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枯れた薔薇_カバー1

公爵さまは女がお嫌い!2

秋桜ヒロロ / 著
涼河マコト / イラスト
ISBNコード 978-486669-167-1
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2018/11/29
フェアリーキスピュア

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内容紹介

《純情すぎる二人に旅先でのラブ♡ハプニング続出!?》
結婚式を挙げたものの、相も変わらず思春期男子ばりに素直になれない公爵さま・ヴァレッドと、彼を衆道好みと勘違いしまくる天然新妻・ティアナ。とはいえ二人の仲はなかなか良好、ついには視察も兼ねた新婚旅行に行くことに。けれど喜ぶ半面、ティアナは最近、旦那様と近づきすぎるとなぜかドキドキしまうことに悩んでいて――。旅行先でのラブ・ハプニング続出で二人の関係もいよいよ進展!? フェアリーキス大賞銀賞作品、待望の続刊!

立ち読み

「……大丈夫か?」
 数秒の無言の後、彼は探るようにそう聞いてきた。
 ティアナは嬉しそうに一つうなずいた後、いつもより少しだけ頼りない笑みを見せた。
「はい。心配してくださってありがとうございます。いつもこの時期は、少しだけ体調を崩しやすいんです。二、三日様子を見てれば平気になりますわ」
「そうか。医者は何と?」
「毎年のことで、熱があるだけですからお医者様には……」
 かかっていません、と言い終わる前にヴァレッドが後ろのカロルを睨みつけた。
 カロルはこれを予想していたようで、表情一つ動かさずにヴァレッドを見据えている。
「己の主人を医者にも診せないなど、職務怠慢じゃないのか、カロル」
「言わせていただきますが、これはティアナ様と私の間で話し合って決めたことです。もう何年も仕えている私と、一ヶ月前に夫になった貴方とは経験則が違います。私は前の屋敷で医者の手伝いもしていました。腕前だけなら、そこら辺の町医者よりはあると自負しています。大概の薬なら調合できますし、他に何か病気の兆候などがあればすぐにわかります。ご安心を」
 どこか挑戦的に言い放って、カロルはつんと顎を反らした。
「そういえば、レオの胃薬を調合したのは君だったな」
 ヴァレッドはカロルの態度に眉を寄せながらも、どこか安心したように「そうか」と一つ呟いた。
 ティアナが城に来たばかりの頃、何かが変わり始めたヴァレッドと、ティアナの勘違いのせいで悩んだレオポールは、胃を痛めていた。そしてある日、ヴァレッドがティアナを襲っている(?)現場に出くわしたことがきっかけでとうとう倒れてしまったのだが、そんな彼の薬を調合したのがカロルだった。
 ヴァレッドはティアナに視線を戻す。
「朝食がまだだったろう? 何か食べたいものはあるか?」
「ヴァレッド様、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですわ。……実は昨晩咳が酷くてなかなか寝付けなかったのです。なので、まだ頭がぼーっとしていまして……」
 ダメですね、と笑うティアナに、カロルは「咳止めを追加しておきますね」と優しく声をかける。
 そのやりとりを見ながら、ヴァレッドはまたカロルの方を向いた。
「今日は一緒に寝てやれ。夜に何かあったら困るだろう」
「だめですわ、ヴァレッド様! カロルにそこまで手間をかけさせてはっ……」
「いえ。私も同じことを考えていたので、それは構わないのですが……」
 カロルが意味深にそこで言葉を切る。そして、にっこりと微笑みながらヴァレッドを見た。
「ヴァレッド様がティアナ様とご一緒に寝れば良いんじゃないでしょうか? もう結婚なさっておられるんですよね? お二人とも」
「なっ!」
 先ほどの意趣返しのような発言に、ヴァレッドは頰を引きつらせる。
「そうですよ! 一緒に寝れば万事解決じゃないですか! ヴァレッド様は必要以上にティアナ様の心配をしなくても済みますし、カロルさんはちゃんと休める! 私だって将来の心配をしなくても良くなるかもしれない!」
「レオっ!? お前までっ!」
 レオポールのまさかの裏切りに彼の顔は固まった。じわじわと耳まで赤くして、金魚のように口を開閉させている。
「ま、ヴァレッド様とティアナ様がご一緒に寝ることになっても私は隣の部屋で控えさせてもらいますから、特別休めるというわけではありませんが」
