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いつか陛下に愛を

Aryou / 著
氷堂れん / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-217-3
定価 1,320円(税込)
発売日 2019/07/29
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

お妃さまは塩対応!?
三食昼寝付きの後宮ですが、
陛下の言いなりになんて、なりません!
尊大な陛下が、能天気でマイペースな妃に振り回されながら二人で愛を育む、王宮ロマンチックラブ!
WEBで大人気作品、中編書き下ろしを収録して書籍化!
「そなたにはナファフィステアの名を与える。今後はそう名乗るように」異世界に飛ばれ、妃候補として後宮に入れられた黒髪黒い瞳の《黒のお姫様》ナファ。後宮で地味にひっそり生きるつもりが、他人に媚びず自由奔放に振る舞う姿が国王アルフレドの興味を引いてしまう。「今夜はそなたのところで眠りたい」「嫌よ。陛下はそこのソファに寝て」けんもほろろな塩対応をするものの、アルフレドは強い執着心を見せて一人悶々と想いを募らせているようで!?

立ち読み

 バルコニーからは王宮で一番広い大庭園が見える。緑が目に優しいし、空気は美味しい。私がバルコニーでゆったりまったりしていると。
「ナファフィステアっ」
 大きな声が聞こえた。振り返ると、陛下が大股で部屋をこちらに向かって歩いてくるところだった。戸口で私を呼んだのだろうに、バルコニーにまで聞こえるなんてどれだけ大声なのか。
 私は窓のところまで戻って、こちらに近づいてくる陛下を迎えた。
「いらっしゃい、陛下」
 近づいてくる陛下は無表情だからわかりにくいけど、先ほどの大声といい、大股で速い足取りといい、何か怒っているような気がする。
 さっきの面会者とのやり取りが陛下に伝わるには早すぎだから、それが原因ではないだろう。事務官吏ユーロウスが書き上げた文書を手に出ていったのは、本当についさっきなので。それに、面会の内容は、べつに陛下が怒るようなことはなかったはず。あ、でも、昨日から『体調不良』としてたのを、すっかり忘れてた。それについて何か文句が?
 私は陛下を待ちながら、頭の中でグルグルあれこれと考えていた。別に怒られることはなし、との結論が出たところで、陛下に腕を取られる。やや乱暴に引っ張られたせいで、私は陛下の腕の中に倒れ込んだ。そうして抱きとめた私を引きずるようにして陛下は室内へ戻った。
「何よ?」
 窓に近い場所だけど、室内なのでバルコニーのような風はもう感じない。せっかく清々しい空気で気分リフレッシュしていたのに、何なのよ、本当に。
 私は無言で私を抱きとめている陛下を睨みつけた。そうしながら、陛下の匂いはコルストム卿とはかなり違うなとか考えていた。あんまり考えたことなかったけど、陛下は陛下専用の香水なのかな、とか。
 睨みながら別のことを考えてた私に、陛下が口を開いた。
「バルコニーに出るでない。多くの者の目につく」
 ん? バルコニーに出るな? 人目につく? 何で? パーティーとか出てパンダ役してるし、さっきは妃として面会したところだし、え? 多くの人に見られるのが妃業じゃないの? 狙撃されるとかいう? さすがに、それはないでしょ。
 私の頭の中には疑問符が大量増殖していた。
「何で? 私が姿を見られたからって、別に困らないでしょ?」
「……」
「……私の黒髪は、誰かに見られたからって色が変わったり、減ったりはしないわよ?」
「そういう意味ではない」
「なら、どういう意味? 何でバルコニーに出ちゃいけないの?」
「余が気に入らぬからだ。バルコニーには出るな!」
「嫌よ。バルコニーに出るのがダメなら、あの大庭園へ行けば」
