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ホントウは恋のはじまり

火崎勇 / 著
タカツキノボル / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-379-8
サイズ 文庫本
ページ数 240ページ
本体価格 本体755円+税
発売日 2021/03/18

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内容紹介

愛してる。もうお前を離せない……
大学時代の憧れの先輩・戸部に誘われて就職したデザイン会社に、イジワルな先輩木曽がいたことに絶望する深田。木曽は戸部と実は恋人同士のハズなのに、「好きだ」と深田に告白してくるから。からかわれていると無視していたが、優しくされるたび何がホントウか分からなくなってしまう。熱で仕事を休んだ木曽を見舞いに行くと、そこは最低限の家具しかない空間で……彼の心に触れた深田は、木曽のホントウの気持ちを一つずつ知っていき!? 不器用な先輩×ほんわか後輩のピュアラブ
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

深田大和(ふかだ やまと)

憧れの先輩戸部の興した会社に就職したが、苦手な先輩木曽の存在に驚愕する

木曽義人(きそ よしと)

深田にイジワルしてくる先輩。戸部と仲がいいけれど…

立ち読み

 大学に入学した俺はデザイン同好会なるものに入部した。
 将来デザイナーになりたかったので。
 それなら美大に行けばいいと言われるかもしれないが、親が普通の大学でなければ学費は出さないというので、仕方なく普通の大学に入ったのだ。
 ちなみに、こっそり美大も受けたが落っこちた。
 でも同好会で、同じようにデザインが好きな人間と出会えるかもしれないし、もしかしたら先輩達からデザインのノウハウを教えてもらえるかもしれないと思った。
 期待して入部した当日、その夢は潰えたのだけれど……。
 デザイン同好会は、プロのデザイナーのあれが好き、これが好きと批評をする会だった。
 部員は幽霊含めて三十人ほど。
 好き勝手に部室に集まり、適当にディスカッションして、適当に解散する。
 女子達は主に部室をカフェ代わりにしていた。
「深田は、デザイナーになりたいって言うが、何のデザイナーになりたいんだ?」
 そう声をかけてくれたのは、先輩の戸部さんだった。
 筋骨隆々だけどイケメンで、あの有名なハンマー投げの選手みたいな人だった。
「なんでもいいんですけど、何か作る人になりたくて」
 今思うと、ものを知らない子供だった。
 田舎の高校で、人より絵が上手くて手先が器用、それだけでみんなに『デザイナーになったらいいのに』と言われてその気になっただけの。
「デザイナーと言っても色々あるだろう? コンピューターグラフィックを手掛けるCGデザイナー、ネットのサイトなんかを作るウェブデザイナー、ポスターやフライヤーを作るグラフィックデザイナー。服を作るならファッションデザイナーだし、ゲームを作るならゲームデザイナー。UIデザイナーはちょっとデザイナーというより編集者っぽいか。DTPデザイナーもエディトリアルデザイナーもそっちかな? 家具を作るならインテリアデザイナー、宝石ならジュエリーデザイナー、工業製品ならインダストリアルデザイナー、その他の製品ならプロダクトデザイナー。プロダクトデザイナーを細かく分けると……」
「ち、ちょっと待ってください。何ですか、それ」
「デザイナーのざっくりした区分だよ」
