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捨てる神あれば、拾うスパダリ 恋人に捨てられましたが、年下彼氏に溺愛されています

福澤ゆき / 著
一夜人見 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-727-7
サイズ 文庫本
定価 836円(税込)
発売日 2024/12/18

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内容紹介

あなたの本当の恋人になりたい
恋人に捨てられ自棄になっていた篠崎は、一夜限りの男に襲われそうになったところを、会社のイケメン後輩・北村に助けられる。寂しさを抱えた篠崎に北村は自分が相手をすると持ち掛け、二人は毎週金曜に身体を重ねる秘密の関係を結ぶことに。篠崎は捨てられることに怯えながらも、優しく抱いてくれる北村に惹かれてしまう。そんな中篠崎の元恋人が襲来し、北村が助けに来てくれるも様子がおかしくて…?「好きです。この先も一生」一途なスパダリ後輩×恋に臆病な先輩の溺愛ラブ!
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

篠崎 歩(しのざき あゆむ)

元恋人に捨てられ自棄になったところを、北村に助けられる。
裏切られることにトラウマを抱えている。

北村 涼(きたむら りょう)

社内一のモテ男で、篠崎の後輩。
篠崎以外には全く興味がなく、篠崎のためなら何でもやる。

立ち読み

プロローグ


「うそだろ……」
 今から半年前のその日。
 三年間同棲していた恋人の男が、別れを告げる置手紙を残して突然姿を消した。
 しかも、それまでコツコツ貯めていた貯金を奪って。
 最近、愛情が冷えてきているのは感じていた。いや、もっと前からこの男は自分に愛情はないのだろうと思っていたこともあった。
 だからこそ、「二人で住むためのマンションの部屋を買おう」と言われた時は馬鹿みたいに喜んだ。
 相手名義の口座を開設すると、今まで貯めていた金を移し、欲しいものを我慢して毎月の給料の大部分を口座に貯金した。もっと早く貯めたくて仕事に精を出し、必死に契約を取った。
 そしてその日は念願の昇給を果たし、小さなケーキを二つ買って、浮かれながら帰宅した。
 いつもは向こうの方が帰りは早いのに、ドアを開けるとなぜか部屋が真っ暗。
 すぐに帰ってくるだろうと、ケーキを食べるために紅茶の準備をしていたところで、テーブルの上に置かれた走り書きに気づいた。
 最初は何がなんだか分からなくて、事件にでも巻き込まれたのではないかと本気で心配して探し回った。
 しかし、その途中で以前彼が住んでいた住所を訪れたところ、彼が他の女性と部屋から出てくるところを見つけてしまった。
 愚かなことだが、それを見てようやく、自分が騙されていたことに気づいた。
 元から関係を断つつもりで、こちらの気持ちを利用して最後に金をせしめようとしたのだろう。その罠に、まんまと引っ掛かってしまった。
 最悪の失恋により、俺は当時ひどく自暴自棄になっていて、ある日、衝動的にSNSでその日限りの相手を探してセックスをしようとした。
 顔も身元も全く分からない匿名の相手。多少の危険は覚悟していたものの、そこにやって来たのは予想以上にヤバイ奴だった。
 そいつに妙な薬を飲まされて犯されそうになり、命からがらホテルを飛び出したところを、偶然通りかかった若いサラリーマンが助けてくれた。
 嘔吐が止まらない俺を介抱し、殴られた傷の手当てをして、汚れたスーツの着替えまで買ってきてくれた。
「……ありがとうございました。ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした」
 無関係の人間に迷惑をかけたことで、さすがに「馬鹿なことをしていた」と目が覚めた。
「後日、着替え代のお渡しとお詫びをしたいので連絡先を…」
 そう言ってスマホを取り出そうとした時、相手が静かに言った。
「営業二課の篠崎さん、ですよね」
 その言葉に手からスマホが滑り落ちる。恐る恐る顔を上げ、相手の顔をはっきり見てようやく気づいた。
 部署は違うものの、同じ会社の後輩社員だった。
「北村……? 企画部の」
「はい。そうですけど」
「な、なんで俺の名前……」
 俺の戸惑いに、北村は眉根を寄せた。
「なんでって……合同定例会議でいつも一緒じゃないですか」
「いや、そうだけど」
