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9784866693996

殿下の趣味は、私(婚約者)の世話をすることです

月神サキ / 著
m/g / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-399-6
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/05/28
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

王太子殿下が作る異世界ご飯は絶品です!
食べるのが大好き令嬢、麗しの王子様に美味しい手料理を食べさせられて胃袋掴まれる!? お料理尽くしラブコメディ!
王太子のルイスから、婚約の条件として三食おやつ付きでお世話をさせてほしいと告げられた公爵令嬢のロティ。実はロティは食べるのが大好きなのだ。ルイスが作る『オムライス』『肉じゃが』『味噌汁』という料理は初めて見るものばかりですごく美味しい! 聞けばルイスは異世界から転生してきたのだという。すっかりお世話されて甘やかされて「まるでお母さんみたい」とルイスに伝えると、なぜか微妙な顔で深い溜め息をつかれてしまうのはなんで!?
「私に、君の世話をさせて欲しい。―それが、私が君に求める婚約の条件だ」
「は……はあ?」

立ち読み

「君は本当に私の作ったものを美味しそうに食べてくれるな。私の作るものはこの国では見ないものばかりだろうに、萎縮する様子もない。正直驚いた」
「私、食べず嫌いって好きじゃないんです。それにルイスの作る料理はなんでも美味しいって知っていますから。だから安心して食べられるんだと思います。でも、ルイスって本当に変わった料理ばかり作りますよね……」
 このひと月ほどで食べさせてもらった料理の数々を思い出す。
 彼が私に作ってくれたものは、そのほとんどがこの国にはない料理だったのだ。その見た目も味も、料理名も、何もかもが初めてのものばかり。
 もちろん普段食べ慣れている料理も時折並んだりするけれども、圧倒的に知らない料理の方が多かった。
「次から次へと新しい料理が出てきて……でもどこかの国の料理というわけではないんですよね? 以前お話を伺った時は、オリジナルみたいなもの、とおっしゃっていましたけど」
 私の質問にルイスは目を瞬かせ、持っていた紅茶のポットをテーブルの上に置いた。
 近くにあった椅子を引き寄せ、座る。そうしてゆっくりと口を開いた。
「……正確には私のオリジナルというわけではない。君に出していたのは全て『日本料理』というカテゴリーにあるものだ」
「『日本料理』……ですか?」
 初めて聞いた言葉だ。
 どこかの国の名前だろうか。だが、『日本』なんていう国名を私は聞いたことがなかった。
「ええと、国名、ですか? 不勉強で申し訳ありませんが、そのような国の名前に覚えがなくて」
 恥ずかしいと思いつつも正直に告げる。
 ルイスはアーノルドに新しいカップを持ってこさせると、優雅な仕草でお茶を注いだ。
 そうしてお茶を飲み、私を見る。
 その仕草が、彼が落ち着こうとしているように私には見えた。
「ルイス?」
「……日本というのは国の名前だ。だが、私たちの生きるこの世界には存在しない」
「え?」
 言われた言葉の意味が分からなかった。まじまじと彼を見つめる。ルイスは薄っすらと微笑んでいた。
「いわゆる異世界とでも言うのだろうな。通常なら絶対に交わらない別世界。そこの島国の名前が日本という」
「……異世界?」
 ルイスは何を言っているのだろう。
 異世界とか別世界とか、突然彼が口にし始めた理由が分からず、ただ、彼を見つめる。
 私の視線を受けたルイスは、なんでもないような顔で告げる。
「私には、そこで生きてきた記憶がある。いわゆる前世の記憶というものが。つまり記憶を持ったまま転生したということだな」
「へ……?」
「さっき君が食べたカレーも、この間好きだと言っていた茶碗蒸しも肉じゃがもおにぎりも、全部その世界の料理だ。私は、日本という国に生きていた。料理は趣味だった。だからその記憶のある今も、こうして料理を再現できるというわけなんだ」
「……」
 呆気に取られながらもルイスの告白を聞く。
 転生というのは分かる。死んだあと、新たな肉体を持って生まれ変わるという意味だ。輪廻転生。その考え方は広く世界に知られている。
 だけど異世界?
