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神様のお嫁様

橘かおる / 著
タカツキノボル / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-210-4
サイズ 文庫本
定価 754円(税込)
発売日 2019/06/18

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内容紹介

奪う者がいれば、破壊尽くしても取り戻す
「俺のために生まれた愛しい神」火の山の神・遠雷は気性が荒く、頻繁に大噴火を起こし神々の顰蹙を買っていた。見兼ねた高天原の主は「愛し子を得れば、温和になろう」と美しい珠を出す。その中に愛らしい神『美珠』が眠っていた。美珠は、「芙都」と名のり、形代達に傅かれ、大切に育てられ麗しく成長していく。愛しいと思う心を抑えられず、遠雷は「気持ちよくしてやる」と芙都を弾けさせ、温かい蜜液を迸らせる。陶酔の中、挿入によって契りを交わし! 蕩けるような神々の溺愛!
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

芙都(ふつ)

小さな珠から生まれた愛らしい神。遠雷に愛され成長していく。

遠雷(えんらい)

火の山の神。芙都を育てることで、愛に触れて…。

立ち読み

 神代の昔、その辺りには猛々しい火の山が聳え立っていた。治めるのは火の山の神、遠雷。
 気性の荒い神でしょっちゅう大噴火を起こし、周囲の神々の顰蹙を買っていた。
 天空に届きそうな噴煙を噴き上げ、巨岩を四方に飛ばし、溶岩で周囲を焼き尽くす。さらに大地を揺らして割り、高温の蒸気を噴出させることもあった。
 神々からの苦情が殺到し、高天原の主は困惑する。遠雷は、火の山の神の力を正しく使っているだけだから、咎めるのは難しいのだ。しかし限度があると神々は言い募る。
 中でも海神である綿津見が強硬だった。長年かけて育て、ようやく観賞に堪えるまでになった珊瑚が、海に流れ込んできた溶岩のせいで壊滅したからだ。
 高天原の主は詰め寄る綿津見を宥め、ほかの神とも相談して一計を案じた。
『遠雷に子育てをさせよう。愛し子を得れば、荒い気性も少しは温和になるだろう』
『それくらいであの気性が収まるとは思いません。もっと厳しいご処置を!』
 厳しく迫った綿津見だったが、まずは様子を見ようと主に説得され、しぶしぶ引き下がる。そのうち自分の悔しさを思い知らせてやると、内心で恨み言を呟きながら。
 そうしてある日、いつものように激しく炎を噴き上げる大噴火の真っ最中に、ぽっと珠が出現した。真珠のような淡い光を放つ、とても美しい珠だ。
 柔らかな光を放ちながら、真っ逆さまに溶岩の中に落ちていく。「危ない!」と叫んだのは誰だったか。
 全てはここから始まる。



