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俺様王子のわかりにくい求愛(!?)に困っています

立花実咲 / 著
水綺鏡夜 / イラスト
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2019/04/26

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内容紹介

本当におまえは世界一可愛くて困る
「可愛い……俺の、俺だけの花嫁」
舞踏会で婚約者候補として隣国のアラン王子を紹介されたローザ王女。姉の元婚約者セルジュ王子への淡い憧れを封印したローザは、王位継承者として国のため政略結婚を受け入れることに。アランとは幼馴染みで気心も知れているけど、俺様なアランが苦手だったローザ。しかし、婚約者となるのを機に、アランの濃厚なアプローチが始まって!? 嫉妬が彼に火をつけ「おまえが、可愛くて……たまらない」と、獣のような淫靡な夜の出来事に、不器用な彼のほんとうの愛情を感じてしまい★ 俺様ツンデレ王子×箱入り王女の溺愛ラブ★

立ち読み

◇序章 俺様王子と政略結婚


 ひとりの少女が泣いていた。
 花の冠を頭に乗せたまま、お城には帰りたくない、お稽古はしたくない―――と、目を真っ赤にしている。
 せっかく愛らしいドレスを着ているのに、裾(すそ)を握りしめていたせいでくしゃくしゃだ。
 きっと稽古がうまくできずに叱られたのだろう。気分転換にこの庭園に連れ出されたに違いない。彼女についている侍女は困り果てている様子だ。
 国王と王妃は公務で忙しくて、小さな王女様の相手をずっとしているわけにもいくまい。しかし小さな王女様にも将来のために王族としてやるべきことがたくさんあるはずだ。
 彼女よりも幾ばくか大人びた少年はそんなことを思いながら、彼女のためにヴァイオリンの音色を鳴らした。
 別に自信があるわけではないし、人のために弾いたこともない。ぎこちない手付きだったかもしれない。だが、それでも少女の涙を止めるのには十分な効力があった。
『素敵な曲……なんていうのかしら』
『わからない』
『わからないのに弾いていたの?』
『教えてもらえないから自分の耳で覚えたんだ』
『あなたってすごいのね』
 褒められた言葉に、少しだけ照れた少年は、彼女のためにもう一曲、弓を滑らせた。
 少女の涙はもうとっくに乾いていた。
 少年はホッとしながらも彼女の宝石のように輝く瞳や、薔薇色に染まる頬を見て、今までに感じたことのない想いを抱く。
『わたし、けっこんするなら、あなたみたいな人がいいわ』
 無邪気な花の妖精のような王女様に、少年は全身にとめどなく熱がこみ上げてくるのを感じた。
 彼女にはあどけない中にも凛とした花の美しさや、芯の通った強さを感じた。彼女に見つめられると、弦を滑る弓すらも、ぴんと胸を張ったように誇らしくなる。
 少年はそのときは気にもとめなかったのだが、あとでその曲の題がなんだったかを思い出した。
 甘やかに、軽やかに、踊るような音色を響かせていたその曲は、
『初恋』――というのだと。



