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枯れた薔薇_カバー1

異世界トリップの脇役だった件

葉月クロル / 著
椎名咲月 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-033-9
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2017/09/27
フェアリーキスピンク

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内容紹介

お姫様抱っこがデフォ★な“お兄ちゃん騎士”に、過剰に過激に、甘やかされてます!?
異世界トリップした先で、騎士のカインロットさんに護衛されることになったわたし。見た目はクールなカインロットさんだけど――「ミチルのことは俺が守るからな! 俺のことはお兄ちゃんと呼んでいいぞ?」過保護すぎるほど甘やかして恥ずかしいくらい! 移動はお姫様抱っこ、座るときはカインロットさんの膝の上。『氷の牙』と呼ばれるほどストイックな雰囲気なのに、わたしにはゲロ甘炸裂! そんな彼に胸の高鳴るわたしだけど、ついにお兄ちゃん騎士と《偽装》結婚をすることに!? 「くっ! 俺の嫁が可愛すぎて、もはや凶器!」お兄ちゃん騎士の溺愛、暴走中!?
“お兄ちゃんポジションな騎士”の理性のタガ、ついにはずれる!
小説サイト『ムーンライトノベルス』累計620万PV超! 書き下ろしを収録してついに書籍化。
「お前を害しようとする者は、すべてお兄ちゃんが排除してやる。国ごと滅ぼしても構わんぞ、ははは」