「お前達は、この俺に女と同衾しろと言うのか!? そんな不埒なこと出来るかっ!」
 反射的に叫びながらヴァレッドは立ち上がる。
 レオポールはそんな狼狽える主人に大股で詰め寄った。
「いや、不埒なことをしていい間柄なんですよ、あなた達は! 夫婦ですよ! ふ・う・ふ! 私は積極的に不埒なことをしていってほしいと、切に、切に願っていますっ! レッツ不埒です! ヴァレッド様!」
「レオっ!? お前自分が何言っているのかわかっているのか!? ティアナ、お前も何か言え! 一世一代の危機だぞ!」
 まるで助けを求めるようにティアナの方を見れば、カロルが笑いをこらえている様子が目に入る。
「そうですか。危機を与える自覚はおありですか」
「ヴァレッド様、その意気です!」
「二人とも黙れっ!」
 ヴァレッドが赤い顔でそう怒鳴ると、ティアナがきらきらとした瞳でヴァレッドを見ているのがわかった。瞬間、彼の額に冷や汗が滲む。
「ヴァレッド様とお泊まり会! とっても楽しそうですわ!」
 その言葉にヴァレッドは沈み、レオポールは拳を掲げた。
 おかしな挙動を見せる二人を気にすることなく、ティアナは熱など感じさせないような声を響かせる。
「お泊まり会はいつにいたしましょうか? あぁ、でも、レオポール様とカロルの予定にも合わせなくてはいけませんね! お部屋はどこでしますか? 私、枕投げというものを一回やってみたかったんですの!」
 一瞬にして元気が戻った様子のティアナに、ヴァレッドは呆れた目を向ける。
 その後ろでレオポールとカロルが首を傾げていた。
「あの、ティアナ様、なんでそこに私めの名前が入っているのかお聞かせいただいても……?」
「え、レオポール様はお嫌でしたか? お泊まり会」
「いや、嫌というか……」
 レオポールは眉を寄せながら難しい顔をする。
 ティアナの後ろにいるカロルは、慣れているのか涼しい顔をしていた。
「お泊まり会はヴァレッド様とティアナ様のお二人でされたらいかがですか? 私達は仕事がありますし、夫婦の仲を深めるのに良い機会だと思いますよ?」
「おいっ! 余計なことを言うなっ!」
 ヴァレッドが焦ったように声を上げる。
 彼からしてみれば二人っきりより四人でお泊まり会の方が遙かに楽な提案だ。四人ならば何か口実をつけて逃げ出せるかもしれないが、二人ならばそうは行かない。
「ダメですわ、カロル。私がヴァレッド様と一緒だとレオポール様がヤキモチを焼いてしまいます! もちろんヴァレッド様とはこれから仲良くしていきたいと思っていますが、それとこれとは話が別ですわ! 私はヴァレッド様とレオポール様の仲を応援すると決めたんです!」
 力強くそう言うティアナを、ヴァレッドはもはや諦めたように見つめている。そんなヴァレッドとは対照的に、レオポールは焦りを露わにした。
「ティアナ様、違います! 私とヴァレッド様は恋人同士ではないんですっ!」
「あら、隠さなくても大丈夫ですわ。私、お二人の恋路を邪魔したりはいたしません。むしろ応援していく所存ですわ!」
 屈託のない笑顔を向けるティアナに、レオポールの心は折れそうになる。
 しかし、彼はぐっとこらえた。いつまでもこのままではいけないと自らを鼓舞し、意志の籠もった目をティアナに向ける。
「私は女性が好きなんですっ! 大好きなんですっ! 男は恋愛対象外なんです!」
「そう言うと、ものすごい女性好きに聞こえますわね」
「カロルさんは黙っていてくださいっ!」
 レオポールの必死の形相に、カロルも思わず口を噤んだ。
 彼はティアナの側まで近寄ると、彼女の手を取り、まるで懇願するかのような視線を向けた。
「もう、本当に、本当なんですっ! だからこれからは夫婦仲睦まじく、ヴァレッド様ときゃっきゃうふふ、してください! じゃないと本気で私の老後が……仕事漬けの毎日に……」
 レオポールの目尻に涙が浮かぶ。その涙を見て、ティアナははっと顔を曇らせた。
「あっ! もしかして、レオポール様とヴァレッド様は喧嘩でもして、お別れに……?」
「あぁ、もう、それでもいいですっ! ヴァレッド様とは別れたんですよ! そうなんですっ!」
 半ばやけくそ気味にレオポールが声を上げる。
 ティアナは申し訳なさそうな顔をきりりと引き締めて、レオポールの手をしっかりと握り直した。
「レオポール様、安心してください! 私が責任を持ってお二人を仲直りさせて差し上げますっ!」
「結構です!!」