     ***



 豊かな自然に恵まれ、風光(ふうこう)明媚(めいび)な国、サフィアーノ王国は雪解けの季節とともに建国記念祭を迎え、国中が賑わっている。
 天秤と花を象(かたど)った国旗が至るところで掲げられ、人々もみな幸せそうな顔をしている。宴は七日間にわたって行われる予定となっていた。
 現在、王宮の大広間では、国内外からの賓客(ひんかく)を招いた舞踏会が開かれているところだ。
 第二王女であるローザ・シャレットは記念式典に参列したあと、この舞踏会が始まる前に、父である国王から彼女の婚約者となる男性を紹介された。
 相手の男性が少し気まずそうな顔をしているのは、突然の話だったからだろうか。ローザもどんな反応をしていいのか困った。
 その男性とは初対面ではない。これまで何度も顔を合わせているし、幼い頃からの知り合いだ。つまり二人は幼馴染なのである。だからこそ気恥ずかしいという部分もあったかもしれない。
 彼は、隣国スペラル王国の第一王子、アラン・ノヴェール――年齢はローザより三つ年上の二十才。
 つややかな黒髪に、きりっと整った眉、意志の強そうな、切れ長の双眸(そうぼう)、すっと通った鼻梁(びりょう)、引き締まった男らしい薄い唇……文句のつけどころのない、精悍(せいかん)な顔立ちは、女性ならば誰もが振り返るだろう。
 長身の彼が着ている、堅(けん)硬(こう)さを表すような黒い軍服と、スペラル王国の象徴とされる獅子と剣そして真紅の宝石(ルビー)をあしらった赤いマントは、彼の美しさをよりいっそう際立たせている。
 水の国と呼ばれているサフィアーノ王国は、透明感を重んじている国だが、それとは正反対の衣装は、斬新かつ情熱的に見え、大広間の場を華やかに彩り、彼の軍服の立派な肩章、略(りゃく)綬(じゅ)、勲章も、一頭輝いて見える。
 たくさんの注目を浴びることになっても、その視線を物ともしない堂々たる立ち居振る舞いは、王子ならではの品格がある。まさに理想中の理想といえるだろう。
 きっと、貴族の淑女(レディ)は、彼と目が合った瞬間に、たちまち恋に落ちてしまうに違いない。
 しかし残念ながらローザには当てはまらなかった。
 父には打ち明けてはいないが、ローザには密かに想っている人がいるのだ。
 彼女は父に気づかれないように隣でそっとため息を吐いた。
(だって、私には……)
 アランに申し訳ないと思いながらも、ローザの視線は別の男性の方へと向けられた。
 テラスの方で談笑している、やわらかそうな茶色の髪に、エメラルド色の瞳をした男性、彼の名はセルジュ・ギャロワ――フランソル王国の第二王子である。
 セルジュは優しくおだやかな性格で、女好きのする甘い顔立ちは、見る者を虜(とりこ)にするどころか、場を和ませてもくれ、笑顔にしてくれる。アランとは何もかも正反対の男性だ。
 実は、セルジュはローザの姉マリエルの元婚約者で、以前は姉を交えて親しく話をすることも多かったのだが、姉が心の病に伏してしまい、破談になって以来、少し距離をおいている。今日もまだ話しかけられていない。
 気軽に話しかけられない理由はもうひとつ。セルジュへの気持ちに気づいてしまったからだ。
 一目見るだけで嬉しくて、声を聞くだけで幸せな気持ちになれた。日を重ねるごとに、独り占めできたらいいのにと、大好きな姉にやきもちを覚えるようになった。だが叶わないから苦しくて諦めなくてはならないと言い聞かせた。ローザにとって、セルジュへの想いは、いつの間にか恋へと変わっていた。
 大好きな姉のことを思えば、この想いは手放さなければならない。それなのに破談になったことで、もしかしたら自分にも可能性があるのではないか……と、頭の片隅にでも考えてしまう自分が浅ましくていやだったのだ。
 そんな複雑な心境にあったローザに追い打ちをかけるように、一昨日、父はアランとの婚約を進めたいと、彼女に打ち明けてきた。
 相談ではなく、半ば強制だ。
 ローザはまたため息をこぼす。
 世継ぎとして期待される存在が姉のマリエルから妹のローザへと移った今、ローザには逆らえる立場にはない。政略結婚というのも、王族の宿命だということだって彼女自身もよくわかっている。
「ローザ」
 と、大きな声が聞こえてきて、ローザはびくりと肩を震わせた。
「どうしたのだ」
 国王が心配そうな表情を浮かべてローザの顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。なんでもないの」
 ローザは焦った。アランがじっとこちらを見ている。紹介されている最中に上の空になるなんて、彼に失礼なことをしてしまった。
 ぎこちない二人の様子を察したのか否か、
「せっかくの機会だ。二人で踊ってくるといい」
 と、国王が顎を引く。
 けっして断れない無言の圧力を感じ、ローザはアランの様子を伺った。彼も自分の立場を心得(こころえ)ているのだろう。
「ご所望であれば」
 と、あらかじめ計算し尽くされたように肘を差し出してきた。ここまでされてしまえば、ローザはやむを得ず、彼の腕に掴まるほかになかった。
 国王から離れ、ワルツの輪に入るまで二人は何も語らなかった。ようやく国王の視線から逃れられたのを確認した二人はゆっくり歩みを止め、ほぼ同時にため息をついた。そしてどちらともなく顔を見合わせる。
「おまえは、バカ正直だな。いちいち顔に出すぎだ」
 アランは開口一番にそう言った。色男が台無しの暴言だ。
「そんなことないわよ」
 ローザはむっとして、強がりを返す。
「もう少し、表面上でいいから楽しそうにしてみせろよ。それでなくともこの国は斜陽だと噂されているんだからな」
 彼が辛辣(しんらつ)なことを言うのはいつものことなのだが、建国記念祭というおめでたい宴の席で、今の言葉はさすがに聞き捨てならない。
「失礼なこと言わないで。友好の場に水を差す気?」
「別に、俺が思っていることではない。噂されていると言っただけだ。だからこそ国王陛下はサフィアーノとスペラル両国の政略結婚を望んでいるのだろう? おまえが王位継承者という立場ならば陛下のご不安を少しは考えるといい」
 そこまで論破されてしまうと、ローザは何も言えなくなる。
「それは……そうだけど」
「ならば、おまえはもっと笑顔でいるべきだ」
 もっともらしいことを言いながら、ただアランはローザを非難したいだけなのだろう、と彼女は唇を尖らせる。
「わかっているわ。けど、あなたに言われると、なんだかムッとしちゃうのよ」
 開き直るローザに、アランは意地悪な視線をよこした。
「それは光栄な話だな」
 と口端を引き上げる。沈んでいたローザがぷんぷんと怒っている姿を見るのが楽しくて仕方ないといった様子だ。意地悪な婚約者に、ローザはますますむっとするばかり。
 しかし皮肉にもローザはいつもの調子を取り戻していることに気づく。アランの態度はいつもわかりづらいが、あとになってから気づかされるのだ。今回も彼女を少しでも元気づけたくてあえてきつい言い方で叱咤したのだろう。
「あなたは……こんなことをしていていいの?」
 ローザはおずおずと問いかける。
 自分のことばかり考えていたけれど、アランだって政略結婚という形で、好きでもない女性と一緒になるのは不服なのではないだろうか。
「俺の答えはひとつだ。王族の責務だからな」
 仕方ないといったふうにアランはため息をつく。
「そうじゃなくて、私でいいの?」


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