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9784866691015

王冠の護り人と名無しの衛兵

ヴィルヘルミナ / 著
天路ゆうつづ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-101-5
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2018/04/27
フェアリーキスピンク

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内容紹介

《俺は王になんかなりたくない。ティアの本当の夫になりたいんだ》
愛する人に〝王〟となる運命を与えることができる――所謂〝超あげまん〟な力を持つ宝冠(ルビ:てぃあら)。そんな宝冠ことティアが異世界召喚され、形だけの正妃になったと思いきや、一介の〝名無し〟の衛兵に下げ渡されてしまった!? けれどその衛兵サクヤは、あまりにも美しく、そして不思議な力を持つ異質の存在のようで……。不器用ながらも真摯な恋心を向けてくる彼と偽装結婚の日々を送るうちに、ティアの心は大きく揺れ動くようになり――。

立ち読み

「正妃たるお前とは離縁し、そこの傷持ちの衛兵に下賜する。早々に出て行け」
 王が言い放った瞬間、『王冠』が消えた。

 ぱりんという何かが割れる音と共に世界の色が変わるような感覚を、二度目の今回ははっきりと自覚できた。王に半ば渡していた、見えない『王冠』が完全に私の体内に戻ってきた。玉座に座る王は豪奢な王冠を着けているけれど、それだけだ。
『王冠』を持つことで生じていた、対峙する人間全てがひれ伏すような圧倒的な王の威厳は消えた。
『王冠』が消えたことに気が付いた者は私の他にいるだろうか。

 碧がかった金色の髪。深い緑の瞳の王は冷たい目で私を見ていた。竜の鱗の紋様が織り込まれた白い束帯に似た装束は、王だけが着用することができる。
 先程まで私は、彼――レイメイ国王ライテイの正妃だった。
 臣下が居並ぶ玉座の間。罪人のように玉座の前にひざまずいた私を王が見下ろしている。
「お待ち下さい!」
 臣下たちの密やかなざわめきの中、王の術師キリガが声を上げ、大宮司リガクは王を驚きの表情で見た後、意味ありげな笑みを浮かべた。二人とも強い力を持っているから『王冠』が消えたことに気が付いたのかもしれない。指名された傷持ちの衛兵は、臣下や他の衛兵たちの注目を浴びながらも静かに佇んでいるだけだ。
「黙れ!」
 王が一喝すると場が静まり返る。
「何か言いたいことはあるか?」
 王の冷たい言葉に苦笑する。たった三カ月前までは、とても優しい言葉をかけてくれていたのに。
視線を上げ、私は王に向かってにっこりと笑う。
「これまで、お世話になりました。お元気で」
 王との別れを覚悟してから、何度も練習した。
 最後は晴れやかに笑う私を覚えていてほしい。久々に目を見開いて驚く王の顔を見たような気がする。三カ月前の私なら嫌だと泣いて縋りついていたかもしれないけれど、もう愛情はマイナスに振り切っている。
 そうは思っていても心はしくしくと痛い。この痛みはきっと時間が癒してくれると信じたい。

 無礼にならない程度の速度で王前の礼を行ってから退出する。十二単とドレスが折衷になったような正装は豪華で美しいけれど、重量があって歩きにくい。
 三カ月前、後宮に側室が現れてから、いつか追い出されるだろうと思っていたけれど、衛兵に下賜されるとは思っていなかった。
 どのみち、この文明の遅れた異世界では非力な女一人では生きられない。お金を渡してしばらくの間世話になるか、最悪の場合は彼に体を任せるしかない。

 廊下に出た所で、先程の衛兵を呼び出してもらうと、ほとんど待つことなく姿を見せた。年のころは三十前後か。紫紺色の長い髪で背が高い彼は、この国で甲冑服と呼ばれる装束に身を包んでいる。紺色の平安時代の武官束帯と洋服が混ざったような装束の布は魔力で固められていて、服の下には革製の胸当てと籠手を着けているらしい。実用性よりも装飾性が優先された冑は黒。腰に佩いた剣は黒い鞘。
 彼は以前と全く変わっていない――。彼の顔を間近で見た途端、久しぶりに私の心の緊張が緩んだ。
「これから、よろしくお願い致します」
「……いいのか?」
 ぼそりとした低い声。良い声だと思うけれど覇気がない。長い前髪で目が隠されていて表情がわからない。その瞳をまた見たいと思いながら、私は彼に問いかける。
「王の命令です。今日のお仕事は何時まででしょうか」
「十七時だ」
「では、その後に。できれば後宮の門まで迎えに来ていただきたいのです」
「……わかった。なるべく早く迎えに行く」
 衛兵が静かに答えた。