 ルイスは異世界の日本という国からこの国に転生してきたと、そう言うのか。
 じっと考える。
 ルイスが噓を吐いているとは思わなかった。だって彼が今まで作ってきた数々の料理が彼の言葉を証明している。
 自慢ではないが、私は食べ物については本当に詳しいのだ。それこそ世界各国の様々な食材や料理について調べたし、実際に取り寄せて食べたことだって数知れずある。
 もちろん、全てを知っているとは言えないが、それでもこの私がひと月もの間、全く知らないと言い切れる料理を彼が作り続けてきたというのは事実だ。
 普通は不可能だと思う。
 正直に言って、全てオリジナル料理ですと言われるよりも、異世界で生きてきて、その時の料理を覚えているから作っていると言われた方が、ああ、なるほどねと納得できる。
 それくらい彼が作った料理は、この世界の料理とは系統も毛色も違ったからだ。
 熟慮を重ね、私はゆっくりと口を開いた。
「なるほど。そういうことでしたか。だからルイスは未知の料理をたくさん作れたのですね。驚きましたが納得です」
「分かっている。信じられないのだろう。いや、信じられないのが当然だな。……戯れ言と思い、今の話は忘れてくれ」
「しかしそうなると、ますます日本料理とやらに興味が湧きますね。異世界というだけあり、全くこちらとは違いますから。他にはどんなものがあるのでしょう」
「だから忘れてくれと――は? ちょ、ちょっと待て」
 怪訝な顔でルイスが私を見てくる。私はキョトンとしつつ彼を見返した。
「? なんですか?」
「……信じるのか?」
「何を?」
 脈絡がなさすぎて首を傾げる。ルイスは秀麗な眉を中央に寄せ、吐き捨てるように言った。
「……私が異世界転生をして、以前得た知識を使って料理をしているという話だ。突拍子もないとは思わなかったのか」
「確かに驚きましたけど……」
「噓だとは思わなかったのか」
「噓なんですか?」
「噓じゃない」
 即座に答えが返ってくる。それを受け、私は言った。
「はい。ルイスの言葉を信じます」
「……何故」
 ものすごく不審な顔をされた。
 噓じゃないと自分で言ったくせに、理由を聞いてくるのが分からない。
「えーと……信じては駄目なんですか?」
「いや、駄目ではないが今までこうも素直に受け入れてくれた者がいなかったからな。……信じると頷いておきながら実際は妄言だと思っている者もいた。それくらいなら信じられないと正直に言ってくれた方がいいと思っただけだ」
「……ルイス、ずいぶんと拗らせてますね」
「幼い時はそのせいでおかしな王子と遠巻きにされた。信じてくれないと理解してからは誰にも言っていない。……君以外は」
「どうして私には教えてくれたんですか?」
 純粋に疑問だったのだが、彼は真顔で言ってのけた。
「君は私の妻になるのだろう? 夫婦で隠し事というのは好きではない」
「……あ、はい」
 予想外すぎる答えに、ポカンと口を開いた。
 ――夫婦になるから。
 どうやら彼はただそれだけの理由で、人に言いたくない秘密をわざわざ教えてくれたらしい。
 パチパチと目を瞬かせていると、後ろに控えていたカーティスが軽い口調で言った。
「ちなみにオレとアーノルドも知ってるよ~。オレはおもしれーから殿下の話を信じてるけど、アーノルドは妄言だって断言してる。ね?」
「異世界転生なんて言われて信じる方が馬鹿ですよ。僕は現実主義者なんです」
 カーティスに話を振られたアーノルドが嫌そうに言う。ふたりの言葉を聞き、ルイスが苦笑した。
「このふたりは幼い頃からずっと一緒だからな。今した話も知っている。カーティスはこんな奴だから、まあ信じてくれているんだろうなと思うし、アーノルドは……これくらい正直に言ってくれるとかえって楽だ。変に慰めてきたり信じてもいないくせに同調されたりするよりよほどいい」
「確かに……それはそうかもしれませんね」
 信じていないのに信じているふりをされる方が傷つく。それは分かる。
 大いに納得し、頷いていると、ルイスが「だから」と口を開いた。
「君も正直な気持ちを言ってくれて構わない。別に信じられないと言われたところで婚約破棄をするなんて言わないし、料理を作らないとも言わないから。何せこれは、私の我が儘でしかないからな。妻となる君にはどこかのタイミングで私のことを伝えておこうと考えていたんだ。それをどう受け取ろうと君の自由だ」
