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幼なじみの騎士様は可愛い新妻にぞっこんです!

佐倉紫 / 著
小路龍流 / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2019/10/25

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内容紹介

イクときの顔が、最高に可愛い
「おれにたっぷり愛される覚悟をしろよ」幼なじみのゴトランド侯爵家次男リカルドから突然求愛され、結婚することになったプリシラ。完璧な兄に夢中だったプリシラは、舞踏会でリカルドが令嬢方に超人気だとはじめて知る。湧き上がる嫉妬心に、自分の本当の気持ちに気付いて!?「将来的におれを一番好きになってくれればいい」と優しく囁くリカルドの濃甘な言葉に、素直になれない心と体が蕩かされていく。花芯を吸われる快感に酔わされ、奥に熱をたっぷり注がれる。あの手この手で教え込まれる淫らな愛撫は、夫婦の絆を深め、もっともっと愛されて。激甘新婚ラブ!

立ち読み

 爽やかな五月の風が、湖面にかすかな波を立てて、森の向こうへ消えていく。
 その日、王城のすぐそばに広がる緑濃い森に囲まれた、大きな湖のそばで、二組の家族がのんびりとピクニックを楽しんでいた。
「ラウルお兄様ぁー! 見て見て、さっき水の中でなにかがキラッと光ったのよ!」
 大人たちがシートを広げ、お茶の支度を調(ととの)えている中、一足先に湖へ駆け寄った小さな女の子が、水辺に膝を突いて満面の笑みを浮かべる。
 キラキラとした金髪がまぶしい、愛くるしい少女だ。青い瞳は湖面より澄み切っており、子供らしい無邪気な笑顔と相まって、見る者の心まで蕩(とろ)けさせる。
 そんな少女と同じ色の髪と瞳を持つ少年が、ゆっくりと水辺に近寄ってきた。
「たぶん魚の鱗が光ったんだろう。それよりプリシラ、もう少し下がりなさい。湖に落ちたら大変だよ」
「平気よ、お兄様。それよりもっと近くにきて。ほら! また光ったわ」
 プリシラと呼ばれた少女はさらに身を乗り出そうとする。彼女に兄と呼ばれた少年ラウルは少し駆け足になり、妹を引き戻そうとするが、その脇をすぐさま走り抜ける人影があった。
 ラウルより少し小さなその人影は、彼女の腰をむんずと掴んで、湖から引き剥がすべく、ずるずる引きずっていく。
「だから、下がれって言ってるだろ! 湖に顔から突っ込む気か?」
「そんなことしないわよ! レディをそんなふうに引きずらないでちょうだい!」
「おまえが重いんだから仕方ないだろうが」
「ひっどーい!」
 プリシラを湖から離した少年は、そのまま座り込んでぜいぜいと肩で息をした。
「リカルドの言うとおりだよ、プリシラ。むやみに湖に近寄っちゃ駄目だ。おまえが湖に落ちたら、僕もお父様もお母様もびっくりしてしまうからね」
 むくれるプリシラに対し、二人に追いついたラウルがゆっくり諭(さと)す。秀麗な面持ちをした兄にたしなめられると、まだ幼いプリシラはしゅんとうなだれた。
「はぁい、お兄様。ごめんなさい」
「なんでラウルが相手だとしおらしいんだよ……」
 殊勝になったプリシラを見やり、リカルドと呼ばれた少年は肩を落とす。がっくりとうなだれる彼に向かい、プリシラは胸を張って答えた。
「お兄様の言うことはもちろん聞くわ。だって、わたしは大きくなったらお兄様のお嫁さんになるんだもの!」
「まぁた言ってるよ……。いいか、兄妹で結婚はできないんだぞ、プリシラ」
「できるもん! お兄様だって『プリシラが大人になるのを楽しみにしてる』って言ってくれたし」
 足をどんどん踏みならしながら主張するプリシラを目にし、リカルド少年はげんなりした顔をラウルに目を向ける。
「おまえ、七歳の妹を相手になにを言っているんだよ」
「いいじゃないか、可愛いんだから。結婚したいと思ってくれるほど、プリシラは僕を慕(した)ってくれているんだよ? その夢を壊すようなことは、とても僕からは言えないよ」
「言えよ、兄だろうがっ」
「んもおおお、リカルドは黙ってて! これはわたしとお兄様の問題なのよ」
「いっぱしの大人みたいな口を利くな! ったく、おれはおまえたち兄妹の将来が本気で心配だ……っ」
「ひとより自分の心配をしなよ、リカルド。プリシラを少し抱っこしたくらいで息が切れてしまうようじゃ、これから先が思いやられるぞ」
「うるさいっ」
「お兄様に向かって『うるさい』って言わないで! いくらお兄様の親友でも、そんなことを言うなら、リカルドのこと嫌いになっちゃうからねっ」
 目を吊り上げて怒るプリシラに対し、リカルドもまた顔を赤くして眉を上げたのち……べ〜っ! と舌を出した。
「別に、おまえみたいなブラコンに好かれたくないし!」
「ブラコンっ……て、なに? なんのこと? ブランコのこと?」
 ブランコは大好きよ、ときょとんとしながら答えるプリシラに、ラウルとリカルドは一度顔を見合わせ……ぷっ、と小さく噴き出した。
 ケラケラ笑う少年二人にプリシラはさらに目を丸くするが、お茶の支度を終えた大人たちに呼ばれて、ぱっと顔を上げる。
「ラウル、リカルド、プリシラを連れていらっしゃい。お茶にしましょう」
「お母様、今日はスコーンはあるの?」
「あるわよ。あなたの大好きなハムを挟んだサンドウィッチもね」
「やった! ラウルお兄様、リカルド、行きましょ!」
 さっきまでのやりとりをすっかり忘れた様子で、天(てん)真(しん)爛(らん)漫(まん)な少女はエプロンドレスを翻(ひるがえ)し、大人たちのいるほうへ駆けていく。
 子鹿のように飛び跳ねる少女をやれやれと見送った少年たちも、ゆっくり歩き出した。
「とにかく、プリシラには兄妹じゃ結婚できないって、あとでちゃんと教えておけよ、ラウル」
「今無理に教えなくても、大きくなれば自然と理解できるさ。プリシラは素直なだけで、決して馬鹿な子じゃない。君だって知っているだろう、リカルド?」
「まぁな……」
 小さく呟(つぶや)いたリカルドのダークブラウンの髪を、五月の風がくすぐっていく。その横顔を見やったラウルは、自然と微笑んだ。
 どこまでも続く森も、風に波打つ湖も、抜けるような澄んだ空も、なにもかもが輝いている。
 子供時代の一日は、いつまでも続くのではないかと思えるほど、平和で美しい光景だった。
?


