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君にひと目で恋をして1 Sweet words of love

井上美珠 / 著
八千代ハル / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-242-5
サイズ 文庫本
本体価格 本体685円+税
発売日 2019/10/15
レーベル チュールキス

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内容紹介

絶対ヒミツ、イケメン機長彼氏との甘い職場恋愛! 文庫だけの書き下ろし番外編も収録。
グアム一人旅で寿々が出会ったフキと呼ばれる男性。彼に観光案内されるが別れ際、寿々は彼に情熱的なキスをされてしまう。ところがその後日本でフキと再会! 彼は寿々が勤める航空会社の最年少機長だった。「お前が好きだ。抱きたくて、どうにかなりそうだ」寿々は猛アタックを受けて……!?

人物紹介

石井寿々(いしい すず)

大手航空会社JSAのグランドスタッフ。27歳。毎年誕生日に海外へ一人旅に出かけている。入社一年目で付き合っていた彼氏と別れてから、恋愛には無縁。

森 石蕗(もり つわぶき)

大手航空会社JSAの最年少機長。35歳。JSAの航空エンジニアだった父の影響で、幼少期からアメリカ、グアム、と海外で過ごしていた。父の命日に、偶然グアムで寿々と出会う。

立ち読み

 石蕗とクリスマスを過ごす当日、十二月二十五日。
 出勤し、搭乗カウンターの仕事に入った寿々は、早く帰るということを念頭に置いて気を引き締めた。
 帰ったらシャワーを浴び、お化粧を直して、髪の毛をセットして、と段取りを決めていた。
 彼へのプレゼントは結局赤ワインにした。ワイン専門店へ行き、高すぎず無難な値段で美味しいと勧められた物を購入。
 ワインは産地がたくさんあり、どこを選んでいいか全くわからなかったので、無難なフランス産を選んだ。気に入ってくれるといいけど、と心配は残るが、そんなことを考えていたらきりがない。
『残業せず、まっすぐ帰れ』
 彼の言葉を思い出し、二度ほど頷くと、同僚がどうしたのと言わんばかりの目で見ていた。少し離れている木下もまた寿々をじっと見ている。
 今日のことをいろいろ考えすぎて、シミュレーションしすぎていることに気づく。変に思われる前に仕事に集中、と思うけれど、実際には無理だった。
 彼とまた結局、一週間近く会っていない。十二月半ばを過ぎた頃に、森英麻のコンサートに誘われて以来だ。
 石蕗と過ごすオシャレなデートと宿泊に、ドキドキと期待で顔がにやけそうになるのを止められない。
「石井先輩、顔が緩んでます」
 いつの間にか木下がすぐ隣まで来ていて、寿々はハッとして気を引き締めた顔をする。
「そうかな?」
「そうですよ! いいなぁ、彼氏とラブラブクリスマス! 私は友達とクリスマスライブに行くことになりました。来年こそは彼氏とラブラブクリスマスしたいです」
 そう言って唇を軽く尖らせ、すぐに表情を直す。仕事中だから、という気持ちが表情を直させるのだろう。最初の頃より成長したな、と後輩を微笑ましく思う。
 木下の言うことは若いだけあって、なんとなく可愛らしい。寿々は今までラブラブなんて言葉を使ったことがなかった。
 確かに石蕗とはすれ違いが多いけど、ある意味ラブラブなのかもしれない。
「クリスマスライブなんだ? それも楽しそうね」
「彼氏とだったら、もっと楽しかったでしょうけど。石井先輩は、彼氏とどこに行くんですか?」
 聞かれてこれは言っていいのだろうかと考えた。
 石蕗との関係はまだまだ秘密のこと。デートする場所を言って、彼と一緒のところを見られたらいけない。
「それは、内緒」
「えー……教えてくれたっていいのに……彼氏見てみたいです」
 やっぱりそうかと思いながら、寿々は首を振る。
「そのうちにね。写真見せてフツーとか言われたら嫌だし」
「そんなこと言いませんよ」
「どうかなぁ……木下さんの審美眼、厳しそうだから」
 にこりと笑って寿々が言うと、木下は肩をすくめた。
「確かに、好みは森機長だから、そうかもしれません」
 その森機長が彼氏なのだから、木下には絶対に言えない。いつか言うときが来るかもしれないけど、今はその時期ではないのだ。
「それより、お互い仕事に集中。私も木下さんも約束があるから、早く帰りたいもんね?」
「です!」
「じゃあ、頑張ろう」
「はい!」
 互いに微笑み合い、寿々は搭乗時間を確認しながら案内札を用意する。アナウンスの言葉を反芻しながら仕事に集中するのだった。