「はあ……」
 ルイスの言い分を聞き、頷いた。ルイスは私の答えを待つようにじっと私を見ている。
 ――ええと、正直に言えば、いいのよね。
 とりあえず、思ったことを口にした。
「異世界転生なんてすごいですね」
「ん?」
「いえ、だから、ただ転生して記憶を持っているってだけでもすごいのに、それが異世界なんて輪をかけてすごいなって思ったんですけど」
「……は?」
 何を言ってるんだという目で見られる。
 だが、これは私の正直な気持ちなのだ。私は私の思ったままを告げている。
「私としては、ルイスに異世界の記憶があってよかったって思ってます。だってそのおかげで美味しいご飯を食べさせてもらえているんですから。ルイスの料理ってどう考えてもこの世界では見ないものばかりですし。異世界転生したから作れるんだと聞いて、むしろ納得しかありませんでしたけど」
「……そう、なのか?」
 疑念に満ちた顔をされた。
 疑われるのは本意ではないが、多分、それはルイスの今までの環境のせいなのだから、ある程度は仕方のないことなのだろうと思う。
「はい。異世界転生でもしていないとオムライスもおにぎりもこのカレーだって思いつけませんって」
「……まあ、確かに調味料からして違うが」
 眉を寄せつつ頷かれた。
「でしょう? 普通に考えて、調味料から作るとか、その年で不可能ですよね。しかも王子業の傍ら。だから私には十分それが理由になるんですよ」
 今までは単にルイスが特別すごい人なのだと思っていたけど、異世界転生の話を聞けば納得しかない。
 新たな調味料を作って、更にそれを使った新しい料理を作る?
 どう考えたってひとりの人間にできることではない。何人もの人間が一生をそれに費やしても足りるかどうか。彼がしていることはそれくらいの偉業なのだ。
 だから最初からそれを『知っていた』と言われた方が、よほどなるほどと思えた。
 自身の考えをルイスに告げる。彼は啞然とした顔で私を見ていたが、やがてくつくつと笑い出した。
「そ、そうか……料理で信じてくれたのか……」
「え? まだ噓だと思ってます? 笑ってますけど」
 これ以上どう説明すればいいんだという気持ちでルイスを見る。彼は否定するように首を横に振った。
「い、いや……十分だ。君に関しては、料理でと言われた方が信じられる。君が食に対し、真摯だということはこのひと月でよく分かったからな」
「はあ」
 今のは褒められたのだろうか。分からないけど、信じてくれたらしいことは理解できた。
 ――よかった。
 変に疑われるのだけはごめんだと思っていたので、私の気持ちが通じたことが嬉しかった。
 ホッとしつつ、彼に笑顔を向ける。
「まあそういうことです。つまり私にとっては前世万歳。ルイスに記憶があってよかったって結論になります。これからも美味しい料理を期待していますね!」
「っ!」
 何故かルイスが目を大きく見開き、私を見た。何も言わず、ただ私を凝視してくる。
 その様子がどうにも気になり、声をかけた。
「ルイス? どうしたんです?」
 名前を呼ぶと、彼はパチパチと目を瞬かせた。そうして慌てたように首を横に振る。
「い、いや、なんでもない……」
「? そうですか。それならいいんですけど」
「……あ、ああ」
 曖昧に頷く彼。その耳がほんのり赤くなっていることに気づき、私は首を傾げた。
 ――なんで赤くなっているんだろう。
 照れるようなこと、何もなかったと思うのだけど。
「ロティ」
 何かあったかなと考えているうちにすっかりいつも通りに戻ったルイスが立ち上がり、私の側にやってくる。
「はい、どうしました? ルイス」
 わざわざ立ち上がった理由が分からず、思わず紅茶のカップを見る。まだお茶は入っており、給仕に来たわけではないということは分かった。
「?」
 不思議に思いつつ、彼を見る。私のすぐ側にやってきたルイスはじっとこちらを見つめてきた。深い紫色の瞳が私を覗き込んでくる。その紫に吸い込まれてしまいそうな、そのまま彼に捕らわれてしまいそうな、そんな気がした。
 ――わ、私、今、何を考えた?