第一章 失恋と求婚


 リンゴーン、リンゴーン——と祝福の鐘が鳴り響く。
 それに合わせて、大聖堂の扉がゆっくり左右に開かれた。
 扉の向こうには真っ白な礼服と、ウエディングドレスに身を包んだ新郎新婦がたたずんでいる。腕を組んでいた二人は、扉が全開になるとゆっくりと外へと歩き出た。
 事前に集められていた白鳩が、二人が出てきたタイミングで、一斉に籠から放たれる。
 柔らかな雲が彩る春の空に、パタパタパタ、と軽快な羽音を残して飛び去っていく白鳩に、招待客が笑顔を向けた。
「ラウル、そしてオリーブ、結婚おめでとう!」
 そんな声がどこからかかかって、招待客たちが一斉に「おめでとう!」と祝福の言葉をかける。
 新郎新婦の親も、親戚も、招待客も、みんな笑顔だ。もちろん、結婚の誓いを立てたばかりの新郎新婦も。
 ウェディングドレスの裾(すそ)を引く花嫁のほうは少し緊張気味の笑顔だったが、そこがまた初々しくていいと、集まった人々はうんうん頷いていた。
 なんとも華やかな祝いの光景だ。主役である二人も、集まった大勢の人々も、この世にこれほど素晴らしい日があるだろうかと言わんばかりに、輝かしい笑顔を浮かべている。

