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嘘の欠片

栗城偲 / 著
一夜人見 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-291-3
サイズ 文庫本
ページ数 232ページ
定価 831円(税込)
発売日 2020/05/18

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内容紹介

一度はすれ違った二人。看護師として再会して…
「……最悪」寝ぼけてキスした相手が峯井だったと気づいた呉村が、そう呟いた。それ以来、親友だった呉村への片思いが苦しくなって、高校卒業後、違う進路を選び連絡を絶った峯井。看護師として勤務して十年。三十路になった今でも呉村を忘れられず、彼とキスをする夢を見続ける日々。もう諦めたいと思っていた矢先、峯井の勤める病院にやってきた看護師が呉村で…? 何もなかったかのように接してくる呉村に戸惑うが…。「今度は、逃がす気ないからな」一途に拗らせる十年愛♡
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

峯井佳哉(みねいよしや)

外科病棟勤務の看護師。

学生の頃から好きだった親友の呉村が忘れられない。

呉村清隆(くれむらきよたか)

高校卒業以来峯井とは決別していたが、峯井の勤める病院の整形外科に看護師としてやってきて…。

立ち読み

 呉村の掌が、確かめるように峯井の体に触れる。
 峯井はキスに応えるので精一杯なのに、呉村は余裕そうだ。体のラインや体温を触れて確かめられ、そして、どう触ると峯井の体が震えるか、吐息で読まれている気がする。
 まだなにもいやらしいことなどされていないはずなのに、肌に触れられるだけで息が熱っぽく上ずる。
「ぅ……呉、村……待って」
「ん?」
 なに、と聞き返す声が笑っている。けれど、呉村は待ってくれない。
 実質キスしかしていないのに降参するのは早い、ということなのかもしれない。
 ――でも、なんかもう……。
 ふるふると身を震わせながら、峯井は強く目を瞑る。
 口腔内に差し込まれた舌が、上顎や舌に触れる度に、体が勝手にびくっと跳ねてしまうのだ。
 それに、首筋や肋骨の上を指で擦られる度に、くすぐったいわけではないのにじっとしていられなくて、体が逃げてしまう。
 ――なんかもう、限界……!
 覆いかぶさる呉村の胸をぐいぐいと押し返したら、やっと唇が離れていった。
 思わずほっと息を吐くと、見下ろす呉村の瞳が細められる。呉村の指が、濡れた峯井の唇を拭った。
 ふにふにと唇を押しながら、呉村は峯井の目尻にキスをする。甘ったるいその仕草に、もう峯井は言葉もなく赤面するしかない。
「峯井。……脱がせていい?」
 少し潤んだ熱っぽい目で見つめられて、返事の代わりにひくりと喉が鳴る。
 問うたくせに答えも待たず、呉村は峯井のシャツのボタンを外した。
「あ、待っ……、待って呉村」
「うん?」
 なに、と言いながらも呉村の手は止まらない。本気で抵抗しないから、やめてくれないのかもしれない。
 手慣れた様子で、呉村は戸惑う峯井の服を一枚一枚剝いでいく。
「待っ……、ん」
 上半身の服を全部脱がされたタイミングで、また唇を塞がれる。ベッドに押し倒されて、キスをしながらボトムを脱がされた。
 無意識に瞑っていた目を開いたら、服を着た呉村の下で自分が全裸になっている状況が目に入り、全身がかあっと熱くなる。
「……峯井?」
 羞恥に震えるこちらの様子に気づき、呉村が唇を離した。そして峯井の頰を撫でて、ちょっと意地悪く笑う。
「なに、恥ずかしくなった?」
「っ、当たり前……俺ばっかり、裸で……っ」
 怒鳴りたいのに、羞恥と興奮でうまく声が出ない。はいはい、と呉村が上体を起こした。
 そして、勢いよくシャツを脱ぎ捨てる。あらわになった体はしっかり鍛えられていて、貧相な峯井とは大違いだった。
 腹も割れていて、胸板も厚い。
 呉村の裸を見るのは初めてではないので、油断していた。高校生の頃とほぼ変わらぬ自分とは全然違う。
 自分が知っている呉村のそれとは、あまりに違った。腰から下についてはもはや直視できない。
「峯井?」
 のしかかって来られ、素肌同士が密着する。
「っ……、くれむら」
 舌がもつれる。不安げに揺れた声に、呉村がぐっとなにかを堪える顔をした。
 ずっと呉村だけを好きだったから、他の男を好きになったこともなければ、男性経験もない。
 組み敷かれるのも、初めて見る呉村の体にも、本能的な恐怖を覚えていた。
 知らない男みたいで怖い、と言ったら傷つけてしまうだろうか。それも本意ではなく、ますます口にする機会を逸する。
 ――なんか知らない人みたいで怖い、のに。
 そればかりではないことも自覚している。恐怖心だけではなく、期待や興奮に体が震えているのがわかっていた。
「その……」
「うん」
 にっこりと笑った呉村は、緊張でがちがちになっている峯井の体を抱きしめる。
「呉村」
「しばらく、こうしてるか?」
 な、と柔らかな声で囁く呉村は、峯井が怖気づいていたのを察してくれていた。子供にするように、ぽんぽんと体を叩く。
 だが、密着しているので、呉村がそう余裕でもないことは峯井もわかっていた。呉村の顔をうかがいながら、ぐっと腰を押し付ける。