◇◇◇◇◇

 水が跳ねる音でティアナは目を覚ました。
 見上げる先には黒々とした岩。横たわったまま顔を巡らせると、隣には煌々と燃える炎があった。
そして、その奥にはヴァレッドの姿。
 彼の上半身は裸で、着ていた衣類は奥の岩に掛かり炎に当てられていた。ティアナの身体には、どこで見つけたのか毛布が掛かっている。
 どうやらここは洞窟の中らしい。近くから水の流れる音が聞こえてくるので、おそらく川も近いのだろう。
「起きたか」
 ヴァレッドは張り詰めていた緊張の糸が解けたように表情を緩ませると、ティアナの隣へ移動してくる。
「ヴァレッド様……」
 弱々しく掠れた声を出しながらティアナは身体を起こす。すると、濡れて束になった髪の毛が頰を撫でた。
「身体は大丈夫か? 痛いところは?」
「えっと、……ありません。大丈夫ですわ」
「何があったか覚えているか?」
「それは……」
 はだけた毛布をティアナにかけ直しながら、ヴァレッドは心配げに顔を覗き込んでくる。そんな彼に心配をかけまいと、ティアナは必死に頭の中の記憶を蘇らせた。
「確か馬車が襲われて、それでヴァレッド様と逃げていたら、矢が……矢がっ!?」
 ティアナはまるで弾かれたように顔を上げると、ヴァレッドの身体をぺたぺたと触り始める。
「ヴァレッド様、お怪我はありませんか? 大丈夫でしょうか? あぁ、もうどうしましょう! ヴァレッド様に何かあったらと思うとっ! 私っ!」
「大丈夫だ。俺はどこも怪我などしていない」
「で、でも、全身が濡れて……」
「君の方が全身ずぶ濡れだし、怪我もしている」
 そう言ってヴァレッドはティアナの頰をゆっくりと撫でた。
 彼の親指が頰骨の下の辺りを行き来すると、ぴりっと痺れるような痛みが襲う。どうやら矢を避けきれず頰を掠めてしまったらしい。
 一瞬痛みで顔をしかめたティアナを見て、ヴァレッドは落ち込んでいるような、安心しているような、微妙な顔つきになる。
「落ちたところが川で良かった。このぐらいの傷なら残らないと思うが、皆と合流したら一番に医者に診てもらおう。一応、血も吸い出しているし、症状も出ていないから大丈夫だと思うが、毒などを塗られていた可能性も捨てきれないしな……」
「血を吸い出した? ヴァレッド様はそんな特技もお持ちなのですね! すごいですわ!」
 いつものように手を打ち鳴らし、ティアナが弾けるように笑う。そんな彼女にヴァレッドは呆れたように小さく肩を落としながらも、口元には笑みを浮かべていた。
「別に特技というわけではない。君にだって簡単に出来ることだ」
「まぁ、そうですの? それならぜひ教えてくださいませ! 今後、何か役に立つかもしれませんわ!」
「君が知っていても役に立つとは思わないし、役立つような場面に遭遇してもらいたくはないんだが……。そうだな……」
 ヴァレッドはティアナの頰を両手で支えると、そっと自身の顔を傷口に近づけた。
「こうやって口で吸い出すだ……け……」
 そしてそのまま固まってしまう。
 それは、まるで頰にキスをする直前の格好だった。近づいた二人の顔は、吐息が感じられるほどに近い。
 ヴァレッドはティアナを自身から少し離すと、赤い顔を隠すように片手で口元を覆った。
「……こんな感じで直接毒を吸い出すんだ」
「まぁ! 頰に口づけするみたいにしてくださったのですね。うふふ、少し照れてしまいますわ」
 ヴァレッドは盛大に咽せる。そして、小さな声で「緊急事態だったからな」と答えた。
 ティアナは少し赤くなった頰を両手で押さえながら、少し首を傾げた。
「でもそれでは、もし毒が本当に塗られていた場合、吸った方が危ないのではないですか?」
「もちろん、吸った後はすぐに口を濯がなくてはならないし、口内に傷が出来ている場合はしてはいけない対処法だな。医者が近くにいる場合や、対処できる者が側にいる時はそちらに任せた方が良い」
「そんな危険なことをしてくださったのですね! そもそも川に落ちた私を救ってくださったのもヴァレッド様ですわよね? ヴァレッド様は私の命の恩人です! 本当にありがとうございます!」