◇◇◇◇◇

「おや、今日はお連れさんがいるのかね」
 木の後ろから白いひげをたっぷりと蓄えた老人が白い着物と袴姿で現れた。薄暗い森の中での真っ白な装束は、淡く光輝いているように見える。
「ああ。婚姻の儀をお願いしたい」
 サクヤの唐突な言葉に驚いた。これは書類だけの結婚だと言い掛けたけれど、「それはめでたい」と笑う老人の前で否定することはためらわれた。
「ほうほう、これはこれは、また珍しい髪色の娘さんじゃな」
 老人が楽し気に目を細めて私を見た。何故か少し緊張する。
「服はそれでいいのかね?」
「はい」
 私は頷いた。婚姻の儀式をするとは思わなかったので何の用意もしていない。どうせ偽装結婚だからと思っていた。たった半年のことなのに真面目に儀式までしてくれるサクヤに感謝する。きっとどこまでも真面目な性格なんだろう。戸籍が欲しいというだけで利用していい人じゃなかった。私は、サクヤに何が返せるだろうか。
「おやおや、娘さん、そんな遠慮はせずともよいよ」
 老人が手を二度打ち鳴らすと、私の服が一瞬で白い十二単に変化した。横を見るとサクヤは白い束帯姿になっていた。袖を触ってみると手触りは本物の絹。無から有を生み出す――これは神力の奇跡なのだろうか。
「あ……」
 長い前髪がすっきりと上げられて、サクヤの顔が見えている。落ち着かないのか片手で顔を隠してしまう。やっぱり美形。物凄く美形。顔の傷さえ凄絶な色気を醸し出しているように見える。衣で体のラインが隠されていても伸びた背筋に凜々しさを感じる。
「さぁさあ、本殿に行こうかのぅ」
 楽し気に笑う老人に先導されて、木の階段を上って木の廊下を歩く。顔の傷を手で隠していたサクヤが、諦めたのか私の手を握る。その手の温かさが嬉しくて見上げると、サクヤがぎこちない笑顔を見せていて、傷の色気とのギャップに鼓動が跳ねた。
 外から見るよりも建物の中は広く思えた。いくつもの扉をくぐって、いくつもの廊下を歩く。一際大きな広間に着くと、目の前には祭壇。中央には大きな鏡が祀られていて、サクヤが祭壇にお酒を供えた。
「あー、何だったかの? 婚姻の儀なんて久々に執り行うから、手順を忘れたわい」
 老人が首をひねった。この神社の神主なのだと思っていたけれど、違うのだろうか。
「あれだ、好きです言うて、ぶちゅーっと口づけすれば良かろう」
 かかかと笑う老人に脱力してしまう。
「そ、そんな適当でいいんですか?」
「儀式なんて形だけ。心持ちの問題じゃよ」
 老人にぱちりとウインクされてしまった。その様子がどこか可愛らしくて笑ってしまう。
 促されて、サクヤと向かい合う。正面から見る束帯姿のサクヤは凜々しい。黒い冠でまとめられた髪は紫紺色。凜々しくて涼やかな紅い目。美形すぎて頰に走る傷は気にならない。というよりも傷があることで色気を感じる。装束は菱形の花紋様が織り込まれた布でできていた。王宮にいた時に目にしていたどの衣装よりも上質で豪華に思える。
「まずは指輪と腕輪じゃの」
 老人の手の上に、先程買った指輪と腕輪が魔法のように現れてサクヤが驚きの表情を見せた。
 指輪を渡されて見上げれば、紅い瞳が真っすぐに私を見ていた。前髪が上げられているから瞳の全てが見えていて、その不思議な色に目を奪われる。
「どうした?」
 少し不安げなサクヤの声に我に返った。
「何でもないわ」
 私が微笑むとサクヤも安心したように微笑んだ。初めて見るその優しい表情に、ときめきを覚える。差し出された左手を左手で受けて、右手でサクヤの左小指に指輪を嵌めた。
 サクヤに腕輪が渡されると、彼は差し出した私の左手を優しく右手で支えた。頰が熱い。顔が赤くなっているかもしれない。見上げたサクヤの耳も赤くなっていて、さらに恥ずかしくなる。
 そっとサクヤが私の左手に腕輪を嵌める。淡いピンク色の腕輪がひやりとした温度で少しだけ私を冷静にさせてくれたのに、サクヤが両手で私の左手を包んで微笑むから、鼓動が落ち着かない。
 
