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竜神様と僕とモモ 〜ほんわか子育て溺愛生活?〜

高岡ミズミ / 著
タカツキノボル / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-79-2
サイズ 文庫本
定価 703円(税込)
発売日 2017/04/18

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内容紹介

なかよし〜ふたりは〜、らんらんらん♪
縁側に現れた動物の赤ちゃんを拾った大学生の千寿也。「みいみい」と鳴く声と、ごはんを食べる姿がとても可愛い。モモと名付けて可愛がるも、この動物の親だという男・炎奇が現れて!? モモを返すように迫られるも不審すぎて抵抗すると、一緒に生活していいと許可が。しかし、なぜか炎奇も同棲することに。翌日、モモの姿が見えず、なぜか小さな男の子がちょこんと座布団に座っていて!? 竜神様と大学生千寿也とモモの三人(?)の不思議な同棲生活?はじまるよ♪
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

穂高 千寿也

他界した祖父が住んでいた家で一人暮らしをはじめた大学生。
のんびりやだが、モモを大切に育てるしっかりとした一面も。

炎奇

千寿也の住む守飛町の竜神様。
子育ては放任主義と思いきや、千寿也とは異なる愛情を持っている。

モモ

炎奇の子供。
その愛くるしい性格で千寿也や町民もメロメロに。

立ち読み

「ちじゅ。いも」
 シャツの裾を引っ張られて、意識を目の前のモモへと戻す。口の周りを干し芋だらけにしたモモにきらきらした瞳でおねだりされ、千寿也は困ったふりをしてみせた。
「え。もう食べたの? 駄目だよ。ゆっくり食べなって言ってるだろ?」
「わかてる」
 だが、大きく頷いたモモに「いも、いも」とくり返されては拒絶し切れるはずもない。
「今日のおやつはこれで終わり。いい?」
 再度モモが頷くのを待って、もうひとつだけ干し芋を皿に置くと、「ゆーくり」と言いつつも大きな口で齧りついたモモに苦笑いをした。
「早いよ、モモ」
 おやつのあとは、一緒に積木遊びに興じる。しばらくするとモモが昼寝をしたので、寝ている間に夕飯の下ごしらえと大学の準備をすませた。
 千寿也がのんきにしていられたのは、その後数時間、夕飯時までだ。
「遅い」
 夕食時どころか、モモが寝る時刻になっても炎奇は戻ってこず、いったいなにをしているのかと次第に苛々してくる。子ども用布団にモモを寝かせ、自分もその傍に寝転がって自作の子守り歌を歌っていても、いっこうに帰る気配のない炎奇が気がかりで上の空になってしまう。
「ちじゅ、おうたは?」
「あ、ごめん……えっと、ねんころり〜。モモはよい子だ、ねんこ〜ろり〜」
 昼過ぎに出かけたというのに、もうすぐ夜の八時になろうという時刻だ。いくらなんでも遅すぎる。小さな子を放置したまま何時間も家を空けるなんて、なにを考えているのかと責めたい気持ちにもなる。
 モモが寝たあとも頻繁に時刻を確認しつつ起きていたが、待てど暮らせど炎奇が帰宅する気配はない。夜中の二時を過ぎたあたりからは、なにかあったのではないかと急に心配になってきた。
 もしかしたらトラブルに巻き込まれているのかもしれない。景色が変わったと言った炎奇の口振りから、現代的な生活はほぼ知らないはずだ。
 まさか事故にでも遭ったんじゃ……縁起でもない想像をした千寿也は居ても立ってもいられず、居間と玄関を何度か往復する。その間、何度かネットニュースをチェックしたが、それらしい事故は放送されなかった。
 いったい炎奇はどこにいるのだろう。こうなれば、無理やりにでも行き先を聞いておかなかったことが悔やまれた。
 三時二分。三時六分。三時九分。卓袱台に突っ伏した姿勢で、分刻みでスマホの時刻を確認していたとき、がらりと玄関の引き戸が開く音が耳に届く。急いで居間から飛び出した千寿也に反して、当の炎奇は安気なものだった。
「そんな慌てた顔をして、どうかしたのか?」
 心配していたぶん、炎奇の態度にむっとする。連絡もせずにこんな時刻まで外出したあげく、
「どうかしたのか?」と聞くなどどれだけ無神経なのか。
 つかつかと炎奇に歩み寄った千寿也は顎を上げ、自分より頭半分上背のある炎奇を睨みつけた。
 竜神だろうがなんだろうが、この際関係ない。
「どうしたのかじゃないです。帰ってこないから、なにかあったんじゃないかって心配しまし
た」
「なにかって?」
