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病弱モブは推しのサポキャラを助ける為に、お金も積むし、ゲームのシナリオも改変します

あやまみりぃ / 著
NOUL / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2024/12/13

内容紹介

病気療養中の辺境伯爵令息のリューイは突然、ここが「前世でやったRPGゲームの世界」であることに気が付く。何度プレイしても、推しの銀髪剣士・シルバリウスが、冤罪で奴隷身分に落とされたまま死んでいくシナリオを変えることはできなかった。そんな悔しさを晴らすべく、モブながら残り少ない命をシルバリウスを助けることに捧げると決める。助けた直後は警戒心MAXのシルバリウスだったのだが……。「愛してる。もう離さないし逃してもやれない」実は重度のヤンデレ剣士×病弱な無自覚チート令息、爽快転生ファンタジーBL!

人物紹介

リューイ

16歳を迎える無自覚チートな辺境伯爵令息。推しのシルバリウスを現実では救いたい。

シルバリウス

奴隷落ちしていたところをリューイに助けられる。最初はリューイを警戒するが…

立ち読み

一、思い出す

 ――生き物が焼ける臭い。
 辺りは死んだ魔物だらけだが、その一角に勇者、神官、魔法使いがいて、一人の倒れた奴隷を囲んでいる。
「……XXX、無事、で良かった」
「シルバリウス……、なんで、庇(かば)って……、うぅ」
 途切れ途切れに勇者が言葉をかける。倒れた奴隷の右半身は焼けていて、服も何もかも汚れているのに、首についた太い無骨な赤銅色の首輪だけが爛々(らんらん)と光っている。
「う、シルバリウス、冤罪(えんざい)は、必ず晴らすから……」
 いつも無表情な奴隷は口の端だけ上げ、静かに目を閉じていった。
 仲間達が泣く中、静かに画面が動き周囲の状況を映すようにシルバリウスからフェードアウトしていく。

 ――なんで!
 シルバリウスだけじゃなくて、全員あんなに、ステータスも上げたのに、なんで死ぬんだ!
 死んでから冤罪が晴れても意味ないだろ!
 あんな馬鹿王女のために、主人公でもおかしくない銀髪最強キャラなのに……