 ——そう、新郎であるラウルの妹で、シュテイン伯爵家の娘である、プリシラ以外は。

(とうとうこの日がきてしまった……)
 愛想よく周囲に手を振る兄ラウルを見つめながら、プリシラの心は悲しみ一色に染まっていた。
 晴れの日にふさわしいピンクのドレスと、小さな帽子から落ちるヴェールのおかげで顔は隠せているが、醸し出される暗い雰囲気までは隠せない。おかげで彼女は親族が並ぶ列の中でも一番うしろに追いやられていた。
 本当はこの場所にきたくもなかったのだが、最愛の兄の礼服姿を見たいという誘惑にはあらがえなかった。
 ——思った通り、ラウルの礼服姿は完璧の一言だった。
 真っ白な上下に銀色のベスト、白のタイに瞳の色と同じブルーダイヤのタイピンをつけている。胸元に飾られている白薔薇も、兄の美貌を引き立てるのに一役買っていた。
 さらっとした金髪に柔らかく垂れた目元、柔らかそうな唇をほころばせてにっこり笑いかけられれば、誰もが恋をせずにいられない——そんな甘いマスクの兄ラウルは、宗教画に描かれる大天使もかくやという美青年だ。
 当然、社交の場に出れば誰も彼もメロメロになって、ラウルとお近づきになろうと近寄ってくる。愛想もいいラウルは若い令嬢だけでなく、刺激を求める人妻や暇を持て余す老婦人にも大人気だ。
 現在は王宮に伺(し)候(こう)し、文官として働いているため、同性の知り合いも大勢いる。女性に人気であることを鼻にかけず、上を敬い下をいたわる姿勢を貫いて過ごしているため、王宮での評判も上々だ。
 今は父親であるヒューゴがシュテイン伯爵として領地を治めているが、結婚して妻帯者となり、後継ぎである男の子が産まれれば、爵位と領地を譲られることになるだろう。もちろん父が興した鉄道事業や株式も、いずれ彼が受け継ぐことになる。
 そんな完璧かつ、将来有望すぎる兄なのだ。当然、その花嫁の座を狙う令嬢は引きも切らない。
 ——だが、ラウルの実妹であるプリシラは、下心満載で寄ってくる令嬢たちを、昔からことごとく追い払っていた。
『ラウルお兄様はわたしと結婚するの! お兄様の花嫁に一番ふさわしいのは、このわたしなんだから!』
 と、胸を張って宣言して。
 幼い頃は周囲も微笑ましく頷いてくれていた。兄がこれだけできのいい人間なら、その妹が『将来はお兄様のお嫁さんになるの』と憧れても無理はない。むしろ子供らしく可愛らしい願いだと、誰もが納得してくれた。
 なのに、十歳を過ぎ、身体が丸みを帯びて、コルセットを身につけることが当たり前になる頃には、そう主張しても誰も取り合ってくれなくなった。
 むしろあからさまに眉を寄せ『まだそんな子供じみたことを言っているのか』とあきれられる始末だ。中には『こんな我(わ)が儘(まま)な妹にまとわりつかれて気の毒だな』と兄に同情する声まであった。
 しかし、プリシラは本気だった。本気でラウルの花嫁になるのだと意気込んでいた。
 実際に結婚することはできなくても、お嫁さんのポジションに居座り、伯爵家の奥向きや社交などを引き受け、兄を助けて末永く一緒に生きていこうと考えていたのだ。
 社交界デビューしてからも、その考えは変わらなかった。むしろ兄に言い寄る女性たちを見るにつけ、こんなケバケバしいひとたちにわたしのお兄様は譲れないわ! と、いっそう決意を固くするほどだった。
 家でだけならまだしも、娘が外でも兄にべったりなので、さすがの両親もあきれたらしい。
兄妹仲がいいのはいいことだ、と言っていたのに、いざプリシラがラウルとばかりお喋りしたり踊ったりしているのを見ると、あっさり考えを翻した。
『いい加減ラウルにまとわりつくのはやめなさい! おまえももう社交界デビューを果たした立派な淑女なのだ。ラウルから離れて、自分の結婚相手を見つけなければ……』
『わたしが結婚したい相手はお兄様しかいません! それにどの殿方もお兄様と比べたら月とすっぽんだわ。お兄様より劣る方に嫁(とつ)ぐなんて絶対にあり得ません!』
 ——悲しいかな、毎日毎日兄の顔ばかり見ていると、どうしても美の基準は兄になる。
 そしてラウルは、社交界一の美男子としてもその名を馳(は)せていた。
 ラウルと比べれば誰も彼もかすんでしまうというのも、あながち誇張ではなく、両親はひどく頭を悩ませることとなったのだった。
 ——そして両親と妹が争っている中、当のラウルと言えば実にのんびりしたものだった。
『まぁ、いいじゃないですか。僕もまだ結婚する気はないですし。乗り気ではないお誘いがきたとき、プリシラがそばにいてくれると断る口実になるから、助かる面も多いんです』
『ラウル、しかしだな……』
『それにプリシラは可愛いから、一人にするとあっという間にオオカミの群れに囲まれてしまいますよ。それはそれで父上も困るでしょう?』
 父ヒューゴはうむむと唸る。一方のプリシラは兄から『可愛い』と言われ有頂天だ。
『さすがお兄様! お互いがそばにいれば、煩(わずら)わしいことから解放されますわね!』
『僕も可愛い妹を自慢できるからちょうどいいよ』
 ニッコリ微笑むラウルはまさに大天使だ。プリシラはうっとりと見惚(みほ)れてしまった。
 ——そんな状態だったから、まさかラウルがプリシラ以外の女性と結婚したいと父に申し出るなんて、思いもしなかった。
 おまけに相手は、それまで兄と交流があったことをプリシラでさえ知らなかったという令嬢だ。どういう人となりかもわからない相手と結婚するなんて許せない!
 ——と、プリシラが息巻いたところで、両親が賛成すれば阻止できるはずもなく。
 ラウルは今日、無事に愛する花嫁と結婚式を迎えることとなったのだ。


