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鉄仮面弁護士がウブな理由

青井千寿 / 著
駒城ミチヲ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-149-7
サイズ 文庫本
定価 754円(税込)
発売日 2018/10/05
レーベル チュールキス

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内容紹介

冷徹プレイボーイはとんだ純情派!?
三十歳のある日、高校の時に別れた初彼と英国で運命の再会!? 彼が忘れられずずっと一人でいた純花と、今や「鉄仮面」と呼ばれるほどに冷徹かつ有能な弁護士となった彼——翔真。彼のプレイボーイぶりの噂に動揺しつつも、その完璧なエスコートに身を任せるのだけれど、いざベッドをともにしようとした時、彼のある秘密が明らかになり!? 「ずっとお前を抱きたかった……十代の頃からこの時を待ち続けてきた」十数年抑え込まれた愛欲の暴走に身も心もとろかされ——。
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

笠原純花(かさはらすみか)

小さな花屋の後を継いだ30歳。高校時代の恋人・翔真が忘れられずずっと処女。

長谷川翔真(はせがわしょうま)

31歳。ロンドンで冷徹かつ有能、プレイボーイとの評判の弁護士。

立ち読み

 「あ、そうだ。このマンションは湯がタンク式だから、風呂を溜めたあとで長くシャワーを使うと湯が足りなくなるかもしれないな。俺だけだと困ったことはないんだけど……」
「え? お湯が足りなくなる?」
 翔真君の言葉が理解できずお湯が張り終わるのを待つあいだに詳しく聞いてみると、日本に比べてあまり風呂文化に縁のないイギリスでは、湯沸かし器がタンク式になっている家が多いのだと言う。人間が一人入ってしまえるような大きなタンクに熱湯を溜めておいて、それを使っていくというシステムらしい。
「タンク内の湯を一気に使い果たすと、そのあとは水のまま給水されてしまうんだ」
「えええー! そんな不便な!」
「まぁ、日本のハイテクに慣れていたら不便だよな。同じ島国でもイギリスと日本の国民性は全然違う」
 バスルームに向かった翔真君は、カランから勢いよく出る湯を止めながら背中で笑っていた。こちらでの生活が長い彼は慣れているのだろう。
 だけど私は近代的で素敵なバスルームなのに、日本には当たり前にある追い炊き機能が見当たらない浴槽を見て驚愕していた。
 一度に使える湯量に制限があるのに追い炊き機能がないということは……。
「ねぇ、私が先にお風呂もらうと、翔真君が入る時には冷めてるよね。シャワーも使えないよね?」
「俺は冷たい水でシャワー浴びるから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ! 絶対、風邪引いちゃう」
 日本と違って浅く横に広い浴槽はとてもお洒落だ。だけど蓋もないのに空気に触れる表面積が広いということは冷めやすく、浴槽内に溜められた温かい湯は一回限定ということになる。
 夏の暑い日なら冷水のシャワーでもいいけれど、体が冷え切っている今、それはあまりにも無謀だ。
「どうしよう……」
「解決策はある……一緒に入ればいいんだ」
 翔真君が白い壁に向かってぽつりと吐き出した言葉―それは一撃必殺の魔法のように私の心臓に強いショックを与える。
「い、いい……一緒に!?」
「一緒に」
「ああ……えっと……い、一緒に!?」
「……一緒に、それが唯一の解決方法だよ。俺、脱ぐから……純花も……」
 湯気の満ちる浴槽に声が響いて気まずい。心臓が痛いほどに高鳴っていて「ふーふー」と鼻呼吸が荒くなってしまう。何だか一人で興奮しているみたいで余計に恥ずかしい。