 企画部と営業部合同で行われる営業戦略に関する定例会議には、毎週百人近くが参加している。社内一のモテ男と呼ばれる北村は有名人だから、俺の方はもちろん知っていたが、向こうがこちらの顔と名前を覚えていたのが驚きだった。
 俺は外回りで一日中外出していることも多く、オフィスに滞在する時間はごくわずかだ。そのため、他部署の人間と顔を合わせることは少なかった。
 不思議に思っていると、北村は呆れたように言った。
「俺が新人だった頃、よく会議の設営手伝ってくれてましたよね?」
「そうだったか?」
 営業部は色々な会議に参加をしているから、どの会議の準備を手伝ったかはよく覚えていない。
「手伝ってくれたの、篠崎さんだけだったんでよく覚えてます」
「そ、そうか」
「仕事熱心で真面目な人っていうイメージがあったんで、篠崎さんがこんなことしてるのは驚きでした」
 北村は、落とした俺のスマホを拾い上げ、そこに映った画面を見ながら言った。
 顔こそ映していないが、裸同然の際どい写真と共に『今夜抱いてくれる相手を募集しています』と書かれてあり、自棄になってやってしまったことへの羞恥に震えた。
「……か、会社には、その……」
 自業自得とはいえ、もしこんなことが会社にバレてクビになったらおしまいだ。ただでさえ、貯金のほとんどを持ち去られ、一文無しに近い状態になってしまったのに。
「言いません。言っても俺にメリットはありませんから」
「……あ、ありがとう」
 震えながら礼を言うと、北村は深い溜息を吐いた。
「バレちゃまずいのに、なんでこんな会社の近くのホテルでヤろうとしてるんですか? 大体、いくらその日限りの相手でも、SNSなんかで探したらヤバい奴しか来ないと思いますよ」
「……そうだな」
 最初からちゃんとした相手など探すつもりはなかった。自暴自棄の果ての自傷行為みたいなものだ。誰でもいいから体温を感じたかった。そうしなければ怒りと苦しみと悲しみでどうにかなってしまいそうだった。
「もう絶対しない。手軽に男とセックスがしたかっただけなんだけど、代償が大きすぎるな」
 同棲までしていた男にフラれて、金を全て奪われたなどと言いたくなくて、わざと性に放埒な風を演じる。
 すると北村は、しばらく何か考え込んだ後に不意に言った。
「俺で良かったら相手になりましょうか」
「え?」
 正気で言っているのかと目を見張った。
「俺もそういう相手を探してたんです。割り切った関係の相手」
「いや、でも俺……男だけど……」
「ああ、俺別にゲイじゃないですよ。……でも、篠崎さんならいけます」
 いける気がするではなく、いけると言い張ったことに違和感を覚える。
「なんでだよ。俺ごく普通の男だぞ」
 女性みたいに綺麗とか可愛い系統の見た目ならともかく、平凡極まりないただの男だ。元恋人にも綺麗だと言われたことも一度もない。
 これほど顔のいい男ならわざわざ対象外の男を抱かなくても、相手は引く手あまただろう。
「それに、お前ならいくらでも相手はいるだろ? なんでわざわざ……対象外の男なんか抱こうとするんだ」
 また騙されているのではないか、と無意識に身構えてしまう。
 こちらの警戒を察知すると、北村は大した理由ではないというように肩を竦める。
「身内は関係が拗れた時に面倒でしょう。匿名の相手だとリスクがありますし。その点、部署が違う俺達はほどほどの距離感です。同じ会社の人なら身元もしっかりしてるし。篠崎さんなら仕事ぶりも知ってるから、根っから変な人じゃないっていうのは分かってますから」
 北村は再度スマホに映った俺の際どい写真を見ながら「その方があなたにとっても安全でしょう」と言った。
「篠崎さん的にはどうなんですか? 俺は。生理的に無理ですか?」
「……むしろカッコイイと思うけど」
「じゃあいいじゃないですか。誰でも良いって言うなら、俺が相手でも」
 ね、と笑った顔が凶悪なぐらい整っていて綺麗で、俺は思わず息を呑んだ。
「本気なのか?」
 そう言いながらホテルをちらりと見上げると、北村は頷いた。
「ええ。でも、今日はやめておきましょう。体調も良くないでしょう」
 心配そうな表情で言った北村に拍子抜けしてしまう。
(あ、これこの場を濁してフェードアウトするやつだ……)
 きっと、いわゆる社交辞令というやつだろう。そう思っていると、北村は鞄から焦げ茶の革手帳を取り出した。
「来週金曜日の夜、ご都合いかがですか?」
「え? ああ。大丈夫だけど……」
 爽やかな、だがどこか有無を言わせないような笑みで言われ、俺は反射的に頷く。
「では、その日によろしくお願いします」
 その日はそのまま、最寄り駅まで送ってもらって解散となった。
 本気なのか、冗談なのか。未だに飲み込めずにいた俺に、別れ際北村は言った。
「俺は本気ですから」と。