 陛下はいきなり私の口を唇で塞いだ。たぶん陛下は苛々していたんだろう。上からのしかかるようにして与えられたキスはすごく荒々しく、私の口内を蹂躙する。私は拳を打ちつけて抗議をするんだけど、陛下には全然効果がない。頭の後ろを大きな手に?まれ、逃げることが許されないまま、陛下の舌が私の身体に熱を強引に起こしていく。ゾクゾクとした感覚が下腹部に伝わり、力が抜ける。キスをされるのも抱きしめられているのも気持ちよくて、どうして抵抗していたのかも頭の奥に追いやってしまっていた。
 唇が解放された時、私の息が上がっているのはもちろんだけど、陛下の息も乱れていた。
 陛下の熱い息が私の鼻にかかり、ただの息なのに、触れられているように私の身体を刺激する。いつもより熱くなるのが早い自分に、私は戸惑った。けど、繰り返されるキスに、私はそれ以上嫌がることができなくなった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 アルフレドはバルコニーに立つナファフィステアの姿を見て、うちにあった苛立ちが一気に膨らむのを感じた。怒りにも似た激しい感情で満ち溢れる。だが、冷静な己も同時にあった。我を忘れているわけではない。彼女に対する苛立ちを、他の娘を捌け口にして一時でも気を紛らわすことができるなどとなぜ考えたのかと自嘲する。
 その一方で、アルフレドは苛立ちをぶつけるように、反抗的な眼差しを向ける彼女の唇を奪っていた。腕の中に閉じ込め自由を奪い、声を奪う。彼女の柔らかな唇が応え、抵抗していた身体は力を抜いて次第に寄り添わせてくる。彼女の後頭部を?んだ指から、滑らかな黒髪が崩れこぼれ落ちていく。彼女に触れることでアルフレドの苛立ちは、ゆっくりと鎮まっていった。欲望は残っていたが。
 アルフレドは執務中、昨晩から体調不良という報告を受けていたナファフィステアが、面会のため本宮に出てきたという知らせを受けた。隣室で休憩を挟んだばかりであったため、すぐには動けない。そのため、少しばかり執務に専念した後、何某かの理由をつけてナファフィステアのもとに来たのである。衝動に突き動かされるようにして。
「バルコニーには出るな。よいな?」
 アルフレドは彼女の黒い髪を指に絡めながら、その耳に囁いた。しかし、長い口づけから解放されたばかりのナファフィステアは息を乱し、しばらく答えられそうにない。彼女の唇は物言いたげに動くものの音にはならなかった。彼女はアルフレドの支えがなければ立っていられないほど、全身から力が抜けてしまったらしい。
 ナファフィステアはアルフレドを睨んでいるが、縋りつき身体をあずける姿には庇護欲が満たされるだけでなく、劣情が刺激されることこの上ない。
「ナファフィステア」
「……嫌よ」
 アルフレドの呼びかけに、彼女は小さく答えた。身体の反応とは別で、むくれた顔のナファフィステアが素直に応じる気配は微塵もない。
 アルフレドは彼女の肩を抱き、再びバルコニーへ連れ出た。大庭園には誰もおらず、視界に入る人間は警備の騎士くらいだった。だが、大庭園は来訪者が散策することがよくある。庭園なのだから当然であろう。しかし、アルフレドは、その来訪者達に先ほど見た彼女の無防備な姿をチラとも見せたくなかった。激情を起こさせる彼女の姿、彼女の全ては、己のものだという強い独占欲のために。
 ナファフィステアはアルフレドが諦めたと思ったのか、キスでの虚脱から戻った彼女は機嫌よくバルコニーの手摺りへと足を進めた。
「ほら、とっても気持ちのいい景色でしょ? 外に出ないなんて、ありえないわ」
 少し潤んだ瞳でアルフレドを振り仰いだ。まだキスの余韻を顔に残しているせいで、彼女の恥ずかしそうな顔が何気にアルフレドをそそる。
 そして彼女は、ほらこっちに来てと甘えるようにアルフレドの腕を引いた。それは彼女にとって何の気ない仕草だったろうが、アルフレドには大きな意味のあるものだった。
 ナファフィステアはアルフレドが彼女の肌に触れ、身体をつなげることを許しはするが、彼女自身がそれを望んだことはない。常に女は王を求め請うものであると身に染みているアルフレドにとって、ナファフィステアの淡白さが己を欲情させる理由の一つだと考えていた。彼女が王を嫌悪した過去を考えれば、彼女が王の望むままに身体を開くこと自体が不思議なくらいなのだ。彼女の、王に対する淡白さは生来の性質もあるだろうが当然ともいえる。