 感激で胸がいっぱいだというように、ティアナは胸に手を置いたまま頭を下げる。そんな彼女の顔を上げさせると、ヴァレッドは少し困ったように眉を寄せた。
「先に命を救ってくれたのは君だろう? 今回は助かった。それと、すまなかった」
「『すまなかった』? 何がでしょうか?」
「俺が気付かなかったばかりに君に傷を負わせてしまった」
 頰の傷を撫でながら、ヴァレッドはどこか悔しそうに言う。
 実際、ティアナが庇わなかったら、ヴァレッドの肩は矢に射貫かれていただろう。ティアナがとっさの判断で頭を抱えたので上体が低くなり、矢がヴァレッドの肩の上、ティアナの頰を掠めたのだ。
「それは仕方ありませんわ! ヴァレッド様といえど、後ろには目はついておられないでしょうし! 何より、夫婦は助け合いが大切なのだと、お母様とお父様に教わっていますから! 私がヴァレッド様を助けるのは当然のことですわ!」
「……いいご両親のもとで育ったんだな、君は」
「はい! 素敵な両親に育てていただきました!」
 自分のことを褒められるより嬉しそうにティアナは笑う。ヴァレッドはそんな彼女を眩しそうに見た後、視線を洞窟の外へ向けた。
 洞窟の外は薄暗く、小雨が降っている。鬱蒼と茂る木々の向こうにはティアナとヴァレッドが落ちただろう、川が見えた。
「君が目覚めたらここから出ようと思っていたが、この調子では無理そうだな。今日は一晩ここで夜を明かすか……」
 二人が使っている洞窟は、元々この辺の猟師が休憩所として使っているものだったらしく、毛布やロープ、火付け石などは元々準備されていた。緊急用なのか木の箱には干し肉も入っており、夜を明かすだけなら十分に可能だった。
 ヴァレッドが淡々と今後の予定を考えていると、突然ティアナの焦った声が耳朶を打った。
「大変ですわ! ヴァレッド様!!」
「どうかしたか? 何かあったか!?」
 その声にヴァレッドはとっさに周りを警戒する。
 しかし、帰ってきた答えはあまりにも緊張感のないものだった。
「私、服を着ていませんわ! 下着姿です!!」
「今更か!!」
 先ほど自身の身体を確認していたので、ヴァレッドはティアナが自分の状態に気付いていると思っていた。
 下着として着ている薄いシュミーズドレスがティアナの身体にべっとりと貼り付いて、白い生地から肌色がほんのりと透けて見える。
 ティアナは頰を真っ赤に染めて、毛布で身体をくるりと覆った。
「どうしましょう! いつの間にこんな姿に!? 私、気絶すると脱いでしまう悪癖でもあるのでしょうか!?」
「あるわけないだろう! 何だその悪癖はっ! もうそうなると一種の病気だぞ!!」
「えぇ!? 私、病気なのですか!?」
 自分の手のひらで額の熱を測ったティアナは「どうしましょう! 熱いかもしれません!!」と赤い顔で狼狽える。赤くなったり、青くなったり、百面相をしたりと、彼女は相当に忙しい。
「何でそうなるんだ! 俺が脱がしたに決まっているだろうが! 君が自分で脱いだんじゃない! 俺が脱がしたんだ!!」
「え? ヴァレッド様が?」
「あぁ、当然だろう! どうして君はそう……いつ……も……」
 そのまま二人は見つめ合ったまま固まった。
 ティアナに負けず劣らずの勢いで赤くなったヴァレッドは「見てないと言うべきか? いや、実際全く見ていないわけではないし、そもそも見ないと脱がせないわけだし……」とぶつくさ呟いている。
 ティアナは背中に回した毛布の端を胸の中心にかき集めるように抱くと、視線を地面の小石に滑らせた。
(あぁ、もう! どうしたら良いのかしら! こんな貧相な身体をヴァレッド様に見せてしまうなんてっ! ヴァレッド様も困っておられるし何か言わなくてはっ!)
 あまり使わない頭をフル回転させて、このいたたまれない雰囲気を何とかしようとティアナは試みる。
(あぁ! そうだわ! 確かヒルデに夫婦の正しい触れ合い方というのを学んだのでした! こういう時は……確か、上目づかいで……)