 デザイナーという言葉に、そんなにいっぱい種類があるなんて……。
 UIデザイナーとか、DTPデザイナーなんて聞いたこともない。
「何になりたいかによって、学ぶべきものも違うからな。深田は何のデザイナーになりたいんだ?」
 純真な目で見つめられて、俺は正直に白状した。
「そこまで深く考えたこと、なかったです。絵を描いたり小さい物を考えて作ったりするのが好きだったので、何かをデザインできたらなぁ、と思ってた程度で……」
 自分の無知が恥ずかしかった。
 でも戸部さんは笑わなかった。
「そうか、じゃ深田はオールマイティーなデザイナーになりたかったんだな」
 何て優しい人なんだろう。
 こんなことも知らずにデザイナーとか言ってたのか、と嘲笑するのではなく、オールマイティーなデザイナーなんて素敵な言葉をくれるなんて。
「だが今は色んなものが細分化されてるから、自分のやりたいジャンルを見つけてそれ一本で勉強した方がいいぞ。ちなみに、俺はウェブデザイナーになりたい。以前はエディトリアルデザイナーになりたかったんだが」
「あの……、エディトリアルデザイナーって何ですか?」
 この人はバカにしないとわかったので、おそるおそる訊いてみる。
「本の編集やデザインをする仕事だ。レイアウターとか、装丁家なんかだな。だが最近はネットの方が主流だから、ウェブデザイナーに変更した」
「そんなにはっきりとした目的があるのに、どうして専門学校に行かなかったんです?」
 俺なんかと違って、自分の道が見えてるならそっちの方がよかったのでは?
 あ、まさか、俺と同じでそっちには落ちたとか?
「デザイナーなんて、簡単になれるものじゃないからな。ダメだった時に潰しがきくように、だ。専門学校へ行くと専門の仕事しか探せないが、四大なら一般職でも何でも対応してくれるだろう。ま、小狡かったってことだ」
「そんな! 堅実です」
「そうか。ありがとう。深田もまだ決めてないなら、一緒にウェブデザインの勉強するか? 本とか貸してやれるぞ」
 優しい先輩からの優しいお誘い。
 どうしてこれを断れるだろう。
 他に目的もなかった俺が。
「はい。そうします!」
 これで俺の将来は決まってしまったと言ってもいいだろう。
 二学年上の戸部先輩は、在学中ずっと俺の面倒を見てくれて、大学卒業と同時に就職……ではなく、自分で会社を立ち上げた。
 有言実行。
 ウェブデザインの会社だ。
 大学卒業してからも同好会の部室に顔を出し、後輩の面倒をよく見てくれた。
 もちろん、俺も目をかけてもらった。
「青田買いだ。卒業したら、俺んとこの会社へ来いよ」
 またしてもあこがれの先輩からの魅惑的な誘い。
 この頃には、俺はもう自分が平凡な人間だと気づいていた。
 絵がちょっと上手くて手先が器用。でも学力は上の下。特技と言えるものもなく、ルックスだって平々凡々。
 人付き合いは上手いが、それを特技だなんて言えないだろう。
 だから、戸部さんの誘いに乗ってしまった。
「はい。必ず」
 ウェブデザインのことなら、戸部さんに教えられて少しはわかる。
 何より、この人の下でなら、楽しい会社員生活が送れるだろうと思って。
 東京で就職すると親に言った時は、援助ナシと言われてしまったが、在学中にバイトでコツコツ貯めた金もある。
 何とかなるさとばかりに、大学卒業して戸部さんの会社、『NOT SIX』に入社した。
 都心にオフィスを構える、従業員三十五名の大きな会社となった、『NOT SIX』に。
 これから頑張るぞ。
 毎日が楽しみだ。
 そう思っていたのに……。
 戸部さんからは聞いていなかったことが一つだけあった。
 それは、そこに木曽さんがいる、ということだった。