立ち読み

 わたしの動向を常に把握し、完璧に任務をこなすお兄ちゃん騎士が、当然のように身体を支える。
「大丈夫か? 足首をひねらなかったか?」
「うん、大丈夫だよ、お兄ちゃ……カインロットさん」
 また間違えそうになっちゃった。たぶん頭の中で妄想して『お兄ちゃん』って言ってるのがいけないんだね。
 そんなわたしを見て、カインロットさんはくすりと笑うと、わたしの耳元に唇を近づけた。
「……お兄ちゃん、と呼んでもかまわんのだぞ?」
「ひゃあ」
 反則です!
 耳に吐息をかけながら囁くなど、もってのほかですよ!
 わたしが真っ赤になって「よ、呼びませんから」と答えると、カインロットさんはまたしてもわたしの頭を撫でて「遠慮するな、この世界に来て心細いのだろう? かまわないからもっと俺に甘えろ。ほら、いい子だから言ってみろ、『お兄ちゃん』だ。ん? どうした?」と、さらに甘ったるく囁いた。
 うおおおおおおおおお、燃料投下するのはやめてくれええええええ!
 アイスブルーの輝く髪をしたイケメン騎士さまの低い囁きは、破壊力がありすぎて、わたしの乙女心が燃え盛ってしまうんですよ!
「さあミチル、遠慮はいらないぞ」
 わたしの目を覗き込む、深い青の瞳。
 整った顔に優しい笑みを浮かべて『お兄ちゃん呼び』を迫る美形騎士。
 このイケメン騎士は、わたしのハートをどこへ連れていきたいのだろうか?
 無駄にときめかされたわたしの乙女心を、どうやって救ってくれるつもりなのだろうか?
 最後に『……そんなつもりではなかった』と言われる、に全財産賭けてもいいな! くううっ!
「さあ、ここは思いきってひと思いに」
「や、ちょ、たんま」
 背中を押すのはやめて!
 ひと思いに崖から飛び降りたくないわ!
「恥ずかしいことではないぞ。さあ、俺に『お兄ちゃん』と」
「ま、ま、待って」
 恥ずかしいだろ!
 どう考えたって、恥ずかしいだろ!
 わたしはカインロットさんによるあまりにも凶悪な萌え攻撃に耐えかねて、淡い緑のドレスの胸のあたりをぎゅっと押さえながら、ハアハアと荒く息をつく。そんなわたしの頰を片手で覆うようにして、カインロットさんはすりすりと撫でる。
 もう無理、このまま爆発する。無自覚で、美形と美声のダブルコンボで攻撃してくるお兄ちゃん騎士に、こんなにもレベルの低いわたしじゃ太刀打ちできないよ!
『わたしはあくまで妹分』と自分に言い聞かせてないと、『これはもしかしたら、わたしのことを……』などとうっかり勘違いして、痛い子になってしまいそう。
 そんな悲惨な未来などお断りだ!
 と、その時、またしても綺麗な貴族のお姫さまたちの声が聞こえた。
「な、なんなの、あの子! カインロットさまにあんなに近づいたりして!」
 いやいや、よく見てて。
 近づいてきたのはカインロットさんの方ね。
 わたしの腰は明らかに退けてるよね。予防注射を打たれる前のわんこと同じくらいに腰が退けてるよね。
「顔を寄せて、あんなに近くでひそひそと話すなんて、まるでとても仲が良いみたいな雰囲気ですわね……」
「ありえませんわ! カインロットさまが女性に優しくなさるなどという、腑抜けた真似をするはずがございませんもの!」
 みごとな縦ロールをした、燃えるような赤い髪の毛のお姉さんが、叫ぶように言った。
 それって腑抜けなのか?
 わたしだったら、ツンツンなだけの俺様騎士さまよりも、女性に優しいジェントルマンな騎士さまの方がかっこいいと思うけどな。そう、強いからこその優しさっていうのかな。
 ただし、カインロットさんの場合はやりすぎだがな!
 甘すぎて甘すぎて、シロップの海に漂う小舟に乗ってるような気分になってしまいますからね! しかも、その舟、底に穴が何個かあいてますからね!
「あれは、なにか事故のようなもの……もしくは、カインロットさまが無理矢理に脅されているとか、そういう事態に違いありません。とにかく、女性と仲が良いなどということは認めませんわ!」
 ふふっ、髪の毛の色からすると、赤い髪のお姫さまはかなり気性が荒そうだね。そして、思い込みも強そうな感じがするね。
 そして、アイスブルーの髪のカインロットさんは、やっぱり第一印象通りのクールイケメン騎士だったみたいだね。でも、手練れの騎士で貴族のカインロットさんを脅すことができる人間なんているの?
 そうそう、髪の色に性格って出るのかな?
 そうしたら、わたしはお腹が真っ黒……ち、違うよ。それはないよ、うん。
 お姉さんたちの方を見ながらそんなことを考えてたら、わたしはバランスを崩して、またしても足をぐきっとしてしまった。
「あいたたた」
もう、この靴いやなんだけど! どうせドレスを着ていて見えないんだから、もっと履きやすい靴を用意してもらおう。男性のエスコートなしで歩けないなんておかしいよ。