「これから、よろしくお願いします」
 形だけでも好きとは言えなかった。まだ、私はサクヤのことを何も知らない。
「ああ。よろしく頼む」
 サクヤが優しく微笑む。紅い瞳に見つめられて少し恥ずかしい。
 にこにこと笑う老人に、儀式はここまでと言おうとした瞬間、空中に淡いピンクの花びらが舞った。花びらの量が増えて、まるで桜の花吹雪。老人の姿も見えない。サクヤと花吹雪の中、二人きり。
 サクヤが私の肩を摑んで、顔がゆっくりと近づいてきた。真剣な表情に鼓動が跳ねる。
 拒否するか迷ったけれど目を閉じた。……ライテイとの結婚式の時と同じ。これは単なる儀式の一環。気持ちがなければ、単なる接触でしかない。
 唇に温かい感触。少しして離れていく温度に、何故か心が惜しむ。
 これは、ただ、形だけの真似事。
 目を開くと耳を真っ赤にして目を泳がせるサクヤの顔が見えた。引き結んだ口元とのギャップが可笑しい。花吹雪が少しずつ減って消え去ると同時に、奇跡の力も解けたのか服が元に戻ったけれど、老人は戻ってこない。
「さっきの方は?」
 お礼を言えなかったのが気になる。
「いつも突然現れて、突然消える。名前も聞いたことがない」
「もしかして神様かしら?」
 ライテイでもあれ程の奇跡を起こすことは難しいだろう。奇跡と魔法が存在するこの世界なら、神様がいても不思議はないと思う。
「それはない。今日はマシだったが、いつもは猥談と酒の要求ばかりだ。神とは到底思えない。隠居した神職か、魔術師あたりだろう」
 サクヤが何かを思い出したようで半眼になった。長い前髪から見え隠れする表情が可愛らしくて笑ってしまう。
 サクヤが少し拗ねたような表情で、笑う私の頰に手を添えた。
「笑ってごめんなさい。ね、前髪、伸ばしたままで邪魔じゃない?」
「……傷が醜いだろう? 見ても気持ちが良いものではない」
「そうなの? 残念だわ、せっかく格好いいのに、もったいないわ」
 笑い続ける私の頰を、サクヤが優しく撫でる。その感触が心地よくてサクヤの手に頰を押し付けるとサクヤが一瞬驚いた顔をして、恥ずかし気に微笑んだ。

