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偽りの新婚生活を始めたらトロ甘に溺愛されました

すずね凜 / 著
SHABON / イラスト
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2019/05/31

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内容紹介

蜜を噴き零す、素直で可愛い身体だ
「明日私と結婚式を挙げてほしい」王の寝室係として仕事に励むベルにそれは突然言い渡された。現国王ディミトリアスの花嫁が行方不明となり、急遽容姿が瓜二つのベルが身代わりとなることに。秘かに憧れていた国王と国のために務めるが、王の傍にいることで、胸の高鳴りを止められない。更に式から一週間は『初夜の儀式』があると知らされて!? 「君は、健気で可愛いな」甘い囁きに、身代わりの花嫁のはずなのに、濃密な愛撫に蕩かされ、忘れられなくなりそうで……。独身主義国王×健気侍女の溺愛婚

立ち読み

 序章


 その佳(よ)き日は、朝から雲ひとつない青空であった。
 大陸一の隆盛を誇るアリタリア王国の首都、メローナの中心に位置する大聖堂の周りは、早朝から民たちがぎっしりと取り囲んでいる。
 彼らは、今や遅しと式典が始まるのを待ち焦がれていた。
 長いこと独身を貫いてきたアリタリア現国王ディミトリアスが、遂に婚姻することになったのだ。
 お相手は、近隣のケルトン王国の第一王女フロレンティーナである。
 ケルトンは小国だが、五百年の長きにわたって続く由緒正しいロナルド王家の支配のもと、安定した国力を保っている。
 フロレンティーナ王女は芳(ほう)紀(き)まさに十八歳。輝く金髪と澄んだ青い瞳を持つ、たおやかで美しい女性であるという。
 ディミトリアス王の花嫁としては、遜色ないお相手と言えた。
 アリタリア国中がお祝いムードで盛り上がっていた。

「ベル――いや、フロレンティーナ姫、支度は整ったか?」
 艶めいた低い声とともに、ディミトリアスが大股で部屋に入ってくる足音がする。
 ディミトリアスは一九〇ほどの長身で、鍛え上げたガッチリした体(たい)躯(く)の持ち主だ。艶やかな黒髪を綺麗に撫で付け、知的な額、切れ長の黒曜石色の瞳、高い鼻(び)梁(りょう)、きりりとした口元。あまりに整い過ぎて、少し冷徹に見えるほど容姿端麗だ。手足がすらりと長く、軍服風の純白の礼装をきっちりと着こなしている。肩口を金モールで飾り付け、袈(け)裟(さ)懸(が)けにした青いリボンには勲章がいくつも下げられ、腰には房飾りの付いたサッシュが粋に巻かれている。スマートでかつ堂々として威厳がある。
 大きな化粧鏡の前に座っていた、純白のウェディングドレスに身を包んだ女性が、ゆっくりと振り返った。
 豊かな金髪、ぱっちりとした青い瞳、透き通るように色白で繊細な美貌の乙女だ。
 デコルテを深くした襟ぐりから、柔らかそうな乳房の谷間が覗き、豊かなそれとは対照的に袖なしの二の腕はほっそりと華(きゃ)奢(しゃ)だ。全体にまだ少女の青さを残した風情が、ひどく初々(ういうい)しくて美しさに華を添えている。
「はい……陛下。これでよろしいでしょうか?」
 乙女の声はかすかに震えている。
 ディミトリアスははっと息を呑み、一瞬言葉を失う。まじまじと乙女の姿に見入った。
「うむ――昨日よりも、もっともっと美しく仕上がった。文句なしだ」
 ディミトリアスの感服したような声に、乙女は色白の頬(ほお)に血を上らせ、顔を伏せた。
「さあ、皆が待っている。そろそろ出(しゅっ)立(たつ)だ」
 ディミトリアスの言葉に、衣装係の侍女の一人が、目の部分だけ半透明になった厚いレースのヴェールを乙女の頭から被せ、顔をすっぽりと覆った。
 ディミトリアスが歩み寄り、右腕を横に張る。静かに立ち上がった乙女は、左手をそっとそこに添えた。
「では、参る」
 ディミトリアスと乙女はゆっくりと歩き始める。
 先導の係の後から、二人は長い回廊を進んでいく。
 乙女のウェディングドレスの裳(も)裾(すそ)は後ろに何メートルも引くので、侍女達が数人がかりで捌(さば)いて付き従っている。
 ディミトリアスの腕に絡めた乙女の手が、小刻みに震える。
「大丈夫か? 怖がることはない、私にすべてまかせなさい」
 ディミトリアスが気遣うような顔で、乙女にだけ聞こえるような声でささやいた。
「はい……」
 乙女は消え入りそうな声で答えた。
 ディミトリアスが長身を屈め、さらに声を潜めて言う。
「ベル、ベル。ほんとうにすまない。だが、君にしかこの役は果たせないのだ」
 心底すまなそうなディミトリアスの声色に、ベルはヴェール越しに必死で作り笑いをする。
「いいえ、陛下。私が決めたことです。必ず自分の任務を遂(すい)行(こう)いたします」
 視線を合わせたディミトリアスが深くうなずく。
 ベルはその知性溢れる端整な顔を、うっとりと見つめる。
 ああ、やっぱり好き――陛下が。
 でもこの気持ちは、恐れ多すぎる。
 そう――自分はフロレンティーナ王女なんかじゃない。
 落ちぶれた男爵の娘、ベル・ハリソンだ。
 ほんとうは、国王陛下の寝室係としてお城で働いている身なのだ。
 その自分が、ゆくりなくも今、一国の王女の身代わりとして結婚式に臨もうとしているのだ。
 まだ夢の中にいるみたいだ。
 でも、一歩一歩、大聖堂に向かう四頭立ての純白の馬車に近づいていく。
 夢じゃない。
 夢ではないのだ。