 何とか深呼吸をしようと試みる私をよそに、翔真君はもう一緒に入浴することは決定事項なのだと言わんばかりに濡れた服を脱ぎだした。
 イギリスのバスルームは脱衣所も洗面所もシャワールームも湯船も同じ場所なので、彼は濡れたシャツを早々に脱ぐと脱衣カゴに放り投げる。
 男性だからか脱ぐことに逡巡はないようで、ズボンもその下のパンツもあっという間に彼の身から離れていった。
 私は一糸まとわぬ翔真君に視線を向けられるわけもなく、ただ脱ぎ捨てられた彼のパンツに目をやり、ボクサー派か、とぼんやり思う。
「ほら、純花、いつまでも濡れた服着ていたら風邪引くから」
 早々に湯船に体を浸した翔真君に声をかけられ、私はしまったと唇を噛んだ。
 この事態になって気がついたけれど、ドサクサ紛れに一緒に脱いだ方がまだよかった……これでは翔真君が見たい放題ではないか。
「翔真君、見ないでね! 湯船に入るまで後ろ向いてて」
「……見るよ」
「ひどい!」
 こんな時だけ正直者な翔真君の態度に腹を立てつつも、私は服を脱ぐしかない。
 体にまとわりつくカットソーをまず脱いで、しめってすっかり重くなったジーンズを足から引き抜く。一緒にショーツまで脱げそうになって半分お尻が出たところではっと後ろを振り返ると、宣言通り翔真君ががっつり見ていた。
「す、すけべ!」
「……そんなこと言ったってセックスするんだろ」
「セッ! ……す、するけど……するけど……」
「純花、俺も恥ずかしいし、パニクってるし、必死だから同じだよ」
 湯船のなかから半身を覗かせた翔真君は、まるで恥ずかしくもなさそうだし、パニくってもいないし、必死にも見えない表情でそう言った。
 職場で〝アイアン・マスク〟と呼ばれているらしいが、まさに鉄仮面だ。
「説得力ないよ、翔真君。そんな冷静な顔して言われても」
「冷静に見えるのは、脳の半分でバージニア権利章典を反芻しているからだよ」
「バ!? バージン? へ??」
「……バージニア権利章典」
「バージニア……けんり、しょうてん……」
 私はバージニア権利章典が何なのかよく分からない。しかし下着姿の私を前に翔真君が余計なことを考えているのはよく分かった。
〝緊張した時には素数を数える〟などの平常心を引き出すコツと同じ感覚なのだろうが、これから裸になろうというのにバージン権利章典とやらと並べられる私はたまったものではない。
「翔真君、私のことだけ考えて!」
 私はそう彼に言い放つと、心に勢いをつけてブラジャーを外した。
 Bカップと特別大きくもない胸なので、経験がないとはいえ肉感的な外国人女性を見てきている翔真君にとっては物足りないのかもしれない。
 もっと大きければと今さらながらに思いつつ、私は彼に背中を向けてショーツも足から抜き取った。
 恥ずかしくて真っ直ぐに立っていられない。体をくの字に曲げ両手できわどい部分を隠しながら、そういえばバスルームの電気を消せばいいのだと遅ればせながらに思いつく。
「しょ、翔真君。電気消していい?」
「だめ。もったいない」
 また一瞬で却下されてしまった。
 三十歳にもなって裸になるのが恥ずかしいなど情けないのかもしれないけれど、私はなかなか彼の方を向くことができない。
「純花、いつまでも可愛いお尻を見せてないで、こっちにおいで」
 お尻のことを言われて、背中を向けているのも十分恥ずかしいのだと気がついた。だいたい生尻を向けっぱなしって失礼ではないか。
 私は心を決めて振り返る。
 するとそこには〝アイアン・マスク〟ではない翔真君がいた。
 顔が完熟トマトみたいに赤く、いつも涼やかな目は落ち着きなく動いている。奇妙に波打った唇は薄く開いていて、そこから荒い呼吸が漏れているのが見てとれた。
(ああ、翔真君も私と同じくらい、いっぱいいっぱいなのかもしれない)
 そう思うとすっと心が落ち着いていく自分を感じた。たぶん今の彼はバージン権利何たらのことは考えていない。私と彼のあいだを邪魔するものは生地一枚なく、気持ちは同じ方向を向いているのだ。