第一話


 北村とセフレ関係になる約束をした翌週金曜日。
 後腐れない方がいいだろうと、俺は北村と連絡先を交換しなかったことを後悔していた。
 廊下で何度か北村とすれ違ったが、声を掛けることは出来なかったし向こうからも掛けて来なかった。もう夕方だ。
 考えてみれば、あの時北村は酔っていた可能性もある。後から冷静になって、会社の男にセフレになろうなんて持ち掛けたこと自体を後悔しているかもしれない。向こうが忘れた体でいるなら、こちらも忘れたふりをしよう。
 ただ、なんらかの形であの日助けてもらって迷惑をかけた謝礼と、謝罪だけはしたい。でも、もしかしたら。
 ―本気ですから。
 ああ言っていたということは、やはり本当にするつもりなのかもしれない。思考がぐるぐると二転三転していき、一日中そわそわと落ち着かず、仕事が手に付かなかった。

 作業を切り上げ、十六時からの合同定例会議に少し早めの時間に向かった。
 毎週金曜に行われる定例会議では、その資料の印刷や準備を新入社員がやるという決まりがあった。
 今回は登録資料が多かったから準備が大変そうだと思ったが、やはりそうだったのだろう。今年新卒で入ったばかりの社員が、一人慌ただしく準備している。
(一人ぐらい手伝ってやればいいのに)
 会場で団扇を手に雑談をしながら座っているオッサン達をついジロッと見てしまう。
 俺は自分の荷物を置くと、パソコンの近くに置かれたプロジェクターを起動させた。
「プロジェクターは繋いどくな」
 新入社員にそう一声掛ける。
「えっ!? あ、ありがとうございます。助かります」
 慌てて頭を下げた新人に右手を上げて返事をし、プロジェクターの準備を終えて、マイクの調整をした。
 これが終わったら、各席に資料の配布をするのを手伝おうと思いながら「あ、あ」とまだ人のまばらな大会議室に向けてマイクの音量の調整を行う。しかしその途中で「あっ!?」と大きめの声を出してしまった。
 資料を抱えた北村が会議室に入ってきたのが目に入ったからだ。何事かと、その場にいた会場全体の人達がこちらを向く。
 誤魔化すように調整を終えたマイクを元の位置に戻して自席につき、ペンとメモ帳を用意していると、不意に「篠崎さん」と声を掛けられた。
「え」
 見上げると席の前に北村が立っている。
「どうも」
「お、おう」
 間の抜けた声で挨拶を返すと、彼は俺の机の上にある会議資料の上に小さな紙片を置いた。
「資料の内容に訂正があるそうで」
「そうなのか」
 じゃあ俺も訂正紙配るの手伝うよと言おうとして、資料の上に置かれた小さな紙片に目を落とし、思わず声が出そうになった。
『二十時半 ダイワットホテル 1302号室』
 端正な字で書かれたその文言の横には今日の日付も書いてあった。
「……分かった。連絡ありがとう」
 カラカラになった喉からそれだけ絞り出すと、北村は「よろしくお願いします」とだけ言って自分の席に戻って行った。