 第一章 突然の身代わり婚!?


 毎朝五時前に、ベルは目覚める。
 王城の片隅にある、住み込みの使用人専用の棟の小さな一部屋。
 明かり取りの小さな窓がひとつあるきり、木のベッドと小さなテーブルと椅(い)子(す)を置いただけで、もう部屋はいっぱいだ。
 ベルは薄暗い部屋の中で、手探りで制服に着替え、髪を纏(まと)める。小さなコンロで湯を沸(わ)かして、お茶を一杯呑む。それから窓を開けて、大きく身を乗り出した。手には小さな温度計。
「今日のお天気は――」
 春近いが、外気は冷えている。まだ夜明け前の空気には、わずかに湿り気を感じた。
 天を仰ぐと、雲が重たく垂れ込めて星も見えない。
「お昼には雨になるかしら」
 ベルはひとりごちて、エプロンの紐(ひも)をきゅっと腰の後ろで結び、部屋を出た。
 地下にある王専用の洗濯場へ向かう。
 すでに大きな金(かな)盥(だらい)で、王の召し物を洗濯している侍女たちがいた。
「おはようございます。今日の陛下のシーツは、木綿(もめん)の生(き)成(な)りのものをお願いします。枕カバーも同じものを」
 侍女の一人に声をかけると、すぐに言ったものが差し出される。
「アイロンをお借りしますね」
 ベルは隣のアイロン室に入り、鉄製のアイロンに赤く燃えた炭(すみ)を入れた。指先でアイロンの温度を確かめつつ、大きなテーブルに木綿のシーツを広げ、その上から当て布を敷く。きりふきでぷっと霧を吹き、端から丁寧にアイロンを当てていく。
 陛下は皺の寄ったシーツはお嫌いなので、隅々までぱりっとしたシーツに仕上げていく。
力を込めてアイロンをかけていると、全身がぽっぽと熱くなって額から汗が滴りそうになり、慌てて頭にチーフを巻いた。
 このシーツの上に、陛下が横たわることを想像するだけで、ベルの胸は甘くときめいてしまう。
 ベルが王の寝室係になってから、二年が経(た)とうとしていた。