「マジ! あれはない!」
 ガバッと身を起こしたものの、急に動きすぎたのか、目(め)眩(まい)がしたためベッドに逆戻りをする。
 視界に入る自分の水色の髪。
 水色の髪とか、アニメとかゲームの世界じゃん。
 ……ん? アニメ? ゲームってなんだっけ?
 しばらくうんうん唸(うな)りながら頭を整理した結果。
 俺はフォンデルク辺境伯爵家の三男リューイ・フォンデルクなのだが、“前世でやったゲームの世界”にいるようだった。
 これが所謂(いわゆる)前世の記憶であり、転生か? と思いつつも、前世の自分自身の記憶はほぼなく性別も年齢も死因すら分からない。
 とりあえず今分かるのは、この世界がその前世で特に好きだったゲームとほぼ同じであること、ゲームではシルバリウスという銀髪剣士キャラが好きで、彼を生かすために何度もゲームを繰り返していたことで、ゲームに関する記憶が中心だ……。
 因(ちな)みに俺はゲームに全く出てこないモブです。
 あ、チラッと領地名だけは出るけどね。
 ゲームのストーリーはこうだ。
 舞台は、俺のいるフォゼッタ王国……ではなく、隣の国のローワン王国。
 最近、近隣諸国でも魔物の増加が確認されつつある中、ローワン王国の隣国フォゼッタ王国のフォンデルク領で所謂スタンピードが発生。
 ――ここが今、俺がいる領地。
 最近の魔物増加と遂(つい)に発生してしまったスタンピードで、焦ったローワン王国は勇者召喚を行う。
 ――その召喚された勇者がプレイヤー。
 世界観的には“チュウセイヨーロッパ”のような見た目だけど、“ニホン”のように四季があり、時間も暦(こよみ)の進み方も同じで“カガク”の代わりに魔法が発展していて、そんなに不自由はない世界という設定らしい。
 ――今を生きている俺には“ニホン”も “カガク”も、“チュウセイヨーロッパ”がどんなところかも分からないけど。
 勇者は約三ヶ月のチュートリアルを兼ねた修行期間を過ごした後、約一年をかけて調査という名の各種クエストを受け、仲間やアイテムを集めつつ国内を回りレベルアップをはかり、ローワン王国過去最大のスタンピードである最終決戦で魔物の王を討つという、よくあるようなゲームである。
 そして、勇者パーティメンバーは最少二名から最大九名まで編成できるが、旅の初めからいるのが件(くだん)の剣士シルバリウスである。
 そんな初めからいるキャラクターなのに必ず最後は死んでしまう運命でもあるシルバリウス。
 前世の俺? はシルバリウスを生かすために何度もゲームを繰り返したようだが一度も救えたことはない。
 因みになんで必死になって救おうとしたのかと言うと、銀髪キャラがめちゃくちゃ好きだったという理由以外にも、シルバリウスの冤罪が晴れるのは本人が死んだ後というのがどうしても許せなかったからだ。
 シルバリウスの最盛期は剣の腕が国の最高峰であり、騎士団のエースや、次期騎士団長候補とも言われていたのが、冤罪で奴隷落ち。その後も、剣の腕を活かさないのは勿(もっ)体(たい)ないと、幽閉されていたところから、前線へ、前線から勇者パーティに強制参加させられていたのだ。勿論(もちろん)奴隷のため拒否権等はなく、酷(ひど)い扱いを受けていたことを仲間に吐露する過去の回想シーンがある。
 スタンピードを収めた後、つまりゲームクリア後のエンディングで、シルバリウスが冤罪だったということが国王の前で明らかになり、ハッピーエンドな雰囲気を醸(かも)し出していたが、当の本人は冤罪が晴れたのかも分からず、何も報われずに死んでいくのだ。
 ――許せん! という理由でどうにかできないのかと必死にシルバリウスの死の回避を模索していたらしい。
 そんな当時の感情も思い出した今、俺の最後にやりたいことが決まった。
 そこへ部屋の外からノック音と入室を求める声がしたので、許可を出す。
 ベッドサイドにやってきたのは、この別宅をまとめる執事兼リューイの侍従兼護衛のスチュアートである。兼務が多いのは万能であることは勿論、見捨てられたような今の俺に付いてくれる使用人自体が少ないこともある。
 このスチュアート、元々母の侍従だったようだが、母が亡くなって以降は、辺境伯爵家に仕え、今は一人家族の元を離れたリューイの専属になった。
 もう五十歳になっただろうか、元は黒だった髪に白髪が大分交じりグレーっぽく見えるが、その所作はまだ若々しい。
「ぼっちゃま、お誕生日おめでとうございます。お加減はいかがですか?」
「昨日魔力を貰(もら)ったからかな。比較的元気だよ」
「それは良かったです。本日はぼっちゃまの十五歳のお誕生日ですので、ご家族の皆様から色々とプレゼントが来ていますよ。後で見に行きましょう」
 そう言いながら着替えを手伝ってくれる。
 家族からの誕生日プレゼント……会いにすら来ないのに本当に祝ってくれているのかな? と邪推してしまうが、今はそれより大事なことがあるのだ!
「そうそう、スチュアートお願い聞いてくれる?」
「なんでしょう?」
「ローワン王国に銀髪で水色の目を持つ、シルバリウスって名前の騎士が牢獄(ろうごく)か、前線に奴隷としているらしいからどこにいるのか調査して欲しい」
 スチュアートは少し考えるようにしてからすぐに言葉を紡ぐ。
「……調査をしてどうするのでしょうか?」
「ちょっと考える」
「かしこまりました。まずは朝食を食べましょう」
 そう、やりたいこととはシルバリウスを助けることだ。