 そして二十時過ぎ。
 指定されたホテルは会社とは正反対の方面だったが、俺の自宅の最寄り駅からだとバスで一本、十分かからずに行ける非常に気の利いた場所だった。
 会社の近くに住んでいる北村からしてみたらアクセスしにくい場所のはずだ。きっと、こちらに配慮してくれたのだと思う。
 ホテル自体も新しく、洒落た絵やらオブジェが飾られたフロントを彷徨きながら、俺は緊張でそわそわとしていた。
(……手の込んだ悪戯じゃないよな?)
 もしそうだったら今度こそ立ち直れずに駄目になってしまいそうで、不安で仕方がない。もうあんな自暴自棄になってはいけないと自分に言い聞かせていると、「あれ、早いですね」と後ろから声を掛けられた。
「北村……」
「すみません、待たせました?」
「い、いや……俺も来たとこだから」
「それなら良かったです。では、行きましょうか」
 にっこりと微笑まれて、戸惑いがちに頷いた。
 エレベーターに乗り込むと、静かな密室に二人きりという状況に、早くも腹が痛くなってきた。
「あのさ。お前本当にヤるつもり……なんだよな」
 思わず問い掛けると「はい」と即答が返ってきた。
「今日一日そのつもりでいましたよ。仕事中もずっと」
「……っ」
 綺麗な笑顔で言われ、ぶわりと頬が熱を持つ。動揺を悟られないように、慌てて顔を背けた。