 ベル・ハリソンは、それなりに由緒正しい男爵家の生まれであった。
 だが、先先代からの浪費がたたりベルの両親の代には、わずかばかりの領地と古ぼけた屋敷があるのみで、零(れい)落(らく)していた。
 それでも、慎(つつ)ましい生活ながら両親の愛情と、可愛い弟妹たちに囲まれて、ベルは幸せな少女時代を送っていた。
 けれど三年前――両親は教会を訪ねる途中で馬車同士の衝突事故に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまったのだ。
 十五歳になったばかりのベルを始め、二つ年下の弟アーチー、七歳のアニー、五歳のマリア、二歳のソフィアと、子どもたちばかりが残された。
 親戚たちは、財産も無いハリソン家の子どもたちに冷たく、誰も手を差しのべようとはしなかった。家屋敷は負債のかたに銀行に取り上げられてしまう。
 なすすべもなく、弟妹たちはばらばらに孤児の施設に送られてしまった。
 ベルは一念発起して、当時募集が出ていた王城の勤めに臨(のぞ)んだ。給金がとてもよかったからだ。
 母親の家事をずっと手伝ってきたベルは、手先の器用さもあってアイロンがけが上手だった。その腕を見込まれ、洗濯係の侍女として王城に住み込みで勤めることになった。
 弟妹たちに仕送りをしつつ、こつこつ貯金をしていつか失った家屋敷を買い戻し、弟妹たちを呼び戻して、再び一緒に暮らせるようになるのが、ベルの唯一の望みだった。
 ベルは真面目に懸命に働いた。
 王のディミトリアスは、ベルがアイロンがけをしたシーツの肌触りをとても気に入られたということで、半年後には王の寝室係に任命され、給金は一気に倍額になった。
 ますます仕事に熱が入る。
 毎朝の天気と気温を調べ、その日の王の寝室をどう整えるかを考える。
 夏ならば、通気性のいい麻のシーツに替え、上掛けも軽いものにする。少し肌寒くなったら、ウールのシーツに替える。上掛けは羽布団の薄いもの。真冬は毛足の長いウールの毛布に厚い羽布団にした。その日の天気や温度に合わせ、上掛けの枚数も増減させる。
 寝具だけではない。
 枕元に読みさしの本が置いてあれば、その夜はベッドサイドのオイルランプの灯りを少し明るくしておく。水差しの水の減りが激しい時には、喉ごしのよいレモン水に替え、のど飴(あめ)も常備しておく。暖炉の火も常に調整して、寝室を一番快適な温度に保つように努める。ベッドの上に掛ける絵も、四季折々で、目を楽しませる絵画に取り替えた。真冬には、ベッドの足元に必ず湯たんぽを用意しておく。
 こんなにも仕事に打ち込むのはもちろん、弟妹に多額の仕送りができるということもあった。でも――。
 本当は、憧れのディミトリアスのお世話ができるというのが一番の理由だった。
 ベルは心密かに、ディミトリアスを慕っていたのだ。 
 しがない寝室係の身では、王に御目通りなど到底かなわない。その週の王の毎日の予定表をもらい、寝室に入る時間を調整して、ディミトリアスとは決して顔を合わさないように厳命されている。だからお姿やお顔は、肖像画で拝見するだけだった。
 だが――寝室係に命じられた、最初の初冬のことだ。
 その晩は急に冷えた。
 ベルは湯たんぽを大きめのものに取り替えようと、急いで王の寝室に向かった。この時間なら、ディミトリアスはまだ寝室にはやってこない。暖炉の火も、もう少し強くしておく方がいいかもしれない。乾燥を防ぐために濡れた布を部屋の隅に掛けておこう。
 合鍵を使って寝室の扉を開け、ベッドに向かおうとして、ベルははっと足を竦ませた。
 ベッドに誰かが腰を下ろしていたのだ。ガウン姿の長身の男性だ。寝室は枕元のオイルランプの灯りだけで、男は逆光で顔立ちがよく見えない。
「誰ですか?」
 とっさに声をかけると、その人物がゆっくりと振り向いた。
「あっ」
 ベルは思わず手にした湯たんぽを取り落としてしまった。
 そこには目も覚めるような美麗な男性が――まごうかたなき、王ディミトリアスその人であった。


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