 翔真君はもう一度「早くおいで」と私を誘う。
 私は彼に背中を向けて浴槽を跨ぎ、体をゆっくりと湯に浸していった。体が冷えていたので湯に触れた肌がびりびりと刺激される。
 湯船は広く、向かい合って座るには十分だったけれど、翔真君は黙って手を引き寄せると背中から抱え込むように私を座らせた。
「幅はあるけど深さのない浴槽だから、こうして足を伸ばす方が温まる」
「うん……」
 体を急速に温めていく湯はとても心地よかった。しかしながら翔真君が真後ろにいるので落ち着かない。
 背中の皮膚で彼の肉体を感じるのはもちろん、臀部の上あたりに何やら硬いモノが当たるのだ。とても硬いモノが……。
 男性経験のない私だが、中学生ではないので男性器の事情ぐらいわきまえているつもりである。だから当たるモノが何であるかはもちろん分かっている。
 求められていることに喜びを感じつつも、臀部でそれを感じ続けている状況が恥ずかしくて堪らない。
 少し腰を動かしてその強張りから体を離そうと試みると後ろから二本の長い腕が伸びてきて、私を羽交い締めにしてしまった。しかも彼の手は湯のなかで浮かんでいる胸の膨らみにやってきて、そこを揉みしだく。
「純花は柔らかいな……今も覚えてるんだ。高校の頃に純花の胸を触った感覚を……あの頃と同じだ」
「……くすぐったいよ」
 翔真君は両手を使って私の胸の双丘を探索し続けた。
 五本の指を別々に動かして感触を確認したかと思うと、下からすくい上げ重さを楽しみ、頂にある小さな尖りをそっと摘まむ。
「んっ……」
 親指と人差し指で挟まれて先端をコリコリとくすぐられると、くすぐったさに甘い疼きが混じり出した。翔真君の指はとても慎重に動き、徐々に私のそこを敏感にしていく。
「純花、痛くない? 教えて……どうすれば気持ちいいか」
「ん……ぁ……」
 尖りの根元を優しく刺激され続けると、明確になった快感が皮膚の奥で広がっていった。
 不思議なことにその快感は下肢の一点に繋がっているみたいで、私は自分の内側から潤いが満ちてくるのを感じる。 
「翔真君……あの……それ、気持ちいい……」
 私は恥ずかしさを堪えて率直に感想を伝えた。
 彼の行為が嬉しいのだときちんと分かってもらいたかった。
 それに応えて彼の指はさらにいやらしい動きで、くにゅくにゅと私の胸の突起を弄び始める。
 三十年も生きてきたのに知らなかった。女性のここは欲望を誘うスイッチなのだ。
 私は自分の乱れた呼吸が漏れ出さないよう唇を噛みつつ、眠りから覚めていく肉体の変化を感じ取る。
「純花、下も触りたい……」
 背後から聞こえてきた翔真君の声は甘える子供みたいなのに、同時に大人の色気も帯びていて到底逆らえない。私は小さく頷くと、ぴったりと閉じていた両太腿の力を抜いた。
 私の位置から彼の顔が見えないのは寂しくもあったけれど、恥ずかしい部分を見られる心配がないという点ではよかった。
 湯のなかで翔真君の手はするすると下肢にやってきて、三角形に茂ったアンダーヘアを撫で始める。
「もっと俺にもたれて……足開いて……」
 そう言うと彼は綺麗な筋肉が貼り付いた足を私に絡め、左右に押し広げた。私の体は翔真君の胸を枕にするように倒れ、肩まですっぽりと湯に覆われる。
 洋風の浅い浴槽はこういう淫靡な行為をするためにデザインされたのではないかと思えるほど、二人が重なって横たわるには最適だった。
「純花も……何かしてほしいこととかあれば言ってほしい。もっとこうしてほしいとか、してほしくないとか……俺、加減とか分からないから……」
「うん……あの、えっと……キ、キスしてほしい」
「うん……俺もキスしたい……キスしながら純花の全部を触りたい」
 翔真君は上を向いた私に柔らかくて熱い唇を押しつける。私たちはしばらく互いの吐息を閉じ込めたあと、唇を開いて舌を絡ませ合った。
 こういうキスを重ねれば重ねるほど、自分の肌が溶け出して彼と混じり合う感覚がする。
 口づけの快感にぞくりと首筋が震えた時、茂みで遊んでいた彼の指が奥に滑り込んできた。