 しかし、アルフレドはそれを不満に思うようになっていた。ナファフィステアはアルフレドを求めない。頼らない。それが気に入らなかった。彼女が過去の女性達と違うことを望みながら、甘え求めないことに不満を感じるとは、矛盾しているとアルフレドも理解していたが。
 そんなナファフィステアが、少しずつ変わってきた。それが、アルフレドに気安く伸ばされる彼女の手や、抱き寄せた時の身のあずけ方だ。それらの変化は、彼女の奥底にある感情と無関係ではない。おそらく無意識のうちに、王を信頼しようとしつつあるのだ。
 そうした小さな変化がアルフレドに喜びをもたらし、また彼女への独占欲を顕在化させていたのである。
 アルフレドはナファフィステアの背後に立ち、彼女の腰を引き寄せた。
「バルコニーに出なくとも、窓から見えるであろう?」
 アルフレドは小声で告げながら、少し持ち上げた彼女の臀部に己の腰を押し当てる。硬さを帯びつつあるそれを彼女に教えるように。
「窓からじゃ……つまらないわ」
 ナファフィステアはぷいっと顔を戻してアルフレドの腕から抜けようとするが、彼女が腕から逃れられるはずもない。アルフレドはドレスの裾を後ろから引き上げた。室内からはアルフレドの身体があるとしても、彼女の白い下着姿の下半身があらわになってしまう。しかし、そのあたりは女官達が何とでもするに違いない。アルフレドはバルコニーの外から見えないよう注意深く左手をドレスの中に差し込み、彼女の腰を?んだ。
「陛下っ」
 ナファフィステアは慌てて抗議の声を上げた。しかし、バルコニーの手摺りとアルフレドの身体に挟まった状態では、足をバタバタさせるくらいしかできない。
「何、考えてるのよ!」
「バルコニーには出ないと約束するなら、部屋に戻ってもよい」
「!」
 黙り込んだナファフィステアの背中を眺めながら、アルフレドはもう片方の手もドレスの中に潜り込ませた。太腿に手を這わせ、彼女の尻に自身を押しつけ柔らかな肉感を堪能する。ドレスではなく薄い下着越しともなれば、衣服の上からでも確かな弾力が感じられる。尻肉が雄芯を包み、硬さを増した。ナファフィステアにバルコニーに出ないと言わせるためのただの戯れ事だったのだが、昨晩解消されなかった欲求不満がむくむくと擡げてくる。
「どうする、ナファフィステア?」
 アルフレドは彼女に返事を促した。そして、煽るように彼女の太腿からと股奥へと手を滑らせた。下着は股の部分が割れているため、脱がせなくてもそこから直接触れるのだ。ナファフィステアは侵入を拒むためぎゅっと太腿を閉じて、腰を離そうともがいている。焦りの滲む華奢な背中が、アルフレドの劣情を誘う。
「陛下っ」
 下着の割れ目に到達したアルフレドの指は、そこが滴りそうなほどにたっぷり濡れていることを暴いた。バルコニーに出る前、彼女にキスをして熱を起こさせたのだから、濡れていてもおかしくはない。しかし、アルフレドはまとう空気を一変させた。
「ナファフィステア、余が来る前、何をしていた?」
「手を離して、陛下っ」
「何をしていた、ナファフィステア?」
「妃の仕事をしてたわ。来客者と会うのが仕事でしょ? 別に不審な行動はしてないわよっ。とにかく、離して」
「今日の面会は誰だ?」
「それは……」
 言い淀んでいるのは、彼女が単に名前を覚えるのが苦手であるためだ。だが、そうとわかっていても、すぐ答えない彼女にアルフレドの苛立ちは一気に膨れ上がった。
「何をしていた? ここをこれほど緩ませて」
 アルフレドは苛立たしげに彼女の濡れた中へと指を突き入れた。そこはアルフレドの太い三本の指を難なくのみ込んだ。その柔らかさは、今すぐにでもアルフレドを受け入れられそうなほどである。