 なんだあれはと遠雷は、突然出現した珠に目を瞠る。
 精悍な顔に逞しい四肢。火の山の神はその気性に相応しい立派な体躯を持っていた。
 淡い光を放ちながら落ちていく珠を見て、慌てて噴火を抑え掌を差し出した。その上にころんと転がった小さな珠を覗き込むと、中に小さな神が眠っているのが見える。目鼻立ちの整った愛らしい神。今はまだ幼いが、育てば途方もない美形に育ちそうだ。
『そなたのものだ。慈しめ』
 高天原の主の声に、遠雷は慌てふためく。
「俺に子育ては無理だ!」
 抗議したが、主の返事はつれなかった。
『ではその神は消滅する』
 自分が生み出した神だろうに、なんという冷たさ。遠雷は思わず小さな珠を掻き抱いた。
「こんないとけない神を消滅させるなど、鬼畜の所行!」
『消滅させるかどうかはそなたの判断ぞ』
「くっそう。育ててやるとも!」
 売り言葉に買い言葉。しかし口から出た言葉には言霊が宿る。
『では任せた』
 にやりと笑う主の気配に、やられたと遠雷は天を仰いだ。
 しっとりと控えめな光沢が美しい珠。掌に握ったままでは潰しかねない、落としかねない。どうしたものかと悩んだあげく、麓に住むおばばの許を訪れた。
 半神半妖半人のおばばは結界の中に住んでおり、遠雷が凄まじい噴火を起こしても泰然自若としていた。どこからか流れてきて住み着いた老女は、荒涼としたこの地が気に入ったのだという。
 自己紹介で「半」が多いと突っ込んだら、三分の一ずつとは言いにくいでのう、ととぼけていた。曰くある生涯を送ってきたらしい。詳細は語らぬまま、いつの間にか長い付き合いになっている。
「どうしたんじゃい」
 ほとほとと戸を叩いた遠雷を、珍しいとおばばが見上げる。小柄なおばばは、長身の遠雷と視線を合わせるにはかなり無理をして反っくり返らなくてはならない。こちらが頼み事をするのだからと、遠雷は普段は折らない腰を折る。
「これを見てくれ」
 腰を屈め、掌に大切に包み込んだ珠を見せる。
「おお、これは美しい神じゃ。生まれたばかりか?」
「ああ。高天原の主が、俺のものだと言ってよこした。危うく噴火に巻き込まれて消滅するところだった」
 惨い仕打ちだと鼻息を荒くする遠雷に、おばばはふふと笑う。長く生きてきた老女には、天の主の思惑が察せられたのだろう。
「それで、これをどうしたらよいか、知恵を貸してくれ。主に、育てると啖呵を切ってしまったのだ。だが俺は子育てをしたことがない。そもそもこの珠から、どうやって吾子が生まれるのかもわからん」
 弱り切って頭を掻く遠雷に、おばばは悪戯っぽく笑いかけた。若い頃の美貌がほんのりと透けて見える、どこか艶っぽい笑みだった。
「まずは袋がいるな。そのままずっと手に持っているわけにはいかんじゃろ。袋に入れて首から提げるといい」
「ふむ、まずは袋だな」
「それほど美しい珠を入れるのだから、金襴緞子の美しい袋でなければいかんぞ」
「わかっている。手に入れよう」
「それから住むところ」
「住むところ? 住まいはあるぞ」
 首を傾げて言ったら、おばばが馬鹿にしたような目でじろりと見た。
「崖に穿った洞窟など、住まいとは言わぬ。その御子を硬い岩の上で寝かせるのか。柔肌を痛めて、さぞ苦しがるじゃろうのう」
 ああ可哀想にとおばばが言うと、遠雷は慌てて、こくこくと頷いた。
「造る、造るとも。ほかの神に負けない立派な館を造ろう。厚く綿を詰めた褥も用意する」
「館の雑用をする者、身の回りの世話をする者もいるぞよ」
 次々に必要なことを挙げていくおばばに、遠雷はげんなりした顔になる。
「……形代を出そう。俺の息を吹き込めば、人と同じように動ける」
「それから……」
「まだあるのか」
「あるとも。そもそもこれまでが普通ではなかったのじゃ」
「……俺には快適な住まいだったが」
 嘆息しながら、遠雷はおばばの言葉を聞く。視線を落とした先の美しい珠の中に眠る吾子が目覚めたら、確かにあの洞窟では不都合だろう。
「よし。おばばの言うものはすべて揃える。その代わり、おばばもその館に来てくれ。館の管理をして、困ったときに手を貸してほしい」
「はあ? なんで我が」
「ここまで関わったおばばには責任がある」
 胸を張って宣言した遠雷に呆れた目差しを向けたものの、おばばは仕方なさそうに頷いた。
「関わったつもりはないが、わかった。おまえさまに預けたら、この御子が育つかどうか我も不安じゃ」
「おう。そのとおりだ。ありがたい、頼むぞ」
 悪びれずに認めて、遠雷は頭を下げる。この吾子のためなら、頭を下げるなど簡単なことだ。
 さっそく手に入れた金襴緞子の袋に珠を収め、それを首から提げた遠雷は、次に神力を使って広大な館を建てた。広大すぎて、おばばにだめ出しをくらう。
「しばらくは我とおまえさましか住まぬのに、広すぎる。ここから向こうは今はいらぬから消しておけ。御子が誕生したら、必要に応じて順次広げてゆけばよい」
 せっかく造ったのにと嘆息しながら半分を異界へ消す。それでも寝殿造りの館は、十分すぎるほど広かった。四季折々に花が咲くよう庭も整え、せせらぎが耳に心地よく響くよう、小さな滝を設え水路を造り池を拵える。池には錦の鯉を放った。
 館が整うとおばばが越してきた。ずいぶんな年寄りと思っていたおばばだが、新しい装束を纏い髪を梳り頬と唇に紅を差すと、おばばと呼ぶのが憚られるほど若返って見える。祖母から母への大変化だ。内心すごい化けっぷりと思っても、さすがに口にしないくらいの弁えは遠雷にもある。
「御子が生まれたときむさい格好では示しがつきません。遠雷殿、あなたもお召し替えを」
「はあ!?」
 言葉まで変わっていやがると内心でぼやきながら、それまでの粗衣を改め、高天原に参上するときの衣装に着替えた。本来高天原では正装が基本だが狩衣でも許されていて、遠雷は面倒だと正装したことはない。その狩衣でも普段は着ないのだ。
「肩が凝るなあ」
 こきこきと首を動かしながらも、おばばの点検にはぴんと背筋を伸ばして耐えた。
「まあ、よろしいでしょう。なかなか男ぶりも上がったようで重畳です。それとこれからわたくしのことは、楓とお呼びください」
「はあ? おばばじゃいけないのか」
 思わず聞き返したら、眉を吊り上げて睨まれ、しおしおと頷いた。
 よし、準備はできた。これでいつでも小さな神を迎えられる。
 だがその神が珠から出てくるには、もうしばらく時間が必要だった。