 倒れそうになったわたしの腰を大きな両手で左右からつかむようにして支えてくれながら、カインロットさんは「大丈夫か?」と尋ねた。
「ありがとう、ごめんなさい、カインロットさん。ちょっとまた、足を……」
 一層鋭く睨んでくる複数の視線の方に思わず目をやると、カインロットさんもそっちをちらりと見た。
 今度は「腰に手を回すとは」なんたらかんたらと文句を言ってるようだけどね、今のはこけるのを助けてくれただけだよ。そんなに好きならもっとちゃんと見ていようよ。
 カインロットさんが低い声で言った。
「先ほどからなにやらうるさいと思っていたが、お前はあれを気にしてつまずいていたのか?」
「いや、っていうか、この靴が……」
「そうだったのか。この俺の護衛対象に害をなすとはなんたる不届きな輩だ」
「直接的な原因は、靴がね、あのね、カインロットさん? カインロットさん?」
 お兄ちゃんの雰囲気が変わったよ。
 なんか、氷のような冷たい怒りのオーラが身体から立ち上ってるよ。
「あれがミチルを煩わせていたのだな」
「ううん、そうじゃなくってこの靴がね、ちょっとカインロットさん!」
 聞けよ!
 しかし、氷結のオーラが噴き上がるイケメン騎士は、そっとわたしの腰から手を離すと、剣の柄に手をかけて、貴族のお姉さんたちの方を向いた。
「お前たち、何用で王宮に来ている? 俺は王家直々の命令を受けて任務に就いているのだが」
「カ、カインロットさま……」
 噂の騎士さまが、もんのすごい吹雪を吹き出しながら声をかけたものだから、憧れているはずの貴族のお姫さまたちは『ひいいいいっ』という顔になった。
 そりゃあそうだよね、カインロットさんの出してるオーラは怖すぎだよね。
 戦闘バージョンのオーラだよね、これ。
 表情を消したその顔は、元が綺麗なだけにいっそう怖いしね。
 ここは異世界だから、青い目から絶対零度の光線が出るかもしれないね。
 ゲームに出てくる美形のボスキャラみたいに冷徹な瞳だしね、うん。
 なるほど、これは、この迫力ならば、『氷の牙』っていうふたつ名がついていてもおかしくない!
 お兄ちゃん、素敵!
 敵に回したくないから褒めておくよ!
 そんな恐ろしいバージョンに変身した(っていうより、もしかするとこっちが素なの?)カインロットさんは、剣の柄を握りしめながらご令嬢たちに言った。死神もびっくりの冷たい声音で。
「王命による任務の邪魔をするとは、すなわち王家に逆らうのと同じこと」
「そんな、わたくしたちは……」
「俺の護衛対象は、お前たちのせいで足を痛めるところだった……髪の毛一本すら傷つけてはならぬ貴人だというのに」
 ほお、わたしはそんなに大切にされてたのか。
 まあ、救国の神子姫の心の支えのセンパイさまだもんね。
 国賓だもんね。
 神子姫が機嫌を損ねたら、国が滅ぶレベルだったり……すると……。
「お前たちは、このエステイリア国を滅亡させるところだった」
 ちょっと待て。
 ヤバい。
 そうだったよね。
 わたしにとっては、単なる大学の後輩の麻紀ちゃんだけど、ここでは国の命運を握る神子姫さまなのだ。でもって、その麻紀ちゃんがあからさまに頼っているわたしの立場は……みんなが『センパイさま』なんて拝み出すようなわたしの立場は……そして、わたしがケガをする原因となるってことは……。
 やべー、このお姉さんたちは、すなわち『エステイリア国の大罪人』じゃん!
 お兄ちゃん、マジで斬るかも!?
 斬るかも!
 ほら、剣を抜こうとしてるもん!
 いやあああああああっ、お兄ちゃん、殺しちゃダメだよおおおおおおっ!
「カインロットさん! カインロットさん! 違うんです」
 わたしはなんとか思いとどまらせようとして、必死で危険な騎士に訴える。
「わたしがこの靴に慣れてないからなのです! だから、ぐきっと」
「お前たちの家には、後ほど罰が与えられるだろうが」
「落ち着いて、カインロットさん! 早まってはダメなのです!」
「このエステイリア国を滅ぼす恐れのあることを行った罪、万死に値する」
「値しない値しない、足をぐきっとやっただけ! こんなのノープロブレム!」
「よって、この場で」
「ダメだってば、カインロットさん、剣を抜かないで抜かないで待ておいちょっと聞きなよってば!」
 ダメなのです、カインロットさんは氷の魔王に変化なさったようで、わたしの言うことなんてこれっぽっちも聞いちゃくれません。
 ああああああ、剣の刃が見えたよ、マジヤバいじゃん!
 止めなきゃ!
 なんとしてでも止めなきゃ!
 わたしはにっくきヒールの靴を脱ぎ捨てると、タタタと素早いステップでカインロットさんの正面に回り、叫んだ!
「抱っこ!」

