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9784866693637

新米魔女ですが、初恋こじらせた使い魔に離してもらえません

夏目みや / 著
漣ミサ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-363-7
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2021/01/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

駆け出しドジっ子魔女×ぐーたら高位魔族の使い魔――に降かかる大騒動!?
すったもんだしながら解決するうち、ふたりの関係に変化が……。不器用な二人のジレジレ♥ラブコメディ!
新米魔女のメイは使い魔を召喚したところ、なぜか容姿端麗な高位魔族の男が現れてびっくり! 可愛い黒猫のはずがなんで!? ギルと名乗る彼に強引に契約を結ばされてしまう。普段は寝てばかりのギルだけどトラブルが起こるたび強力な魔力で助けてくれて――「ギルが私の使い魔でよかったわ。あら、ギル、耳まで赤……」「気のせいだから!!」どうやら照れ屋さんみたい。しかしある時、騒動に巻き込まれて契約の証であるブレスレットを壊されてしまい!?
「いいなぁ、私もあんなに可愛い黒猫、やっぱり欲し……」
「可愛い猫じゃなくて悪かったな」!

立ち読み

 うずくまったまま顔を向けると、そこにいた人物が目に入り、驚きで口をあんぐりと開けた。
 ブロンドの髪は光を浴びて輝いている。美麗な顔の眉間に皺を寄せながら目を細め、ギュッと結ばれた口元。
 そこに出現したのはギルだった。
 絶対来ないって宣言していたのに、来てくれたんだ!!
 喜びのあまり安堵の息を吐き出した。一方でギルが、今までに見たことがないぐらい不機嫌に顔をゆがめていることに気づく。
 研ぎ澄まされた剣を思わせるほどの冷ややかな視線を投げ、周囲を警戒している。
 こ、これは無鉄砲な私に対して怒っているのだろうと確信する。
「ギ、ギル……」
 恐る恐る彼の名を呼べば、チラッと私に視線を向け、心底嫌そうな顔を見せた。そして次にチッと小さく音が聞こえた。
 し、舌打ち……!?
 なんて行儀の悪い。
 その時、側にいた男性がバッと前に進み出て、目を見開いた。唇を震わせ、瞬きを繰り返す。
 やがてその瞳をキラキラと輝かせた。
「ギル!!!!」
 えっ!? もしや二人は知り合いなの?
 思わず二人の顔を交互に見つめてしまう。さっきまで男性が身にまとっていた恐ろしげな空気は、すっかり消し飛んでいる。
 かたや満面の笑みを浮かべているのに対し、ギルは渋い顔をしている。眉間に皺を寄せ、不機嫌さが半端ない。
 まるで対照的な二人を前にして、どういう状況なのか混乱した。すると先に動いたのは男性の方だった。
「会いたかった……!」
 両手を広げギルに突進していく。一方のギルはサッと身をかわした。全身で警戒して相手をにらみつけている。だが男性は特に気にした様子もない。
「長い間、戻ってこないから心配した。さぁ、共に帰ろう」
 男性が腕を伸ばした瞬間、私は反射的に立ち上がった。そして二人の間に身を割り込ませ、ギルの前に立つ。両手を広げ、背後にいるギルを庇う姿勢を取った。
「や、やめてください」
 男性は思わぬ邪魔が入ったことで、呆気にとられたようだった。そこで一気にたたみかける。
「ギルが嫌がっています」
 はっきりと告げてしまったが、ギルがここまで不機嫌さを露わにしたのは、よほど男性に対して警戒しているのだと見てとれた。
 背後を振り返ると、ギルが目を丸くしていた。その様子から察するに、すごく驚いているみたいだ。
「ギルは私の使い魔だもの。私が守らないといけないわ」
