしまったり、私に縁談が来なくなって嫁ぎ先がなくなったり、えーっと色々問題があるでしょう!?」
 この際、私のことは置いておこう。ジュードの恋だけは邪魔したくない。
 どうしたら噂を消せるかしら? 俯いて真剣に考えていると、おもむろに左手が持ち上がる。
「?」
 なんだろう、とその手の行方を見ていると、ジュードは繫いだ私の手を口元へ持っていき、その甲にチュッと軽いキスをした。
「ふえっ!?」
 驚きすぎて、肩はビクリと跳ね、悲鳴を上げてしまう。
 何かの間違いとも思ったけれど、しっかり瞼を閉じて明らかに意図的にキスをしていた。しかも指を絡めて握り直し、愛おしいという感情を込めた目で私を見つめてくる。
 ドクンと心臓が激しく打ちつけた私は、猛烈に逃げ出したい衝動に駆られて慌てて手を引いた。
 こんなのおかしい。
 義姉弟でこんな風にするのは、絶対に間違ってる……!
「ルーシー」
「!?」
 甘い声で名前を呼ばれるともう限界で。奪い返した左手を右手で押さえ、顔を真っ赤にして「なっ」とか「あっ」とか意味を持たない擬音を口にすることしかできなかった。
 私がこんなにドキドキして困っているのに、ジュードは意地悪い笑みを浮かべて高圧的に言う。
「わざわざ迎えに来てあげたんだから、これくらいご褒美があってもいいんじゃない?」
「なっ!」
 私は眉に力を入れて訴えかける。
「わざわざ迎えに来たって、今認めましたね!?」
「そこ!? 拾うのそこ!?」
 いや、だって。さっきはついでって言っていたから、気になってしまった。
「えーっと、あとはそうですね。え? え? ご褒美って?」
 ご褒美ってそれは誰に対する?
 どこかのお姫様じゃあるまいし、「私の手にキスをさせてあげましてよ、おほほほ」なんて思える私ではない。
「何を言っているのです? ジュード、今日はちょっとおかしいわ」
 ますます混乱する私。顔から熱が引かなくて、心臓が激しく鳴るのも止められない。
 ジュードは私が動揺していることに気づき、その上でからかうような目を向けて、きっぱりと宣言した。
「もう隠さないって決めただけ。ルーシーは放っておけないって、改めて思ったからね。噂のことも、こうなるってわかってたから予想の範囲内」
 どういうこと? 夜会のときから、全部わかっていたってこと?
 速くなる鼓動と必死で格闘しつつ、私は目で疑問を訴える。
 するとジュードは、意地悪い顔で笑って言った。
「実の姉弟であっても、ほかの誰とも踊らずに二人だけで何度も踊ることは絶対にないよ。特に、成人して最初の夜会ではね」
「でも、ジュードは私のための練習だって」
「言ったよ? ルーシーをどこにも行かせたくなかったから……って、そんなうれしそうな顔しないでくれる!? どうせ『そんなにお義姉様のことが好きだったの?』みたいに思ってるんだろう!? 違うからな!」
 ちょっと期待した私は、残念な気持ちになった。やはりまだ義姉とは認めてくれていないみたい。
 コホン、と咳払いをして仕切り直したジュードは、話の続きを始めた。
「成人して最初の夜会は、男にとっては運試しみたいな面があるんだ。想い人をダンスに誘って、一曲目は社交辞令、二曲目は求婚。三曲目はそれを受け入れてくれた証になる」
「何それ……!」
 そんなこと、まったく頭になかったんですけれど!?
 頭の中で、これまで習った礼儀作法や貴族社会のルールがぐるぐると駆け巡る。はくはくと口を開けては何も言えずに黙り込む、それを繰り返す私をジュードは嗤う。
「ルーシーのことだからすっかり忘れていたんだろう? もしくは『一曲しか踊っちゃいけない』って思い込んでいたとか」
 正解だった。マナーの講義で色々覚えることが多すぎて、とにかく踊るのは一人に対し一曲だけという覚え方をしていた。
 それに、今まで私に対して二曲目を誘ってくる人はいなかった。相手がジュードなら身構えることもないわけで。
「どうしてそんなことを……?」
 混乱しつつも、一つの疑問が浮かぶ。
 周囲に勘違いさせることで、ジュードに何のメリットもない。そんなことをする理由がない。
 瞬きすら忘れて、私はジュードを見つめる。
「どうしてって、ルーシーが好きだから」
 答えは簡潔だった。それなのに、私は「好き」の意味を理解するのにたっぷりと時間を要してしまう。ジュードが私を好きだなんてあり得ない。そう思いつつも、指先まで真っ赤になっていく。
 ジュードが私を恋愛的な意味で「好き」だなんて、本当に?