     ☆ ☆ ☆

 残業せずまっすぐ帰れと言われていたのに、残業をしてしまった。
 一時間弱だが、これからの用意のことを思うと、間に合うかどうか。いや、絶対に間に合わせなければ、と寿々は急いで自分のアパートに帰った。
 シニヨンを解いて、シャワーを浴びる。本来なら念入りに洗いたいけど、そんな時間はない。シャワーをしたあとは髪を乾かし、ヘアアイロンを使って緩く巻き髪を作りセットする。
 メイクはJSA規定のメイクではなく、ナチュラルにピンクベージュ系。服は考えに考え、無難な黒のプリーツワンピース。
 コートを準備し、ショルダーのミニバッグとお泊まり用の下着などを入れたコットンバッグを手にしたところで、インターホンが鳴った。
 ギリギリで準備できたことに安堵し、寿々はバッグを持って玄関に移動する。ワンピースと同色のパンプスを履いた。
 そこでアクセサリーを身に着けていないことに気づき、慌ててパンプスを脱いで部屋に戻り、昨日から用意していたものを手に取る。
 玄関のドアを開け、寿々は目の前に立っていた背の高い素敵な彼に微笑んだ。
「お待たせ! ごめんね、フキさん。すぐに出なくて」
 彼は寿々の格好を軽くザッと見て、それから口を開く。
「……なんで黒? ピンクかと思った」
「え?」
「ドレスだよ。似合わないことはないが、意外だった」
 ちなみになんで私がピンクだと思ったの? と思った。そんなに自分はピンクを着ているかな、と軽く眉を寄せる。
「ああ、いい。それより花屋に寄るから、ちょっと急いでいいか?」
 花屋と聞いて、彼は母親に花を贈るのだろうとすぐにわかった。
「うん、ちょっと待って、きちんと靴履くから」
 靴を履いて荷物を持とうとすると、石蕗が持ってくれた。寿々は男の人に荷物を持ってもらったことがない。いいのかな、と思いつつ嬉しかった。
 いつもスマートな彼にドキドキする。
 言葉遣いは淡々と不器用な話し方だけど、実際はそうではなく、きちんと伝えるべきことに要点を置いているだけ。
 声も素敵で、後ろ姿も格好よかった。
 車に乗り込むと、改めて今日の彼の服装をじっと見る。
 グレーのジャケットにグレーのパンツ。シャツはネイビーでシックな感じを出しながらも、カジュアルだった。背が高くスタイルも良いから似合う。寿々はしばし見惚れてその姿を堪能してしまった。
「……そういえば、私が黒のドレスとは思わなかったの? いけなかった?」
 似合わないことはないと言われたが、なんだか妙に引っかかってしまう。
 そこでアクセサリーを着けていないことに気づいた。
 シンプルなゴールドイヤリングとゴールドの一粒ダイヤのネックレス。
 あまりゴテゴテ着けて変になるよりも、シンプルなスタイルを選んだ結果だ。
「大人っぽくていいと思う」
 素っ気なく一言そう言われ、カクッとなりそうだった。
 夜のコンサートだし、黒でいいと思ったのに。華やかにすべきだっただろうかと、考えてしまう。
「いつもと違う感じだから、ちょっと驚いただけ。はっきりした色も似合うんだな、寿々」
 信号で止まった彼は、寿々を見て微笑んだ。
「そんなに、ボヤッとした色、着てる?」
「そうだな……そうかも。いつもの色も似合ってないわけじゃないけど、黒はないだろう? だから、黒も似合うんだなって、思っただけだ」
 石蕗は寿々の顎を持ち、自分の方へ向けた。それから頷いて、親指で顎のあたりをスッと撫でる。
「いつものメイクよりいいな、寿々。可愛い」
 にこりと微笑み、寿々の髪にスッと触れた。
「髪も柔らかいウェーブで似合ってる」
 寿々はとても褒められているみたいだ。可愛い、似合ってる、と笑顔で言われるなんて、今までなかったこと。石蕗はなんでも寿々に初めてをくれる。
 そんなに言われたら、本当に自分は可愛いと、自信過剰になってしまいそう。
「ありがと」
「My pleasure」
 その英語何だっけ、と首を傾げる。彼は発音がネイティブなので、ときには寿々の中の教科書とは一致しないことがある。
「さっきの、なんていう意味?」
「どういたしまして、ってことだ」
 でも、英単語的に「悦び」とかそういう意味なのに、どういたしまして、になるなんて知らない。
 あとで検索してみようと思いながら、彼の運転に身をゆだねるのだった。
 すごく、幸せな気分だった。

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