 大沢ミチル二十一歳は、愛する祖国エステイリアを亡国の憂き目に遭わせるところであった大罪人を斬らんとしていた騎士、カインロット・デンタヴィス二十三歳の顔を真っ正面から見つめて、万感の思いを込めて魔法の呪文を叫んだ。
 すなわち『抱っこ』と。
 さようなら、成人女性の矜持。
 しかし、わたしには今、なにを棄てたとしても、人として為さねばならないことがあるのだ。
「…………」
 剣を抜きかかった姿勢のままで、表情を消した騎士はその動きを止めた。
「…………」
 粛清される危機にある貴族の令嬢たちは、魂を抜き取られたような表情で、もの言わずにわたしを見た。
 王宮の廊下に満ちた、張り詰めた空気を破るように、わたしは護衛の騎士に手を差し伸べて叫ぶようにねだる。
「抱っこして! お兄ちゃん、抱っこして!」
「……ミ……チル……?」
 絶対零度の魔王と化していた任務に忠実な騎士は、目を見開いてわたしの顔を見た。
「お前は今、抱っこ……を求めているのか? この俺に?」
 信じられない、という表情。魔王に表情が戻った!
「そして、俺を『お兄ちゃん』と……」
 晴れ渡った青空よりもなお青い、澄んだその瞳を見つめながら、わたしは訴える。
「この靴、すごく歩きづらいの、もうやだ、歩くのやだ、足がぐきっとなっちゃうの。だからお兄ちゃん、抱っこして!」
 わたしは両手をカインロットさんの方に『前へならえ』したまま一息に言うと、だめ押しでにっこりと笑った。
「ねえ、お兄ちゃん、抱っこしてー」
『氷の牙』と呼ばれる騎士は頰を染め、震える手で、半ば抜きかかっていた剣を収めた。
 よし、いいぞ!
 さあ、そのまま剣から手を離すのだ!
「ミチル……そんなに歩きにくかったのか」
「そうなの、歩きにくくて、だからすぐに足がぐきっとなっちゃうの。これじゃあケガしちゃうの」
「それはいかんな、この俺がミチルにケガなどさせんぞ! さあ、お兄ちゃんの腕に来るがいい」
 先ほどの冷たいオーラなど幻だったかのように、腰を屈めたカインロットさんは優しく笑ってわたしを抱き上げた。
 よし、これで氷の魔王の両手を封じた!
 我ながら完璧な作戦だ!
「だ、だ、抱っこ? 女性を、あのカインロットさまが、抱っこ?」
「う……噓ですわ、カインロットさまが……笑顔をお見せになっていらっしゃる、ですって?」
 またしても、貴族のお姫さまたちはなにやら呟いている。
 みんなおバカだね!
 のんきなことを言ってないで、お姉さんたちは早くどっかに逃げてよ!
 イケメン騎士の笑顔に見ほれて、また首をはねられそうになったらどうすんの!? 
 頭と胴体がくっついているうちに、早く安全な所に逃げて!
 身体を張って助けたわたしの努力を無にしないで!
 心を、削った、わたしの、努力を……。
 いけない、ここで気を抜いてはすべてが水の泡になるわ!
 がんばるのよ、ミチル!
 ふっと遠くに行きそうになった意識をしっかりと保つように、自分を叱咤する。
 わたしはカインロットさんの首に腕を回して「お兄ちゃーん」としがみつき、彼をにこにこさせる。そして首を回してお姉さんたちの方を見て、こちらはマジの顔をしながら口の形だけで『はよ! 逃げて、はよ!』と伝えた。
「まあ、あの子ったら得意げに」
 そんなわたしを見て、憎々しげに言うのは、やっぱり縦ロールさんだ。まったくわかってない。そんなおバカさんを、他のお姫さまが引っ張ってくれた。
「違いますでしょ! さあ、今のうちに」
「きゃ、なにをなさいますの!?」
 わたしの合図を、他のお姉さんたちがわかってくれたのでほっとする。ここまでやってなんの役にも立たなかったら、わたしがかわいそうすぎだわ!
 ただし、赤い縦ロールさんはまだわかっていない様子だ。ほら、この人は思い込みが激しいからね。他のお姫さまたちは、我が身を犠牲にしたわたしに感謝を込めた瞳でわずかにうなずくと、そろりそろりとその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと、みなさむむむむーっ」
 残念令嬢の縦ロールさんを、口を塞いだまま引きずりながら。
「ねえねえ、お兄ちゃん!」
 わたしは、お姉さんたちの逃走を気づかせないように、カインロットさんの気を引いた。
「履きやすい靴をね、お兄ちゃんに買ってもらいたいな。ねえ、いいでしょ? 転ばない靴を買ってほしいの」
「なんだと!? お前は、俺に、くっ、靴を、買ってほしい……というのか?」
 カインロットさんの顔が真っ赤になり、視線を逸らして「くっ、可愛すぎる……」と呟いている。
 そして、なぜか激しく首を振る。
「いや違う、勘違いしてはいかん! まだまだ無邪気なミチルはなにもわかっていないのだからな、そうだ、異世界から来たのだから、わかっていなくて当然だ。だが、それを知らん男がこんなことを言われたりしたら……それは危険すぎる! やはりミチルのことは、俺が常に側にいて見ていてやらねばいかん、悪い男に付け入られるようなことがあってはならんからな……」
 なぜか悶々とした様子でひとりごとを言うカインロットさんなのである。
「お兄ちゃん、どうしたの? 靴、ダメなの?」
 わたしは『不思議そうな顔をする幼女』の演技をして、首をこてんと横に倒し、内心で(いっくらなんでもこんなあざとい演技に引っかかるわけないだろうけどな! 鳥肌もんだなミチル!)と自分で自分を嘲笑う。
「よ、よし、お兄ちゃんに任せるがいい!」
 頰を赤くしたお兄ちゃんが、嬉しそうに引き受けたよ!
 見事に引っかかったよ!
「そんな、靴を……買うですって!?」
「い、いやっ、噓ですわ! カインロットさまのそんな言葉を聞きたくなかった!」
 お姉さんたちは、口々に言いながらも、なんとか上手いことその場を去った。縦ロールさんは「キイイイイイッ!」って顔をしていたけど、他のお姫さまたちが引っ張っていってくれた。うん、お姫さまって意外と力があるね。
 大沢ミチル二十一歳、異世界で見事に人の命を救いました!

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