◇◇◇◇◇

「元の世界の私、召喚した時に死んでるんですって。だからどれだけ頑張っても元の世界には戻れない」
 グラスの中身を一気に飲み干すと、アルコールで喉が焼ける。水で割った方が美味しいのだろうけど、めんどくさい。
「誰がそんなことを言ったんだ?」
 蒼白になったサクヤが手を止めた。真剣な眼差しが今は辛い。
「王の術師キリガ。あの人は過去の魔法契約で噓を吐くことが許されない。だからたぶん、本当のことだと思う」
 グラスぎりぎりまで注いだお酒を一気に飲み干して、立ち上がる。足元がふわふわする。
「私はこうして生きて動いてる。それなのに死んでるんだって」
 椅子に腰かけたサクヤの膝の上に座って、サクヤの右手を心臓の上に当てる。
「……心臓は動いてる。でも、これはこの世界で構築された肉体の器」
 サクヤの胸にもたれかかると、速い心音が聞こえた。
「ライテイは、私でなくても良かったんですって。私、騙されてたわ。私を呼んだのだとばかり思ってた」
 口にすると涙が零れそうになる。サクヤが私を抱きしめた。サクヤの腕に包まれると温かくて安心できる。
「俺はティアがいい。ティアしかいない」
「死人でもいいの?」
「かまわない。俺の妻だ」
 微笑むサクヤの言葉に涙が零れた。優しいサクヤの言葉に縋りたくなった。妻だというなら、偽りでなく本物の妻にしてほしい。両手でサクヤの頰を挟むと、サクヤが目を瞬かせる。
 私の『王冠』はまだ揺れている。サクヤへの気持ちは曖昧で、ただ心に空いた寂しさを埋めたいだけなのかもしれないけれど、今は身体だけでも妻としてサクヤと繫がりたかった。
「ど、どうした?」
「黙って」
 サクヤの引き結んだ唇を舐める。紅い瞳が驚いている。首に腕を回して引き寄せる。舌で唇を割って、歯列を舐めてくすぐると歯も開いた。口の中に舌を入れるとサクヤの体がびくりと跳ねて舌を軽く嚙まれた。
「……嚙まないで」
「す、すまん」
 気を取り直して、舌を入れて口腔を探る。舌を舐めたら逃げられた。
「……何で逃げるの?」
「いや、その……」
 耳を赤くしたサクヤの足を跨ぐように座り直して、正面から首に腕を回すと彼の腕が背中に回った。
「戻れないなら、俺の妻でいればいい」
 唇が触れそうな距離でもう一度サクヤが囁いた。
「いいの?」
「もちろん」
 紅い目が優しく笑った。鼓動が跳ねる。
 この瞳を信じてもいいだろうか。この腕に縋ってもいいだろうか。
 軽いキスを繰り返しながら、サクヤのボタンを一つずつ外して、シャツの前を開いて抱き着く。乳首を舐めるとサクヤの体がびくりと震えた。
「ティア、くすぐったいんだが」
「くすぐったいじゃなくて、気持ちいいでしょ?」
 自分のシャツのボタンを外して脱ぎ捨てた。
「……ティア?」
 サクヤの視線が胸に向かう。見られているだけでぞくりと背筋に何かが走る。
「触って?」
 誘えばサクヤが喉を鳴らした。背中を片手で支えられながら、荒々しく胸を揉まれた。胸を強く揉まれると痛い。それでもこの痛みは、私がこの世界で生きている証拠だと思える。
 背中を反らすと、乳首を舐められて吸われた。
「あ、それ、気持ちいい」
 紫紺の髪をかき混ぜるようにして抱え込む。もう、何も考えたくなかった。
 乳首を吸われながら、反った背中を撫でられる。硬いモノの感触が布越しに当たる。擦り付けると快感が起きた。片手で自分の下履きの紐を解くとはらりと落ちて、布の摩擦が陰核を刺激する。サクヤが荒々しく胸を舐めていく間、サクヤのズボンの布がじわりと濡れていくのがわかる。刺激が欲しくて腰を押し付けて、腿でサクヤの腰を挟みこむ。そのまま持ち上げられて、ベッドに押し倒された。
 サクヤの嚙みつくようなキスが始まって、肉食獣が獲物の血をすするような勢いで口の中を舐められる。口蓋を舐められると体が震えた。硬いモノは布越しに押し付けられたまま。時折びくりと動いて気持ちいい。舌を絡めると舐められて吸われる。息継ぎが難しい程激しい。
 とろりとどちらの唾液かわからないものが口の端から垂れると、サクヤがべろりと舐め上げた。キスだけでも背筋が震える程の快感。紅い目がとろりと笑う。
 緩やかに舌を舐め合いながら、サクヤの手が胸を摑む。胸を揉む力が強すぎる。あの夜のことを思い出したけれど怖くはなかった。
「……もっと、優しくして?」
 舌を解いてサクヤにねだる。モノがびくりと動く。
「このくらいか?」
 ふわふわと緩く揉まれると気持ちいい。
「ん。気持ちいい」
「ティアは柔らかいな」
 胸を揉む、サクヤの吐息が熱い。
「サクヤは硬いわ」
 サクヤの筋肉質な胸は硬い。
「……脱がないの?」
 囁けば、サクヤの体がびくりと跳ねた。サクヤの喉が鳴る音が聞こえる。
「……いいのか?」
「いいわよ?」


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