 唇が震え始め、何か言わなくてはと思うほどに言葉が出ない。
 彼は私の反応に満足そうな顔をして、同時に淡々と告げた。
「義姉だなんて認めないって、最初に言ったよね」
 初めて会ったあの日、十二歳だったジュードはそう叫んだ。
 あれは今でもはっきり覚えている。
「義姉だと思ってしまったら、ルーシーと結婚できないじゃないか。だから絶対に認められないってあのとき思ったんだ」
「そんな」
 これまでずっと一緒にいたけれど、ジュードのことをそういう風に考えたことはなかった。ただかわいい義弟に好かれたいって、そればっかりで。
 私がこれまで築き上げてきたものが、ガラガラと音を立てて崩れるような気がした。愕然とする私の隣で、ジュードは懐かしむように語る。
「君に会うまでは、孤児院から公爵家に来てうまくやっていけるかって心配していたんだ。義姉だっていう認識はなかったよ、事実としてハトコなんだし……。手紙をもらううちに、一生懸命がんばってるんだってどんどん惹かれていった。会ったこともないのに」
「でも! お義姉様ができてうれしいですって、手紙には書いてあったわ」
 あれは最初に交わした手紙の一文。
 うれしくて堪らなくて、「あぁ、しっかりした義姉になろう。立派な令嬢になろう」って思った。
「あれは社交辞令だよ。いきなり『義姉とは思えませんがよろしく』とは書けないだろう?」
「うっ!」
 それはそうだわ! そんな手紙をもらったら絶対にショックを受けるし、そんな内容ならばおじさまが私に見せないとも思う。
 それに私が養女になった当時、ジュードはまだ八歳だった。少年なりに気を遣ってくれたのが想像できる。
「四年間、手紙のやりとりをしていて、どんどん君に会いたくなった。やっと会えたあの日、目の前に現れたルーシーは笑顔で迎えてくれて……、想像以上にかわいくて、何よりも公爵家の嫡男としてしか見られていなかった俺のことを打算なしでまっすぐに見てくれたその目が気に入ったんだ」
 啞然とする私は、今にも卒倒しそうなほど衝撃を受けていた。
 初めて会ったときから、ずっと前から私のことを……?
「あの、このことは……おじさまたちは」
「知ってるよ? もちろん。初めて会った日の夜、父上には『ルーシーと結婚してもいいか』って聞いたからね。まぁ、婚約は『ルーシーの気持ちがジュードに向いたら』って返事だったけれど、今のところ両親共に応援してくれているよ」
 ジュードは私の耳元に顔を寄せ、くすりと笑って囁く。
 こんな風に触れてくるジュードも初めてだけれど、いちいちその仕草にドキドキしてしまう自分の反応も予想外で……。
「だから、噂なんていちいち否定しなくてもいいんだ。俺が卒業するまであと二年、その間にルーシーを口説き落とせれば問題ない」
 いえ、問題しかないんですが!?
「私は……」
 仲のいい義姉弟でいたい。正直な気持ちを告げようとすると、ジュードが途中でそれを遮る。
「言わせない」
「っ!?」
 頰にチュッと軽くキスをされ、私は飛び上がるほど慌てふためいた。
 座席の端まで逃げると、ジュードはあははと軽い笑い声を上げる。
「義弟としか思っていない、なんて言わないで。これから先、まだ時間はあるんだから」
 かわいい義弟が、なんだか知らない人に見える。
 体格や声が男らしくなったことはもう随分前からなんだけれど、今目の前にいるジュードは知らない男の人に思えた。
 かわいいジュード。たった一人の愛すべき義弟。
 ちょっとそっけなくて、でも私のことをいつも気遣ってくれる優しいところもあって、冷めた目で睨む顔も、照れて目を伏せる仕草も、私は全部大好きなのに。
 これから一体、私たちの関係はどうなってしまうのか。何より、私はどうしたらいいの?
 不安に駆られた私は、ぎゅっとスカートを握りしめて呟く。
「………です」
「え?」
 涙がぼろぼろと零れ落ちる。私はきつく目を閉じ、思いきり叫んだ。
「私はツンデレのジュードが大好きなんです!! こんなの私のジュードじゃないぃぃぃ!!」
「はぁぁぁ!?」
 さようなら、平穏な日々。
 かわいい義弟としてのジュードに未練たらたらの私は、邸に着くまでずっと大号泣で彼を困らせるのだった。


この続きは「公爵家の養女になりましたが、ツンデレ義弟が認めてくれません」でお楽しみください♪