 ゲームの記憶を思い出してからも、リューイのやることは変わらない。
 朝起きて着替えてから本を読んだり、庭を散歩したり、食事をして、一日を終える。
 ……内容薄いねぇ。
 ここは辺境伯領の中でも、最南端で“漆黒の森”に面したど田舎だ。
 因みに、勇者召喚を行う隣国“ローワン王国”が勇者を召喚するきっかけとなった辺境伯領のスタンピードはこの地で起きる。
 ゲームの時はフォンデルク辺境伯領全体のことかと思っていたが、今思えばきっかけである“始まりのスタンピード”はこの最南端の地だけであるため、今から一年ちょっと後までにこのルミナス村含む近隣の村の住民を避難させれば被害は免れるだろう。
 なぜなら、この“始まりのスタンピード”の魔物数は五千体だと言われていた。
 辺境伯領の首都には常時三万の兵がいる。
 曲がりなりにも隣国に接している辺境伯領の兵数はいざという時のために人数は揃(そろ)えているのだ。
 遅れを取ったとして、五千体ならすぐに片付くだろう。
 それに、ゲームでもスタンピードの発生で辺境伯領が壊滅したなどの具体的な話は出ていなかった。
 そして、ゲームをプレイしていた時には気が付かなかった、この国フォゼッタ王国に生きているからこそ分かる国の事情。
 ゲームの舞台であったローワン王国はこのフォンデルク辺境伯領の一・二倍ほどしかない。
 ……フォンデルク辺境伯領はあくまでフォゼッタ王国の一地方である。
 フォゼッタ王国の全領地はローワン王国の約三倍。
 ……そもそも国の規模や国力が違うのだ。
 そんなわけで、この地で起こるスタンピードについてはあまり心配していない。
 何より、俺がスタンピードの時までここにいるとは思えないから……。
 兄二人は、現在王都の学校に通っていたはず……いや卒業したかも? 父は辺境伯領の首都の屋敷と王都を行き来しているため、同じ辺境伯領でもこの田舎の屋敷には僅かな使用人と俺しかいない。
 そんな少人数の田舎の屋敷になぜ家族と離れて一人で学校も行かずにここにいるかというと、病気療養のためだ。
 俺の病気は“魔力枯渇症”の中でも九割は治ると言われている“魔力穴型”だ。しかし、一割は発症から大体一年で死ぬと言われている。
 そして、俺はその一割に入ってしまったタイプだ。
 魔力は食事をとったり、寝たりすることで回復するが、魔力枯渇症の魔力穴型は体の魔力を維持する箇所に不具合が起き、穴ができ、その穴から体内に溜まった魔力が抜けてしまうというものだ。
 この世界の住人は多かれ少なかれ必ず魔力を持っている。魔力には属性があり、誰でも持っているのが無属性だ。体を綺麗にする浄化魔法等の生活に必要な魔法がこれにあたる。
 そして、国民の三分の一が持っているのが“四大元素属性”である「風」「土」「水」「火」のどれかだ。
 魔力属性については、複数持つ者もいるが大抵一つか二つである。
 そして、一際レアなのが今まで出てきていないような「光」「闇」「雷」「氷」等の特殊属性だ。
 なぜ突然属性の話をしたかというと、魔力穴を塞ぐには、その対象者と同じ属性の魔力でないとできないのだ。
 さらに、穴より大きな魔力を持つ人間が一人で行わなくてはいけない。
 大抵は、塞ぐことができるのだが、リューイの属性は「光」と「氷」、どちらもレア属性な上に、魔力総量が多く魔力穴も人より大きいため、条件に該当する魔力を持つ者を探したものの見つからず、完全な治療ができていないのだ。
 十二歳で発症してから、一年以上経(た)った今まで生きていられるのは、実家が辺境伯爵家という身分でふんだんにお金をかけ世話をしてもらっているのと、スチュアートが「光」属性を持っているからだ。
 スチュアートの「光」属性はリューイの穴を塞ぐほどの量ではないが、足りなくなった魔力を補うことはでき、延命にはなっているのである。
 この屋敷には現在原始的と言って良いほど、最低限の魔道具しか置いておらず、魔道具の代わりになるいわば魔力を使わない骨董(こっとう)品などを使って過ごす屋敷になっている。
 なぜかというと、最近の魔道具は使う側が意識しなくても必要分だけ魔力を自動で抜き取ってしまうものが大半だからだ。
 また、魔力を発するものが近くにあると、自然と遠ざけようとして無意識レベルで体内の魔力を動かしてしまうらしい。
 それが魔力枯渇症の人にとっては命取りになるため、この屋敷では徹底的に排除されている。それは魔力を持った人間も含む話である。
 一般的に、魔力の総量は成人の十六歳までは増え続けるという。
 俺も未だに魔力総量が増え続けているが、その分穴も大きくなってきており、段々とベッドから起きられない日が増えている。
 そんな状態だから、俺は生きることについてはとっくに諦めている。
 発症から大体一年が平均余命な中、未だに生きている方が奇跡なのだ。
 それに勉強もせず、好きなことができるとはいえ、友達はおらず、家族からも何も期待されず求められない生活は案外つまらない。
 そんな中で思い出した前世のゲームの記憶。
 だからこそ、これは最後に“シルバリウスを助けよ”という天命だと思った。
 そして、俺はそんな未来がない生活に対して悲愴感に暮れているかと思えば……。
 目を瞑ればハッキリと思い出せる二次元のシルバリウス。
 ――やべー。早く会いたい。


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