 そう、ギルを召喚したのは私だ。だから自分の使い魔を守る義務がある。これほどに嫌悪感を表すギルをほうっておけない。
 ここはまず、私が間に入って冷静に話し合うことを提案しよう。
「ギルが使い魔…………?」
 男性は低い声を出して身を強張らせている。先ほどまで余裕そうに笑みを見せていたが、すでに消え去り、忌々しい表情を浮かべた。
 男性はゴクリと息をのむと、震える指を向けた。
 その先にあるのは、私の右手首だった。そこには使い魔を召喚した証のブレスレットがある。
「よもや、お前ごとき小娘がギルを拘束しているとは……」
 低く唸るような声が聞こえたと同時に、周囲の空気がスウッと冷え込んだ。なんだろう、心臓がドクドクと波打ち、緊張感からか全身の毛穴がボワッと開く感覚がする。冷や汗が流れ出し、喉の奥が苦しい。
 こんなに恐ろしい気を出せるのは、男性が高位魔族だからだろう。
 声を出すこともできずに立ちすくんでいると、急に右腕を取られた。
「はっ、これに、なんの意味がある?」
 ブレスレットを指さしながら嘲笑う声が周囲に響く。
「契約者たるお前の微々たる魔力で作られた拘束のブレスレット、こんなもの高貴なる我ら一族にとって、なんの枷にもならぬわ」
 そして男性がブレスレットに触れた途端、あっという間に音もたてずに消滅した。そこにはもう、跡形もない。ギルはハッと我に返ると、勢いよく自身の手首を見る。目の前でブレスレットが塵となり消えた。
 啞然としていると高笑いが聞こえた。満足そうに笑みを浮かべてから、彼はギルに手を差し伸べた。
「これで大丈夫だ。さぁ、帰ろう!!」
 しかしギルは差し出された手をなぎ払った。しかも勢いよく。
 震えあがりそうなほどのギロッとした鋭い視線を、男性へと向けた。
「貴様……なにをした」
 まるで地を這うようなギルの低い声があたりに響く。いつものギルとは別人のような姿にごくりと唾を飲みこむ。こんな声を出すギルを私は知らない。
「えっ、軟弱貧弱な小娘からギルを助けたつもりだが――」
 答え終わる前に男性が弧を描いて吹っ飛んだ。
 思わずヒッと喉の奥から声が出たが、必死に手で押さえた。
「余計な真似を……!!」
 ギルはそのまま、倒れ込んだ男性へ片手を向けると、手に魔力を集中し始めた。みるみるうちに手の中に光が集まり、輝きが半端ない。まぶしくて目を背けたくなるが、はたと気づいた。
 ちょっとねぇ、その光、どうするつもりなの?
 吹っ飛んだ男性は床に突っ伏して倒れている。そこに向けて光をぶつけちゃうの?
 まさか、そんなわけないわよね?
 怪しんで見ているとギルは手の平で作った光を見つめ、ぼそりとつぶやいた。
「これぐらいでいいか」
 いやいや、そんなバカでかい魔力の塊、至近距離でぶつけられたら、シャレにならないから!!
「ギ、ギル!!」
 名を呼ぶが、どうやらギルには聞こえていない様子。いや、聞こえないふりか?
 慌てて両手を広げ、ギルの前に飛び出した。
「ちょっと、危ないわよ。その手の中にある光、どうするつもりなの」
 男性を庇うように言うと、ギルが目をスッと細めた。
「今からとどめを刺す」
 ちょ、ちょっとそれ、冗談じゃないから。
「ダメよ、なにを言っているの」
 こんな至近距離でぶつけたらケガだけじゃすまない。この屋敷にも被害が及ぶだろう。なんとかギルを止めようと必死になっていると、男性が床に這いつくばった姿勢のままうめき声を上げた。
「ふっ、さすがだな。容赦のないその攻撃。久々にくらって、全身が痺れたぞ」
 どこか感心するような声を出したので、びっくりする。やられたことに怒っていないようだ。でも……鼻血が出てますよ!
 そもそも二人はいったいどういう関係なのだろう。
 不審に思いながら交互に見つめていると、男性は私の視線に気づいたようだ。スッと立ち上がって、長い髪をかきあげた。
「そこの娘。私とギルの関係を疑問に思っているのだろう」