 遠雷が肌身離さず提げているので、小さな珠には無尽蔵に神力が流れ込む。それを糧として珠の中の神が育っていく。珠は少しずつ大きくなり、小さな真珠から大きな真珠になる。当然中の神も成長していた。
 まだかなまだかなとそわそわと覗き込む遠雷は、このところひどい噴火を起こさずにいた。すべての関心が眠っている小さな神に囚われているからだ。高天原の主の思惑通り。
 おかげで溶岩だらけ岩だらけだった山肌に、瑞々しい緑が復活した。草木が生え花が咲き、鳥獣も集まってくる。次元の違う場所に立つ館からも外の賑わいが感じられ、穏やかに時が流れた。
 そしていよいよ、神が誕生するときがやってきた。胸許の珠がいきなり七色の光を放ち始める。自らの胸の光に気がついて、遠雷は目を輝かせた。
「うおっ、生まれる、生まれる。おばば、生まれるぞ」
 慌てた遠雷は、賄所にいた老女、今では落ち着き払って家政全般を取り仕切っている楓の許に駆けつける。
「何度言ったら覚えるのですが。おばばではありません、楓です」
「楓! 見てくれ。いよいよだ」
 遠雷は首に提げていた袋から珠を取り出した。目映い光を放っているそれを見て、楓も頷いた。
「確かに、いよいよですね」
 誕生のときはそうしようと決めていたので、遠雷は館の主殿に移動する。綿を厚くした茵に、光を放ち続ける珠をそっと置いた。その前にどかりと腰を下ろし、珠を見つめる。楓も淑やかに裾を捌いて膝を折り、じっと珠に視線を注ぐ。遠雷に息吹を注がれて生まれた形代たちも、ずらりと居並んだ。
 皆が固唾を呑んで見守るうちに、珠はますます光を強くし、目映すぎて目を細めるほどになる。そして、それまでより一段と鋭い輝きが辺りを照らしたとき、ぱあんと珠が弾け飛び、掌に載るくらいの愛らしい少年神が宙に浮かんでいた。
 なりは小さいが赤ん坊ではないと、遠雷はほっとする。子育てとはいってもおしめから始めるのではさすがにお手上げだ。すべて楓に丸投げすることにならずにすんでよかった。
 力が一気に放出されたせいか、艶やかな髪も着ている衣の袖も、ふわふわとたなびいている。愛らしい神は、差し出した遠雷の掌にしずしずと降り立った。子供用の水干を纏っていて、縫い目や総菊綴に含まれた金糸が、光に反射して煌めいている。
 小さいが人形のように整った顔だけを見れば、十二歳から十三歳くらいには見えた。その朱を点じたような唇が開く。
「我の名は芙都じゃ」
 鈴の音を振るような響き、そして可憐な唇の動きに意識を奪われていた遠雷は、咎めるような楓の視線にはっと我に返り、こほんと咳払いした。
「あ、ああ、俺は遠雷。高天原の主よりおまえの養育を仰せつかった」
「遠雷……。よろしく頼む」
 芙都が小さな頭をちょこんと下げた。小さくてお人形のように見えても、神は神。涼やかな声は賢しらぶった言葉を話す。それがかえっていとけなくて、なんでこんなに可愛いのだろうと、遠雷は身悶えしたくなった。
「こちらこそだ。それとこれがおば……、じゃなくて楓。家政全般を引き受けてくれている。困ったことがあれば、楓に言ってくれ」
 おばばと言いかけて突き刺すような目差しに睨まれ、慌てて言い換えた。遠雷の掌に立った神が、ゆるりと楓に視線を向ける。
「楓か。よしなに」
「承りました」
 楓が平伏すると、背後に控えた形代たちも一斉に頭を下げた。
「さあさあ、挨拶が済んだからには誕生を祝って宴だ。急いで準備しろ」
「準備はできております」
 楓が言って、形代たちにさっと手を振った。形代たちがすーっと消えていく。
「芙都様、どうぞあちらへ」
 楓が示す方にちらりと目をやってから、芙都は遠雷を見上げた。
「ここがそなたのものなら、我の治める地はどこじゃ」
 聞きながら芙都が浮き上がり、周囲を見回す。


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