 木曽善人。
 戸部さんと同じく俺の二学年上の大学の先輩で、デザイン同好会の幽霊部員。
 木曽さんは、メチャクチャ顔のいい人だった。
 初めて見た時には、何てカッコイイ人なんだと思って見惚れたほどだ。
 肩まである不揃いなサラサラの髪、高い鼻、鋭い眼光。背も高くて、適度に引き締まった身体で、着てるものもいつもファッショナブルで、まるでモデルみたいだと思った。
 その時は、口をきいてなかったので。
 そう、木曽さんは口が悪かった。
 いや、口だけじゃない、態度も悪かった。
 部室でタバコは吸うは、酒は持ち込むは。
 顔がいいのでもちろん女性にモテていたが、いつも人をバカにしたような目をしていた。
 ただこの人は戸部さんと仲がよかった。
 俺と戸部さんが話していると、いつも近づいてきて、戸部さんを連れて行ってしまった。
 ほとんど人と口をきかない。
 きいてもバカにしたりからかったり。
 俺もその被害者だった。
「デザイナーがどんなものかも知らずにデザイナーになりたいって思ってたんだって? オメデタイ頭だな」
「古本もらって喜んでるなんて、貧乏人だな」
「また菓子パン食ってんの? 子供舌だな」
 とにかく、俺を貧乏な子供にしたがった。
 それがある日突然変わった。
 人に親切になり、毒舌も止まったのだ。
 俺は戸部さんとの付き合いが、彼をいい方向に変えたのでは、と思っている。
 ただ……。
 途中から変な方向に進路変更された。
 最初は、『ほら子供舌』といって菓子パンをくれたり。
「お古でもよかったらやるよ」
 と高そうなダウンジャケットを、くれたりしただけだった。
 物をもらったから言う訳ではないが、いい人になったなあと思ってたんだけど、ある日突然こう言い出したのだ。
「俺、深田のこと好きだな。愛してるのかも」
 何がどうなったらそうなるんだ。
 以来、彼は俺に愛の告白をし続けた。
 からかわれてるのはわかってるけど、迷惑だ。
 それでも、彼は同好会の部室に顔を出し続けた。
 大学を卒業しても、戸部さんと一緒に、あるいは一人で、顔を見せた。
 でもその間一度も『戸部の会社で働いてる』なんて言わなかったのに。
 入社式、俺と同期の新人二人の前に、彼は現れたのだ。
 新しいオフィス。
 フロアにいる人達に新人紹介をする席。
「社長の戸部です。三人とも、入社してくれてありがとう。これからガンガン働いてもらうぞ」
 と挨拶した戸部さんの隣に、相変わらず自由な服装で、ルックスだけはカッコイイ木曽さんが立っていた。
「デザイナー兼副社長の木曽だ。ヨロシク」
 そして明らかに俺に向けて、ウインクした。
 何でだよ……。
 何でこの人がここにいるんだよ。
 副社長って何だよ。
 俺はここにインターンで一カ月来てたんだぞ? その時には一度も会わなかったじゃないか。
「じゃ、配属だが、深田は俺のアシスタントな」
 だから何で、社長じゃなく、副社長のあんたがそれを言うんだよ。
 学生だったら、『何言ってるんですか』と言えた。けれど会社ではそれは言えなかった。
 新人平社員と副社長だから。
 あこがれの先輩と楽しい社会人生活は、この瞬間、苦手な先輩との地獄に変わった。
 後で、どうして言ってくれなかったのかと訊いたのだが、木曽さんの答えはあざとかった。
「お前が戸部にあこがれてるのは知ってたし、あいつはお前を誘う気満々だったから、黙ってればきっとウチに入社するだろうな、と思って」
 計画的犯行だ。
 でも、もう逃げられなかった。
 戸部さんと離れたくなかったし、今から他の会社に就職するなんてできっこない。
 人生詰んだ。
 そう思うような、新社会人の幕開けだった。