「ヴァレッド様の、えっち」

「――っ!!」
 ヴァレッドは思わず両手で顔を覆った。
◇◇◇◇◇

「ヴァレッド様、お待たせいたしました!」
「あぁ……」
 あれからしばらくして、身を清めたティアナはいつもの夜着を着て脱衣室から寝室へとやってきた。しっかり温まったためか、頭のてっぺんから指先に至るまでいつもより少し火照っている。
 ベッドに腰かけているヴァレッドは、心なしか緊張した面持ちだったが、ティアナはそんなことなど気に留めることもなく、彼の隣に腰かけた。
 その瞬間、まるで距離を取るかのようにヴァレッドは立ち上がる。
 そして、おもむろにソファーの上にあったクッションや互いの枕などをベッドに並べ始めた。縦に一列。それはまるで一つのベッドを二つに分けるように置かれている。
「最初は俺がソファーで寝ようかとも考えたんだが、どうせ君のことだから『私もそちらで!』とか言い出しかねないだろう? だからこうしてみようと思うんだが……」
 赤い顔で眉間に皺を寄せたまま、彼は言葉を続ける。
「君が右側。俺が左側だ。俺は君の方には絶対に近寄らないと約束しよう」
「『近寄らない』というのは、もしかしてヴァレッド様は寝相が悪いのですか? お気遣いありがとうございます! しかし、そんな風にお気遣いいただかなくても、私は大丈夫ですわ! 実はローゼも昔は相当に寝相が悪かったのです! 一緒に寝ていた頃は蹴飛ばされないように端っこで寝るのが得意でしたの! それにせっかくのお泊まり会ですし、私はヴァレッド様のお顔を見ながらお話がしたいですわ」
 ベッドを分けていたクッションをソファーに戻しながらティアナは朗らかに笑う。ヴァレッドはティアナの手から戻しかけのクッションを取り上げると、赤い顔のまま彼女を見下ろした。
「俺は別に寝相が悪いからこういうことを言っているんじゃない!」
「あら? じゃぁ、どうしてですか?」
 本当にわからないと首を傾げるティアナに、ヴァレッドは小さく唸り声を上げた。
「君は俺が男だということを忘れているんじゃないのか? 君はもう少し慎み深い人物だと思っていたのだが……」
「ヴァレッド様が男性だということはもちろん忘れていませんわ。……もしかして、ヴァレッド様は、私と寝るのがお嫌だったのですか?」
「いや、他の女性となら考えられないが、君となら……って、そういう話じゃないだろう!? 君には危機感がないのか、と言いたいんだ!?」
 ヴァレッドが思わずそう吼えると、ティアナはやはりわかっていないように首を傾げた。そんな彼女の表情に彼は思わず頭を抱える。
「危機感ですか? お父様とお母様もいつも同じベッドで寝ていますし、それとは違うのですか?」
「……違わない……が……。まぁ、君と俺がどうこうなるはずがないのだから、気にするだけ無駄ということか……」
 それ以上の反論が許されない言葉に、ヴァレッドは諦めたように頭を振った。
 そして、再びベッドに腰掛ける。
 ティアナも後を追うようにその隣に身を寄せた。くっつくかくっつかないかの距離が少しもどかしい。彼女はもじもじと指先を合わせるような仕草をすると、少し恥ずかしがるような声を出した。
「それに、私もいつかはヴァレッド様との子が欲しいですし……」
「はぁ!?」


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