 兄とその花嫁がヴァージンロードを歩き、多くの祝福を浴びて無事成婚となったあと。
 一行は馬車にてシュテイン伯爵家へと移動し、そのまま祝宴へ参加した。
 伯爵家自慢の広間を開放しての祝宴では、結婚式以上に多くの客人が参加した。楽団が陽気な音楽を奏でる中、多くの給仕が行き来して、飲み物や料理を提供している。人々は思い思いに談笑したり踊ったり、節度を保ちつつも、華やかな催しを楽しんでいた。
 ——こうなれば、親族の一人や二人抜けたところで、誰も気づきやしない。
 朝からずっとこの世の終わりという顔でいたプリシラは、兄夫婦が挨拶で忙しそうな様子と、すっかりできあがった父が赤ら顔で笑い声を立てているのを確かめてから、こっそり広間を抜け出した。
 自室に戻ろうかとも思ったが、これだけ客人が入っているパーティーだ。部屋付きのメイドもきっと手伝いに駆り出されている。祝いのためのドレスなど、一刻も早く脱ぎたいけれど、そのためにメイドを呼び戻すのは我が儘だ。
 プリシラは庭へ足を向けた。
 よく手入れされた庭にはランタンが置かれ、幻想的な雰囲気を醸し出している。もう少しすれば、酔い覚ましに外に出てくるひとも多くなるだろう。そういったひとに見つからないよう、プリシラは奥にある東(あずま)屋(や)へ歩いて行った。
 東屋のほうはランタンが置かれていなかったが、月明かりがまぶしいため、足下が見えないということはない。
 ありがたかったけど、一方で恨めしい。月明かりがまぶしいということは、涙ですっかり汚れたこの顔も、はっきりさらされているということだから。
「う、うぅ……おにいさまぁぁ……」
 ずっと顔を隠していたヴェールを剥ぎ取り、東屋のベンチに座ったプリシラはそのまま突っ伏した。


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