 馬鹿げた思考を振り払う。混乱する中、なんとかいつも通りの顔を作り、声をかけた。
「な、なんですか? 黙ったままでは分かりませんよ」
 このいたたまれない雰囲気をどうにかしたくてわざと大きめに声を出す。
 なんだか自分が下手くそな道化のように思えてきた。
 ――で、でも、なんか変な雰囲気なんだもの。
 この場にはカーティスもアーノルドもいるのに、まるでふたりだけしかいないような感じがひどく居心地が悪かった。
 この妙な雰囲気をなんとか打開したくて、頼むから何か喋って欲しくてルイスを見る。
 ただじっと私を見つめていただけだったルイスがふっと息を吐き、ようやく言葉を発した。
「……いや、こういう経験は初めてだったが、存外悪くない、というか良いものだと思って」
「え?」
 ルイスは何を言っている?
 彼の言う言葉の意味が全く分からなかった。戸惑う私にルイスが笑みを向けてくる。その微笑みは、今まで見たものの中で一番綺麗で、私は目が離せなかった。
「あ……」
「ありがとう、私の話を信じてくれて」
「……」
 ルイスの手が伸び、私の頭を優しく撫でる。その手つきが、まるで大切なものを愛でるようで、どうしてそんなことをされているのかさっぱり分からなかった。
「え、えっと」
「また、新作を作ってやる」
「っ」
 パッと顔を上げ、彼を見る。ルイスが顔を近づけてきた。思わず目を瞑ると、額に濡れた感触。
「え」
 額にキスをされたのだと気づいた時にはすでに彼は離れていた。
 ――キス? どうして?
 一体、何がどうなったらキスなんてされるのか。
 自分に起きた出来事が理解できなくて、呆然とする。だが、すぐに我に返った。
 ――え、えーと……そ、そうか。今のは親愛のキス!
 間違いない。
 今のキスは、きっとルイスのお礼的なものだ。
 だって彼はさっき『信じてくれてありがとう』と言っていた。キスはそれに付随したものなのだ。
 どうしてわざわざキスをしてきたのかは分からないが、額や頰なら家族内でもよく行われる。決して珍しくはない。
 私はルイスを家族のようだと思っているし、彼もそうだと考えれば……普通にアリだ。
「ロティ? どうした?」
 動揺していた私にルイスが声をかけてくる。その表情も口調もいつものもので、なんだかとてもホッとした。
「な、なんでもありません。えと、新作、嬉しいです。次はどんな料理なんですか?」
「そうだな。せっかくだから変わったものを作ろうか。……『ラーメン』なんてどうだろうな」
「『らーめん』……ですか?」
「いや、ラーメンだ。少し発音が違うな」
「ラーメン……」
 これまた聞き慣れない響きだ。一体どんな料理だろう。ルイスが楽しげにラーメンの説明をするのを聞く。彼の話に相槌を打ちながら、私はまだ見ぬラーメンにすっかり心を奪われていた。


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