 長い指はまず形状を確かめるように二枚の襞を順番になぞる。自分のものではない皮膚がそこを這い回る感覚に、私は呼吸をするのも忘れていた。
「純花……濡れてる? 湯の感じとは違うのが分かるよ……ああ、ここ……少し触らせて」
「んっ……」
「これクリトリス? ……こんな小さいんだな……可愛い」
「……っ……んっぁ」
 翔真君はその敏感な一点を集中的に触り始めた。指先でちょんちょんと遠慮がちに撫でられると、ますます内側から粘着質な潤いが溢れてくる感覚がする。
 彼のそこへの愛撫はとても優しく、やってくる刺激は穏やかだった。それが続くほどに私の体は焦れ出して、自然と腰が揺れてしまう。
(もっと……もっと激しくしてほしいかも……)
 そんな私のいやらしい願いを彼は肌で感じ取ったのかもしれない。翔真君は背後から私の顔を覗き込むと「もう少し強くしても大丈夫?」と秘密を聞き出すように耳元で囁いた。
 私は二度頷いてそれを願う。
 すると彼の指は少し圧を加えて速さを増した。ちゃぷん、ちゃぷんとその動きに合わせて湯が波立つ。
「んっ! ……んんあぁ……ぁっあ、あ……」
「ああ、これぐらいがいいんだ。さっきと反応違うな」
「んぁ……翔真く……ん、ああぁ、ああ……」
「気持ちいい?」
「気持ちい……い……っん」
 やってきた刺激は予想以上に甘く、私の内側から快感を引き出していく。
 翔真君はくにゅくにゅと円を描くように肉芽を擦りながら、自分の腰も上下に動かし、硬い雄を私の腰に擦りつける。
 背後から聞こえてくる彼の息遣いは苦しそうでもあったけれど、同時に官能的でもあった。
「純花のここ、すっかり硬くなってる……ペニスと同じようにクリトリスも気持ちいいと勃起するって本当なんだな……純花がこんな風になるなんて……興奮する」
「あっ、ぁぁ……恥ずかしいこと、言っちゃやだ……ああっあ……だめ……」
「だめ? 痛い? やめる?」
「違う……やめないで……んっ」
「気持ちいいなら気持ちいいって言わないと、俺、分かんないよ」
「っあ、あぁ……き、気持ちいい……」
 羞恥の殻を破って声にすると、さらに快感が増すような気がした。
 ちゃぷちゃぷと湯の揺れが激しくなるに従い、私の愉悦も高まっていく。快楽に奪われていく思考のなかで、私はこんなにも無防備で感じられるのは相手が翔真君だからなのだと改めて思う。
「どう純花、イキそう?」
「わ、分かんない……んんんっ! やっ! ああぁぁ……」
 翔真君はすっかり限界まで膨れてしまった敏感な蕾を親指と人差し指で挟むと、くにくにと螺子でも巻くみたいに動かし始めていた。
 彼に秘密の螺子を巻かれるほどに鋭い快感が下肢の一点から全身に広がっていく。私は湯のなかで悶えながら何度も何度も痙攣を繰り返していた。
 脳が甘い空気で満たされるような感覚―一気に絶頂へと近づく。
「翔真く……ぁふ、……これ……すごい」
「純花、すごいって……何? きちんと言って」
「んんっ……い、意地悪! いじわ……ああぁっ……気持ちいいの、気持ちいい!」
 確かに率直に感想を伝えるのは大切だと思うけど、こんなに乱れている状態で「気持ちいい」と言葉にすると、自分がとんでもなくエッチな女になった気がした。
 でも私は本当に淫らな女なのかもしれない。こんなに足を広げて、声も我慢できず、もっとほしいと訴え続けるなんて。
「っあ……んふっ……だめ、もう……イ……」
 その刹那、私は無意識につま先に力を入れて溜め込んだあと、与えられた快楽を一気に解放した。大きく揺れた足がパシャンと湯を蹴り上げる。
 絶頂の大きな波動は私を吹き飛ばし、幻想の国に連れていってしまった。
 そこは何も存在しない白い世界。同時に私は頬に男性の逞しい胸筋を感じ、ドクドクと鳴る血潮を聞いていた。
「イッた? 感じてる純花、すげー可愛かった……ヤバい」

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