 うっ、と息を詰めて呉村が背を丸めた。
「……お前な、一応我慢してるんだからやめろ」
「ご、ごめん」
 やせ我慢して待ってくれているのは、峯井を想ってくれているからだ。
 ――優しくしすぎじゃないの、お前。
 さっきは十年分とかなんとかおどかしたくせに、結局優しい男にたまらなくなって抱きつく。
「っ、だからやめろって、こら」
 重なる呉村の体がびくりと動いた。少しだけ体を離し、見下ろしてくる男に笑い返す。
「ありがとう。……いいよ、我慢しなくて」
 笑顔で告げると、呉村が瞠目した。それから呉村も口元を綻ばせ、峯井の頰を撫でる。その心地よさに目を閉じると、もう一度唇が合わせられた。
「……峯井、もうちょっと腰、上げて。峯井?」
 キスに没頭していたせいか、呉村の言葉が耳に入らなかった。呉村が「よっ」と声を上げて、峯井の腰に手を回す。
「……っ!?」
 ぐるんと視界が反転し、一瞬なにが起きたのかわからなかった。シーツの上には呉村が仰向けになっていて、峯井がその上に重なる、という体勢になっている。
「えっ、ちょ……わ、ぁっ」
 困惑する峯井の尻を、呉村が摑む。
 長い指が、自分でもあまり触れない場所へと押し当てられた。
「っ……」
 違和感と、それを上回る恥ずかしさに息を詰める。呉村の胸に顔を埋め、無言で震えてしまった。
「あの、呉村。ゆっくりなら、平気だと、思うから」
「無理するなよ」
「無理じゃないって」
 いいから、と言うと、心配そうな顔をしながらも指が入れられる。
「……っ」
 筋肉が一瞬で強張り、痛い、と言いそうになる。
 けれど、ここで痛いとか苦しいと訴えたらやめられてしまいそうで、唇を嚙んで堪えた。
 拒むように窄まった場所を撫でながら、耳元で「峯井」と呼ばれる。
「え……」
「なにか、潤滑剤あるか? 軟膏でもいいけど」
 峯井は枕元のチェストに薬箱を置いている。峯井は呉村の上に乗ったまま腕を伸ばして蓋を開け、中からチューブ状の軟膏を取り出した。
 普段使うときの、何倍もの量が呉村の手に出される。
「こんなことのために生まれてきたんじゃないのに……」
「それはそうだけど、今言うかそれを」
 無駄にするわけじゃないからいいだろ、と苦笑しながら、呉村は軟膏を使ってもう一度峯井に触れた。
 軟膏の助けを借り、体の中につるりと呉村の指が入ってくる。あまりに抵抗なく入ってしまって、赤面した。
「痛かったら言って」
「ん……」
 こくりと頷き、呉村に身を任せる。痛くはないのだが、緊張で体ががちがちになっているせいで、うまく解れない。
 ふーふーと呼吸を繰り返して、できないと思うと焦りが生じて、さらに体が固まる。
 どうしようどうしようと惑乱していたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「はーい、峯井さーん息吐いてくださーい」
「ぶ、はっ」
 患者に言うような口調に、こんな状況下だというのに笑ってしまった。図らずも呉村の言うとおり息を吐いたせいか、妙に力んでいた体がふっと弛緩する。
「大丈夫ですよー、力抜いてくださいねー」
「ちょ、やめろその口調」
 くすくすと笑いだしてしまって、緊張したムードが和らぐ。体が重なっているせいだろうか、素肌の触れ合う心地よさに徐々に安心もしてきた。
「部位を考えたら力抜くより入れたほうが入るんじゃないの」
「それ以前に、峯井、体がっちがちなんだもん。そっちが先だろ」
 確かにそうかも、と納得する。
 色気は若干ないかもしれないけれど、こうしてリラックスさせてくれて、呉村が峯井の気持ちを優先してくれることがわかって嬉しい。
 そうしている間に徐々に指が増やされ、無駄口を叩いている余裕もなくなってくる。
「ん……っ」
 何度も軟膏を塗り直していた呉村の指に体も徐々に慣れ始めていた。時折尻に当たる熱いものは、きっと呉村のものだ。
 それを意識する度に、心臓が早鐘を打った。
 指を抜き差しされ、擦られているうちに自分の意志とは関係なく体がびくっと動く瞬間がある。最初のうちは気のせいかとも思ったが、次第にその間隔が短くなり、「あ」と声を上げてしまう。
「ん、ぅ」
 じっとしていられず、腰が動く。夢中になってその感覚を追っていると、逸る腰を押さえつけるように抱き寄せられた。
「っ、あ……?」
 動きを制されて、息を震わせながら下にいる男の顔を見る。呉村の額に、うっすら汗が浮かんでいた。
「峯井、ちょっと待った。我慢して」
 がまん、と復唱し、呉村の腹に性器を押し付けて擦っていたのだと気づいて、声にならない悲鳴を上げた。
 ――噓、俺……、俺……っ。
 羞恥で死にそうになっている峯井をよそに、呉村が指を引き抜く。その刺激に、峯井は背を反らす。
 頰にキスをされたあと、また体勢が入れ替わる。今度は峯井が下になり、体を俯せに返された。
 腰を摑まれて引っ張り上げられ、四つんばいにさせられる。初めてする格好に、頰がかっと熱くなった。
「う……」
 あまりの羞恥に少し涙が出たが、体勢のせいでそんな顔を見られずにすんだのが、せめてもの救いだ。
「ゆっくり呼吸してて。……そう、うん」
 脚を大きく開かされ、先程まで散々弄られていた場所に指よりも大きなものが押し当てられる。
「あっ……、あっ!」


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