 毎日のように身体をつないでいるため、以前に比べれば彼女のそこが濡れやすく解れやすくなっているのは間違いない。しかし、彼女がキスだけでこれほどの状態になったことは一度もなかった。そんなに簡単に解れるなら、アルフレドも苦労はしないのである。身体が小さい上、アルフレドの過去の所業ゆえに、彼女にとって身体をつなぐ行為は痛いという意識が簡単にはぬぐえないのだろう。アルフレドもそれを理解している。自業自得とわかってはいるが、気がはやるのを抑えながら彼女を高め溶かす行為には、己の興奮を高めるだけでなく相応の忍耐を必要とした。
 それが、こうも濡れて緩んでいるとなれば、アルフレドが驚愕するのは当然であった。この部屋で面会者とナファフィステアが睦み合ったためと考えているわけではない。彼女自身が面会者の男を欲していた、だから身体がこうした反応をしている。ナファフィステアが他の男を求めるなど、そんなことはアルフレドが受け入れられるはずがない。
「答えよ、ナファフィステア」
 アルフレドは乱雑に彼女の中を指でなぶりながら問うた。彼女に痛みを与えるわけにはいかないと抑えているが、声には怒気が滲んでいた。その激昂した感情が己をも昂らせる。
「んあっ……や……指…………あ、いやっ」
 ナファフィステアはアルフレドの指に敏感に反応し、濡れた声を漏らした。他の男を求めて身体をくねらせる彼女に身体の奥底から怒りが込み上げる。しかし、彼女の内は熱く、今突き入れればすぐにでも濡れた興奮を味わえる。何も考えなければ本能のままに彼女の身体を貪れるのだとの誘惑が、アルフレドを強く揺さぶった。
「あっ……、こん、な……ん」
 アルフレドの方に尻を突き出したまま、ナファフィステアはバルコニーの手摺りに突っ伏した。甘い声は彼女が悶えるほど感じていることをアルフレドに知らせる。少し内を弄っただけで、信じられないほどに昂っているナファフィステア。どす黒い感情と情欲がアルフレドの中に膨らんでいく。
「ナファフィステア」
「んっ」
 アルフレドは彼女の中から指を抜き、ドレスの裾を下ろして手を離した。途端にナファフィステアは崩れるように腰を落とす。そして、手摺りからずるずると身体を沈ませ、しゃがみ込んだ。
 手摺りに身体をもたせかけ、ナファフィステアは荒い息を吐いている。アルフレドはその小さな身体に手を伸ばしたい衝動を抑えて、口を開いた。
「何があったのか、答えられぬようだな」
 彼女の身体を蹂躙したいのは山々だが、今は、彼女が痛みを訴えても止めてはやれない。アルフレドは全ての理性を動員して、彼女から離れることを選んだ。欲情を鎮め、この場から立ち去るべきと判断したのである。
「詳しくは後で聞くゆえ、考えておくがよい」
 そう告げ、その場から去ろうとしたアルフレドに。
「待って、陛下」
 ナファフィステアがゆっくりと振り返った。億劫そうに手摺りの壁に背中をあずけて、アルフレドを見上げる。少し赤い顔、濡れた黒い瞳が物言いたげに見えた。
「何だ?」
 アルフレドの問いにすぐには答えなかったが、しばらくの沈黙の後、ナファフィステアは両手を伸ばした。アルフレドの方に向けて。
「どうした?」
「今、して」
 理性が保てる間にこの場を立ち去ることを考えていたアルフレドには、一瞬、ナファフィステアの短い言葉の意味が理解できなかった。実際、彼女は時々特異な話し方をするため、わかりにくい場合があるのだ。母国語ではないためだろうが。
 アルフレドは座り込んだナファフィステアの前に片膝をついた。そして、口を開く。
「何を言」
 アルフレドの言葉が終わるのを待たず、彼女がアルフレドの胸に飛び込んできた。伸ばした腕を首に回して、ぎゅっとしがみついてくる。柔らかな小さな身体を押し当てられ、アルフレドは観念した。己が暴走する危険を孕んでいるとわかっていても、縋りついてきたこの小さな身体を引きはがすことなどできない。アルフレドは彼女の背中に手を回し、彼女の匂いを感じながら黒髪のかかる耳に唇を寄せた。
「どうした?」
「身体……熱い」
「……」


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