 北村が手配してくれたのは、部屋の中までも清潔で綺麗なホテルだった。
 出張などでも今まで安いビジネスホテルばかり利用してきたから、なんだか悲しくなってくる。
「シャワー、先使っていいぞ。俺軽く家で浴びてきたから。一応後でもう一回浴びるけど……夏だし」
 部屋に入るなり、開口一番そう言った。
 これまでは、元恋人に言われたことはすぐに言う通りにしないと怒られていたため、つい性急になってしまう。
「では、すみませんお先に」
 北村がそう言って先にシャワーを浴びにバスルームに入る。一人きりになりホッと息を吐いて、テーブル前に置かれた小さな椅子に腰を下ろした。
 ここまで来て悪戯ということがあるだろうか。手の込んだことまでして自分を騙すメリットがあるとは思えない。でも、悪戯じゃないならどうして北村は俺を抱こうなんて思うのか。
 そんなことをぐるぐると考えていると、いつの間にか時間が経っていたようで、北村がバスルームから出てきた。
「お待たせしました。次、どうぞ」
「……了解」
 整った顔とすらりとした手足をしている北村は、バスローブ姿が様になっていて、さながらモデルのようだ。
(本当にいい男だよなぁ……)
 しみじみそう思いながら入れ替わりでバスルームに入る。洗面所の窓に映った自分の平々凡々とした顔を見てますます「どうして俺とセフレに?」という疑問が溢れ出てきた。
 汗をざっと流し終えたが、まだバスルームを出られない。
 なにしろ行為自体が久しぶりだ。家でも少し慣らしてきたのだが、よく慣らしておかないと入らないかもしれない。準備不足が心配でしばらく拡張していたら、いつの間にか随分時間が経ってしまっていた。
 待たせすぎて怒っているかもしれないと不安になり、慌ててバスルームから飛び出した。
「わ、悪い! 遅くなった」
 するとスマホを弄っていた北村が、こちらの慌て具合に少し驚いたように顔を上げた。
「そんなに待ってないですよ。もっとゆっくり入っていただいても大丈夫でしたのに」
「そ、そうか。良かった」
 怒っていなかったことにホッとする反面、急いで飛び出してきたのが逆に恥ずかしくなる。
「じゃあ」
 ヤるか、と言おうとして自分のバスローブの紐に手をかけると、北村が突然立ち上がり、備え付けのミニ冷蔵庫を覗き込んだ。
「篠崎さんもどうです?」
「え?」
 キンキンに冷えたジュースを二本手に取り、そのうちの一本を渡される。
「風呂上がりって喉渇きません?」
「……まあな」
 とりあえず受け取り、ベッドの端に腰掛けてプルタブを引いて、それを飲む。
 セフレとしてヤりに来たはずなのに、一向にそういう気配にならない。
 やっぱりする気はないのだろうか。
 それとも、男の身体を抱くという事実に怖じ気づいたのかもしれないと思っていると、北村もごくごくと小気味よい音を立てながらジュースを飲み、不意に真面目な顔で言った。
「好きな体位が正常位で、好みのプレイは優しいプレイでしたよね?」
「っ……おい!」
 ジュースを思い切り噴き出すところだった。
 そういえば、SNSの募集ページにそんなことを書いた気がする。当然黒歴史の投稿はもう消したが、北村はその投稿内容を覚えていたようだ。
 元恋人との最悪の別れに疲れていたから、とにかく誰かに癒やしてほしいという願望がダダ漏れていて恥ずかしい。
「て、適当に書いたやつだから……なんでもいいよ。おまえの好きなやり方で。殴ったりさえしなければ」
「俺も正常位で優しくしたいので、好みのプレイ一緒ですね」
「……へ、へえ? そうなんだ」
 思わずドキッとして頬が熱くなったが、やっぱり自分に都合が良すぎる気がしてきた。何か騙されてはいないだろうか。
 元恋人からひどい目に遭ったのを忘れたのか。SNSの男だってそうだ。
(それに……)
 これまでの人生で受けた様々な不安がせり上がってきて、それを押し込めるようにジュースを飲み干すと、缶を握りつぶしゴミ箱に捨てて立ち上がる。バスローブの紐を解き、そのまま全裸になった。
「北村、ヤりに来たんだよな? 無駄口はこれぐらいにしてさっさとヤろうぜ」
「し、篠崎さん……」
 北村が目のやり場に困るというように顔を赤くして、目を逸らしながら戸惑いの声を上げる。
「それとも、やっぱりなんか他に目的でもあるんじゃないか? 悪いけど、悪ふざけのつもりなら付き合えないから」
 動揺を悟られないよう、淡々と言い捨てた。
 その言葉に北村もまた缶を置いて立ち上がり、俺の腰を抱いてぐいっと引き寄せる。すると、密着した身体で確かに北村の下肢が熱を持っていることに気づき、息を呑んだ。
「俺はずっと本気ですよ。さっき篠崎さんがシャワーを浴びている音を聞きながら、ずっと興奮してましたから」
「お、お前……」
 どうして、と言いかけた声を塞ぐように北村にキスをされる。
「んっ……」
「優しくしますから、大丈夫です」
 そう言いながらベッドにそっと押し倒される。舌を搦め捕り吸い上げられて、乳首を撫で回された。
 北村はストレートだと言っていたし、喘ぎ声で萎えるかもしれない。だが、優しくすると言ってくれているのに演技ぐらいしないと悪いだろうか。
 俺は別に気持ちいいことが好きという訳でもなかった。
 誰かに抱かれたいと思ったのは、ただ誰かの温もりを感じたい、その一心だった。
 北村があちこちに触れる度に、演技なんてしたところで絶対バレるよなと葛藤し、どうしてセフレになるなんて言ってしまったのかと後悔した。
「……緊張してます?」
 情けなく縮こまった陰茎を一撫でされて思わず息を呑んだ。
「な、なんでそんなとこ……」
 元恋人は俺のその場所をほとんど触ろうとしなかった。そのため、こんな風に誰かに触られるのは初めてだった。
「い、いいよ。そんなところ触らなくて」
「触ったら駄目ですか?」
「駄目、じゃないけど……俺不感症っぽいし、こっちのことはあんまり気にしなくていいから」
「不感症? 誰かにそう言われたんですか?」
「……言われたっていうか、あんま、セックス中にイッたことないし……、っ!」
 陰茎をやわやわと擦られながら、少し顔を出している先端と皮の境目を指先でなぞられると、ビクッと身体が震えた。俺の反応に、北村は微笑んでキスをする。
 そのまま同じように、裏筋やら先端やらを指先でなぞるだけの優しい愛撫をされ、キスを繰り返されているうちに身体が熱くなってきて、徐々にクチュクチュという卑猥な音が耳に響いてきた。
 腹の底から、甘い痺れが背筋を伝ってきて、俺は目を見開いた。


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