 この返しも感情を逆撫でするもので、炎奇の顔を見てほっとするどころか苛立ちが増していった。
「だから……事故とか、いろいろ心配するんです。炎奇さんにはわからないかもしれませんけど、普通はそうなんです!」
 口にしたあとで、自分の間違いに気づく。竜に普通を説くほど無意味なことがあるだろうか。
 案の定首を傾げる炎奇に、千寿也は口を噤んだ。なにを言おうと伝わらない気がしたし、それ以前に自分の心配が的外れだと気づいたのだ。
「もういいです。ただ、モモに聞かれたとき困るので、行き先くらいはっきりさせてから出かけてください」
 モモを言い訳にして、話を打ち切る。さっさと寝ていればよかったと悔やみながら寝室へ向かおうとした千寿也だが、ふと漂ってきたフローラルな香りに足を止めた。
 香りのもとは炎奇だ。どこかで風呂に入ってきたとしか思えない香りを纏っている理由がすぐには思いつかず、考え込む。
 千寿也が答えに行きつく前に、当人が解答した。
「昼間女人に『でえと』なるものに誘われ、ついでに応じただけだ」
 炎奇にしてみれば、行き先をはっきりさせてほしいという質問に答えたつもりかもしれないが、まるで悪びれずに「デート」に行ったと明言されるとは思っていなかった千寿也にとっては不意打ちでしかなかった。
 しかも口ぶりから初めてではなさそうなうえ、こんな夜中までとなると、単純にデートだけではすまなかったのだろう。
「……そんな」
 いつの間にそういう話になったのか、昼間ならモモがいたのではないか、いったいどこの誰が誘ってきたのか、瞬時にいろいろな考えが脳裏を駆け巡り、かっと頭に血が上る。誘った女性も女性だが、「ついで」なんてまるで相手は誰でもいいような言い方は到底理解しがたい。
 モモの父親なのに—炎奇に対する反感が芽生える。
「な、なにやってるんですかっ」
 信じられないと責めると、炎奇は怪訝そうな顔になる。表情も態度もとても反省しているようには見えず、どうしてわかってくれないのか、千寿也はますます感情的になって詰め寄った。
「モモという息子がいるのに、あまりに節度に欠けます。モモに、なんて説明するつもりですか。ていうか、炎奇さんって誘われれば誰でも応じるんですね」
 嫌みったらしい言い方になったと自覚していたけれど、それは炎奇のせいだ。相手が誰なのかは知らないが、よけいな問題を増やすだろうことは容易に想像できる。
「そんなに怒るとは思わなかった」
「怒ってるんじゃありません。俺は—」
 どう言えばいいのかと、一度口を閉じて考える。が、いらいら、もやもやするばかりで相応しい言葉が浮かんでこない。
「なんだ」
 ふっと炎奇が笑った。
 なぜこの状況で笑えるのか意味がわからず、いっそう眉根が寄る。自分はいま苦情をぶつけたはずだ。暗に、見損なったと匂わせもした。
 険悪ともいっていい雰囲気なのに当の炎奇は相変わらず飄々としている、どころか愉しげにさえ見え、千寿也は唇を噛んだ。
「—俺の言っていること、おかしいですか?」
 軽くあしらわれたことに少なからず傷ついた。こうなると一緒に住みたいと言いだしたのも、適当に遊びたいからではないかと疑心暗鬼になる。
 自分がなにを言っても炎奇には通じないだろう、そう思うと情けなくさえなった。
「千寿也」
 いつの間にか顔を伏せていた千寿也は、炎奇の声に目線を上げた。すると、いきなり後頭部を掴まれ、身構える間もなくぐいと引き寄せられていた。
「なにをす……んぅっ」
 んん?
 一瞬、自分の身に起こっていることが理解できずに、頭の中が「?」だらけになる。次に、自分の口を塞いでいるのが炎奇の唇だと気づき、驚くあまりその場で硬直した。
 もしかしたらそれがよくなかったのかもしれない。あろうことか炎奇の舌が口中に入ってきた。
「うぅ……んんんっ」
 上顎を辿られ、舌を絡められ、頭の芯がぼうっとしてくる。くらくらして、一気に体温が上がったようだった。呼吸もままならず、中学一年のときにインフルエンザにかかったときとちょうど同じ状態になる。
 ちがいは腹の奥のほうがむずむずし始めたことくらいで—。
 憶えのある感覚に気づいた千寿也は愕然とし、おかげで正気を取り戻す。
 ぼんやりしている場合ではない。なぜこうなったのかは判然としないものの、自分はいま炎奇にキスをされているのだ。
 しかも舌まで入れた濃厚なキスを。
 自覚した途端に羞恥心に駆られ、炎奇の胸をどんと押す。
「……にやって、るんですかっ」
 唇が離れてすぐに抗議した。しかし、格好悪いことに、炎奇の腕が離れるとそのまま床にへたり込んでしまう。
「立てなくなるほどよかったのだな」

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