 ええ、もちろん!!
 でも今はあなたの鼻血も気になりますけど!!
 勢いよく首を縦に振った。
「ふっ。よかろう、娘よ。特別に教えてやろう」
 男性は袖で鼻血を拭いながら、どこかもったいぶるような仕草を見せる。だが実は言いたくてたまらず、うずうずしているようで、頰がピクピクと上がる。
 一方ギルは不機嫌な態度を隠そうともせず、眉間に皺を寄せたまま、警戒を解こうとはしない。
「我こそは、由緒正しき魔族の血統を持つ、ダグラス・ヴィゼ・ダンヤージュ一族のアーバントという。娘よ、私が二度も直々に名乗ったことを光栄に思え」
 いきなり指を突きつけられ、思わず頭を下げた。
「はっ、はぁ、ありがとうございます」
 なぜお礼を言うのか、自分でもよくわからなかったが、相手はすっかり気を良くしたようだ。
「そしてそこにいるギルバートは私の愛しい弟だ」
「えっ!?」
 思わず二人を見比べる。
 ブロンドの髪にブルーグリーンの瞳を持つ二人は、なるほど、言われてみれば似ているようにも思えた。
「確かに、似ているかも」
 思わずつぶやくと、ギルの兄はすっかり機嫌を良くしたようだ。
「おお、娘。お前はなかなか良い感性をしている。特別に私のことを『アーバン様』と呼ぶことを許可しよう」
 先ほどとはうってかわった友好的な態度に、私としても困惑する。
 しかし、そこで異論を唱える者がいた。
「君さ、目が悪いわけ?」
 それまでむっつりと押し黙っていたギルが声を発した。
「えっ!?」
「僕とコレのどこが似ているわけ?」
 彼の声色はたいそう不満気だ。
「だって、髪も瞳も同じ色じゃない」
「たったそれだけで、似ていると言われたくない」
 ギルは拒絶の態度を貫きプイとそっぽを向く。しかしその肩がアーバン様によって、ポンと叩かれた。
「まぁ、我々兄弟の絆は他人から見ても強いということだ」
 フフフと笑い、一人悦に入るアーバン様に対して、ギルは顔をゆがめる。
「そんな絆などあるわけない」
 ギルは嫌そうに手をペッと払いのけた。アーバン様は気にした素振りも見せず、ギルの両肩に手を置いた。
「元気そうで安心した。ここしばらく姿が見えず、行き先も聞いてなかったから。心配のあまり、血眼になって探していたのだ。この地方でギルの姿を見かけたとの噂を頼りに、一族が所有するこの屋敷に住み、探していたのだよ」
「過保護もたいがいに――」
 ギルの反論も聞かず、アーバン様は語り始めた。
「これだけ長い期間、姿を見せないのは、きっと力の強い召喚者から無理やり契約の証を結ばされ、泣いているに違いない、ここで助けに行くのはこの兄の役目だと思ったのだ」
「なにその、すさまじい勘違い」
「その証拠に私に助けを求めるギルの姿が、夜な夜な夢にまで出るようになったのだ!!」
「夢と現実をごっちゃにして、自分にいいように解釈するのはやめてくれ」
 興奮しながら話すアーバン様を前に、ギルはいたって冷静につっこむ。
「だが、私の執念が実り、ギルに会えた!!」
 アーバン様はギュウっとギルに抱きついた、と思いきや、次の瞬間、吹っ飛んだ。
 エントランスフロアの階段の手すりに体を打ち付け、ゲフッと鈍い音がした。
「だからいつも言っているだろう。抱きつくなと……!!」
「はは、ギルを前にするとつい理性が抑えられなくなるのだ。それもギルが可愛いから悪い!! 可愛いは罪!! だがそれもギルなら許そう!!」
 アーバン様、最初に見たイメージとはずいぶん違うような……。
 もしかしなくとも、アーバン様は弟であるギルのことが大好きなのか。
「だからここには来たくなかった」
 ポツリとつぶやいたギルだけど、ギルがこの屋敷に来るのを渋ったのは、アーバン様に会いたくなかったからなのだろう。


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