 ぬくぬくとしていた学生時代が終わり、社会人になると人は変わる。
 責任感が出たり、人付き合いを覚えたり、手を抜く方法を覚えたり。
 ご多分に漏れず、俺も変わった。
 神経が図太くなった。
 学生時代から住んでるアパートで目覚め、朝食をしっかり摂ってから着替えて出社する。
 学生時代、木曽さんにからかわれるほど菓子パンを食べていたのは、貧乏だったからだ。
 学食で一番安いうどんは百八十円だったけど、同じ値段で菓子パンと牛乳が買える。
 うどん一杯より牛乳が付いていた方が栄養価が高いと思っていたのだ。
 あの頃はバイトして、節約して、お金を貯めたかった。
 在学中から、卒業したら地元に帰ってこいコールがうるさかったので、東京に残るなら金を貯めなければと思っていたのだ。
 戸部さんは信じていたけれど、万が一ということもある。その時は、改めて専門学校に……、なんてことも考えていた。
 まあ心配したことにはならず、無事就職できたけど。
 満員電車を避けるため、少し早く家を出るので、会社に到着するのも少し早め。
 まだみんなが来ていないうちに共有スペースの掃除をする。
 うちの会社は決まったデスクの他に気分転換用のフリースペースがあるのだ。
 ウェブ系の仕事は、殆どがパソコンの中に業務が集約されている。
 しかも最近はデスクトップじゃなくても十分に仕事に対応できる。
 なので、煮詰まった時には自分のタブレットやノートパソコンを持って、共用スペースでは仕事をしていいことになっている。
 そこは、カフェのように白い曲線的なカウンターテーブルがあり、コーヒーメーカーも置かれている。
 休憩にも使ってよいが、仕事をしている人もいるので業務時間内は私語は禁止。
 昼休みは自由で、お弁当を食べてる人もいる。
 癒しになれば、とオフィス部分とは観葉植物で仕切られていた。
 さすがは戸部さんだな。
 こんなスペースを作るなんて、社員のことを考えてるし、センスもいい。
 俺はコーヒーを淹れて、そこに座り、タブレットをチェックした。
 今日の予定は、クライアントと打ち合わせだ。
「相変わらず早いな」
 ……来たか。
「おはようございます」
 いつも遅い木曽さんが、早く出社するのはクライアントとの打ち合わせの時だ。
 俺は彼のアシスタントとして、もう一年以上一緒に仕事をしていた。
「俺にもコーヒー淹れてくれ」
 と言って俺の隣に座る。
「はい、はい。ブラックですね」
 入れ替わりに立ち上がってコーヒーを淹れに行く。
 そこにサーバーがあるんだから、自分で淹れればいいのに、という論争はもうとっくの昔にやった。
 他人が淹れた方がコーヒーは美味いんだ、と言われて終わりだったけど。
 俺はスーツだけど、木曽さんは黒のロングコートにデザインシャツだ。
 デザイナーはちょっと変わった格好をしている方が『らしい』だろ、と言うのが彼の持論だった。
「はい、どうぞ」
 彼の前にコーヒーの紙コップを置く。
「今日は角井デパートの方と打ち合わせですけど、コンセプトラインはどうします?」
「ああ、ちょっと待て」
 彼は自分のスマホを取り出して操作した。
 すぐに俺のスマホが鳴る。
「今送った」
 自分のスマホを取り出してメールをチェックする。
 本当は木曽さんにメアドも番号も教えたくなかったのだけれど、こうして仕事で使うので仕方がない。
 コンセプトラインは、豪華なユーティリティと書かれた企画書が添付されている。
 出会った頃から比べると、大分丸くなったけれど、何故か木曽さんはおじさんが嫌いだ。
 何かで意見が衝突すると、敵意剥き出しになってしまう。
 そこを美味くコントロールするのが、俺の仕事だった。
 初めてその場面に遭遇した時は驚いた。
 それまで普通に余裕を持って話をしていたのに、突然キレたのだ。
「自分でできないことを他人に押し付けようとすんな。自分でものを考えてからオーダーしろ。抽象的なことばっかり言ってるな」
 もちろん、相手は怒った。
 新人の俺でも、ヤバイとわかった。
 何とかしなくては、と思って、俺がその場で土下座した。
「申し訳ございません。うちのデザイナーが失礼なことを申しました。ただ、よりよいものを作りたいという気持ちの表れなんです。はっきりとしたオーダーがあればお応えしたい、と言いたいだけなんです」
 怒っていた相手の人も、ただ謝罪するだけでなくソファから下りて土下座した俺を見て、振り上げた拳を下ろしてくれた。
 驚いたのは木曽さんも一緒だったのだろう。
 たった今ブチキレたのに、すまなさそうな顔でクライアントに謝罪した。
「失言でした。すみません」
 帰ってきて戸部さんに業務報告として説明すると、戸部さんはため息を一つついて「そうか」と言っただけだった。
 怒らないのかと訊いたら、後で怒ると彼を帰してから言った。
「あいつが謝罪したのは深田のお陰だな。これからもあいつのこと、よろしくな」
 戸部さんに任されてしまった……。


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